アトピー性皮膚炎・滋賀県・漢方薬 | なかがわ漢方堂薬局

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31号 漢方の風 ー不眠、不安感、頭のふらつき

2012-07-05

 平成24年6月17日のY新聞にベンゾジアゼピン系薬剤である抗不安薬・睡眠薬により薬物依存に陥る危険性の事、又ベンゾジアゼピン系薬剤(以下BZ※)の服薬中止や減薬の際に現れた場合の離脱症状を減らす「やめ方」に関する記事が書かれていた。この記事を読み、ごく最近まで「止め方」のマニュアル、指針が無かった事を知った患者さん達は、さぞかし憤慨されておられる事でしょう。その主な離脱症状は更なる不安増大、イライラ、集中力低下、頭痛、吐き気などの精神、身体両面(※)に現れる。驚いたことに、日本での人口1000人当たりの使用量は米国の6倍にのぼると国連の国際麻薬統制委員会が2010年に報告していると書かれている。欧米では薬物依存を防ぐ為に使用を4週間以内に抑えるのが一般的とされている。日本の現実を見ると数年単位で服用しておられる患者さんが多数おられます。又、話は逸れますが、ずっと以前、大津市薬剤師会の講演で医師のT先生がBZ系薬剤の長期服用による認知症発症の危険性を話された事は記憶に新しい(動物実験で)。

 

 Y新聞の記事では、Tさん(40歳)は人前の過度の緊張、発汗の改善を目的として、BZ系薬剤(ソラナックス)を1日の最大量を4年半服み続けたが効果が無く、主治医の指導のもと半分に減薬した所、日光が異常に眩しい、暗闇でチカチカした光が見える、白内障、入眠時ミオクローヌス等の離脱症状が現れ、ベンゾジアゼピン離脱症候群と診断されたと書かれている。最近、BZ系薬剤の止め方の手順が英国のヘザーアシュトン教授によって「アシュトンマニュアル」としてインターネット上で読むことが出来る様になった。日本語のこの指針は、“正しい治療と薬の情報誌”に、この7月に記載される予定(平成24年6月に原稿を書いています)との事である。又、BZ以外で同様の影響を及ぼす薬剤もあると書かれている(デパス、マイスリー、アモバン)。  私の記憶ではBZ剤は今から44年前、私が薬剤師になった頃には既に上市されていたと記憶しております。この指針は遅きに失した感が否めません。このBZ系薬剤を処方された患者さんに接遇した時、「こんなに長く服んでも、大丈夫ですか?」と質問を受けた薬剤師は恐らく全員ではないでしょうか…。  当薬局にも、この不安感、フラツキを訴える患者さんが頓に増えていますが、漢方処方を決めるに困窮することが多い。五臓を見亘し、乃ち心、肝、脾を弁証し更に腎、肺と考えていきます。虚陽が昇り神(心)を冒すと桂枝加竜骨牡蠣湯で重鎮安神する。実証には柴胡加竜骨牡蠣湯を考える。心と脾を考えた時は帰脾湯を、脾と痰濁上擾を考えた時は(竹茹)温胆湯を、脾と腎を考えた時は苓桂甘棗湯を、…他、と言った具合です。

 

 最近、K社からこの苓桂甘棗湯のエキス剤が上市された。苓桂甘棗湯は「汗を発して後、其の人臍下悸する者は奔豚(ほんとん)をなさんと欲す」と傷寒論に記載されている。奔豚病は猪が突進するかのように下腹部から動悸が始まりやがて胸から咽まで衝き上がってきて、今にも心臓が止まりそうと悶え苦しむ。嘔吐、ヒステリー、神経症、下腹部痛、胃液分泌過多、尿利減少、便秘、癲癇様症状等を同時に惹き起こす事が多い。当然、耳鳴りやフラツキを同時に惹き起こし、不安感を併発する事もあるでしょう。  これは腎の孤陽が上衝した結果発症するものと考える事が出来る。乃ち脾の働きを高めて(大棗、甘草)、陰精を作り、又、茯苓で心気を高めてその陰精を運び、上衝の邪を鎮め、桂皮で上衝の気を降ろし抗不安作用を発揮します。

 

 私が平成元年に漢方薬局を始めて、間もなく、この奔豚病で苦しんでいる40歳代の男の患者さんが来店されました。腹部の動悸と不安感で困窮されておられるとの事であった。赤ら顔で、腹部の動悸を強調されておられました。Doctor Shoppingを繰り返し、その苦しみを訴えても、なかなか理解してもらえないもどかしさが病態を更に悪くしている様に思えた。当時、エキス剤が無く煎じ薬で対応しました。この腹部の動悸を抑える為にβブロッカーを投薬され、Depression様症状に陥った患者さんを数人見てきました。心の気を抑える事になり、精神作用に悪影響を及ぼした為であろうと私なりに考えております。その際、服用を中止したものの、元の精神閾値に戻る可逆性は実に時間がかかる様に思っています。これらを見て、漢方医学で言う所の「心は神なり」を実感します。  他の処方では、心陰の不足と脾虚による不安感には、甘草と大棗と浮小麦で脾気を高めて生津し、心陰を補って不安感や悲哀感(漢方医学では臓躁と言います)をなくすものも有ります。  K社さんの苓桂甘棗湯が上市され、奔豚の病の患者さんの不安感、フラツキに対処出来る手立てが増えた事は私に安心感を与えてくれます。

※ BZ系薬剤…ソラナックス、コンスタン、レキソタン、マイスタン、リボトリール、ランドセン、セルシン、ワイパックス、ドラール、ベンザリン、ハルシオン、ユーロジン

※ 他の身体症状…筋硬直、疲労感、眼痛、耳鳴り、嗅覚異常、月経異常 、等

※ 他の精神症状…不眠、幻覚、パニック発作、抑鬱、強迫観念、等

(大津市薬会報 2012年7月号掲載)

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