アトピー性皮膚炎・滋賀県・漢方薬 | なかがわ漢方堂薬局

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Archive for the ‘動的平衡的漢方治療’ Category

漢方の風 41号 他力本願と自力本願

2018-01-19

1、肺の働きと排便の関係  2、遠志茶と物忘れ

なかがわ漢方堂薬局 中川 義雄(昭)

日本の宗教では自力本願と他力本願があります。私の家は法然上人が布められた浄土宗ですので、他力本願になります。従って、只管(ひたすら)、南無阿弥陀仏を唱えると良いと菩提寺の住職から教わり、毎日仏壇に手を合わせて南無阿弥陀仏を唱えています。他力本願とは言うものの毎日、経を唱えるのは己であるわけで、決して人様が自分の代わりに南無阿弥陀仏を唱えてくれる訳ではないのでこれ自体は狭義の意味で自力本願と言っても良いのかもしれない。自力で只管、経を唱え、その先の魂の世界は阿弥陀様におすがりしようと思っています。“人事を尽くして天命を待つ”又“継続は力なり”とも申しますのでこれからも毎日続けようと思っています。


一方、昨今の日本の風潮は専ら他力本願に頼っている様に思える。これさえ飲んでいれば食事制限をしなくてもダイエット出来る…もそうです。又、平成の始め頃、麻黄を買いたいのだが、価格はいくらですかと電話が有りました。問うてみるとダイエットに良いと週刊誌に書いてあったとの事。呆れましたが丁重にお断りしました。

更に最近気になっているのが認知症を防ぐ事が出来ると喧伝(けんでん)され“遠志茶(おんじ茶)”がブームになっている事です。中医学では「心は神なり」つまり心が精神を主っているとされ、遠志はその心に血(陰)を補う作用、つまり養心安神して心の抑制過程の低下(心血虚)を改善して物忘れを防ぐとします。心労が継続すると心の気血を消耗してしまい、その結果、健忘が発症する。心労が元々の原因と考えた時、その発症の原因(心労)を先ず解消する事が肝要であり、それが根治に繋がるのである。

荒木正胤先生は「漢方鍼灸の治療」を著すに当たって先ず“養生編”で東洋の栄養学である正しい食生活と不老長生術、正しい性生活の意義について説いておられる。治療に際しては先ず患家が正しい食生活なり、つまり養生を実践して後、或は並行して漢方治療を施すべしと説いておられます。養生は自力のなすところであり漢方治療は他力の為すところと言う事が出来る。

遠志茶だけを飲んだだけでは効果は期待薄。漢方医学では陰陽互根と言って、陰が陽を生じ、陽が陰を生じるとしており“陰”である遠志だけを摂れば良いのではなく陽である“気”を同時に高める必要が有ります。心の気血両方が充実して初めて健忘が解消されるのである。


端を更め、“気”について書いて見たいと思います。漢方医学では陰陽虚実の弁証と気血水の弁証を行って初めて処方を決定します。中でも“気”は形なくして働き有るものと、いつかの漢方塾で書きましたが、最も分かり難いと思います。中医学では肺は気を主(つかさど)り粛降(しゅっこう)と宣発(せんぱつ)を主ると規定しています。粛降とは下へ内へと働きかける事を言い、例えば尿と便も肺の気の粛降作用が働いて初めて下へ排出出来るのである。


最近、私の知り合いで年齢も私に近い方ですが、便秘で困っていると相談を受けました。近医に受診して下剤を処方されたが効果が全く無く、そこで当薬局で相談になった次第である。順気作用(小承気湯を処方内に含んでいて順気作用、つまり蠕動運動を高める)のある麻子仁丸をお薦めしたのですが効果が無く、そこで受診勧奨をして病院の消化器内科を係院した。そこでも満足に排便が出来なくて、そこで初めて精密検査(CT)をした所、肺に癌が転移している事が解った。そこで再度、当薬局に相談に来られた。肺の粛降作用が阻害された結果、排便がうまく出来ないと弁証して、生脈散と麻子仁丸を併服して頂き何とか排便出来る様になった。

生脈散は人参、※五味子、麦門冬で構成されていて、肺の気と陰を補う事が出来、粛降作用を高めて排便をし易くしているのである。勿論、呼吸が楽になったのは言うまでもない。

因みに宣発とは外へ上へと働きかける事である。


 ※五味子:専収斂肺気、而滋腎水
      …専ら肺気を収斂して、そして腎水を滋す
  麦門冬:徐煩瀉熱、消痰止嗽、生津行水
      …煩を除き熱を瀉し痰を消し嗽を止め、津を生じ水を行らす

漢方の風 40号 ロコモティブ

2017-06-14

ロコモティブ(腰痛、関節痛、ひざ痛、認知症)

なかがわ漢方堂薬局 中川 義雄(昭)

私の生家は創業160年の茶商で江戸時代に大名行列が行き来していた東海道(現在の京町通)に有ります。京町家(キョウマチヤ)と同じで、俗にウナギの寝床と言いますが「店舗兼用の母屋」と「離れ」の間には「庭先」と「蔵」が有って、更に「離れ」の奥(奥の事を「裏」と大津では言います)にはお茶の倉庫があり、表の店舗と裏の倉庫を、つまり「表」と「裏」をレールで繋いであって、その上を「トロッコ」が走っていた。

図式では、(表)店舗兼母屋-庭先-蔵-離れ-小倉庫-大倉庫(裏
     (表)店舗兼母屋……トロッコ(お茶を運ぶ)……大倉庫(裏)

表から裏迄約70メートル近く有りますので商品を倉庫から店舗に運ぶ為にトロッコが必要だったのである。第二次世界大戦までは男衆が7名と女衆4名とお手伝いさんが2名働いていたと聞いている。男衆は全員戦争に行ったので戦後生まれの私は知り得ません。江戸時代、その店舗の前を町人や武士が行き来していたのである。

ある時、薩摩藩の大名行列が京町通にやって来た。梅林(県庁の南側一帯をウメバヤシと言います)に住居するY青年(16歳)が行列の前を誤って横切り”手打ち”(切り捨てご免)になるところを当店舗に逃げ込んで来た。当時の店主の中川ミノが裏の大倉庫の茶箱の中にY青年を潜ませ、押し問答の末一命を救ったと当家では代々伝えられている。恐らく大倉庫の裏の塀を乗り越えて逃げて行ったとでも言ったのであろう。

