アトピー性皮膚炎・滋賀県・漢方薬 | なかがわ漢方堂薬局

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25号 漢方の風 ー認知症と漢方薬(侮れない牡蠣殻イオン化カルシゥム)

2010-08-02

 今回は、びわこ漢方サ-クルで6月、7月に講義した「漢方と認知症」について書いて見たいと思います。今や風邪に葛根湯、腓腹筋の攣縮(こむら返り)に芍薬甘草湯、開腹術後に大建中湯、認知症に抑肝散と言われる程、認知症に抑肝散がポピュラーになっています。抑肝散は取り分け妄想や徘徊、多怒等の周辺症状に効果があるとされる。西洋医学で周辺症状に使用される抗精神薬や抗鬱薬、抗不安薬はこの様な周辺症状を押さえ込む一方、それが為に日常の生活動作をも不活発にしてしまい、食事、歩行、会話等に悪影響を及ぼし生活の質を低下させているのが現状である。抑肝散には、そういった生活の質を低下させる悪影響は見られない。抑肝散の中心的役割をしている生薬は「釣藤鈎(ちょうとうこう)」である。釣藤鈎は汪昂著、寺師睦宋訓「本草備要」に、甘微寒。宣、風熱ヲ徐キ、驚ヲ定ム。心熱ヲ徐キ、肝風ヲ平ニス。久シク煎ジレバ則チ力(ちから)ヲ無クス。…とある。又、中山医学編、神戸中医学研究会訳「漢薬の臨床応用」にも20分以上煎じると効力が無くなると書かれている(1~2回沸騰させる位が良いとも書かれている)。乃ち釣藤鈎は熱に弱いのである。他薬と一緒に煎じると効力が無くなるので、当薬局では後煎と言って最後の5分間だけ煎じて頂く様にしています。又、加熱の影響を受けているエキス剤(顆粒剤)の抑肝散を投薬する時は天然のままで熱の影響を受けていない釣藤鈎の“原末”を追加して一緒に服用して頂くようにしております(抑肝散加釣藤末)。その抑肝散の作用機序は柴胡、釣藤で肝風を抑え、又甘草と共に自律神経を調整(疎肝解鬱作用)し、精神的、肉体的反応閾値を下げ、ストレスに対応出来る様にする。川?で頭痛をとり、当帰、川?で肝の血虚を治し、血流を良くし、茯苓、白朮、甘草で脾の虚を補い肝の暴走(周辺症状)を抑える。更には、鬱症状が顕著な場合は芍薬を追加するとより効果的です(抑肝散加芍薬)。因みに釣藤鈎は枝ではなく“鈎”(かぎ、とげ)である。鈎の部分に有効成分が多く含まれている。市場には、枝多し鈎少なしの原料生薬が出回っており、撰品が大切である。その点、エキス剤は果して如何でしょうか…。

 

漢方医学では周辺症状を取ることを標治と言い、中核症状を取ることを本治と言いますが、証があれば抑肝散には本治を期待しても良いのかも知れないと思っておりますが…。然しながら臨床では他の漢方処方と併用する必要があろうかと思います。漢方本来の“未病”を治す意味合いからすると元々抑肝散証のある人の認知症の予防に使うと良いのは言うまでもない事と推察できます。  最近、認知証に良く使われている他の処方は、加味温胆湯、釣藤散、黄連解毒湯、温清飲、加味帰脾湯、八味丸、六味丸、当帰芍薬散、人参養栄湯辺りでしょうか。

 

