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漢方の風 42号 AD(注意欠陥症)/ HD(多動症)

2019-09-26

漢方塾…AD(注意欠陥症)/HD(多動症)

なかがわ漢方堂薬局 中川義雄


医学の言葉でADと言えば

  1. Alzheimer‘s Disease(アルツハイマー病)
  2. Atopic Dermatitis(アトピー性皮膚炎)
  3. Attention Deficit(注意欠陥症:注意欠陥障害)

を主に思い起こします。
Attention DeficitはHyperactivity Disorder(多動症:HD)の症状を往々にして併発しますのでADHDと並び称せられることが一般的です。
過去にアルツハイマー型認知症とアトピー性皮膚炎については以前に漢方医学サイドからの私見を漢方の風で書きましたが今回は注意欠陥障害/多動症について書いて見たいと思います。

注意欠陥症/多動症の症状は「不注意」「多動性」「衝動的な行動」といったものが知られておりますがその発症原因は定かでは有りません。

“脳の体積が小さく成っているから”や“左右にある海馬の形が非対称でその結果左右の海馬から出される脳波のネットワークが不均一になるのが原因”や“前頭前野に問題があるから”等の説が唱えられております。

ここでは大脳の前頭前野(ぜんとうぜんや)に問題がある説を取り上げて漢方医学的アプローチを書いて見たいと思います。

多様なストレスや不安感が続くと前頭前野の働きに悪影響を及ぼすと言われています。
前頭前野は人間らしさ、つまり思考や創造性を担って居り、反応抑制(行動を起こすときに不適切な行動を抑制し適切な行動を実行する)や、推論(生物は生存の為に外部環境において適切な行動の選択を迫られる。その際、過去に経験して得た知識のみから行動を固定的に選択するのではなく、それらを組み合わせて柔軟に行動をする事によって新しい事態に備える)等によって、判断力、適切な感情の発現などを主っています。この部分に問題が生じると注意力が散漫になり感情のコントロールが上手く出来なくなるとされています。

前頭前野に問題がある人は往々にして神経伝達物質であるドーパミンやエピネフリンが不足しており西洋医学では神経伝達作用を惹起するドーパミン製剤を投与して症状を改善します。
ドーパミン製剤は全身の神経の興奮度を高めますので、どうしても副作用を免れる事は出来ません。
副作用の一例としましては交感神経の働きを高めますので腸管(小腸、結腸)の働きを抑えて便秘を惹き起こしたり膀胱の平滑筋の緊張度を弛緩して排尿を阻害したりします。


一方、東洋医学では五蔵の一つである<肝>が自律神経始め精神状態をコントロールしていると規定しており、肝が不調になると情緒が不安定になりイライラ感が出たり、少しの事で怒りが表れたり、落ち着きが無くなったりします。従ってADHDの症状が表れたら先ず肝の陰陽に着目して弁証します。
肝の陰とは肝の血(けつ)であり、肝の陽とは気の働きであり気の流れを言います。肝の陰と陽はお互いに制御し合ったり、お互いを生じたりしています(陰陽互根)ので肝の陰(血)が不足すると肝の陽である気の働きが過剰になり怒りやイライラ感や落ち着きが無くなったりします。従ってADHDの漢方治療は先ずは肝の血を増やす薬草(地黄、当帰、酸棗仁、阿膠、竜眼肉、芍薬、鶏血藤等)を考慮し、気の鬱滞を疎通(そつう)させる薬草(柴胡、香附子、枳実、陳皮、半夏、厚朴等)も考慮しなければなりません。

又、<心>も精神活動に関わっていますので心の陰陽も考慮しなければなりません。
心の陰である心血を増やす上記の補血薬草を考慮し心の働きつまり精神生活を担保しなければなりません。

更に<肝>と<腎>は五行学説では母子関係に有り又、肝腎同源といって肝の働きが失調すると腎の働きに悪影響を及ぼします。
腎は成長、発育、発達、生殖を主って居りますので場合によっては補腎薬も考慮しなければなりません。

更に漢方医学では寒熱つまり、寒の症状か熱の症状かも弁証します。
熱証(熱の症状)になるとイライラ感が出てきます。従ってその方のイライラ感を熱証と捉えた時は熱証を取り去る薬草(清熱薬)で熱を取って気持ちを落ち着かせます。

又、気持ちを安定させる働きの事を安神作用といいます。
重鎮安神薬である竜骨、牡蛎を使う事も有ります。

肝の陽の気の上衝はイライラ感や怒りを惹き起こしますので、肝気の上衝を引き下げる薬草である釣藤(カギカズラ)を使う事もあります。

肝の失調がADHDの原因とした時、現代人は多かれ少なかれ発達障害を発症する可能性を持っていると言っても過言ではないでしょう。
(因みに今現在の統計では20人に1人がADHD症を持っていると言われています。)

片付けが出来ない人、人の話を最後まで聞けない人、自分の思っている事を話さずにはいられない人、話している間に自分が何を言っているのかが分からなくなる人、物忘れをし易い人等、私の周囲にも沢山の人がおられます。勿論、私も然りですが肝の失調を惹き起こすストレスが複雑に入り乱れている現代社会では益々後天的ADHD症は増えていくであろう。

