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24号 漢方の風 ー喘息の漢方治療ー
最近、興味を惹いた新聞記事は膵臓のβ細胞(インシュリン分泌細胞:血糖値を下げる働き)の働きが駄目になった場合、時間を経由してα細胞(グルカゴン分泌細胞:血糖値を上げる働き)の一部が少しづつβ細胞に変化して行く(つまり、α細胞がβ細胞に変化する)事が動物実験で確認されたと言った内容の記事です。これは東洋医学で言う“陰極まれば陽に転ず”に通じている様に思える。人体の自然治癒力の為せる所でしょうか。以前、脊柱管狭窄症の患者さんに半夏瀉心湯と四逆散と牡蠣殻のカルシュウムを皮切りに八味丸と生薬製剤二号方を併用し、時には八味丸と半夏瀉心湯を使い、最後は八味丸を長期に服用して頂きました。年1回の大学病院の検査で狭窄が広がっており問題無いと診断されたとの事で大いに喜ばれた経験があります。恐らくホメオスターシス(自然治癒力)が働いた為であろうと思われますがエビデンスは定かでは有りません。前出の漢方薬等がそのホメオスターシスを引き起こしたのであろうと推察しております。長く服用されたその過程では突然の歩行困難が改善し、一方、内科的症状である下痢、肩こり、疲れ、等の体調不良が改善し、体調の良さを実感された事が長きに亘って服用された所以であろう。
漢方薬は抵抗力や自然治癒力を促進する働きが有ります。例えば風邪をひき易い或いは扁桃炎を起こし易い子供に「柴胡清肝散」を普段から服用させておくと夫々の感染を予防でき、或いは感染しても症状が軽くてすむ場合が多く有ります。「小建中湯」「荊艾連翹湯」「小柴胡湯」「柴胡桂枝湯」「八味丸」にも同様の事を経験します(他にも有りますが)。江戸時代に “外科倒し”と言う言葉が有ったそうで、伯耆の国の民間薬、「伯州散」を使用するとあれほど膿出が止まず塞がらなかった瘻孔や潰瘍が見る見るうちに治り、外科医の役割が減り患者が減ったと言われております。私の治験でも、どうしても会社を休めない(手術以外に治療法はなく1週間以上入院をする必要があると医師より言われていた)痔瘻の患者さんに伯州散を使い(通導散と竜胆瀉肝湯を併用)、膿の漏出を止め、喜ばれた事があります。現代において繰り返し発症する扁桃炎や発熱の患者さんに「柴胡清肝散」や「小建中湯」を上手く使うと感染を予防し小児科や耳鼻咽喉科に係院する患者さんの苦痛を取り除き、徒に耐性菌を増やすことも無いと思います。かと言って漢方薬を間違って使うと、ひどい体調不良を起こします(これは副作用ではなく誤治と言います)ので素人療法は厳に慎んで戴き、漢方の専門家に相談して頂きたいものです。
話は変わりますが、あるホームページに喘息の漢方治療の事が書かれてありますが、発作時はβ交感神経作動薬を使い、体質改善的に抗アレルギー作用のある漢方薬を使うのが良いと書かれてあります。私の経験では、β作動薬やステロイドを使っていても救急車を度々呼んでいた患者さんに発作時に服用する様“五虎湯”や“小青竜湯加杏仁石膏”(小青竜湯合麻杏甘石湯)を渡しておくと救急車を呼ばなくて済む事があります。勿論、未病を治す意味で(現代医学的に言えば予防として)“柴朴湯”“防風通聖散合小青竜湯”“防風通聖散合通導散”“柴胡桂枝乾姜湯加杏仁茯苓”“補中益気湯加麦門冬五味子”“加味逍遥散合半夏厚朴湯”“大柴胡湯加厚朴蘇葉”他で、全く発作を起こさなくなったと喜ばれた症例も有ります。漢方薬が全てではありませんが、およその喘息は漢方治療で発作時にも予防にも対応出来ます。又喘息の予防で、最も大切な事は荒木正胤著「漢方鍼灸の治療」に書かれておりますが、食事を正すことです。①近海の背の青い魚をさける②肉食をさける③専ら少食にする…と書かれてあります。発作の時は食事が摂れません、従って発作が治まると大食してしまう。この悪循環を断ち切る事が発作を予防する為に必要であるとも書かれて有ります。この考え方が乃ち“科学”だと私は思うのですが、皆様は如何に思われますでしょうか。
更に、端を更めますが、生き方、治療方針、物の見方、考え方等に参考になる話だと思いますので追記します。名歌「北国の春」に出てきます~こぶし咲くあの丘北国の~の辛夷(木筆、こぶし)の老木(樹齢250年)が3年ぶりに花を咲かせたと朝のTVで放映していたのですが、樹の専門家の話によると老木なので毎年花を咲かせるポテンシャルが無く、エネルギーを3年の間、貯えて、やっと咲かせているのだそうです。健気で、存在感のある、己を知っている辛夷の生き方に我々人間も学ばなければいけないと思いました。70歳台のひざ痛の患者さんには、治療の為、鍛える為にと、頑張って歩かれる方がおられますが、そんなに歩いたら駄目ですよと、又何かが原因で卵巣が一休みしている時に排卵誘発剤は使わない方が良いよと、教えてくれている様に思えてならない。卵巣の為に胃腸を正し、?血を取り、腎を補ってあげると卵巣本来の機能を取り戻してくれます。私もそろそろ“齢”なので、辛夷に見習わねばと思っております。
(大津市薬会報 2010年 5月号掲載)