江戸時代にその気丈なミノの長男として生まれた祖父は東洋の施術を心得ていて、本業の茶商の他に柔道整復師らしき整体や時には煎じ薬を使って困っている人に施術していたと聞いている。私は7人兄弟の末っ子で、私が生まれた時には祖父は他界しており私は知りません。桂皮、大棗等の薬草が家に有ったと兄から聞いていますので、恐らく桂枝湯加減や桂枝加芍薬湯加減を使って風邪、神経痛、関節痛、リウマチ等を治していたであろう事が察せられる。今の時代、この二つの処方の展開でこれらの症状は治しきれないと思います。取り分け腰痛や関節痛を治す事が得意だったと聞いているが現代漢方医術では前出の処方の他に独活寄生丸、疎経活血湯、?苡仁湯、通導散、防風通聖散、?帰調血飲第一加減、八味丸、地竜、附子湯加減…他が必要であろう。

最近ひざ痛のCMでよく耳にするイミダゾールペプチド(カルノシン)配合のロコモティブ製品は理に適った考えである。カルノシン(βアラニンとヒスチジンが結合したジペプチド)やアンセリンを摂取すると速やかに夫々のアミノ酸に分解され、骨格筋や脳へ運ばれて行き、速やかにイミダゾールペプチド合成酵素の働きでカルノシンに再合成される。このイミダゾールペプチド(カルノシン)は鳥の羽の胸筋部や回遊魚であるマグロの尾びれに近い部分に多く存在しており、筋肉の疲労物質である乳酸の分解を促し、又、強力な抗酸化作用を発揮して細胞内の活性酸素をスカベンジ(消去)して細胞の疲労を速やかに解消するのである。斯くして渡り鳥が1万kmをノンストップで飛ぶメカニズムが解明されたのである。

関節痛に対してグルコサミン、Nアセチルグルコサミンで軟骨の生成を促す(グルコサミン類は保水性のある軟骨の一種であるプロテオグリカンを生合成する為に必要な一成分)だけではなく関節の支持組織である骨格筋の維持にイミダゾールペプチドを同時に摂取する有効性、つまりロコモティブの考え方は重要である。

最近そのイミダゾールペプチド(カルノシン)が認知症の予防に係っているとする研究発表がなされている。筋肉の疲労を解消するカルノシンは生後、使い過ぎた脳の疲労をも解消し、認知症の予防になるのではないかと推論し、実験の結果それが立証されたのである。余談になりますが少し認知症と老人班とアルミニウムについて触れます。大脳皮質や海馬に沈着する老人班(アミロイド班)はアルツハイマー型認知症の原因と言われて久しいが最近の研究では老人班は結果であってアミロイド班が表れる前にβタンパクが神経細胞に沈着する。このβタンパクはアルミニウムによって凝集し、アミロイドβを作り出す。その結果、老人班が形成される(βタンパクを凝集させるアルミニウムはアジア大陸で発生した酸性物質が日本の上空で雨に溶けて降り、土壌を酸性化し、その結果土壌中のアルミニウムがイオン化して野菜に取り込まれ我々の口に入るのである。)

イミダゾールペプチドがロコモティブシンドロームのみならず、認知症に光明を持たらせてくれる可能性は高い。

前出のひざ痛や腰痛、下肢痛に使用する独活寄生丸(千金方)は八珍湯(去白朮)が処方内に含まれており、気と血の虚を補う一方、同じく処方内に含まれている桑寄生、杜仲、牛膝が筋肉と骨を丈夫にする(補肝腎、壮筋骨)作用を併せ持っている。独活寄生丸は当薬局の頻用処方の一つであり気血が虚している人にはとても効果を発揮する。

その独活寄生丸の処方内容を良く吟味してみると、1350年前(AD650年頃)に孫思?(ソンシバク)が千金方(センキンホウ)の中でロコモティブを実践していたと言う事が出来る。漢方医学は将来に亘って人類を救う一手段であると確信しています。生薬資源が枯渇状況に有る現在、エビデンスに則った漢方薬の使い方、乃ち弁証論治を肝に銘じなければならない。

漢方の風 39号 アナフィラキシー

2017-01-21

漢方ガン治療の考え。

なかがわ漢方堂薬局 中川 義雄(昭)

大学の薬理学の授業で犬を使ったアナフイラキシーの実験が有りました。予め、ある蛋白質をアレルゲンとして注射しておいた犬に授業の始めに同じ物質を注射した所、犬は私達学生の前でたちどころにアナフィラキシーを発症して死に至った。

私の三番目の兄は52年前の大学3回生の6月に心臓弁膜症の手術を受け約2週間後に死亡したのですがその兄が術前自宅療養している時にペニシリン系の抗生物質の注射を受けた所、酷い薬疹が出た。主治医が急いで抗アレルギー剤かステロイド剤か定かでは有りませんが(私は高校3年生で分からなかった)何かを注射して事なきを得た。

又、平成4年頃当薬局の上階のマンションに住まいしていた医大の学生さんにOTCの総合感冒薬を販売した所(勿論薬剤アレルギーの確認をした事は言うまでも有りません)、服用後、峻烈な呼吸困難を伴うアレルギー反応を起こしたのですが急遽医大病院で点滴を受けて回復した。その学生さんの父親は医師で、その原因物質を特定する様に当薬局を通じてメーカーに求められたが、そのドクターも日頃良く使用する成分ばかりで、結局、明確に原因物質を特定できなかった。メーカーの学術の説明では成分中の抗ヒスタミン薬が原因物質であろうとの説明であったが父親である医師も私も納得出来るものでは無かった。

更に30年程以前に私が販売した咳止め薬のコ○○○○を服用した女性が酷いアレルギー反応を起こして救急車で緊急係院した事も経験している。その時はコーヒーを水変わりで服用した事が原因でしょうと係院先のドクターが指摘して終わったのですが結局は原因物質を特定する事も無く終わった。

数年前、先進国の殆どの若い女性が子宮頸がんワクチンを接種した。その結果EUのある国の女性達が子宮頸がんワクチンの後遺症であろうとの認識のもと、国と製薬会社と闘っているドキュメンタリー番組を見たことがある。最近、漸く日本でもその動きが有った所ですが彼女たちの苦しみを見るにつけ何とも言えない気持ちになります。早く健康を回復される事と迅速な因果関係の解明を願うばかりです。医薬品を扱う私達は覚悟して薬を扱わなければならないし、患者さんが薬の害作用を被らない様に最善の努力を尽くさなければならない。


