アトピー性皮膚炎・滋賀県・漢方薬 | なかがわ漢方堂薬局

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16号 漢方の風 ー食育ー

2008-05-29

 最近、日光東照宮の杉が次ぎ次ぎと倒木している旨のニュースを聞きました。樹医の診断によれば、幹の中に空洞が生じ、自らの“重さ”を支えられなくなっている為で、原因は、根にあって杉の木立のすぐ側迄、道路整備がなされ、その結果、根に水分と栄養が行き渡らず根の力が弱っているからとの結論であった。根本的な対策として、コンクリートの型枠を根元に埋め、水分の補給と水はけが滞らない対策が既に始まっているとも伝えていた。少しホッとするニュースである。それに対して政治家の国会の答弁や、官僚の隠蔽体質、日本の伝統である“暖簾”を背負った筈の商人のモラルの低下等、実に腹立たしい。抜本的に改善されるのか、先が見えて来ない不安を感じているのは、私だけで無いのは言うまでもない。日々舞い込んでくるこれらのストレスに、いちいち反応していると、精神衛生的に良くない。些細な事ではあるが、日常周辺で襲ってくる様々なストレスに負けない身体作りをしなければならない事が急務であり、現代社会で生き抜く為の課題になるのである。

 そこで、漢方的に倒木杉を人間の身体におきかえて、考えてみると、杉の根と土の働きに相当するものは、膵臓の働き迄も含めた消化吸収機能全般に当たります。漢方ではこの働き(消化吸収機能全般)を“脾”の働きによるものと考えます。乃ち、“脾”の働きが悪いと、水はけが悪くなり、消化吸収が悪くなり、その結果、下痢、胃下垂、元気が無い、低血圧、延いてはアトピー迄も引き起こしたりします。勿論、顔色も悪くなります。この脾の働きを“脾気”といいますが、脾気を高める漢方処方は、四君子湯である。人参、白朮、茯苓、甘草で構成されており、様々な漢方処方の基本になっております。十全大補湯、補中益気湯、六君子湯、帰脾湯、釣藤散、参苓白朮散等があります。これらの処方群を見た時、いかに“脾”の働きが大切であるかが分かります。  千利休が茶道を通じて、持成しの心、いわば日常の“機微”を大切にする事を実践した様に、家族の為に、人の為に美味しいものを食べさせて上げたいと言う気持ちがそもそも“食育”の原点であると考えて居ります。食が肉体を育む事は勿論ですが、食が精神をも育んでいる事を忘れてはならない。何も栄養素を全うするだけでは無いのである。

 最近、漢方の講演を依頼される事が多いのですが、必ず東洋の“食”の考えをお話するようにして居ります。五味(酸、苦、甘、辛、※鹹)と五臓(肝、心、脾、肺、腎)との関係、更に進めて五志(怒、喜、思、悲、恐)と五臓の関係は勿論の事として、元来、日本の伝統食の中に、ω受容体(精神安定や睡眠や筋肉の働き等と関係する)と結合するものが多く含まれていたり、カテキンを代表とした抗酸化物質を含んでいたり、又、イソフラボン、更に微量ミネラルも多く含まれている事も知っておくべきである。即ち、お茶、旬の魚(貝類も含めて)、納豆、酢、茸類、葱類、豆類、ごま油(植物性油)、海藻類、旬の野菜、芋類を中心に摂取する様説明しております。それらにも増して、漢方的に最も大切な事は、日光の杉の如く、根がしっかりと、水分と栄養素を吸収する体制作りをする事(脾気を高める事)を更に説明します。その為にも、旬のものが欠かせないし、冷飲食を避ける事も重要なのである。  東洋(漢方)医学は、陰陽二元論である。“脾気”はその「陽」に当たります。確かな脾の働きが食べ物を消化吸収して「陰」、乃ち、筋肉や血を作り出します。五行論では脾は土に該当します。水はけの良い土がおいしくて立派な野菜を作り出します。一方、前回の漢方の記事にも書きましたが、脾を冷やし過ぎる事も“脾気”の機能低下に繋がります。冬のビール、酎ハイも慎まなければならないのは言うまでもない。脾は冷やしすぎてもいけないからである。又、前述のストレスに打ち勝つ為にも、脾を大切にしなければならない。(脾はストレスに弱い)

 最近、某大手メーカーが、βグルカンの商品を発売しました。吸収率が高い事が謳い文句なのですが、因みに価格は27,000円。腸管にあるパイエル板のM細胞を刺激する観点と心臓への悪影響を考えた時、どうにも理解し難い。私の勉強不足かもしれませんが、訳が分からない。更に、キ○ベ○ンのコマーシャルも腹立たしい。世間一般の人があのコマーシャルを見たとき、キ○ベ○ンさえ飲んでおけば脂肪が吸収されず、太らないよ、といった印象を与えている様に思えてならない。企業の倫理観が問われます。この様にいちいち反応している私は、人生修行が足りないのかも知れない。情報が好き放題に飛び交っている生活空間にあって、我々薬剤師は患者さん、お客様と一番近い所にいる町の科学者(化学者ではなく)である。薬の知識は当然の事として、生活、健康に密着した情報を与え続けなければならない。

(大津市薬会報 2008年 5月号掲載)

  ※鹹(かん)…塩辛い

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