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漢方の風 47号 菊池病・アトピー性皮膚炎の漢方治療
漢方塾…菊池病・アトピー性皮膚炎の漢方治療
なかがわ漢方堂薬局 中川義雄(昭)
職場の上司よりパワーハラスメントを受け続けている20歳代の女性Aさんは気丈に仕事を続けている。Aさんの話によるとその上司は同僚のBさんにも同様にパワーハラスメントをかけていた。Bさんは耐えられず職場を去って行ったとの事である。
人の紹介で来局したAさんは酷いアトピー性皮膚炎を発症していた。全身に痒みが有り、顔全体に発疹、発赤が出ていて、手は左右共に発赤が有って掻破痕があり如何にも痒そうで、全体に色素沈着も見られる。背中も隆起性の発疹が全体に広がって、その痒みは容易に想像ができる。やはり掻破痕があり、恐らく就寝中に搔いているのであろう。
丁寧に問診を問ってみると上司のパワハラによるストレスが原因で発症しているのであろうと察しがついた。Aさんはとても確りされた娘さんでパワハラに耐えながら仕事をされておられるのであるが体はアトピー性皮膚炎と言う形で信号を発しているのである。つまりMasked Depressionが表出しているのである。
問診の中でAさんは病歴として高校生の頃に面皰(ニキビ)があり、臀部にひどい毛嚢炎を発した事があった。又、最近花粉症になり、子供の頃から所謂オデキが出来やすい体質で、擽(くすぐ)りに弱く、足跡に発汗しやすい体質である事も分かった。咽喉を覗くと喉は大きく腫れていて、よく喉から風邪をひくとの事で、更に想像を働かせて聞いてみると気管支喘息も患ったことがあるとの事。更に、生理時にかぶれて痒みを発症する事も分かった。つまり一貫堂医学で言うところの「解毒証体質」である事が弁証できた。
そこで漢方薬は“逍遥散”と“補中益気湯”と“十味敗毒散”と“消風散”を使い分けて20日分服用して頂いた。継続してパワハラを受ける中ではあるものの症状は改善されてきて、化粧水も付けられるようになったと喜ばれた。完全に改善された訳でもないので、引き続き同じ処方を継続して服用して頂いた。その後、自分の判断で間歇服用するようになり、症状はほぼ改善された。
そのような中、ハードな仕事が続いて疲れると症状が少し出る。その時はしっかり服用すると忽ち改善する。
そうこうする内にパワハラ上司は異動になり、パワハラは無くなったが人員の補充が無く仕事としてはとても忙しくしていた所、突然、発熱し膀胱炎症状が出た。COVID19を一応疑ってPCR検査を実施したが結果は陰性で泌尿器科に受診した所、腎盂腎炎と診断され、ク〇ビ〇トと解熱剤が処方された。その後、微熱が続く中、陰部と口唇にヘルペスが出た。その翌日、眼にもヘルペスが出て抗ウイルス剤を7日分服用し、眼には眼軟膏と点眼薬を使用してヘルペスと腎盂腎炎は治まった。
一週間ほどが経ち、左頸部が腫れている事に気付き、寝違ったと思うほど痛みが出てきた。就寝は側臥位が痛みで出来なかった。その内、日中は36度~37度であるが毎日、夕方になると悪寒がして38.9度~39.6度Cに上がり、前述の腎盂腎炎は改善した筈なのに(念のためク〇ビ〇トは継続服用していたが)、不明熱はおかしいとして他医院を紹介された。そこで、診断されたのが“菊池病”であった。正式病名は“壊死性リンパ節炎”。
そこで、菊池病の漢方治療を請われたのである。頸部のリンパ節炎は肝経湿熱と考え “竜胆瀉肝湯”を投薬するのが基本であるがAさんの症状は悪寒が強く高熱を発しており、少し前に腎盂腎炎も罹患しているので“荊防敗毒散”(※)を14日分投薬した。服用する間、徐々に解熱して14日後に来局された時はすっかり解熱し頸部の腫れも少し残っているがほぼ改善した。菊池病は1~2か月で自然治癒する事が多いがAさんの主治医はステロイド治療を勧めた。本人がステロイドを使いたくないと断って当薬局に来られたのである。
菊池病は自然治癒しても5~15%の人は数か月~数年内に再発する。又、0,5~2%の程の致死率が報告されている。
WBC,RBCが軽度減少し、LDH,CRP,AST,ALTが上昇するが直接診断には結びつかず確定するには生検しかないとネットに書かれている。今後のAさんには本来の漢方医学の本意である未病を治す意味で、つまり、再発を防ぐ意味で解毒証体質の改善処方を服用して頂こうと思っている。
※荊防排毒散…
荊芥、防風、羌活、独活、柴胡、前胡、川芎、桔梗、枳殻、茯苓、炙甘草、生姜、薄荷で構成されている。
風寒湿の表証が目標で、つまり荊芥と防風で悪寒、発熱を改善して羌活、独活で嫌な痛みを取る(風湿を取る)。羌活、生姜は発汗、解熱にも働く。