漢方薬の世界では小青竜湯や麻黄湯を服用して脱汗を発症し死線を彷徨った方が少なからずおられます。これは上記のアナフィラキシーとは分けて考えなければならない。それは小青竜湯や麻黄湯が悪いのではなく飲み方、飲ませ方が悪かったのが原因であり(全てがそうとは言えませんが)、上記の薬品アレルギーとは別の問題と考えるべきです。脈診、問診をしっかり行い更に病機(病気ではなく)を見て使用しなければならない。夫々の漢方薬の使い方を傷寒論(漢方医学のバイブル書)では厳しく規定しているのである。


端を更めますが(平成28年)11月に中医協(中央社会保険医療協議会)がオプジーボの薬価について協議した。その結果、保険の適応症の拡大と引き換えに来年2月から薬価が50%引き下げられる事になった。その際小野薬品工業は25%の引き下げと目論んでいたと言われていますが当事者の小野薬品工業は当然として他の製薬企業も不安感に襲われたとネットに書かれていた。長い期間を要して多大の研究費をつぎ込んで開発した新薬が思うように薬価に反映されなければ製薬企業が不安を抱くのも無理はない。一方支払い側である保険者、国は大変な負担増になり保険医療制度が危うくなる。今後、この規模の新薬が開発されれば同じことが繰り返されるであろう事は察しが付く。難題である。

そのオプジーボの作用機序を勉強してみると人間の持っている免疫システムには驚くばかりです。唯、私が思うに一貫堂漢方医学の弁証論治から俯瞰して見るととても似通っている様に思えてならない。

一貫堂漢方医学では体内のガン細胞は保身の為に又遠隔に転移したいが為にある種の生理活性物質(仮にガン毒と言います)を放出しているであろうと仮定している。従ってそのガン毒である生理活性物質を漢方薬で体外に排出(解毒と言います)し乍ら、一方では免疫力を上げる漢方薬を投薬すると言う論治法である。

最近、医療界では薬物療法や放射線療法を実施したあとの血液データの改善に補作用(ほさよう)である漢方薬が頻繁に使われています。ガン毒である生理活性物質を解毒せずして補う漢方薬を与えればガン細胞そのものを補ってしまうから、一貫堂漢方医学ではこの投薬をとても危惧している。

漢方の風音 8号 阿膠(アキョウ)

2016-12-08

甲状腺機能亢進症。結代脈。膀胱炎。

バリトン 中川 義雄

随分長い期間、気になっていたアメリカの大統領選挙が終わった。ヒラリーに投票した人達の落胆さはイギリスのEU脱退に反対した人達以上のものが有る様に思える。

ラスベガスのトランプタワーで働く下流層の従業員(ヒスパニック系の女性従業員が70%を占めている)の時間給の低さは言うに及ばず、労働組合(ユニオン)の設置を妨害したりで、女性従業員は全てにおいて虐げられている。

その彼女達はトランプの会社の従業員にも拘らずヒラリーに投票したと公言して憚らない。

全米のヒラリー支持者は明日の希望が持てないと虚脱感に苛まれた。一部の支持者は“トランプは我々の大統領ではない”とデモを繰り広げた。


トランプが大統領に就任した暁には日本においてとても気になるのが防衛費の問題であろう。

アメリカの軍事費がGDPの3.3%に対して日本の軍事費が0.99%だからその差の2.31%を埋め合わせる負担を日本、ひいては韓国、NATO等に求めると選挙演説で語った。

最近のニュースで、ウクライナへのロシア軍の侵攻を目の当たりにしたポーランドの若者達はロシアの侵攻に備えて自主的に軍事訓練を行っていると伝えている。

今の緊迫した世界の渦中にあって日本は如何なる道を執るのであろうか。

或るジャーナリストがアメリカ軍は今現在何も日本を守っていないのが現状でトランプが日本から米軍を撤退すると言えばどうぞ撤退して下さいと応じれば良いと記事に書いていた。(今の日本にはその様な度胸を持っている政治家はいないとも書いていた)。

米軍に使っている年間5000億円~7000億円の費用が浮いてくるし、就中、沖縄県民の念願が叶うと言うものである。

因みに中国の軍事費は1.6%と言われている。


その中国で最近気になっているインデペンド紙の記事を米CNNで放送していた。

記事の内容はロバの輸入の事(爆買)で中国がやり玉に挙げられていると言うものである。

爆買先はアフリカ諸国である。ロバの皮を除毛した後に皮を煮詰めて作ったのが阿膠(アキョウ)であり、漢方医学ではとても重要な生薬である。

つまりロバの爆買はロバから作られる生薬の阿膠が目的なのである。阿膠の効能は生血、止血、潤肺(咳止め)、滋養等で使用される。又、ある種の不妊治療(これが一番重要である)には無くてはならない生薬でもある。

膀胱炎、尿道炎で血尿が出ている時は阿膠が含まれている猪苓湯で止血出来る訳である。中国山東省東阿県の阿膠が最も品質が良く当薬局でも創業以来ずっと山東阿膠を仕入れている(十数年前山東阿膠が品薄で仕入れられない時期がありましたが…)。

中国山東省の農家では畑の耕作や運搬にロバを使っていたのだが農機具、トラクターの普及と共にロバを飼育する農家が激減した為に阿膠が不足しているのである。

20年前と比較すると1100万頭いたロバが年に30万頭ずつ激減して現在では600万頭になっている。

業界では牛、馬、豚で作った偽物の阿膠が出回っている次第である。そこで中国人が目を着けたのがアフリカである。


因みに阿膠を使用している処方は前出の“猪苓湯”始め“温経湯”“黄連阿膠湯※”“婦人宝”“?帰膠艾湯”“炙甘草湯”等がある。

どれも重要な処方である。例えば甲状腺機能亢進や脈の結代や極度の疲労には炙甘草湯が月経不順等の婦人科系疾患には温経湯が無くてはならない。


そのアフリカの農業の市場規模は現在29兆円であるが20年先では92兆円が見込まれており世界の穀倉地帯に成長する事は必至である。

2025年までに中国のアフリカ投資は100兆円になるとの事。食料自給不足の日本にとっては他人事ではない。

幸いに南鳥島近海の海底に多量の希土類(レアアース)が見つかって居り、それを基に、又、独自の技術力で日本は何とか生き延びられそうである。

話しがそれましたが西アフリカのブルキナワアソでの第1四半期のロバの輸出量は18000頭で、1年で72000頭になろうとしていて、急遽ブルキナワアソの政府は輸出を禁止した。同様にニジェールも輸出を禁止した。

