アトピー性皮膚炎・滋賀県・漢方薬 | なかがわ漢方堂薬局

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8月, 2021年

漢方の風 47号 菊池病・アトピー性皮膚炎の漢方治療

2021-08-04

漢方塾…菊池病・アトピー性皮膚炎の漢方治療


なかがわ漢方堂薬局 中川義雄(昭)


職場の上司よりパワーハラスメントを受け続けている20歳代の女性Aさんは気丈に仕事を続けている。Aさんの話によるとその上司は同僚のBさんにも同様にパワーハラスメントをかけていた。Bさんは耐えられず職場を去って行ったとの事である。

人の紹介で来局したAさんは酷いアトピー性皮膚炎を発症していた。全身に痒みが有り、顔全体に発疹、発赤が出ていて、手は左右共に発赤が有って掻破痕があり如何にも痒そうで、全体に色素沈着も見られる。背中も隆起性の発疹が全体に広がって、その痒みは容易に想像ができる。やはり掻破痕があり、恐らく就寝中に搔いているのであろう。

丁寧に問診を問ってみると上司のパワハラによるストレスが原因で発症しているのであろうと察しがついた。Aさんはとても確りされた娘さんでパワハラに耐えながら仕事をされておられるのであるが体はアトピー性皮膚炎と言う形で信号を発しているのである。つまりMasked Depressionが表出しているのである。

問診の中でAさんは病歴として高校生の頃に面皰(ニキビ)があり、臀部にひどい毛嚢炎を発した事があった。又、最近花粉症になり、子供の頃から所謂オデキが出来やすい体質で、擽(くすぐ)りに弱く、足跡に発汗しやすい体質である事も分かった。咽喉を覗くと喉は大きく腫れていて、よく喉から風邪をひくとの事で、更に想像を働かせて聞いてみると気管支喘息も患ったことがあるとの事。更に、生理時にかぶれて痒みを発症する事も分かった。つまり一貫堂医学で言うところの「解毒証体質」である事が弁証できた。

そこで漢方薬は“逍遥散”と“補中益気湯”と“十味敗毒散”と“消風散”を使い分けて20日分服用して頂いた。継続してパワハラを受ける中ではあるものの症状は改善されてきて、化粧水も付けられるようになったと喜ばれた。完全に改善された訳でもないので、引き続き同じ処方を継続して服用して頂いた。その後、自分の判断で間歇服用するようになり、症状はほぼ改善された。

そのような中、ハードな仕事が続いて疲れると症状が少し出る。その時はしっかり服用すると忽ち改善する。

そうこうする内にパワハラ上司は異動になり、パワハラは無くなったが人員の補充が無く仕事としてはとても忙しくしていた所、突然、発熱し膀胱炎症状が出た。COVID19を一応疑ってPCR検査を実施したが結果は陰性で泌尿器科に受診した所、腎盂腎炎と診断され、ク〇ビ〇トと解熱剤が処方された。その後、微熱が続く中、陰部と口唇にヘルペスが出た。その翌日、眼にもヘルペスが出て抗ウイルス剤を7日分服用し、眼には眼軟膏と点眼薬を使用してヘルペスと腎盂腎炎は治まった。

一週間ほどが経ち、左頸部が腫れている事に気付き、寝違ったと思うほど痛みが出てきた。就寝は側臥位が痛みで出来なかった。その内、日中は36度~37度であるが毎日、夕方になると悪寒がして38.9度~39.6度Cに上がり、前述の腎盂腎炎は改善した筈なのに(念のためク〇ビ〇トは継続服用していたが)、不明熱はおかしいとして他医院を紹介された。そこで、診断されたのが“菊池病”であった。正式病名は“壊死性リンパ節炎”。

そこで、菊池病の漢方治療を請われたのである。頸部のリンパ節炎は肝経湿熱と考え “竜胆瀉肝湯”を投薬するのが基本であるがAさんの症状は悪寒が強く高熱を発しており、少し前に腎盂腎炎も罹患しているので“荊防敗毒散”(※)を14日分投薬した。服用する間、徐々に解熱して14日後に来局された時はすっかり解熱し頸部の腫れも少し残っているがほぼ改善した。菊池病は1~2か月で自然治癒する事が多いがAさんの主治医はステロイド治療を勧めた。本人がステロイドを使いたくないと断って当薬局に来られたのである。

菊池病は自然治癒しても5~15%の人は数か月~数年内に再発する。又、0,5~2%の程の致死率が報告されている。

WBC,RBCが軽度減少し、LDH,CRP,AST,ALTが上昇するが直接診断には結びつかず確定するには生検しかないとネットに書かれている。今後のAさんには本来の漢方医学の本意である未病を治す意味で、つまり、再発を防ぐ意味で解毒証体質の改善処方を服用して頂こうと思っている。