漢方の風 42号 AD(注意欠陥症)/ HD(多動症)
漢方塾…AD(注意欠陥症)/HD(多動症)
なかがわ漢方堂薬局 中川義雄
医学の言葉でADと言えば
- Alzheimer‘s Disease(アルツハイマー病)
- Atopic Dermatitis(アトピー性皮膚炎)
- Attention Deficit(注意欠陥症:注意欠陥障害)
を主に思い起こします。
Attention DeficitはHyperactivity Disorder(多動症:HD)の症状を往々にして併発しますのでADHDと並び称せられることが一般的です。
過去にアルツハイマー型認知症とアトピー性皮膚炎については以前に漢方医学サイドからの私見を漢方の風で書きましたが今回は注意欠陥障害/多動症について書いて見たいと思います。
注意欠陥症/多動症の症状は「不注意」「多動性」「衝動的な行動」といったものが知られておりますがその発症原因は定かでは有りません。
“脳の体積が小さく成っているから”や“左右にある海馬の形が非対称でその結果左右の海馬から出される脳波のネットワークが不均一になるのが原因”や“前頭前野に問題があるから”等の説が唱えられております。
ここでは大脳の前頭前野(ぜんとうぜんや)に問題がある説を取り上げて漢方医学的アプローチを書いて見たいと思います。
多様なストレスや不安感が続くと前頭前野の働きに悪影響を及ぼすと言われています。
前頭前野は人間らしさ、つまり思考や創造性を担って居り、反応抑制(行動を起こすときに不適切な行動を抑制し適切な行動を実行する)や、推論(生物は生存の為に外部環境において適切な行動の選択を迫られる。その際、過去に経験して得た知識のみから行動を固定的に選択するのではなく、それらを組み合わせて柔軟に行動をする事によって新しい事態に備える)等によって、判断力、適切な感情の発現などを主っています。この部分に問題が生じると注意力が散漫になり感情のコントロールが上手く出来なくなるとされています。
前頭前野に問題がある人は往々にして神経伝達物質であるドーパミンやエピネフリンが不足しており西洋医学では神経伝達作用を惹起するドーパミン製剤を投与して症状を改善します。
ドーパミン製剤は全身の神経の興奮度を高めますので、どうしても副作用を免れる事は出来ません。
副作用の一例としましては交感神経の働きを高めますので腸管(小腸、結腸)の働きを抑えて便秘を惹き起こしたり膀胱の平滑筋の緊張度を弛緩して排尿を阻害したりします。
一方、東洋医学では五蔵の一つである<肝>が自律神経始め精神状態をコントロールしていると規定しており、肝が不調になると情緒が不安定になりイライラ感が出たり、少しの事で怒りが表れたり、落ち着きが無くなったりします。従ってADHDの症状が表れたら先ず肝の陰陽に着目して弁証します。
肝の陰とは肝の血(けつ)であり、肝の陽とは気の働きであり気の流れを言います。肝の陰と陽はお互いに制御し合ったり、お互いを生じたりしています(陰陽互根)ので肝の陰(血)が不足すると肝の陽である気の働きが過剰になり怒りやイライラ感や落ち着きが無くなったりします。従ってADHDの漢方治療は先ずは肝の血を増やす薬草(地黄、当帰、酸棗仁、阿膠、竜眼肉、芍薬、鶏血藤等)を考慮し、気の鬱滞を疎通(そつう)させる薬草(柴胡、香附子、枳実、陳皮、半夏、厚朴等)も考慮しなければなりません。
又、<心>も精神活動に関わっていますので心の陰陽も考慮しなければなりません。
心の陰である心血を増やす上記の補血薬草を考慮し心の働きつまり精神生活を担保しなければなりません。
更に<肝>と<腎>は五行学説では母子関係に有り又、肝腎同源といって肝の働きが失調すると腎の働きに悪影響を及ぼします。
腎は成長、発育、発達、生殖を主って居りますので場合によっては補腎薬も考慮しなければなりません。
更に漢方医学では寒熱つまり、寒の症状か熱の症状かも弁証します。
熱証(熱の症状)になるとイライラ感が出てきます。従ってその方のイライラ感を熱証と捉えた時は熱証を取り去る薬草(清熱薬)で熱を取って気持ちを落ち着かせます。
又、気持ちを安定させる働きの事を安神作用といいます。
重鎮安神薬である竜骨、牡蛎を使う事も有ります。
肝の陽の気の上衝はイライラ感や怒りを惹き起こしますので、肝気の上衝を引き下げる薬草である釣藤(カギカズラ)を使う事もあります。
肝の失調がADHDの原因とした時、現代人は多かれ少なかれ発達障害を発症する可能性を持っていると言っても過言ではないでしょう。
(因みに今現在の統計では20人に1人がADHD症を持っていると言われています。)