ニジェールでは数年前は1頭3500円だったのが今や15000円になっている。そこに目を付けた経済力のあるケニア、南アフリカはロバの飼育を開始して積極的に取引を始めている。

アフリカにも南北問題が有り、富める国は益々富むのである。アフリカ南部のボツアナではロバの密輸組織がブラックマーケットでロバを売り捌いている所を捉えられた。


記事では爆買している中国人を批判しているがその阿膠を大量に消費しているのが日本である。漢方薬は生薬である。

陰陽虚実に則った理法方薬の弁証の基に漢方薬を使用し、ロバの命を無駄にしない様に販売、投薬していきたいものである。


※黄連阿膠湯…傷寒論(しょうかん論)の少陰病(しょういん病)篇に記載されている。目標は内熱が有って体液が枯燥し、熱が心胸に差し迫り胸苦しくて眠れない。傷寒論では臥する事を得ずと記載されている。


私自身の治験では難病疾患で死期迫った年長の女性がベッドの上で煩躁甚だしく苦しくて何日も寝ていない。

看病している家族もその苦悶している姿を見るにつけいたたまれなく疲労困憊している…と相談を受けた。

問診をしたところ患者は氷を口に入れる事を盛んに乞う事が解り、黄連阿膠湯証と弁証した。

家族は早速煎じて主治医の同意を得て与えた所、暫くしてスヤスヤと気持ちよさそうに眠りについた、と大変喜ばれた。

38号 漢方の風 - 悪心(吐き気・胃部の気持ちの悪さ)

2016-08-04

大学に入学すると様々なコンパが待ち構えています。

クラス別のコンパから始まり、滋賀県人会、クラブに属するとクラブコンパ、寮のコンパ、早速仲良くなった数人の仲間コンパ等である。

私の父、兄(長兄)がお酒を嗜み、ご多分に漏れず私も好きで、大津祭り時や正月に良く飲んだものです。大学入学後のコンパでは、後先考えずに飲んだものです。

度が過ぎると決まって悪心が起こり、嘔吐することが度々であった。

社会人に為って、今日は飲み過ぎない様にしょうと心に誓って飲み会に出たものですが、飲み会が始まったら我を忘れて後先を考えずに飲酒してしまう、全く学習経験の出来ない私なのである。

卒後F社に入社した関係でプ○ン○ラ○の制吐作用を知るようになったにも関わらず、飲む前にプ○ン○ラ○を服むようになったのはF社を退社してから数年後の事である。

当時はプ○ン○ラ○の成分である塩酸メトクロプラミドを配合したOTC薬で『アペール』なる商品名の胃腸薬が上市されていて、それを服用するようになってからは悪心、嘔吐をしなくなった。(余程、度が過ぎると効かない事も経験した)

その後、漢方医学を学習してからは自分の体質を『半夏瀉心湯』証と弁証するようになり、お酒を飲む前には半夏瀉心湯と黄連解毒湯と茯苓末を併用する様にしている。

二日酔いを防いでくれて尿利が良くついて(利尿作用が有って)浮腫みを防いでくれます。

躁鬱病を思わせる30歳の女性は、下痢、悪心、不安感、頭痛、イライラ、臍部の動悸、舌炎等で悩んでおられました。

『甘草瀉心湯』と『抑肝散』を兼用して頂きました。排便が良くなり、気持ちの悪さも楽になり、頭痛も取れて良くなられました。

私の服用する半夏瀉心湯とこの甘草瀉心湯は心下部の痞えが最も大切な証である。又、これらの姉妹処方に黄連湯が有ります。

30歳代の第2子を妊娠された女性は悪心、乃ち悪阻(つわり)で何も食べられない状態で来店されました。

漢方医学書である新撰類聚方に太陽中風(たいようちゅうふう)、陽浮而陰弱(ようふにしていんじゃく)、陽浮者熱自発(ようふのものおのずからはっし)、陰弱者汗自出(いんじゃくのものあせおのずからいで)、嗇嗇悪寒(しょくしょくとしておかんし)、淅淅悪風(せきせきとしておふうし)、翕翕発熱(きゅうきゅうとしてほつねつし)、鼻鳴乾嘔者(びめいかんおうのもの)、本方主之(ほんぽうこれをつかさどる)…と桂枝湯篇に書かれています。

乃ち気の上衝が有って頭痛などがおこり、それに連れて胃気の上衝も起こり悪心、吐き気が起こる。と書かれております。そこでこの女性には『桂枝湯』と『半夏厚朴湯』を出産迄兼用して頂いた所、少しずつ食べられる様になり無事出産されました。

又、悪阻で何も食べられない人で胃が冷えて手足が冷たく心下部が硬く痞える場合は『乾姜人参半夏丸』が良いとあり、当薬局の薬篭に丸剤の乾姜人参半夏丸を備えているのですが、一度食道癌の術後の患者さんの酷い悪心に使った事があるだけで悪阻の方には使ったことが有りません。

私の次兄は数カ月前の昨年末に胃癌と診断されて胃の全摘術を受けた。

手術は無事終わり退院してからは悪心(ムカムカ)に悩まされ続けていた。

数日前に相談を受けた所、大建中湯、フォイパン、マーズレン、消化剤、下剤、それに前立腺癌薬カソデックスを服用していた。

漢方薬で何とかしてほしいと相談を受け、色々話を聞くと氷や冷たいものを摂取すると悪心が楽になるとの事であったので先ず大建中湯(熱を強く与える作用が有り、逆効果で有る)を止める様指導し、『半夏厚朴湯』と『六君子湯』を併用し『補中益気湯』を兼用するように投薬した所、一日服用しただけでとても楽になったと喜んでくれ、以来続けて服用している。

悪心は小柴胡湯始め上記の処方中に半夏(からすびしゃく)が入っています。

制吐作用が強い薬草である。大学の薬用植物学の授業で農閑期に是を採取し、換金して“へそくり”をしたとされ、別名“へそくり”と当時のお百姓さん達は言っていたと学んだ記憶が有ります。