最近のTV番組で、認知症は脳だけの問題ではなく同時に他の臓器にも変化が起こっている、つまり脳細胞だけを見て診断を下すと誤診をしてしまう危険性があると専門医は仰っておられました。レビー小体型認知症では心臓の神経の検査をすると、より確かな診断が下せると言っておられました。それは五臓を底辺とした五角形に立脚した全体観(ホリスティック)が必要最小限である漢方医学で言う所の、心、肝、腎、脾、延いては肺、乃ち五臓を弁証しなければ処方の決定がおぼつかないのと同じである。然しながら、心は神志を主り、腎は骨随を主るとされ、心血又は腎精が虚すと健忘(物忘れ)症状が現れる所を見ると心と腎に注目する必要はある(西洋医学では物忘れと認知証とは別のものと言われておりますが)。薬草から見れば遠志、酸棗仁、山梔子、黄連、地黄、人参、茯苓等は注目しなければならない。その人参、茯苓、遠志、酸棗仁、地黄を配合している処方が加味温胆湯である。加味温胆湯には、それらの他に半夏、陳皮、大棗、生姜、甘草、竹茹、枳実、玄参、を配合した十三味で構成されている。加味温胆湯は漢方医学では“痰熱(濁)上擾”を目標とし、口が苦い、口が粘る、驚きやすい、不眠、実直で臆病な性格、悪心、抑鬱傾向等を目標に使います。構成生薬を分析すると、半夏、陳皮、茯苓、甘草、生姜は二陳湯で口の粘り、悪心、動悸、不眠、めまいをとるのですが、これは胃内に水が停滞し、その水(痰飲)が化熱し、脳の網様体を刺激して起こるのを改善すると中医処方解説に書かれている。竹茹、枳実で化熱した痰濁の熱を取り、遠志、酸棗仁で不眠、イライラを鎮め、不足している血管内の陰を玄参、地黄で補い、人参、茯苓、生姜、甘草、大棗で胃腸の働きを良くし、総じて痰熱を取り、胃から脳の網様体の働きを正常化して上記の症状を治すのであろう。これらの事を総合的に判断して認知証にも使用し得るのですが…。脳の前頭葉を刺激する行為、乃ち心や情景を思い浮かべる昭和の歌のカラオケや女性であれば料理をする等の実践と併行して行う事が最善の治療法かも知れない。将来、認知証の研究で、脳と胃、食道、十二指腸辺りとの共通物質が存在すると学会で発表があるかも知れません。

 

 ある大学研究所の実験で、ラットを使い、迷路の先に餌を置き、正常なラットは餌に辿り着く事が出来る事を確認しておき、餌にカルシゥムを入れてあるグループと、入れていないグループとに分けて実験した所、カルシゥム有りのグループは全て餌に辿り着けたがカルシゥム抜きのグループは殆ど辿り着けなかった実験データがあります。乳酸カルシゥム等、カルシゥムにも様々の形のものがありますが、取り分け、炭酸カルシゥムが一番効果が有ったと結論着けられました。イオン化された牡蠣殻カルシゥムは、その炭酸カルシゥムが主成分である。おまけに牡蠣殻のミネラル組成はマグネシゥムを始め人間の血液のミネラル組成と殆ど同じである。当店で、牡蠣殻イオン化カルシゥムをお勧めしている所以である。腎に問題がある(他臓にも問題が有りますが)骨粗鬆症、アトピー性皮膚炎にもお勧めしております。

 

 7月9日、NHKの朝の番組で“漢方薬が危ない”の放送をしておりました。漢方薬に使用する遺伝資源である薬草がここ1年で、とんでもない高騰をしている(1年前の2~4倍の相場価格)との事で、ある漢方の診療所では、通常の半分の量で処方していると放映していた。日本の大手薬草販売会社は売れば売るほど赤字になり、先行きの見当がつかないと言っておられました。このままでは世界の薬草の80%を消費している日本の漢方が危ない状況である。異常高騰の原因は異常気象による砂漠化や乱獲による減少、又資源国(中国)と商品化した消費国(日本のメーカー)の利益の配分が平等でないと言った理由であるらしい。国が薬価を決めている関係上、原料費が高騰し続けたらメーカーは立ち行かなくなるであろう。事業仕分けで保険適用から除外するかどうかの問題どころではない。日本のメーカーが薬草作りに更に力を注ぎ、生産量を増やすことと、無駄に漢方薬を使用しないこと(確かな漢方理論に則った弁証論治無く漢方薬を使わない)が、今、一番しなければならない事であろう。漢方薬を構成している薬草の一つ一つに感謝の気持ちを持ちなさいと故青木馨生先生が教えて下さいました。漢方の心を忘れない様、励みたいものです。

 (大津市薬会報 2010年 8月号掲載)

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