片付けが出来ない人、人の話を最後まで聞けない人、自分の思っている事を話さずにはいられない人、話している間に自分が何を言っているのかが分からなくなる人、物忘れをし易い人等、私の周囲にも沢山の人がおられます。勿論、私も然りですが肝の失調を惹き起こすストレスが複雑に入り乱れている現代社会では益々後天的ADHD症は増えていくであろう。
最近、当方が優先道路を走っている時、右から明らかに狭い、狭小の道路から一旦停止することなく右折して来る車と衝突しそうになるケースを度々経験しています。これは前頭前野での「反応抑制」が出来ていない為ではないでしょうか。
36号 漢方の風 - アルツハイマー型認知症・アトピー性皮膚炎
数年前の事ですが、某大学の薬学部に在籍する学生さんとお話しをする機会が有りました。
その際、その学生さんはアトピー性皮膚炎を罹患して困っておられ、私が漢方医学に携わっている事を知って、質問をされた次第である。
その学生さんは皮膚が乾燥して痒みが強く皮膚科の医院に受診した。
保湿剤の軟膏と抗アレルギー剤と抑肝散が処方されたとの事であるが、将来の薬剤師の卵である学生さんは自分に抑肝散が処方された作用機序が解らず、ネットで調べて見たとの事である。
神経症、不眠症、小児夜啼き等が書かれておりアトピー性皮膚炎の際のイライラ、不眠、痒みにも効果があると書かれていたとの事である。
14日分を服用したが効果はサッパリで、自分には合わなかったのだろうと思っていたのだが、この機会に私にエビデンスを聞いて見たいと思った訳である。
その学生さんはサッパリした性格で言葉が流暢で会話が楽しく、自分の気持ちを素直に表現出来る、落ち着いた明るい性格の持ち主であった。
決して肝血(※)が虚していて、肝陽が抑えられないタイプではなかった。なので、その学生さんには効果が無くて当然で、抑肝散に効果が無かったのではなく、又、合わなかったのでも無く、合わせられなかったと考えるのが妥当でしょうと説明し、大切な事は望診や問診を行った上で、つまり“抑肝散の証”<肝血の虚に乗じて肝陽が上亢している>を弁証した上でアトピー性皮膚炎の患者さんに投薬する事が基本であると説明した所、複雑な気持ちを抱いていた。漢方薬は東洋医学的EBMに則った使い方が大切であるとその学生さんには教える事が出来た。
今から20年近い前に、生前、親しくさせて頂きました故広瀬滋之先生(数多くの漢方の著書が有ります)の京都での漢方講演を拝聴しに行った時に、世の漢方施術者に対して、漢方薬が合わなかったのでは無く、合わせられなかった事を深く考えるべきと仰っておられました。
その言葉を聞いて私自身も身が引き締まる思いを覚えた。
アトピー性皮膚炎に対する抑肝散の作用は前号の“LEAKY GUT SYNDROME の所で書きましたが”脾“のペプシンの作用をフリーにしてより小さいペプチドに分解する事であろう。又、三焦の流れを良くする事も考えられる。
その抑肝散は最近、アルツハイマー型認知症(AD)、レビー小体型認知症に高頻度に処方されます。所謂、周辺症状(怒り、イライラ、不安、妄想、徘徊他)の改善に使用されます。根治療法にはならないとされております。
ADの場合は(アミロイドカスケード仮説)はアミロイドβの沈着が重要視されていますが最近の研究で陳皮に含まれているノビレチンが非常に有効であるとされる研究論文が発表されております。
ノビレチンの抗認知作用は
- 記憶障害改善作用
- 脳コリン作動性神経変性抑制作用
- アルツハイマー型認知症の原因物質とされるアミロイドβの沈着抑制作用
- 神経成長因子
が動物実験で確認されている。(東北大学で抗認知症への動物実験を行っている。又、最近、それに基づいて東西の大学病院で臨床実験が開始されたと聞いております。)
ノビレチンはシークヮーサー始め柑橘系の果皮に含まれているが、通常の温州みかんの果皮にも若干含まれている。
所が、最近、コタロー社がある地区で高濃度にノビレチンを含有しているミカンを見つけ、その果皮のエキス剤をノビレチンピ(第3類医薬品)と号して発売を始めた。乃ちノビレチンピは一種の温州みかんの果皮で健胃、鎮嘔、鎮咳、去痰の効能・効果で上市されております。
当薬局では現在3名の方に服用して頂いている所です。
認知症の漢方治療は古くは桃核承気湯、当帰芍薬散が取り沙汰されておりましたが最近では「釣藤散」「?帰調血飲第一加減」「加味温胆湯」「通導散」「通導散合桂枝茯苓丸」「通導散合竜胆潟肝湯合補中益気湯」「加味帰脾湯」「通導散加桃仁牡丹皮合?帰調血飲第一加減」他から弁証を行って理法方薬通り行うと良いでしょう。中でも通導散には大いに期待が持てます。(通導散は強い薬方で使い方が難しく素人療法は禁物です。その際は漢方の専門家にご相談ください。)