最近、当方が優先道路を走っている時、右から明らかに狭い、狭小の道路から一旦停止することなく右折して来る車と衝突しそうになるケースを度々経験しています。これは前頭前野での「反応抑制」が出来ていない為ではないでしょうか。

36号 漢方の風 - アルツハイマー型認知症・アトピー性皮膚炎

2015-01-08

 数年前の事ですが、某大学の薬学部に在籍する学生さんとお話しをする機会が有りました。

その際、その学生さんはアトピー性皮膚炎を罹患して困っておられ、私が漢方医学に携わっている事を知って、質問をされた次第である。

その学生さんは皮膚が乾燥して痒みが強く皮膚科の医院に受診した。

保湿剤の軟膏と抗アレルギー剤と抑肝散が処方されたとの事であるが、将来の薬剤師の卵である学生さんは自分に抑肝散が処方された作用機序が解らず、ネットで調べて見たとの事である。

神経症、不眠症、小児夜啼き等が書かれておりアトピー性皮膚炎の際のイライラ、不眠、痒みにも効果があると書かれていたとの事である。

14日分を服用したが効果はサッパリで、自分には合わなかったのだろうと思っていたのだが、この機会に私にエビデンスを聞いて見たいと思った訳である。

その学生さんはサッパリした性格で言葉が流暢で会話が楽しく、自分の気持ちを素直に表現出来る、落ち着いた明るい性格の持ち主であった。

決して肝血(※)が虚していて、肝陽が抑えられないタイプではなかった。なので、その学生さんには効果が無くて当然で、抑肝散に効果が無かったのではなく、又、合わなかったのでも無く、合わせられなかったと考えるのが妥当でしょうと説明し、大切な事は望診や問診を行った上で、つまり“抑肝散の証”<肝血の虚に乗じて肝陽が上亢している>を弁証した上でアトピー性皮膚炎の患者さんに投薬する事が基本であると説明した所、複雑な気持ちを抱いていた。漢方薬は東洋医学的EBMに則った使い方が大切であるとその学生さんには教える事が出来た。

 今から20年近い前に、生前、親しくさせて頂きました故広瀬滋之先生(数多くの漢方の著書が有ります)の京都での漢方講演を拝聴しに行った時に、世の漢方施術者に対して、漢方薬が合わなかったのでは無く、合わせられなかった事を深く考えるべきと仰っておられました。

その言葉を聞いて私自身も身が引き締まる思いを覚えた。

アトピー性皮膚炎に対する抑肝散の作用は前号の“LEAKY GUT SYNDROME の所で書きましたが”脾“のペプシンの作用をフリーにしてより小さいペプチドに分解する事であろう。又、三焦の流れを良くする事も考えられる。

 その抑肝散は最近、アルツハイマー型認知症(AD)、レビー小体型認知症に高頻度に処方されます。所謂、周辺症状(怒り、イライラ、不安、妄想、徘徊他)の改善に使用されます。根治療法にはならないとされております。

ADの場合は(アミロイドカスケード仮説)はアミロイドβの沈着が重要視されていますが最近の研究で陳皮に含まれているノビレチンが非常に有効であるとされる研究論文が発表されております。

ノビレチンの抗認知作用は

  1. 記憶障害改善作用
  2. 脳コリン作動性神経変性抑制作用
  3. アルツハイマー型認知症の原因物質とされるアミロイドβの沈着抑制作用
  4. 神経成長因子

が動物実験で確認されている。(東北大学で抗認知症への動物実験を行っている。又、最近、それに基づいて東西の大学病院で臨床実験が開始されたと聞いております。)

 ノビレチンはシークヮーサー始め柑橘系の果皮に含まれているが、通常の温州みかんの果皮にも若干含まれている。

所が、最近、コタロー社がある地区で高濃度にノビレチンを含有しているミカンを見つけ、その果皮のエキス剤をノビレチンピ(第3類医薬品)と号して発売を始めた。乃ちノビレチンピは一種の温州みかんの果皮で健胃、鎮嘔、鎮咳、去痰の効能・効果で上市されております。

当薬局では現在3名の方に服用して頂いている所です。

 認知症の漢方治療は古くは桃核承気湯、当帰芍薬散が取り沙汰されておりましたが最近では「釣藤散」「?帰調血飲第一加減」「加味温胆湯」「通導散」「通導散合桂枝茯苓丸」「通導散合竜胆潟肝湯合補中益気湯」「加味帰脾湯」「通導散加桃仁牡丹皮合?帰調血飲第一加減」他から弁証を行って理法方薬通り行うと良いでしょう。中でも通導散には大いに期待が持てます。(通導散は強い薬方で使い方が難しく素人療法は禁物です。その際は漢方の専門家にご相談ください。)

 ※肝血:「肝は血を蔵す」とされる。腸管で吸収された栄養物質を含んだ血(けつ)は門脈系を通じ肝蔵に入り、分解、合成され貯蔵される。更に肝は自律神経系を主る為、血管運動に関与し身体各部の血流量を調節する。

更に女性には子宮に血液を供給し子宮の平滑筋や内膜を濡養(なんよう)して、或は自律神経を介してホルモン分泌を調節して月経を正常に行わせる。

陰陽互根であり、肝血は陰で、肝陽をコントロールしている。

なかがわ漢方堂薬局 中川 義雄

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