性は温で燥湿作用が強く胃が冷えて湿邪が有り嘔吐する時に使用する事が基本である。

これに生姜と茯苓を加えたものが有名な『小半夏加茯苓湯』である。悪阻に良く処方されるが煎じ水に茯竜肝(竈の焼け土)を浸しておいた上澄み水で煎じた時に効果を強く発揮する。市販のものはそこの所は良く解らない。

刺激が強く、半夏の一片を口に含んだ時は早く吐き出さないと大変な事になります。

従って生姜を同時に煎じる事によって刺激が和らげられると学んだ。

なかがわ漢方堂薬局 中川 義雄

漢方の風音 7号 学生時代の思い出(副題:嗄声、小児疝痛、心臓病、冷え性…について)

2015-10-09

バリトン 中川 義雄

生来、小脳(運動神経)の働きの良さが有ったためか、体育の通知票の評価は高校二年を除いて全て最高の評価を頂きました。

中でも球技(野球は勿論、サッカー、バスケット、バレー、ハンドボール)は特に群を抜いていたと自他ともに認めるところです。

中学時代は野球部に所属し、1番バッターで打撃、選球眼、盗塁と野球センスは良かった。当時は大津市内の町単位の少年野球大会が有り、キャプテンをした中学二年次はキャッチャーで4番を任され、中央学区の大会で優勝して皇子山球場での決勝大会に進んだものです。

高校時代はラグビー部に所属し、足の速さを認められウイング(右)を任されたものの、試合になればトライゲッターより寧ろタックルばかりしていました。

公式試合で相手の選手をタックルで2名骨折させ(夫々別の試合で)、相手チームに目を付けられた。当時、同好会的側面が有った我が高校ラグビー班(部)も全員の努力の甲斐あって滋賀県で優勝し、近畿大会に進出した。進学校乍ら良く頑張ったものである。その時の仲間はその後の人生に大きな自信と影響を持ったと思っています。

私の運動神経の良さは、漢方医学で言う「小建中湯」体質であったからだと思っています。

この小建中湯体質は全員がそうではないが瞬発力が優れている事が間間有ります。

ラグビーで言えばステップを切って(瞬発力)相手選手をかわし突進する事が出来る。反面、この小建中湯体質はスタミナがなく持久力はからっきし駄目な所は特筆すべき所です。従ってこの私の小建中湯体質は放課後の練習後の自宅学習や塾は体力不足で辛いものが有ります。

小学生の内科検診で心臓の精密検査を指摘される事が往々にして有り、多くは成長するにつれて治って行きます。


子供の体質は大きく分けてこの小建中湯体質と小柴胡湯体質(一貫堂漢方医学では柴胡清肝湯体質)に分ける事が出来ます。前者は内向性で心臓、膀胱等のポテンシャルが低く筋肉が冷えやすく、心身共に緊張し易い性向があり、小児疝痛を訴える事が多い。性格は大人しく優しいが時に篤くなります。又、夜尿の傾向が有ります。

漢方医学を実践していると夫々の体質に依って、所謂、未病が分かり、性格までもが或る程度分かります。

例えば、六君子湯加柴胡、芍薬(柴芍六君子湯)体質の人は咽喉が弱く、ある特有の性格を持っている(ここでは省きます)。


大学に入学してからは、音楽好きの私はスポーツを離れて合唱団(混声)に所属した。

コーラス部の二年先輩のSさんが大学のコーラス部と京都男声合唱団とを掛け持ちしていた関係で当時の京都男声合唱団の指揮者であり、創設者でもあった故佐々木日出夫先生(平成13年に他界されたとホームページに記載されている)が我が合唱団の客演指揮をして下さいました。

私の所属していた大学の合唱団の同期の2名も京都男声合唱団に所属していた。

佐々木日出夫先生は大谷大学グリークラブ出身でお寺の住職をされていて、自らのお寺の本堂を練習場とされておりました。私も一度同期のH君に誘われて練習を見学させて頂きました。

先生の合唱に対する情熱は篤く、何より、響きのある美声の持ち主であった。又、優れた“耳”を持っておられ、指揮者として卓越した素養をお持ちでした。

京都と言う、同じ都市名が冠名の合唱団の大津男声合唱団に入団させて頂き、ふと佐々木先生を思い出します。

一回生で佐藤眞作曲“旅“を二回生で”蔵王“を指揮して下さり、猛練習をして合唱の素晴らしさを教えて頂きました。私の合唱に対する思いは先生の影響が大きくかかわって居ります。

ついで乍ら、その頃(3回生、4回生の頃)、地元の大津で8名がバリトンに属しておられます曽根さんを中心に男声合唱団”オクトコーラス“を立ち上げました。入団した経緯は思い出せませんが…。


当時、大学の部室には誰が購入したのか思い出せない龍角散と部費で購入した吸入器が置いてあり、よく使用したものです。龍角散は桔梗、杏仁、セネガ、甘草(何れも国家試験に出る傾向が高い生薬)が主薬で鎮咳去痰作用が有ります。

美声が出る様に期待して龍角散を練習の前や演奏会の前に一匙、口にいれたものですが、美声と鎮咳去痰とは関係性が見当たりませんが、発声が上手く出来る錯覚効果は絶大なものが有りました。

当時は他にも、ボンボックスなる商品名の美声の出る医薬品も有りました。

これは二年先輩のSさんから教わりましたが今、思うと如何なる作用機序だったのだろう。興味が有りますが、廃番となった今では知ることは出来ない。


細野史郎先生の“方証吟味”に声をよく使う人の嗄声の治療法が書いてあります。

外台秘要の四物湯加三味が良く効き、漢方の独壇場であると書かれてあります。又、麦門冬湯合半夏厚朴湯も良いと書いておられます。

因みに私は四小節、ノンブレスを可能にする為に柴胡桂枝湯(時に補中益気湯)と生脈散倍量を併用して演奏会に臨みます。

大津男声合唱団 Monthly booklet Vol 226

37号 漢方の風 - 腸内フローラ(多系統委縮症、鬱、食養)

2015-09-28

 今から十数年前、大津市薬剤師会会報(市薬ニュース)に口内炎と腸管内の細菌と漢方薬の作用について投稿したことが有ります。

それは、腸管内のある種の善玉菌がビタミンB2を作り出して口内炎を防いで居り、その腸管内のある種の善玉菌の増殖に半夏瀉心湯が一役買っていると言った内容である。

 更に最近、記憶に新しい所では、腸管浸漏症(Reaky Gut Syndrome)