※荊防排毒散…

荊芥、防風、羌活、独活、柴胡、前胡、川芎、桔梗、枳殻、茯苓、炙甘草、生姜、薄荷で構成されている。

風寒湿の表証が目標で、つまり荊芥と防風で悪寒、発熱を改善して羌活、独活で嫌な痛みを取る(風湿を取る)。羌活、生姜は発汗、解熱にも働く。

漢方の風 46号 肺MAC症の漢方治療

2021-08-04

漢方塾…肺MAC症の漢方治療


なかがわ漢方堂薬局 中川義雄(昭)


抗酸菌群は結核菌群と非結核性抗酸菌群(Non‐tuberculous Mycobacteria(NTM)に分けられます。
非結核性抗酸菌による感染症を非定型抗酸菌症と言い頭文字を取ってNTM症と言っている。因みに定型とは結核菌感染を言う。NTMは土壌、水系、食物、動物に生息していて、肺や皮膚※等に感染症を引き起こす。
中でもMycobacterium avium とMycobacterium intracellulare の2種類の菌をComplex(合わせて)して、頭文字を取ってMAC菌と呼んでいますが、近年、世界中で免疫力に異常がないのに肺にMAC菌が感染する肺MAC症が増えている。
中年以降の女性に感染者が多いが、理由はわかっていない。近年、若い人にも感染者が出ていると言われている。
風邪も引いていないのに咳が続いたり、咳と共に痰に血が混じり(血痰)肺癌になったと悲嘆にくれて急いで病院にかかる人もおられる。反対に気管支拡張症や慢性気管支炎と診断されてきた人の中に痰を検査するとMAC菌が見つかるケースもあるそうです。
肺のNTM症の内、肺MAC症が70~80%でカンサシ菌(Mycobacterium kansasii)が肺に感染した結核によく似た肺カンサシ症が10~20%程度と言われています。症状は咳、痰、血痰、食欲不振、発熱、羸痩、全身倦怠感などです。

肺MAC菌は浴槽のお湯の注ぎ口やシャワーヘッド、湯垢、風呂場のぬめり等に生存していて、風呂掃除やシャワーを浴びた時などにMAC菌を吸い込んで感染すると言われています。又、土壌にもいるので土いじりをして感染することもあるそうです。


治療法は抗酸菌である結核菌に準じた治療が行われる。
具体的にはストレプトマイシン、カナマイシン、クラリスロマイシン、リファンピシン等の抗生物質とエタンブトールなどの抗結核剤を多剤併用して治療が行われる。
エタンブトールの視神経障害、肝障害。ストレプトマイシン、カナマイシンの第八脳神経障害による聴覚障害、腎障害等の副作用に注意しなければならない。


漢方治療の着目点は痰が多い事と倦怠感、食欲不振等から水毒と気虚が絡んでいると弁証する事である。
水湿が停滞すると水毒となって“痰”が多くなり、これは五行論で言うところの“土”である脾(消化管)の運化機能の失調によるものである。
他にも水湿の絡んだ症状としては浮腫み、食欲不振、倦怠感、頭重感、めまい、羸痩、軟便、下痢などの症状が現れる。

又、肺の機能低下(肺気虚)による症状としては咳、痰は勿論の事、息切れ、呼吸の苦しさ、動悸などがでる。感染にも弱くなり微熱や盗汗(寝汗)、数脈(さくみゃく:頻脈)といった風邪症状が出る。

薄い痰が多く出るようであれば水毒を取る沢瀉、白朮、蒼朮、茯苓などの入った処方を考え、風邪をひきやすい、倦怠感、食欲不振などの症状を改善するために人参、大棗、生姜、甘草、黄耆などの気を補う処方を用いる。
これらの根治療法に加えて咳症状を取る半夏、生姜、五味子、杏仁などを含んだ処方で標治療法を考慮する。


肺MAC菌の感染力は弱く、通常人から人へ感染することは無い。体力の落ちた免疫力の低下した人に感染する。なかでも肺の粘膜の乾燥した防御機能の落ちている人に感染するのである。従って滋陰しながら去痰し、肺と脾の虚を補って治療すれば良いのである。


生脈散、補中益気湯、四君子湯、六君子湯(加黄耆)、苓甘姜味辛夏仁湯、柴胡桂枝乾姜湯(加茯苓、杏仁)、参苓白朮散、帰脾湯、滋陰至宝湯、黄耆建中湯、人参湯、人参養栄湯…他から選用して治療すれば良いであろう。

※皮膚非結核性抗酸菌症:肘、膝、手、腰、下肢に膿疱、潰瘍、発赤、しこり等が現れる。

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