滋賀県の漢方相談薬局

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漢方の風 40号 ロコモティブ

2017-06-14

ロコモティブ(腰痛、関節痛、ひざ痛、認知症)

なかがわ漢方堂薬局 中川 義雄(昭)

私の生家は創業160年の茶商で江戸時代に大名行列が行き来していた東海道(現在の京町通)に有ります。京町家(キョウマチヤ)と同じで、俗にウナギの寝床と言いますが「店舗兼用の母屋」と「離れ」の間には「庭先」と「蔵」が有って、更に「離れ」の奥(奥の事を「裏」と大津では言います)にはお茶の倉庫があり、表の店舗と裏の倉庫を、つまり「表」と「裏」をレールで繋いであって、その上を「トロッコ」が走っていた。

図式では、(表)店舗兼母屋-庭先-蔵-離れ-小倉庫-大倉庫(裏
     (表)店舗兼母屋……トロッコ(お茶を運ぶ)……大倉庫(裏)

表から裏迄約70メートル近く有りますので商品を倉庫から店舗に運ぶ為にトロッコが必要だったのである。第二次世界大戦までは男衆が7名と女衆4名とお手伝いさんが2名働いていたと聞いている。男衆は全員戦争に行ったので戦後生まれの私は知り得ません。江戸時代、その店舗の前を町人や武士が行き来していたのである。

ある時、薩摩藩の大名行列が京町通にやって来た。梅林(県庁の南側一帯をウメバヤシと言います)に住居するY青年(16歳)が行列の前を誤って横切り”手打ち”(切り捨てご免)になるところを当店舗に逃げ込んで来た。当時の店主の中川ミノが裏の大倉庫の茶箱の中にY青年を潜ませ、押し問答の末一命を救ったと当家では代々伝えられている。恐らく大倉庫の裏の塀を乗り越えて逃げて行ったとでも言ったのであろう。

江戸時代にその気丈なミノの長男として生まれた祖父は東洋の施術を心得ていて、本業の茶商の他に柔道整復師らしき整体や時には煎じ薬を使って困っている人に施術していたと聞いている。私は7人兄弟の末っ子で、私が生まれた時には祖父は他界しており私は知りません。桂皮、大棗等の薬草が家に有ったと兄から聞いていますので、恐らく桂枝湯加減や桂枝加芍薬湯加減を使って風邪、神経痛、関節痛、リウマチ等を治していたであろう事が察せられる。今の時代、この二つの処方の展開でこれらの症状は治しきれないと思います。取り分け腰痛や関節痛を治す事が得意だったと聞いているが現代漢方医術では前出の処方の他に独活寄生丸、疎経活血湯、?苡仁湯、通導散、防風通聖散、?帰調血飲第一加減、八味丸、地竜、附子湯加減…他が必要であろう。

最近ひざ痛のCMでよく耳にするイミダゾールペプチド(カルノシン)配合のロコモティブ製品は理に適った考えである。カルノシン(βアラニンとヒスチジンが結合したジペプチド)やアンセリンを摂取すると速やかに夫々のアミノ酸に分解され、骨格筋や脳へ運ばれて行き、速やかにイミダゾールペプチド合成酵素の働きでカルノシンに再合成される。このイミダゾールペプチド(カルノシン)は鳥の羽の胸筋部や回遊魚であるマグロの尾びれに近い部分に多く存在しており、筋肉の疲労物質である乳酸の分解を促し、又、強力な抗酸化作用を発揮して細胞内の活性酸素をスカベンジ(消去)して細胞の疲労を速やかに解消するのである。斯くして渡り鳥が1万kmをノンストップで飛ぶメカニズムが解明されたのである。

関節痛に対してグルコサミン、Nアセチルグルコサミンで軟骨の生成を促す(グルコサミン類は保水性のある軟骨の一種であるプロテオグリカンを生合成する為に必要な一成分)だけではなく関節の支持組織である骨格筋の維持にイミダゾールペプチドを同時に摂取する有効性、つまりロコモティブの考え方は重要である。