と漢方薬の関係を書いた所です。

それは腸管が冷えて柔軟性を失う事によって腸管にひび割れを起こし、そのひび割れ部分から、本来絨毛から吸収されない分子量の大きな(5000ダルトン)物質(主に蛋白質や菌類等)が腸管内に入り込み、その部分にある神経組織と抗原抗体反応を起こし、腸管神経組織と発生学的に同じ脳内の神経組織とも抗原抗体反応を惹き起こし多系統委縮症を惹き起こす。

それを防ぐには蛋白のペプチド結合を分解して分子量の小さい蛋白質にする必要がある。

ペプシンを活性化してペプチド結合を分解する為には胃酸(塩酸)が必要なのだが、様々な胃酸分泌を抑える医薬品を長期に亘って投薬する事のリスクが存在する。(ミネラルやビタミンは分子量の小さい蛋白と結合しなければ体内に吸収する事は出来ない事、又、細菌、真菌類等の有害菌も容易に浸漏して来る事等が言われている)

それに関係するその他の医薬品にはHRT療法のピル、NSAID、ステロイド剤等がある。夫々には勿論ベネフィットが有りますので一概には何とも言えませんが…。

漢方医学的にはその腸管浸漏症は脾虚が絡んでいるので精神的緊張を解きほぐしお腹を温める小建中湯が効果的である。

 最近、NHKで腸内フローラ(細菌藁)に関する放映が有りました。凡そ100種類、100兆個のバクテリアが腸内に住んでおり糞便中の半分近くをバクテリアが占めているらしい。

肥満、鬱症状、癌、慢性疲労症候群等は腸内の悪玉菌が関与していることが実証されている。

出来得る限り善玉菌を沢山保持する事が大切な事は自明の理であろう。

乃ち鬱症状を惹き起こす腸内細菌を無くす事が出来れば鬱症状が改善する。

漢方薬では四逆散やその変方群(柴芍六君子湯、逍遥散、柴胡桂枝湯、柴胡疎肝湯他)、防風通聖散、竜骨牡蛎、帰脾湯、香蘇散、茯苓の配合剤、駆?血剤等を使って対応すれば良いのであるが、夫々が腸管に直接的或は間接的に作用している事を考えれば漢方医学の素晴らしさが理解できるであろう。

西洋医学でも今後は腸管に対してのアプローチが益々重要視されて来るであろう。

 当店のお客様には以前から食養生の大切さをクドクドと話しておりますが、マクロビオテックも然りですが一番解りやすい言葉では、「マゴワヤサシイ」である。

 マ…豆類          (イソフラボン、マグネシウム、蛋白)

 ゴ…胡麻、クルミ、ナッツ、 (不飽和脂肪酸、ビタミンE)

 ワ…わかめ、海藻類     (ヨード、微量ミネラル、カルシゥム)

 ヤ…旬の野菜        (ビタミンC、βカロチン)

 サ…魚、貝類        (オメガ3系脂肪酸、蛋白、亜鉛)

 シ…椎茸、茸類       (繊維、多糖類)

 イ…芋類          (セルロース、炭水化物)

 更に主食が玄米であれば言う事は無い。(玄米には抗癌作用の有る物質が見つかっている)

 1968年、アメリカでは“食”に関して、マクガバンが委員長となり上院特別委員会が発足した。

様々な方面の議論を尽くし1977年漸くマクガバン報告が発表されました。

1960年代のアメリカでは心臓疾患やHIV、癌、貧困層の栄養失調等が問題となっていたのである。

その原因を解明し、解決策を講じるためにこの報告書を発表したのである。

そこで目をつけたのが日本食である。

肉、玉子、乳製品を控えて穀物食を中心にした食事を実践するとそれらの疾患が予防出来ると言うものである。

オーガニックの言葉を広めたニューヨーク在住の久司道夫さんが大いに係って居られる。

久司道夫さんはマクロビオテックの提唱者で現代のアメリカを救ったと言っても過言ではない。

久司道夫さんは桜沢如一さんの弟子であるがその桜沢如一さんは、大津に所縁のある方で札の辻を京都方面に上がった所に研究所を構えられた。

私が40数年前、山科の自然食品店で買った桜沢如一著「食養療法学」に住所が書かれています。

21世紀に入りアメリカの癌発生率は右肩下がりで減少している。その反対に右肩上がりで増えているのが我が国日本である。

 国は食の安全を担保する事が喫緊の課題であるが、現状では国の安全、経済、少子化、自然災害、福島の原発事故対策に取り組まなければならない。

そこで重要に成ってくるのがマスコミであろう。又、身近に医療現場に居る。

我々薬剤師の役割も非常に重要であろう。

なかがわ漢方堂薬局 中川 義雄

漢方の風音 6号 ベートーベンの難聴・耳鳴り

2015-02-12

バリトン 中川 義雄

ベートーベンは古典派3大音楽家の一人。モーツァルトの生誕より十数年後、1770年ドイツのボンで生まれ、20歳代から聴覚障害を患い、その後32曲のピアノソナタ、9曲の交響曲、16曲の弦楽4重奏曲を作曲し、更にピアノ協奏曲やバイオリン協奏曲等多数の作曲が有ります。

彼を楽聖と呼び(私は中学の音楽の授業で音楽の王と習った記憶が有りますが…)、当に音楽の聖人でしょう。

中学生の頃から、クラッシック音楽が好きで、中でもベートーベンが好きで交響曲1番から9番まで、何度も何度も繰り返し聞いたものです。単純な旋律が繰り返し出て来る、それでいて展開が素晴らしい4番が特に好きです。


彼は1827年、56歳で亡くなりましたがその26年前、31歳の時にハイリゲンシュタットで遺書を書いており、彼の死後、隠し引き出しから遺書が見つかっている。

耳鳴り、難聴と戦った苦悩がしるされている。自殺も考えていたとも書き記されている。

若い時にウイーンでピアニストとして活躍していたころ、彼の演奏を聴いた聴衆は余りの感動で涙したと言われている。

モーツアルトの音楽はその音の次の音は想像できるがベートーベンは、どんな音が出て来るか判らない、そこに彼の魅力を感じると言う音楽家もいる。それ程考え抜かれた作曲であり、聖人たる所以である。