※肝血:「肝は血を蔵す」とされる。腸管で吸収された栄養物質を含んだ血(けつ)は門脈系を通じ肝蔵に入り、分解、合成され貯蔵される。更に肝は自律神経系を主る為、血管運動に関与し身体各部の血流量を調節する。
更に女性には子宮に血液を供給し子宮の平滑筋や内膜を濡養(なんよう)して、或は自律神経を介してホルモン分泌を調節して月経を正常に行わせる。
陰陽互根であり、肝血は陰で、肝陽をコントロールしている。
なかがわ漢方堂薬局 中川 義雄
35号 漢方の風 - 多系統委縮症とLeaky Gut syndrome
アトピー性皮膚炎、パーキンソン病、ピル
最近、多系統委縮症でお困りのお二人の方のお世話をさせていただいております。
漢方的弁証から見てお一人目の方は様々な症状や生活習慣をお聞きし、先ず初めに小建中湯を服用して頂きました。その後数年が経ち、現在は理法方薬に則り、臨機応変に処方を使い分けしております。
そして、つい最近お二人目の方が遠方から来局されました。
問診を丁寧に行い日常生活のお話をお伺いしました所(漢方で言う“証”を見極める事)、やはり小建中湯証である事が解りました。つまり“脾”が“虚”しているのである。
何となく脾の虚と多系統委縮症が関連しているのかも知れないと思いめぐらせておりました所、たまたま、多系統委縮症について述べておられるみきやまリハビリテーション病院の宮口修先生の文章を読ませて頂きました。
先生はやはり小建中湯が良いと仰っておられ、Leaky Gut Syndrome(腸管浸漏症候群)が脳を萎縮させているのではないかと文章を書かれておられます(実践もされておられます)。
小建中湯と言えば桂枝加芍薬湯に膠飴(こうい:糯米粉を麦芽で糖化して作った飴)を溶かせて作るのですが、その桂枝加芍薬湯には芍薬の量が多く(6g)処方されています。
芍薬は「大小腸の水滞を尿で排泄する水剤」で「腸管に水滞が有りそれが故に腸管の筋肉が冷えて固くなり、攣急、拘攣を起こしているものを治す」又、肝気(※)を柔げて筋肉を柔和(柔肝作用)する働きがあるとされており、冷えて柔軟性を失した腸管がひび割れを起こし、浸漏している状態を改善するであろうことは容易に察しが付きます。
通常、腸管の絨毛組織は炭素原子を12ダルトンとした時、500ダルトン迄の分子を吸収するとされているが腸管に浸漏なるひび割れがあればもっと大きな分子迄(5000ダルトン)もが体内に入ってくるとある栄養学者は言っておられます。
例えば胃の低酸症によってペプシンが充分に働かず分子量の大きいペプチドが腸管から吸収されてしまうとアトピー性皮膚炎が発症するのではないかと嘗ての市薬ニュースの漢方塾で書いた事が有りますが、あながち間違っていなかったと今更ながら思っております(ルイボスティにその改善作用が有るのではないだろうかと私見を述べました)。
又、その栄養学者は、分子量の大きな物質が浸漏(腸管から入ってくると)して来ると、当然、抗体が作られ、腸管にある神経組織と発生学的に同じ脳組織にも脳関門をすり抜けて抗体が作られ抗原と反応して脳が委縮するのではないかと述べられておられます。
多系統委縮症のみならずパーキンソン病もひょっとしたら同じ腸管浸漏症が関係しているのかも知れない。と言うのも、私の義兄はパーキンソン病を患った(数年前に60歳代後半に他界しました)のですが、振り返って見ると、やはり脾虚で小建中湯証で有った事が解ります。
又、その浸漏を惹き起こす物質の一つにピルが絡んでいるのではないかとその栄養学者は書いておられます。
そこで、ピルの副作用について朝日新聞デジタル(平成25年12月17日)に書かれていた内容を要約してみます。
生理痛や避妊目的で2012年度は推定100万人が服用していると書かれており、ピルの副作用は悪心、乳房痛、不正出血は良く見られるが、やはり血栓が出来やすい事が一番問題であると書かれている。
ピルを服まないグループでは10万人でおよそ5人に血栓が出来るとされているが服用グループでは10万人で3~5倍乃ち15~25人に血栓が発症する。ピルを服用する人は血栓が生じ得ると思って服用することが大切であると厚労省研究班の小林隆夫先生は述べられておられます。
頭痛、ふくらはぎ痛、胸部痛、視野の異常があればすぐに受診すべきであるとも述べられておられます。
上記の副作用が表出する迄もなく、密かに腸管に浸漏が隠れて進行している可能性も視野に入れなければならない。
