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漢方の風音 5号 認知症と漢方薬(めまい、耳鳴り、不眠、高血圧)
バリトン 中川 義雄
以前の漢方の風音の凌霄花(ノウゼンカズラ)の所で書きましたカギカズラ(釣藤)には,枝から鈎が伸び出て、他の植物などに絡みつこうとする性質が有ります。
枝部には有効成分が少なく、鈎部にリンコフィリン(アルカロイド)なる有効成分が多く含有されております。その鈎が伸びきらない内に採取して薬用に使用します。
最近の分析では葉部に、より多くのリンコフィリンが含有している事が解って来ましたが漢方薬では鈎部を使用します。従って生薬名は釣藤鈎(ちょうとうこう)と言います。
リンコフィリンは血管を拡張して血流を高める作用が2重盲検法で確かめられております。又、精神を安定させる作用もあり、最近では脳血管性認知症に釣藤散を使用されておられる薬剤師、医師が多く見受けられます。
釣藤鈎の働きを漢方医学では“鎮肝熄風(そくふう:風をしずめるの意)”作用と言っており、高血圧、頭痛、子供の夜啼き、耳鳴り、眩暈、不眠等を目標に使用します。気が上衝するのを引き下げる働きがある訳で、謂わば、気の“頭でっかちを”正常に戻す働きと考えると解りやすいと思います。
漢方医学では気・血・水を多角的に弁証します。気と血の上衝を同時に治そうとすれば通導散も認知症に使用します。
気と水を同時に治そうとすれば加味温胆湯になるわけです。
ストレス等で気の滞りが有って血流が悪くなっていて認知症を発症していると弁証出来たら?帰調血飲第一加減を使用します。(他にも有りますがここでは割愛します)。 総じて、体や脳に悪い影響を及ぼす事無く脳血流を良くする治療を漢方薬はやってのける訳で、現代医学では難しい所です。 最終的には肝、心、脾、腎、肺の五臓の弁証をしっかり行い処方の決定をするわけです。
端を更ますが、呼吸は肺のストローク作用に因るわけですが、漢方医学では呼と吸に分けて考えます。
呼は肺の気が司っており吸は腎の気が司っていると考えます。
腎と言えば老化と密接に係っており、深呼吸や調息法、丹田呼吸法、太極拳、ヨガ等が老化を防ぐ目的で、日本でも最近よく行われております。
我々合唱団では4小節をノンブレスで歌いなさいと良く指揮者の先生より注意を受けますが自分の腎を養う為にも歌の表現の為にもしっかり腹式呼吸を体得すると一石二鳥であろう。
然し乍ら、声帯その物の強弱が個人個人で違います。それによって声帯の振動の効率も違ってきます。
胸隔が狭く、その上、少しの肺気で効率よく声帯を振動させる事が不得手な私は“4小節をノンブレス”で歌う事が結構難しく、団を辞めようかと真剣に考えた時期がありましたが今は開き直っております。
2小節で感情を切らない様に歌う事を意識して居ります(笠谷先生曰く5~6人いるらしい)。
BS日本 こころの歌 で気をつけて見ていると、フォレスタでさえ2小節でブレスをしていることが結構見受けられますが(我が団と同じ曲目で…)ブレスの仕方が上手く、詩情は繋がっています。紙面を借りてExcuseしておきます。
肺と腎の気が虚して来ている年齢の集団の合唱団であれば、それなりの(レベルがそれなりでは無く)特質を考慮して、より高度なハーモニーを目指す事が肝要ではないかと自分なりに考えております。
お仲間のお一人がメールのやり取りの中で認知症の漢方薬を教えて欲しい旨の言葉が有りましたのでこのタイトルで書いて見ました。
大津男声合唱団 Booklet「ハーモニー」寄稿文より
19号 漢方の風 ー精神的ストレスによる胃腸疾患・不眠
最近のニュースで、来年(2009年)から、マグロの漁獲高の制限の国際協定が実施されようとしていると伝えていた。一ころの凡そ30%の水揚げだそうである。マイワシに至っては最盛期の10%しか獲れていないとも伝えていた。スケトウタラも激減しているらしい。マグロの世界一の消費国は勿論、日本である。手軽に食べられる回転寿司の消費が拍車をかけているそうである。加えて中国、EU諸国の消費量も激増しているから、乱獲になるのは、いわば当然の成り行きである。日本のバイヤーは、マグロの買い付けに、頭を痛めているのだそうである。マグロ一つにしても、世界(経済)全体で一体化しており、地球規模で水産資源の将来を協議するのは、有って然るべきであろう。…となると、アメリカの劣後債権・プライムローンの不良債権化から始まった今日の経済危機は、“実体”の無い経済問題だけに、マグロの問題以上の難しさを秘めている。 ある経済学者は、実体の無い、言わば虚構に価値を見い出し、それを売り買いする所から脱却して、実体に有った、言い換えると“物質”や“技術”等に価値を見い出して行く経済社会にしなければならないと言っていた。