当時、宮廷音楽が主流で、貴族をパトロンとして音楽家は生計を立てていたとされている(オーストリアのシェーンブルン宮殿の絵画にはマリアテレジアの婚礼晩餐会の画に幼少のモーツアルトが画かれている、つまりモーツアルトは宮廷音楽の中で育った)がベートーベンはそれを嫌い音楽は芸術であると唱えてその言葉どおり卓越した音楽を今日まで遺したのである。

プライドが高く偏屈者と流布されるがそれを超える高い音楽性が彼を支えていたのであろうか…。

彼の病名は耳硬化症だったのだろうと言われている。つまり感音性難聴ではなく伝音性難聴で耳鳴りとも戦っていたのである。

伝音性難聴は鼓膜の振動が3つの耳小骨、つまり、つち骨、きぬた骨、あぶみ骨と順番に伝わり、最後のあぶみ骨が聴覚神経に振動を伝えて音を認知する仕組みになっているのであるが、伝音性難聴は多くはあぶみ骨の硬化に原因があるとされている。

そして多くは耳鳴りも伴うのである。遺された彼が使った数種類の補聴器を見るにつけ、彼の苦悩が身近に感じられる。

発症原因は女性の罹患率は男性のほぼ2倍あり、ホルモン説も有りますが西洋医学的にはよく解かっていないのが現状である。


ベートーベンが活躍していた頃、日本は江戸時代で、漢方医学は変革の時代で有ったかも知れない。

滋賀県守山で佐々木一族として生まれた曲直瀬道三<室町時代、明へ渡り、李朱(りしゅ)医学を日本へ持ち帰り関東で活躍した田代三喜の弟子。後に戦国時代にかけて京都で啓迪院を開き漢方医学の門下生を育てた偉大な漢方医>が広めた後世要方(ごせいようほう)は廃れ、古医方が盛んに行なわれる様になった時代である。勿論、折衷派もいたであろう。


その時代、若しベートーベンが日本に来ていたら、当時の漢方医学で、耳鳴り、難聴を治せていたのではないだろうかと思って居ります。

完治とは言わないが日常生活に不自由なく生活出来たであろう。又、私にも若干の自信は有ります。


骨(あぶみ骨も含め)の代謝が上手くいかなくて硬化するのは、腎の主り(つかさどり)が上手くいかない為と考えます。

又、偏屈者と言われた所を考えると肝の問題も有ったのかもしれない。そして気を主る肺も考えなければならないしカルシゥムや細胞外マトリックスを考えると脾の働きも考えなければならない。私の経験から、彼の性格を考えると、元々の遠因は耳鼻咽喉を含めた感染から始まっている可能性も視野に入れて考慮しなければならない。


彼から得た様々な情報を五臓の働きと照らし合わせホリスティック的な弁証をすると治療法が見つけられたであろう。

ベートーベンはむしろ耳の障害を負った後、数多くの名作を書き上げたと言われており、耳の治療が上手くいっていたら、若しかしたら、数々の名曲は生まれていなかったかも知れない。


因みに私は、ベートーベン作品全体に溢れている“苦しみを突き抜けて歓喜に至れ”…の言葉が好きです。

36号 漢方の風 - アルツハイマー型認知症・アトピー性皮膚炎

2015-01-08

 数年前の事ですが、某大学の薬学部に在籍する学生さんとお話しをする機会が有りました。

その際、その学生さんはアトピー性皮膚炎を罹患して困っておられ、私が漢方医学に携わっている事を知って、質問をされた次第である。

その学生さんは皮膚が乾燥して痒みが強く皮膚科の医院に受診した。

保湿剤の軟膏と抗アレルギー剤と抑肝散が処方されたとの事であるが、将来の薬剤師の卵である学生さんは自分に抑肝散が処方された作用機序が解らず、ネットで調べて見たとの事である。

神経症、不眠症、小児夜啼き等が書かれておりアトピー性皮膚炎の際のイライラ、不眠、痒みにも効果があると書かれていたとの事である。

14日分を服用したが効果はサッパリで、自分には合わなかったのだろうと思っていたのだが、この機会に私にエビデンスを聞いて見たいと思った訳である。

その学生さんはサッパリした性格で言葉が流暢で会話が楽しく、自分の気持ちを素直に表現出来る、落ち着いた明るい性格の持ち主であった。

決して肝血(※)が虚していて、肝陽が抑えられないタイプではなかった。なので、その学生さんには効果が無くて当然で、抑肝散に効果が無かったのではなく、又、合わなかったのでも無く、合わせられなかったと考えるのが妥当でしょうと説明し、大切な事は望診や問診を行った上で、つまり“抑肝散の証”<肝血の虚に乗じて肝陽が上亢している>を弁証した上でアトピー性皮膚炎の患者さんに投薬する事が基本であると説明した所、複雑な気持ちを抱いていた。漢方薬は東洋医学的EBMに則った使い方が大切であるとその学生さんには教える事が出来た。

 今から20年近い前に、生前、親しくさせて頂きました故広瀬滋之先生(数多くの漢方の著書が有ります)の京都での漢方講演を拝聴しに行った時に、世の漢方施術者に対して、漢方薬が合わなかったのでは無く、合わせられなかった事を深く考えるべきと仰っておられました。

その言葉を聞いて私自身も身が引き締まる思いを覚えた。

アトピー性皮膚炎に対する抑肝散の作用は前号の“LEAKY GUT SYNDROME の所で書きましたが”脾“のペプシンの作用をフリーにしてより小さいペプチドに分解する事であろう。又、三焦の流れを良くする事も考えられる。

 その抑肝散は最近、アルツハイマー型認知症(AD)、レビー小体型認知症に高頻度に処方されます。所謂、周辺症状(怒り、イライラ、不安、妄想、徘徊他)の改善に使用されます。根治療法にはならないとされております。

ADの場合は(アミロイドカスケード仮説)はアミロイドβの沈着が重要視されていますが最近の研究で陳皮に含まれているノビレチンが非常に有効であるとされる研究論文が発表されております。

ノビレチンの抗認知作用は

  1. 記憶障害改善作用
  2. 脳コリン作動性神経変性抑制作用
  3. アルツハイマー型認知症の原因物質とされるアミロイドβの沈着抑制作用
  4. 神経成長因子