私たちは(特に日本人は)、肝気を整え(※)、腸管が冷えない様、食生活に気を配り、腸管に水滞を起こさない先人の知恵を顧慮しなければならない。
※肝気:肝の機能を言い、昇発・透泄作用を行う。乃ち肝気を整えるとは
全身(身体、精神)をのびやかにする事。
(大津市薬会報 平成26年7月号)
なかがわ漢方堂薬局 中川 義雄(昭)
漢方の風音 4号 パウロとザビエル(アトピー性皮膚炎とバリア機能)
バリトン 中川 義雄
ポーランドのワルシャワでCOP19が行われています(11月12日原稿を書いています)。その最中(さなか)フィリピンのレイテ島を巨大台風が上陸した。
895hPaの気圧で瞬間最大風速95メートル(メディアによっては103メートルと報道)の風が襲い、気圧による海面上昇と風が海面を素早く通り過ぎた為に海面上が陰圧となり上昇した結果数メートルの高潮が襲ったと報道されており1万人近い死者が出るだろうと報道されている。
COP19(国連気候変動枠組み条約締約国会議)で、そのフィリピン代表のナデレヴ・サニョー氏が涙ながらに演説した。今ここに出席している各国が地球温暖化に如何に対応するかが問われており、その結果将来の悲劇を繰り返すか食い止めるかが問われている。…(略)。良い結論が出るまで絶食すると宣言した。サニョー氏は既に3日間絶食していると言う。
一方、日本が脱原子力下で温暖化ガスを押さえながらエネルギーを如何に作り出すかを世界が注視している。
福島の原子力発電所の収束も然りである。この事については日本が最近開発した二酸化炭素の発生を極力抑えた石炭によるエネルギーの確保等、又、発電と送電の分離政策を含めた政治の決断が最重要課題であると最近の文章で書いた所です。
?地球温暖化は自然現象のみならず人間の健康生命をも脅かしている事も顧慮しなければならない。惹起している症状の第一は多汗症であり熱中症であろう。
?漢方医学では温暖化は健康生命に対して、汗の不快感のみならず様々な病的症状を引き起こすと考えている。
口渇を解消したいが為に摂る水、清涼飲料、ペットボトルで摂るお茶等はお腹(中焦、下焦)を冷やすことになるし又湿邪が発生する事にもなる。
最近京大病院の皮膚科が発表した皮膚バリアに関与している蛋白質(フィラグリン)の低下によるアトピー性皮膚炎も惹き起こされるし、ニキビ、不妊症、免疫力の低下等も惹き起こされると考えられる。又、湿と熱が関与している前立腺ガンの発症にも繋がっているであろう。
?漢方薬でアトピー性皮膚炎の治療を実践している施術者は昔から絶えず皮膚のバリア機能を高める事を念頭においている。今に始まった事では無い。最近、汗を多くかくと痒みが強くなる患者さんを多く見かけます。この様な患者さんには桂枝湯と黄耆、茯苓を同時に服用して頂きます。(この手法を漢方では「解肌(げき)」と言います)汗が減じ皮膚が綺麗になってきます。この場合恐らく皮膚バリア物質フィラグリンが多く作られているのではないかと想像しています。追試が待たれます。
?今から十数年前、京都のホテルで薬剤師の漢方調剤研修会が有り、演者を務めた事が有ります。
私の講演のあと昭和薬科大学教授田代真一先生が研究の一端を講演されました。
漢方薬が効く事の薬理学的(科学的)解明であった。先生は講演後の食事会で私の傍にお出でになりに私のコップにビールを注ぎながら…
“先生(私の事)頑張って多くの患者さんを救ってあげて下さい、先生はパウロです。私(田代先生)はザビエルとなってエビデンス(証拠、根拠)を確立し、医療界を納得させますから…”と話された事があります。
?これからは西洋医学と東洋医学が“真の”合体をした新しい感性を持った医療が待ち望まれている様に思います。
西洋医がむやみに漢方薬を処方するのではなく、人の“心”を中心に据えた真の東西合体医療が待ち望まれているのではないでしょうか。
大津男声合唱団 monthly booklet 「ハーモニー」寄稿文より
30号 漢方の風 ーアトピー性皮膚炎の根治療法
比叡山延暦寺の根本中堂は織田信長の焼き討ち後、徳川家光により1642年に再建された。根本中堂を支える76本の柱は全て直径67cmに統一されていると新聞記事で読んだ。使われている木材は欅(けやき)だそうですが、腐朽し易い材芯を避けるが為に直径2mの欅を縦に4分割して夫々を1本の柱としている可能性があるらしい。つまり1本の木から4本の柱を作っている。耐用年数は800年で、築後約310年の1955年に腐朽した部分を取り除き、「根継ぎ」の技法で修理が行われている。耐用期限の800年後(西暦2400年頃)には、確実に木材の調達は不可能である(日本では伐採が祟って、多くの神社仏閣の大柱を海外から調達しているのが現状である)。そこで延暦寺は遠い先を見て10年前から比叡山中に欅を育てている。(無事育つ確率は10%だそうです)。又、創建時、檜(ひのき)の調達が難しかったが為に止む無く欅を使ったとも云われている。調査研究で腐朽の一番の原因は木の乾燥が充分で無かった為と考えられている。