最近そのイミダゾールペプチド(カルノシン)が認知症の予防に係っているとする研究発表がなされている。筋肉の疲労を解消するカルノシンは生後、使い過ぎた脳の疲労をも解消し、認知症の予防になるのではないかと推論し、実験の結果それが立証されたのである。余談になりますが少し認知症と老人班とアルミニウムについて触れます。大脳皮質や海馬に沈着する老人班(アミロイド班)はアルツハイマー型認知症の原因と言われて久しいが最近の研究では老人班は結果であってアミロイド班が表れる前にβタンパクが神経細胞に沈着する。このβタンパクはアルミニウムによって凝集し、アミロイドβを作り出す。その結果、老人班が形成される(βタンパクを凝集させるアルミニウムはアジア大陸で発生した酸性物質が日本の上空で雨に溶けて降り、土壌を酸性化し、その結果土壌中のアルミニウムがイオン化して野菜に取り込まれ我々の口に入るのである。)

イミダゾールペプチドがロコモティブシンドロームのみならず、認知症に光明を持たらせてくれる可能性は高い。

前出のひざ痛や腰痛、下肢痛に使用する独活寄生丸(千金方)は八珍湯(去白朮)が処方内に含まれており、気と血の虚を補う一方、同じく処方内に含まれている桑寄生、杜仲、牛膝が筋肉と骨を丈夫にする(補肝腎、壮筋骨)作用を併せ持っている。独活寄生丸は当薬局の頻用処方の一つであり気血が虚している人にはとても効果を発揮する。

その独活寄生丸の処方内容を良く吟味してみると、1350年前(AD650年頃)に孫思?(ソンシバク)が千金方(センキンホウ)の中でロコモティブを実践していたと言う事が出来る。漢方医学は将来に亘って人類を救う一手段であると確信しています。生薬資源が枯渇状況に有る現在、エビデンスに則った漢方薬の使い方、乃ち弁証論治を肝に銘じなければならない。

漢方の風音 2号 腰痛、ヒザ痛、脚弱、尿不利

2013-06-09

バリトン 中川 義雄

 人間の老いは目及び下半身からやって来ると言われて居ります。私も最近、頓にその衰えを実感している所です。漢方の言葉ではそれらの弱りの事を“腎虚”といいますが、腎虚になると脳細胞の衰えは先ず有ります。又、腎機能の衰えも読んで字の如く有りますが、副腎(副腎ホルモン)の衰えも含んでいるのが漢方医学の考え方の特徴です。従って副腎の機能である糖の代謝、ミネラルの代謝(尿量、血圧と関係します)は勿論の事、排尿困難、排尿異常(漢方用語で尿不利と言います)も骨の代謝(骨を丈夫にする)も弱ってきます。更に“肝腎要め”の言葉通り東洋医学では肝と腎は母子関係にあり、肝もそれに連れて弱ります。そうすると、肝と腱は元々深い関係が有るので骨を支持している筋肉も弱って来る。かくして腎が弱ると一連の老化現象(下半身の弱り、躓きやすい等)が現れるのである。これら一連の関係は漢方用語で〝腎は骨髄(こつずい)を主る〟と言う言葉に帰着する。

腰痛、ヒザ痛、骨粗鬆症、脊柱管狭窄症は“骨”(こつ)であり 物忘れ、シビレ、パーキンソン病は“髄”(ずい)である。だからと言って物忘れ、パーキンソン病を治そうと腎を強化してもそう簡単には行かない。認知症、パーキンソン病は心も脾も絡んでいるし、血流も絡んでいるからである。

 風邪の引き始めは、先ず悪風、悪寒(所謂さむけ)がします。又それと同時に関節(ふしぶし)が痛む場合が有ります。風寒と言う“さむい邪”が体表にとり付いたが為に“寒さ”を覚える訳であり、同時に関節にも風寒の邪が襲ってくる為に腰痛、ヒザ痛、顎関節痛もおこる。この様に風邪のひき初めと各関節痛とは大いに関係が有ります。そこで腎虚による痛みなのか風寒の邪による痛みなのか、どちらも絡んでいるのか若しくは全く別の問題が絡んでいるのかを良く弁証します。