人体に当てはめて、漢方的に言い換えると、実体である物質(陰的物質)、乃ち五臓や精(血 液等)を大切にしましょうと言う事になるのであろうか。現代人の健康を、陰陽の物差し で、全体視した時、確固とした物質(漢方では陰精と言います、)の担保が少なくなっている様に思える。つまり、東洋医学的アプローチで、何を、どの様に、どれ位、食するかが大切であると考えています。見た目の体格の良さよりも、例え、スマートでも確固とした陰精と健全な精神を宿した身体作りをしなければなりません。つまり、魂を大切にしなければならない。現代社会において、 “精微な物質的根拠が少ない”が故に“気が先走る”落ち着きの無い子供が増えている(モンスターペアレント等、大人にも多い)のも、当然と言えば当然である。
我が医療業界を見たとき,EBM(根拠に基ずいた医療・医薬品)に根ざした医療が大切であると言われています。ややもすると、医薬品のみに根拠を求める風潮がある様に感じております。私自信、嘔吐と下痢で、夜中に救急で病院に駆け込んだら、専門外の眼科医が当直だった経験をしていますが、身分を明かして、当方の希望に沿った処方をして頂き、ホッとした事も有ります。特に漢方薬の投薬において、EBMのM(Medicine)は医薬品(漢方医薬品)だけの問題でなく、医療者のEBMについても、少し、根拠が足りないのではと、感じる時が多々見受けられます。漢方薬を長く調剤していると、処方箋を書く側と調剤をする側、双方に“根拠に基いていない”ケースが見受けられる事は、残念な事です。良く処方される加味逍遙散、葛根湯、補中益気湯、当帰芍薬散…等の構成生薬と役割分担は少なくとも知っておかなければならないのは言うまでも無いことですが…。果して如何でしょうか?漢方医学の基礎知識を根拠とすることによって,多少なりとも、医療費の削減も期待出来るのですが…。反面、薬草は天然資源(一部、栽培品もあります)だけに、マグロと同様、資源の枯渇を招いては、未来の子孫に申し訳が立たなくなってしまう、いわば諸刃の剣的要素も包含している。漢方薬を処方する時、“地に根ざした原生薬“を思い浮かべ乍ら処方しなさいと故青木先生に教えられました。薬草の無駄づかいを戒め、薬草に感謝の気持ちを持ちなさいとも教えられました。一つ一つの薬草を計量しながら煎じ薬を調合していると、薬草に感謝の気持ちが自然に湧いて来ます。”勿体無い“根拠の無い使い方は、厳に慎みたいものです。
話は変わりますが、最近、私が良く使う処方に、(加味)帰脾湯があります。不眠で困って おられる人に使うのですが、胃腸が弱く、軟便?下痢若しくは便秘で、疲れ易く、めまい、 健忘(物忘れ)、不眠、熟睡感が無く、多夢を目標に使います。この処方は四君子湯の変方 で、それに養心安神作用の薬草が加味された処方構成になっています。従って、独特の望 診※が有り出血傾向が高いのは、言うまでも有りません。中枢神経の抑制性伝達物質であ るGABAを介して視床下部や大脳辺縁系を抑制するいわゆる睡眠薬とは、睡眠の“質” が違い、寝覚めの気だるさやフラツキはなく熟睡出来る様になったと患者さんは仰います。 その他に、不眠に良く使う処方は桂枝加竜骨牡蠣湯、柴胡加竜骨牡蠣湯、抑肝散、加味逍 遥散、黄連解毒湯、清心蓮子飲、瀉心湯、黄連湯、温胆湯、柴胡桂枝乾姜湯、猪苓湯、半 夏厚朴湯、等が有ります。
無分別な木の伐採でアマゾンが大変な状況に有ります。そこで、移民入植した日本人が、 「アグロフォレストリー」なる「森の農業」を始めているとBS放送で放映していました。 収益を上げながら、森を再生しておられる日本人の知恵に、感服しました。薬草において も、子孫が漢方薬の恩恵を未来永劫に受けられる様に、生薬が枯渇しない方策を漢方薬メ ーカー始め関係者が知恵を絞って確かなものにしなければならない。然しながら、その前 に大切な事は、生薬の無駄使いをしないことであろう。
※望診…四診(望、聞、問、切)の一つで、患者さんを見た時の印象(表情、顔色、艶、 髪、鼻の形等)で判断する診断法。
(大津市薬会報 2009年 1月号掲載)