奇跡的に大空襲による焼失から逃れた姫路城の昭和の大改築は1955年から行われた。その2年前からの調査で天守閣を支えている東西の2本の大柱が夫々東南に50数cmずれている事が判明した。更に調査でその一本の西の大柱が芯から腐朽しており、継ぎ足しもまま成らない状況で再利用が出来ない事が判明し、直径1m以上長さ20数mの檜を探すことになった。やっとの事で木曽の山中で見つけたものの、切り出す途中で折れてしまい、工事は中断した。暫くして、同じ木曽の山中で2本目の檜を見つけ、山林鉄道で搬送途中、崖の所で重さに耐えられなくて、16mの所で折れてしまい、その先の部分(約11m)は谷底に落ちてしまった。その時の事故の場面はNHKのドキュメント放送でも捉えていた。結局、その残った16mの檜に姫路近郊の神社の境内の檜を継ぎ足して(木組みして)西の大柱として、無事、大天主は改築されたのである。
延暦寺の根本中堂の柱は腐朽し易い芯を避けるが為に4分割したもので、姫路城の西の大柱も芯から腐朽が始まっており、漢方医学から見て、アトピー性皮膚炎の原因と通じる所がある。つまりアトピー性皮膚炎も体内、若しくは皮下の「湿」がそもそもの元凶であるからである。ステロイド剤は体内に湿を貯め込むが故にあとあと様々な問題を惹起するのである。しかし乍ら素早く炎症や痒みを抑える即効性があるのでそれを使用する有用性はある。その場合も湿を溜め込まない為に、未病を治す意味も含めて漢方薬を利用すると良いのは自明の理であろう。かと言って、なかがわ漢方堂では大半の患者様にステロイド剤は極力避けて頂いております。
体内の湿(湿熱)を如何に取るかがアトピー性皮膚炎の漢方治療なのですが、その一方、痒みは心の火(厥陰心包経)を冷ます事で治療出来ます。詳しくは“漢方の風”28号をお読み下さい。甘い食べものは糖質(炭水化物)で細胞内のミトコンドリアのTCAサイクルで炭酸ガスと水に分解される。乃ち、湿を発生する。甘さのおっかけっこをしている現代社会の犠牲者が、つまりアトピー性皮膚炎や糖尿病の患者様である。
湿(水)は様々な問題を惹き起こす。関節部位に溜まると関節炎になる。膝痛、腰痛、五十肩には防已黄耆湯、越婢加朮湯、疎経活血湯、ヨクイニン等で湿を取り除く。脳の網様体の湿(頭重、眩暈、耳鳴り、他)には半夏白朮天麻湯、温胆湯、当帰芍薬散、他から撰用する。産婦人科領域では、多嚢胞性卵巣も湿が絡んでいる。
昔から石や鉄を多用せず木を使う日本の建築様式に係る人は木の特性を熟知している。木材の一番の敵は内外の湿である。東洋医学も又、湿は邪となり得ると捉えている。木も人間も自然の中に存在しており湿とのせめぎ合いの中で健やかさを保っている。
(大津市薬会報 2012年1月号掲載)
29号 漢方の風 ー鬱症状を伴う不安感。化膿性体質(術後の膿が止まらない)。
薬学部が6年制になり、5ヶ月の学外実習が義務付けられた。更に全国的に新しく薬学部が増設され、各学校では新入学の学生の取り込みに危機感が見られる。そこで各学校は法定の学外実習の他に特色のあるカリキュラムを既に組み入れている所もあり、又これから取り組もうとしている学校もあると聞いている。
医師と対等に向き合える様にする為の仮想実習や海外留学、更には特化した漢方医学を取り入れた講座等がそれである。我々4年制で学士を取り薬剤師になった者としては何処となく気後れ感はあるが、足りない2年の勉学期間を補うに余りある独自の卒後教育を実践して来たと言う自負心は有ります。取り分け大津市薬剤師会は多方面に活動し医療や福祉、教育に参画し、又会員の学力向上の為に研修会を実施して来ました。私も在宅医療部の理事を担当した時には、当時、薬剤師の在宅医療の係りが叫ばれ、在宅医療制度は勿論の事として、輸液の投与の仕方から内容迄も多くの本を読み勉強しました。又、独自の在宅患者さん専用の薬歴表も作成しました(田村先生の協力を得ながら…)。その薬歴表は滋賀県薬剤師会の他支部から、使用の申し入れが有り、今も使っておられる所もあると聞いております。又当時の会長である隠岐先生の指示もあって20万円の予算(滋賀県の医薬分業促進費)を頂き、瀬田地区の医薬分業に腐心した。全歯科医院への院外処方の働きから始め、分業をしていない開業医を講師に招き勉強会も実施した。更に思いついたのが当時、分業先進地区の長野県の上田地区が作成していた保険薬局のマップの瀬田地区版である。滋賀県では当時作成している所がなく、薬務課の分業担当官はそのマップを他の地区に見本として使用されたと聞いております。思い起こすと勉強始め様々な活動をして来た。
