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漢方の風音 12号 コロナウイルスより深刻な不死身のスーパー薬剤耐性菌の出現

2020-07-08

MRSA血流感染から腸腰筋膿瘍を形成した症例

なかがわ漢方堂薬局 中川義雄


2016年9月、国連にて耐性菌に関する特別会合が開催された。議題は人類を危うくしている人為による3つの課題についてである。その3つの課題とは①地球温暖化②スーパー薬剤耐性菌③生活習慣病である。中でも薬剤耐性菌の問題は我々の孫の世代はおろか子供の世代に深刻な事態を惹き起こそうとしているのである。

私が大学を出て製薬会社に就職した52年前の丁度その頃(アポロ宇宙船が月に到達した年)、MRSA (Methicillin-Resistant Staphylococcus Aureus :メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)が問題になっていた時期である。私の勤めた製薬会社にはMRSAに効果のある“オルベニン”という抗生物質があり,耐性菌については良く勉強したものです。

1928年(一説には29年)、微生物学者アレキサンダーフレミングが実験中、培養していたシャーレの一つに偶然、青かびが入り、その青カビの周りだけ、細菌の繁殖が抑えられている事を見つけ、精査して、青かびが出している成分が細菌を死滅させている事を発見したのである。フレミングはその物質をペニシリンとなづけた。ペニシリン発見後、増産には10年程掛かったのであるが、ペニシリンの効果は絶大で、1875年に特定の細菌が特定の感染症を引き起こす事が発見されて以来の感染症の恐怖から解放されたと世界の誰しもが思ったのである。アレキサンダーフレミングは当初から、感染症に対してペニシリンの使用量が少ない、つまり血中濃度が一定濃度に上がらないと細菌が死滅するどころか生き延びる事になり、ペニシリンに慣れて耐性を生じると警告を発していたのである。

その後、様々な抗生物質が開発され、養鶏、養豚、畜産や酪農など様々な分野で伝染病を防ぐ目的で抗生物質を飼料に混ぜて与えたのである。すると意外な事が分かったのである。抗生物質を家畜に与えると各家畜の発育が促進され、収穫効率を上げる事が分かり(一定期間与えると15%体重が上がる)、その結果抗生物質は産業を活性化し、増々需要が増えたのである。その頃の抗生物質は家畜の病気の治療、予防ではなく成長促進剤として使われ、5年間で200トン以上の抗生物質が家畜に与えられたのである。こうして、家畜の腸管で耐性菌が生まれ、糞便に排泄され、そこに群がったハエが耐性菌を運び限りなく人間社会に伝播していったのである。

50年前から世界の医学者、微生物学者達は耐性菌の問題は重大案件であると共通認識を持っていたのですが、50年後の今、事態は改善されるどころか益々悪い状況を招いている。

1950年頃、慶応大学医学部の渡邊力博士(48歳胃癌で死去された)は多くの病原細菌が同時に多数の治療薬剤に対して抵抗性を獲得する機作が新しい型の細胞質遺伝物質(又は核外遺伝物質)によって説明されることを発見し、これに多剤耐性因子と名付けた。世界の微生物学者が驚いた偉大な発見であった。

この多剤耐性因子の正体はプラスミドであることが後に判明する。それまでは遺伝形質・DNAにより親から子と縦の繋がりで耐性が伝播していくと考えられていたのですがこのプラスミドの発見により横の伝播が発見されたのである。つまり、異種間の細菌のやり取りで耐性が広まっていく事が分かったのである。

2007年インドでプラスミドの一種であるニューデリーメタロβラクタマーゼ(略称NDM-1)が発見され、2012年にはNDM-1の変異系が世界中で42種類の細菌に、55か国に拡散している事が分かった。

細菌はグラム陰性、グラム陽性、マイコプラズマ、リケッチア、クラミジア等に分類されますがペプチドグリカン層で構成された細胞壁を持たないマイコプラズマやリケッチア、クラミジアを除いて大多数のグラム陽性、陰性細菌の細胞壁の合成を阻害して殺菌する最後に開発された「カルバペネム系」抗生物質が効かない事態の到来を意味している。カルバペネム系抗生物質は最後の手段として取っておくべきと主張している学者が多い中でカルバペネム系抗生物質を良く使う病院では院内感染が多く発生していると言われている。

2018年バングラデシュ、ダッカの病院では正常分娩で生まれた新生児が母親の膣内の耐性菌感染の影響で20~30%の割合で死亡している現状がある。

最近、特に問題になっている菌に肺炎桿菌があります。これは1958年に開発されたポリペプチド系ポリミキシン製剤:「コリスチン」がこの肺炎桿菌に特異的に効果があり、世界的に肺炎桿菌に対する最後の切り札とされてきた。このコリスチンにも、例外なく家畜の餌に多用されてきた影響で2015年に耐性を持つ遺伝子『MCR-1』が特定された。2017年に家畜に与える事が禁止になったが耐性菌を研究している学者達は世界の終わりを覚悟した。

このままでは2050年には一切の外科的治療、歯の抜歯、虫垂炎、形成外科、癌の除去術…すべての手術が出来なくなるのです。世界で豊であろうが貧しい国の人であろうが誰もが手術は出来なくなり、年間1000万人が死ぬ事になるそうです。当然GDPにも影響して世界不況を招くと言われている。


 

数年前、ある人の紹介でMRSA(耐性黄色ブドウ球菌)血流感染から腸腰筋膿瘍を形成した患者さんが来局されました。当初、腰痛は勿論、40度を超える発熱があったそうです。長期の入院後、自宅療養で1日アモキシシリン8カプセルを服用しているものの腰痛、倦怠感、微熱が取れず困り果てているとの事でした。

そこで、黄耆建中湯の煎じ薬を投薬し、最初の3日間のみ、オーストラリア産の牛黄を併用して頂きました。20日分服用後、腰痛は少し残っているもののほゞ9カ月ぶりに平熱になったとの事。都合、1カ月半服用後、体のだるさは取れて、熱は以来ずっと平熱で元気を取り戻し、諦めかけていた仕事も再開したと喜んで戴きました。つまり患者さんの免疫力が勝った結果である。

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