が動物実験で確認されている。(東北大学で抗認知症への動物実験を行っている。又、最近、それに基づいて東西の大学病院で臨床実験が開始されたと聞いております。)

 ノビレチンはシークヮーサー始め柑橘系の果皮に含まれているが、通常の温州みかんの果皮にも若干含まれている。

所が、最近、コタロー社がある地区で高濃度にノビレチンを含有しているミカンを見つけ、その果皮のエキス剤をノビレチンピ(第3類医薬品)と号して発売を始めた。乃ちノビレチンピは一種の温州みかんの果皮で健胃、鎮嘔、鎮咳、去痰の効能・効果で上市されております。

当薬局では現在3名の方に服用して頂いている所です。

 認知症の漢方治療は古くは桃核承気湯、当帰芍薬散が取り沙汰されておりましたが最近では「釣藤散」「?帰調血飲第一加減」「加味温胆湯」「通導散」「通導散合桂枝茯苓丸」「通導散合竜胆潟肝湯合補中益気湯」「加味帰脾湯」「通導散加桃仁牡丹皮合?帰調血飲第一加減」他から弁証を行って理法方薬通り行うと良いでしょう。中でも通導散には大いに期待が持てます。(通導散は強い薬方で使い方が難しく素人療法は禁物です。その際は漢方の専門家にご相談ください。)

 ※肝血:「肝は血を蔵す」とされる。腸管で吸収された栄養物質を含んだ血(けつ)は門脈系を通じ肝蔵に入り、分解、合成され貯蔵される。更に肝は自律神経系を主る為、血管運動に関与し身体各部の血流量を調節する。

更に女性には子宮に血液を供給し子宮の平滑筋や内膜を濡養(なんよう)して、或は自律神経を介してホルモン分泌を調節して月経を正常に行わせる。

陰陽互根であり、肝血は陰で、肝陽をコントロールしている。

なかがわ漢方堂薬局 中川 義雄

35号 漢方の風 - 多系統委縮症とLeaky Gut syndrome

2014-08-21

アトピー性皮膚炎、パーキンソン病、ピル

 最近、多系統委縮症でお困りのお二人の方のお世話をさせていただいております。

漢方的弁証から見てお一人目の方は様々な症状や生活習慣をお聞きし、先ず初めに小建中湯を服用して頂きました。その後数年が経ち、現在は理法方薬に則り、臨機応変に処方を使い分けしております。

そして、つい最近お二人目の方が遠方から来局されました。

問診を丁寧に行い日常生活のお話をお伺いしました所(漢方で言う“証”を見極める事)、やはり小建中湯証である事が解りました。つまり“脾”が“虚”しているのである。

何となく脾の虚と多系統委縮症が関連しているのかも知れないと思いめぐらせておりました所、たまたま、多系統委縮症について述べておられるみきやまリハビリテーション病院の宮口修先生の文章を読ませて頂きました。

先生はやはり小建中湯が良いと仰っておられ、Leaky Gut Syndrome(腸管浸漏症候群)が脳を萎縮させているのではないかと文章を書かれておられます(実践もされておられます)。

 

 小建中湯と言えば桂枝加芍薬湯に膠飴(こうい:糯米粉を麦芽で糖化して作った飴)を溶かせて作るのですが、その桂枝加芍薬湯には芍薬の量が多く(6g)処方されています。

芍薬は「大小腸の水滞を尿で排泄する水剤」で「腸管に水滞が有りそれが故に腸管の筋肉が冷えて固くなり、攣急、拘攣を起こしているものを治す」又、肝気(※)を柔げて筋肉を柔和(柔肝作用)する働きがあるとされており、冷えて柔軟性を失した腸管がひび割れを起こし、浸漏している状態を改善するであろうことは容易に察しが付きます。

通常、腸管の絨毛組織は炭素原子を12ダルトンとした時、500ダルトン迄の分子を吸収するとされているが腸管に浸漏なるひび割れがあればもっと大きな分子迄(5000ダルトン)もが体内に入ってくるとある栄養学者は言っておられます。

例えば胃の低酸症によってペプシンが充分に働かず分子量の大きいペプチドが腸管から吸収されてしまうとアトピー性皮膚炎が発症するのではないかと嘗ての市薬ニュースの漢方塾で書いた事が有りますが、あながち間違っていなかったと今更ながら思っております(ルイボスティにその改善作用が有るのではないだろうかと私見を述べました)。

又、その栄養学者は、分子量の大きな物質が浸漏(腸管から入ってくると)して来ると、当然、抗体が作られ、腸管にある神経組織と発生学的に同じ脳組織にも脳関門をすり抜けて抗体が作られ抗原と反応して脳が委縮するのではないかと述べられておられます。

多系統委縮症のみならずパーキンソン病もひょっとしたら同じ腸管浸漏症が関係しているのかも知れない。と言うのも、私の義兄はパーキンソン病を患った(数年前に60歳代後半に他界しました)のですが、振り返って見ると、やはり脾虚で小建中湯証で有った事が解ります。

 

 又、その浸漏を惹き起こす物質の一つにピルが絡んでいるのではないかとその栄養学者は書いておられます。

そこで、ピルの副作用について朝日新聞デジタル(平成25年12月17日)に書かれていた内容を要約してみます。

生理痛や避妊目的で2012年度は推定100万人が服用していると書かれており、ピルの副作用は悪心、乳房痛、不正出血は良く見られるが、やはり血栓が出来やすい事が一番問題であると書かれている。

ピルを服まないグループでは10万人でおよそ5人に血栓が出来るとされているが服用グループでは10万人で3~5倍乃ち15~25人に血栓が発症する。ピルを服用する人は血栓が生じ得ると思って服用することが大切であると厚労省研究班の小林隆夫先生は述べられておられます。

頭痛、ふくらはぎ痛、胸部痛、視野の異常があればすぐに受診すべきであるとも述べられておられます。

上記の副作用が表出する迄もなく、密かに腸管に浸漏が隠れて進行している可能性も視野に入れなければならない。

 

 私たちは(特に日本人は)、肝気を整え(※)、腸管が冷えない様、食生活に気を配り、腸管に水滞を起こさない先人の知恵を顧慮しなければならない。

 

※肝気:肝の機能を言い、昇発・透泄作用を行う。乃ち肝気を整えるとは

 全身(身体、精神)をのびやかにする事。

(大津市薬会報 平成26年7月号)

なかがわ漢方堂薬局 中川 義雄(昭)

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