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漢方の風音 8号 阿膠(アキョウ)

2016-12-08

甲状腺機能亢進症。結代脈。膀胱炎。

バリトン 中川 義雄

随分長い期間、気になっていたアメリカの大統領選挙が終わった。ヒラリーに投票した人達の落胆さはイギリスのEU脱退に反対した人達以上のものが有る様に思える。

ラスベガスのトランプタワーで働く下流層の従業員(ヒスパニック系の女性従業員が70%を占めている)の時間給の低さは言うに及ばず、労働組合(ユニオン)の設置を妨害したりで、女性従業員は全てにおいて虐げられている。

その彼女達はトランプの会社の従業員にも拘らずヒラリーに投票したと公言して憚らない。

全米のヒラリー支持者は明日の希望が持てないと虚脱感に苛まれた。一部の支持者は“トランプは我々の大統領ではない”とデモを繰り広げた。


トランプが大統領に就任した暁には日本においてとても気になるのが防衛費の問題であろう。

アメリカの軍事費がGDPの3.3%に対して日本の軍事費が0.99%だからその差の2.31%を埋め合わせる負担を日本、ひいては韓国、NATO等に求めると選挙演説で語った。

最近のニュースで、ウクライナへのロシア軍の侵攻を目の当たりにしたポーランドの若者達はロシアの侵攻に備えて自主的に軍事訓練を行っていると伝えている。

今の緊迫した世界の渦中にあって日本は如何なる道を執るのであろうか。

或るジャーナリストがアメリカ軍は今現在何も日本を守っていないのが現状でトランプが日本から米軍を撤退すると言えばどうぞ撤退して下さいと応じれば良いと記事に書いていた。(今の日本にはその様な度胸を持っている政治家はいないとも書いていた)。

米軍に使っている年間5000億円~7000億円の費用が浮いてくるし、就中、沖縄県民の念願が叶うと言うものである。

因みに中国の軍事費は1.6%と言われている。


その中国で最近気になっているインデペンド紙の記事を米CNNで放送していた。

記事の内容はロバの輸入の事(爆買)で中国がやり玉に挙げられていると言うものである。

爆買先はアフリカ諸国である。ロバの皮を除毛した後に皮を煮詰めて作ったのが阿膠(アキョウ)であり、漢方医学ではとても重要な生薬である。

つまりロバの爆買はロバから作られる生薬の阿膠が目的なのである。阿膠の効能は生血、止血、潤肺(咳止め)、滋養等で使用される。又、ある種の不妊治療(これが一番重要である)には無くてはならない生薬でもある。

膀胱炎、尿道炎で血尿が出ている時は阿膠が含まれている猪苓湯で止血出来る訳である。中国山東省東阿県の阿膠が最も品質が良く当薬局でも創業以来ずっと山東阿膠を仕入れている(十数年前山東阿膠が品薄で仕入れられない時期がありましたが…)。

中国山東省の農家では畑の耕作や運搬にロバを使っていたのだが農機具、トラクターの普及と共にロバを飼育する農家が激減した為に阿膠が不足しているのである。

20年前と比較すると1100万頭いたロバが年に30万頭ずつ激減して現在では600万頭になっている。

業界では牛、馬、豚で作った偽物の阿膠が出回っている次第である。そこで中国人が目を着けたのがアフリカである。


因みに阿膠を使用している処方は前出の“猪苓湯”始め“温経湯”“黄連阿膠湯※”“婦人宝”“?帰膠艾湯”“炙甘草湯”等がある。

どれも重要な処方である。例えば甲状腺機能亢進や脈の結代や極度の疲労には炙甘草湯が月経不順等の婦人科系疾患には温経湯が無くてはならない。


そのアフリカの農業の市場規模は現在29兆円であるが20年先では92兆円が見込まれており世界の穀倉地帯に成長する事は必至である。

2025年までに中国のアフリカ投資は100兆円になるとの事。食料自給不足の日本にとっては他人事ではない。

幸いに南鳥島近海の海底に多量の希土類(レアアース)が見つかって居り、それを基に、又、独自の技術力で日本は何とか生き延びられそうである。

話しがそれましたが西アフリカのブルキナワアソでの第1四半期のロバの輸出量は18000頭で、1年で72000頭になろうとしていて、急遽ブルキナワアソの政府は輸出を禁止した。同様にニジェールも輸出を禁止した。

ニジェールでは数年前は1頭3500円だったのが今や15000円になっている。そこに目を付けた経済力のあるケニア、南アフリカはロバの飼育を開始して積極的に取引を始めている。

アフリカにも南北問題が有り、富める国は益々富むのである。アフリカ南部のボツアナではロバの密輸組織がブラックマーケットでロバを売り捌いている所を捉えられた。


記事では爆買している中国人を批判しているがその阿膠を大量に消費しているのが日本である。漢方薬は生薬である。

陰陽虚実に則った理法方薬の弁証の基に漢方薬を使用し、ロバの命を無駄にしない様に販売、投薬していきたいものである。


※黄連阿膠湯…傷寒論(しょうかん論)の少陰病(しょういん病)篇に記載されている。目標は内熱が有って体液が枯燥し、熱が心胸に差し迫り胸苦しくて眠れない。傷寒論では臥する事を得ずと記載されている。


私自身の治験では難病疾患で死期迫った年長の女性がベッドの上で煩躁甚だしく苦しくて何日も寝ていない。

看病している家族もその苦悶している姿を見るにつけいたたまれなく疲労困憊している…と相談を受けた。

問診をしたところ患者は氷を口に入れる事を盛んに乞う事が解り、黄連阿膠湯証と弁証した。

家族は早速煎じて主治医の同意を得て与えた所、暫くしてスヤスヤと気持ちよさそうに眠りについた、と大変喜ばれた。

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