医薬分業が常態化した昨今、チーム医療の一員として医師や看護師さんとの、又患者さんとのコミュニケーションの重要性が叫ばれておりますが、うまくコミュニケート出来ていない現状が見て取れます。その為か、学校でも接遇のカリキュラムが組まれている様に聞いております。今から10数年前になりますが大津市薬剤師会の月例研修会で“接遇”の勉強会を行った事がありますが、大津市薬剤師会では既に問題意識を持ち、取り組んで来た経緯も有ります。 長らく市薬ニュースの原稿を書かせて頂いておりますが、特化した漢方医学を学んで卒業してくる薬剤師が現場に入った時に違和感を感じさせない為に、少しでもお役に立てればと思って居ります。
今日は朝から、時間が取れたので急遽原稿を書いておりますが、午後からの予約のご相談内容は、一人目の方はふらつき、倦怠感を伴う不安感をお持ちの方。二人目はアトピー性皮膚炎。三人目は智歯抜歯後のトラブル(切開周囲部からの膿が止まらない)。四人目は早期(39才)に閉経に向かっていると診断された方である。一人目の不安感でお困りの40歳台の女性はパートタイムで仕事をされておられます。顔は赤ら顔で、かといって赤々している訳ではなく力のない赤さである。精神が不安定であるので重鎮安神作用の竜骨・牡蠣が配合されていて、更に気の上衝(浮陽と考えて)に効果のある桂枝加竜骨牡蠣湯を第一に、又生理周期の遅れが有り、気鬱が係っていると考え加味逍遥散を第2処方として交互に投薬しました。
3人目の智歯抜歯後のトラブルの方は、先ず望診(最初に見た第一印象、皮膚の色、艶等)から、脾の弱さが診てとれ、バクテリアに対する抗病力の弱さが有り、更に肉芽の形成力の弱さが有ると弁証出来ました。そこで小建中湯に黄耆末を加え、小柴胡湯との併服としました。乃ち内托(体力をつけて抗病力を増す方法)しながら炎症を取ろうと考えた訳である。この患者さんは智歯の切開術の前に内托しておけばこう言う事態にはなっていなかったと言えます。漢方医学が「未病を治す」と言われる所以である。同様に癌と診断され3大治療(摘出術、抗ガン剤の投与、放射線療法)を行う前に適切な漢方処方を服用しておくのも大切であろう…。因みに膿が止まらないその他の疾患(乳腺炎、副鼻腔炎、痔漏、面皰等)の治療には、十味敗毒散、排膿散及湯、荊防敗毒散、葛根湯加桔梗石膏、小柴胡湯加桔梗石膏を使い分ければ良い。
(大津市薬会報 2011年9月号掲載)
28号 漢方の風 ーアトピー性皮膚炎
東日本大震災に被災された方々には衷心よりお見舞い申し上げます。又、お亡くなりになられた御霊に十念(南無阿弥陀仏)を唱和し、ご家族には哀悼の意を表します。
宮古市の重茂半島の姉吉地区には先人が海抜60mの場所に“此処より下に家を建てるな”と刻んだ石碑を遺しているそうで、重茂地区の住民は以来それを守って来た結果、全ての世帯が今回の大地震の津波から被災を免れたと報じられていた。現代の科学的予測の或を超えた大津波の災禍から免れた先人の知恵の確かさを顧慮しなければならない。今回の大震災を見るに付け科学的根拠の危うさ(高さと強固さを計算して作られた防潮提と防波堤が破壊された等)を露呈したと言っても過言ではない。福島の原子力発電所も又、然りである。ダブルフェイルセーフ以上の安全を担保する知恵を絞らなければならない。想定外だったではすまされない…。佐藤栄佐久前福島県知事は起こるべくして起こったと憤っておられます。(前知事は原子力発電推進派でもあるが、原子力政策の隠蔽体質と闘って来られた)
アトピー性皮膚炎の治療においても、同じ事が言えると私は考えております。例えば、喘息の漢方治療をする時には背の青い魚だけでなく肉食をも極力避けるようにして戴く。これは先人の古書に書いてあることなのですが、漢方の臨床では経験的に実践して好結果を得ています。同様にアトピー性皮膚炎の治療においてもアレルゲン検査も大切ですが、何よりも大切な事は湿熱を溜め込まない食し方をする事と考えています。従って漢方治療では、間違った食生活から発生した湿熱を如何に捌くかを徹底して行うと、重度のアトピー性皮膚炎でさえ自然に元の綺麗な皮膚に戻るのである。湿熱を発生させる可能性のあるステロイド療法は漢方医学的にはしてはいけない事になるのですが、一時避難的には有効な手立てではあると考えております。