体表(皮下)は前述しました様に関節と同じなので、膝関節に水が溜まると体表にも水が溜まる場合が有ります。乃ち、浮腫んで来ます。そのむくみは漢方医学では虚腫と言って力のない浮腫みである。整形外科で水を抜いても、又、溜まってきます。漢方薬で体表の水をぬいてやると関節の水も抜けていきます。虚腫は漢方に熟達してくると皮膚の虚実や顔貌と絡めて膝を診るとよく分かります。一方、膝の腫れに実腫が有りますが、この場合は顔が腫れることは先ず有りません。整形外科ではこの様な概念が有りませんので漢方医学の方がより実態にあっており、うまく治せると筆者は確信を持っている。

大津男声合唱団 Booklet 「ハーモニー」寄稿文より

32号 漢方の風 ー陰陽学説から見た流産癖、ひざ痛

2013-01-25

 漢方医学は陰陽学説的弁証法を拠りどころとしている。古代中国人が生活の中で自然現象を長きに亘って観察し、宇宙間の全ての変化を解き明かした思考システムである。全ての事物には相対する陰と陽が存在しており、その陰と陽が相俟って(相互作用して)その事物の運動、変化、発展の原動力になっているとしている。陰と陽は夫々単独では存在する事が出来なく、陰陽は夫々相手の存在を自分の拠り所としている。乃ち上が有っての下であり、上が無ければ下が無い。熱は陽であり寒は陰であり、寒が無ければ熱を論じる事が出来ないといった具合である。つまり陰と陽は夫々単独では存在する事が出来ないのである。  宇宙は陰と陽の相互作用で成り立っている。又、漢方医学では人体を小宇宙として捉え、人体も陰陽のバランスで成り立っているとしている。そして、更に小宇宙である人体は大宇宙の中にバランス良く存在している事も大切としている。  この陰と陽は漢方治療においては絶対である。小宇宙である人体には陽である“気”(目に見えない)と、陰である“血”(目に見える)が存在し、気が血(物質)を生じ血(物質)が気を生じている。言い換えると色不異空(しきふいくう)、空不異色(くうふいしき)、色即是空(しきそくぜくう)、空即是色(くうそくぜしき)と通じる所がある。それ故、物質(色、陰)だけを論じても駄目なのである。物質である陰を生じるには陽が必要だからである。

 

 最近、ひざ痛に良いとしてグルコサミン、コンドロイチン、コラーゲン等のCMが様々な媒体で目にしたり耳にしたりします。又整形外科ではコラーゲンの注入が良く行われています。どちらも軟骨を作るが為の物質であり行為である。これらでひざ痛が楽になった方は沢山おられますが、効果がない方もおられます。色(しき)である物質(グルコサミン、コンドロイチン、コラーゲン等)を軟骨にする為のある種の気の力(作用)が働いているが為に軟骨は作られているのであり、若しこのある種の気の力(作用)が弱っているひざ痛の人にはコラーゲンを注入しても効果は少ない。前述のひざ痛が治まった人達はラッキーにも未だ気の力が残っていた人達である。漢方処方としては独活寄生丸を用いると良い。

 

 流産を繰り返すAさんは、精神的にも肉体的にも弱っておられた。子供が欲しいが、又、流産してしまう不安感で途方にくれておられた。不妊ではなく妊娠を持続する事が出来ないのである。そこで当薬局へ相談に来られたのである。現代医学的治療ではアスピリンやヘパリンで胎盤の血流をよくする治療法や夫のリンパ球の免疫療法が行われている。更にステロイドであるプレドニン療法もある。一方、漢方医学的見立て、乃ち“未病を治す”観点からすると不安感を持っておられるAさんは再度妊娠しても、今まで以上に妊娠を持続する気の力は減じており、再度流産する可能性は大きいと言っても過言ではない。体力の減衰も見られるが、精神の減衰が著しく、不安感を持つ事が妊娠を持続する気の力を萎えさせると考える事が出来るからである。漢方薬としては気を益す為に四君子湯の方意を持たせ、血を補う為に四物湯の方意を持たせ、流産を繰り返した気の落ち込みを取る為に逍遥散と香附子を主処方に組み立てて服用して頂いた所、たちまち妊娠して、無事、超安産で元気な赤ちゃんを出産された。陰と陽をバランス良く補った結果である。

 

 大宇宙である環境に小宇宙である人体が生きる。乃ち「人にやさしく自然に溶け込む」…が私(なかがわ漢方堂薬局)のモットーである。

(大津市薬会報 2013年1月号掲載)

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