アトピー性皮膚炎・滋賀県・漢方薬 | なかがわ漢方堂薬局

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3号 耳と腎虚(難聴・慢性中耳炎)

2005-01-20

 それは、正に奇跡であった。否、奇跡というより奇跡的と言った方が良いかも知れない。便秘で悩んでおられる60才代後半のその男性は、左耳の聴覚を、20数年前より失っていた。  それは、中耳炎をこじらせ、炎症が治まったときには、全く聞こえなくなっていたというもので、それからというものは、右耳だけに頼って、生活をしておられた。主訴は、便秘なのだが、来店された時には、残された耳には補聴器が装着されており、私との会話も、若干、不自由さがあった。  他の、問診のやりとりから見て、地黄の沢山入った漢方薬を服用して頂いた。便通が良くなり、お気に入りで、約6ヶ月間服用された。ある日、耳鼻咽喉科で右耳の検査を受けた際、何と左耳に聴覚が戻っていると先生より告げられたとの事で、顔には、喜びが満ちていた。正に、メイクミラクルであった。患者さんからして見れば、便秘薬が、失音した耳を治す訳がないと思われても、仕方がないのだが、私からすれば、地黄が効いたと確信を持っている。

 次の事例は、奇跡でも、奇跡的でもない。正に、理法方薬通りに、事はすすんだもので、西大津から口込みで来店された、6才の女の子、Yちゃんの話である。滲出性中耳炎がこじれ、それも悪い事に、両耳であった。主治医からは、聴覚を失う可能性が高く、次回、来院時に、将来の事も含め相談しましょうと言われ、両親の悲嘆ぶりは、相当深いものであった。問診のテーブルに母親と共に坐ったYちゃんは、耳が聞こえない為か、全くの無表情で、何を聞いても、返事は、返ってこなかった。家から持参した絵本を大人しく読んでいる。待ち合いコーナーに坐っている筈の父親は、娘の一大事さから、母親の背中越しに、母親の言葉に、被せんばかりに、アーダコーダと伝えてくる。  私の娘が、幼い頃、私も、同じ様に、家内の背中越しに、アーダコーダと言っていた事を思い出していた。取り敢えず、柴建湯を14日分渡し、何も悲観する事はなく、現代医学的には、打つ手はなくても、漢方で治る可能性は、充分ある旨を告げ、コンプライアンスを守る事を約束した。果して2週間後、食欲も出て来て、元気になって来ており、耳も、何となく良さそうに思うとの事だので、更に14日分、同処方を渡す。今度は、ほぼ、完璧に、聴覚が戻っていた。念の為、更に、分2で良いからと言って、42包投薬し、治療は、無事、終了した。そして、今、その弟のY君が、柴胡清肝湯を、未病を治す意味合いからも、ボチボチ服用している。

 平成3年から、県薬主催の漢方勉強会が、月1回のペースであった。講師は、故青木馨生先生である。宮本武蔵の崇拝者ともとれる程、よく武蔵の話しをされた。その訳は、漢方は、勘が大切であり、切磋琢磨し、生活を律し、養生をしなければ、患者さんの証は、不可解であるとの理由からであり、宮本武蔵の生き方が、一番良いとの思いがあったからであろう。勉強会が終わったある日、一人の先生が、質問された。それは、定年退職された男性の耳聾の治し方であったが、先生は、その患者さんの職歴を聞き、それは難しいナアーと一言話されただけで、その質問の答えは、終わってしまった。何故なら、その患者さんは、一生の音を、仕事の関係上、既に聞いて仕舞っているからであると・・・。今、思い起こして見ると、あなた達のレベルでは、先ず、無理であろう事を心の中で、呟いておられた事と思っている。

 大河の一滴(五木寛之著)の中に、書かれているものと、何か通じるものがある。それは、人間始め全ての哺乳類は、一生の間に約5億回の呼吸を与えられているとの記述とである。  人が、音を聞くとは、即ち、鼓膜が振動し、その振動を、3つの小さな骨(つち骨、きぬた骨、あぶみ骨)が順じ、その振動を伝え、最終的に、聴覚神経に振動が伝わり、音として、とらえるのである。私が、近頃、一番危惧しているのが、その3つの小さな骨である。年をとると、耳が遠くなるのも、恐らく関係していると思っている。

 人が、この世に生を受け、水穀の気と天空の気から、骨を作り上げて行くのであり、それらの小骨にも、形成と吸収が、繰り返されていて、乳児期-幼児期-青年期-壮年期-老年期と、恐らく、山なりのカーブを画く様に、乳児期は、未来の、輝かしい人生を、見据え、活発な形成を行い、そして、青年期には、ピークを迎へ確かな、小骨を作り上げて行くのであろう。

 最近、子供連れの若い夫婦をよく見かける、アミューズメントスペースでは、音楽が、がなり立てている。困ったものである。特に気に入らないのが、ある携帯電話のCMである。場所は、空港のロビー、むずかる乳児に対して、ダウンロードした音楽を、ヘッドフォン?で聞かせている場面である。非科学的な思い過ごしかも知れないが、直接的に、音を照射しており、鼓膜-小骨-聴覚神経とした一連の流れにとっては、強烈すぎるのではないかと感じている。

 私の店を立ち上げる時、相談した設計士は、人にやさしく、ソフトな印象を与えるには、直接照明でなく間接照明が良いと言い、間接照明を多用した。  音と光とでは、違うかも知れないが、あながち、そうは、思っていない。屈折を繰り返した光は、やさしさを供って目に辿りつく、音も、同じではないかと私は思うのである。

 学生時代、勉強は、二の次と友人に言わしめた程、合唱の練習に時間を費やした私である。客員指揮をして下さった佐々木先生が、よく言われていた言葉を思い出す。人に感動を与えるには、何も大きな声を出さなくて良い、ピアニシモこそ、感動を与えるものである・・・と。

 中医学では、腎は骨髄を主ると言っており、五色では黒い物である。市薬会報61号のH先生の色体表では、青のり、もずく、あさり、しじみ、ひじき、納豆、栗、いわし、さば、こんぶ、かに、麦芽等が記載されている。さて皆さんは、今日、昨日の間に、どれだけ、食されたでしょうか。そして、前出の地黄なる生薬の色は、真黒なのである。

(大津市薬会報 2005年1月号掲載)

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