アトピー性皮膚炎・滋賀県・漢方薬 | なかがわ漢方堂薬局

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8月, 2008年

17号 漢方の風 ー漢方薬の素晴らしさ、難しさー

2008-08-11

 平成20年5月22日、(社)大津市薬剤師会総会の後の懇親会の席上、広報担当の山口先生より、ひき続き原稿を提出して欲しい旨の依頼を受けました。「豚もおだてりゃ木に登る」ばかりに “煽”(おだて)を甘受 し、二つ返事で了解してしまいました。その4日後の朝、いつもの様に仕事前にパソコンのメールのチェックをした所、早速、原稿の締め切りは6月25日ですと言って来た。来月からは、毎月大きな漢方講演が控えており、今書かなければ、締め切りに間に合わなくなる事必定である。今日は5月26日とはいえ、早速パソコンに原稿を書き始めました。今回は、少々、手前味噌の話を書かせて頂きます。ご辛抱下さい。

 私の生家は、大津の旧東海道沿いにあって(現京町通)、江戸時代から続く茶商で、間違いなく、本物の“朝宮茶”も扱っております。私の祖父は茶業の傍ら、趣味で骨接ぎ屋さんやら漢方薬屋さんをしていた(現在なら薬事法違反)。次兄には、“お前はお爺ちゃんの血をひいたんや”と何時も言われる。その次兄は美術品の蒐集家で(西大津近くで中川美術館を開いている)、何でここに、こんなに素晴らしい美術品が有るの、と思ってしまう程である。弟の私の一寸した自慢である。一方、私の長兄は、変わり者で、茶業の傍ら色々な趣味を持っていた。私が云うのも変ですが、中でも、文学的素養は天性のものがあり、俳句に至っては「花藻社」の主宰をもしていた。又、県の文化功労賞の栄誉にも浴した。湖畔のびわこ文化ホールの西側の芝生には、大津市制100周年事業において句碑を建立させて頂いた。そこには、

“湖薄暑掬えば貝となるてのひら”(琵琶湖の水の美しさを謳った句) と刻まれている。

 一般市民が見て、先ず読めないし、当然意味も解らない。皆が解らなければ駄目でしょうと私が云ったら、長兄からは解らないから良い、と言い返された。やはり変わり者である。兄が俳壇に登場した頃は、私はまだ幼稚園から小学校に上がった頃である(17歳の年の差がある)。その頃の、最初の句集「銀河」の巻頭を埋めた句のいくつかを披露させて頂きます。

“黄タンポポ吾が青春第一章”

“虹見てる誰か吾をボヘミアンと云う”

“かすれたレコードかけて満月に乾杯”

“タンポポに春ですね「今日は」

“田園の詩人トマトより真瓜がお好き”

歳を重ね、次に出した句集「男眉」では、

“男眉立てて祭りの武者となる”

“しんしんと雪降り天ゆ楽奏す”

“黙し鵙叫びたくなる世に棲みて”

“雪は純白こんな暗い世の中でも”

“沖へ帆を張って湖族の裔たらむか”

更に、長兄が亡くなる前の、「俳句界」(平成17年11月号)には、

“空蝉に早や生きものの臭ひ無し”

“雷三ッ日火攻めの窯が夜も唸る”

…等。今になって長兄の生き様を見る思いがします。

 それに引き換え、末弟の私は、それまで、極、普通に薬剤師の道を歩んで来ました。某メーカーに就職し、大学病院や町医者を見て来ました。現代医学の素晴らしさを感じつつも、同時に矛盾も一杯に憶え、僕の生きる道としては何か物足りなさを感じておりました。そして漢方を学んだ今、不確かであった、現代医学の危うさ、物足りなさがはっきりと認識出来るようになり、漢方を勉強して良かったとつくづく感じて居ります。

 人は、有機的複合体であり、喘息、アトピー性皮ふ炎、リウマチ、潰瘍性大腸炎、前立腺肥大…等全て、有機的に体内環境と繋がっております。咳を例にとると、五臓をして皆咳せしむ。一人肺にあらずと云って、五臓全てが咳の原因に成りうるのであると、古い書物に書かれている。初診では、ともすれば肺だけ診てしまう現代医学とは“診かた”が全く違うのである。…となると漢方家足るもの、皮膚病でさえ、又、何病であっても患者さんの全体を見なければならないのである。人を診るとなると、大変な作業になるのであり、責任は重大である。

 扁頭痛、下痢、足の関節痛、重症の冷えでお困りのAさんは、最近、呉茱萸湯合真武湯合附子湯を服用し始めて頂きました。二十日分服み終えた所ですが、服み始めた頃に足の甲にひどい鬱血がおこり、気分が悪くなって、頭痛発作も起こり、所謂、瞑眩(めんげん)があったものの、その後頭痛が、いつもより少し減じ、下痢は普通便に、膝痛は全くとれてしまった。そして、再診の今日、寝ていた髪は、ふわぁと立ち上がり、肌はしっとりと、女盛りの肌を取り戻している。

 処方箋の調剤をしていた頃は、凡そ、1400種類の医薬品を扱っておりました(当然夫々の作用機序も理解しております)が、上記のAさんを治療する医薬品はありません。漢方なら出来るのです。漢方の素晴らしさは、ここにあるのです。

 人は云います、私は、漢方は合いません、効きません…と。その患者さんに、よく聞くと,その医師は、舌も診ないし、脈も取らないし、腹診もしない。見たのは某メーカーの手帳だけであった…と。

 漢方の所為にしないで欲しいと、叫びたくなります。だけど、漢方薬と云えどもそう簡単にはいかないのも、現状である。私には、まだまだ勉強の日々が待っている。

 地球温暖化にともない、砂漠化が進み、原料生薬の収穫量が激減している。もっともっと生薬を大切に扱って欲しいと思い、漢方薬の正しい使い方を広めていかなければと思う今日この頃である。

(大津市薬会報 2008年 8月号掲載)

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