湿熱とは湿邪と熱邪がくっ付いたもの。湿度の高い日本では湿邪(湿気)が外因(外敵)として皮膚を攻めて来る(風の邪が表を攻めて来て守りきれず発症するのが風邪と同じ考え)。昔なら汗をかいて皮下の湿を発散したものですが、冷房完備下の環境では発散は不可。それどころか口からは更に追い討ちをかける様に必要以上のジュース、ビール、アイス等の飲食物を摂る。内外から湿に攻められる結果、体中(細胞から組織、器官、夫々の間隙迄も)水が氾濫する。一方、フライ物、生クリーム、スナック菓子、インスタント食品等の甘食厚味な食べものの摂取過多が熱を生じ、地球温暖化も相俟って“湿熱”が出来上がるのである。この湿熱が体中を席巻し心の火と出合って強烈な痒みを発するのである。又、有機物を含んでいるであろう黄砂や花粉、ホルマリン、トルエン等が皮膚を攻め立て、体の防衛軍である衛気(えき:体表を守っている気)と遭遇し熱を生じ、湿熱は更に増長するのである。
漢方薬でこれらの湿熱を捌き、一方、口からは前出の飲食物の制限をすると、あれほど頑固なアトピー性皮膚炎も改善して来るのである。これらの漢方理論及び食養生を“想定外だった”と社会が顧慮する日が来ると、反省が生まれ、より健康的な生活が保障されるであろう。何よりも医療費の削減迄もやってのける事が出来るでしょう。 ここで、あと一つ弁証しなければならない事が有ります。それは現代社会の作り出したストレスが火と化し病証を悪化されておられる患者さんも多く見られる事です。
漢方医学では肺は皮毛を主り、脾(大雑把に言えば胃腸機能)は肌肉を主ると言います。従ってアトピー性皮膚炎は肺と脾の病証といえます。又湿熱の充満しきっている少陽三焦と表裏関係にある心包経の病証とも言えます。又先天の腎の虚も考える必要が有ります。
消風散、十味敗毒散、黄連解毒湯、辛夷清肺湯、六味丸、補中益気湯、猪苓湯、三物黄?湯、当帰飲子、温経湯、四逆散、加味逍遙散、荊艾連翹湯、抑肝散加陳半、麻杏甘石湯、地竜、越婢加朮湯、白虎加人参湯、竜胆瀉肝湯、柴胡桂枝湯辺りから3~4処方をうまく使い分けて治療します。治療には苦心惨憺するものの長年苦しんでこられた重症のアトピーが治って行かれる患者さんの笑顔に接し、漢方医学を勉強して良かったとつくづく感じております。
(大津市薬会報 2011年5月号掲載)
25号 漢方の風 ー認知症と漢方薬(侮れない牡蠣殻イオン化カルシゥム)
今回は、びわこ漢方サ-クルで6月、7月に講義した「漢方と認知症」について書いて見たいと思います。今や風邪に葛根湯、腓腹筋の攣縮(こむら返り)に芍薬甘草湯、開腹術後に大建中湯、認知症に抑肝散と言われる程、認知症に抑肝散がポピュラーになっています。抑肝散は取り分け妄想や徘徊、多怒等の周辺症状に効果があるとされる。西洋医学で周辺症状に使用される抗精神薬や抗鬱薬、抗不安薬はこの様な周辺症状を押さえ込む一方、それが為に日常の生活動作をも不活発にしてしまい、食事、歩行、会話等に悪影響を及ぼし生活の質を低下させているのが現状である。抑肝散には、そういった生活の質を低下させる悪影響は見られない。抑肝散の中心的役割をしている生薬は「釣藤鈎(ちょうとうこう)」である。釣藤鈎は汪昂著、寺師睦宋訓「本草備要」に、甘微寒。宣、風熱ヲ徐キ、驚ヲ定ム。心熱ヲ徐キ、肝風ヲ平ニス。久シク煎ジレバ則チ力(ちから)ヲ無クス。…とある。又、中山医学編、神戸中医学研究会訳「漢薬の臨床応用」にも20分以上煎じると効力が無くなると書かれている(1~2回沸騰させる位が良いとも書かれている)。乃ち釣藤鈎は熱に弱いのである。他薬と一緒に煎じると効力が無くなるので、当薬局では後煎と言って最後の5分間だけ煎じて頂く様にしています。又、加熱の影響を受けているエキス剤(顆粒剤)の抑肝散を投薬する時は天然のままで熱の影響を受けていない釣藤鈎の“原末”を追加して一緒に服用して頂くようにしております(抑肝散加釣藤末)。その抑肝散の作用機序は柴胡、釣藤で肝風を抑え、又甘草と共に自律神経を調整(疎肝解鬱作用)し、精神的、肉体的反応閾値を下げ、ストレスに対応出来る様にする。川?で頭痛をとり、当帰、川?で肝の血虚を治し、血流を良くし、茯苓、白朮、甘草で脾の虚を補い肝の暴走(周辺症状)を抑える。更には、鬱症状が顕著な場合は芍薬を追加するとより効果的です(抑肝散加芍薬)。因みに釣藤鈎は枝ではなく“鈎”(かぎ、とげ)である。鈎の部分に有効成分が多く含まれている。市場には、枝多し鈎少なしの原料生薬が出回っており、撰品が大切である。その点、エキス剤は果して如何でしょうか…。
漢方医学では周辺症状を取ることを標治と言い、中核症状を取ることを本治と言いますが、証があれば抑肝散には本治を期待しても良いのかも知れないと思っておりますが…。然しながら臨床では他の漢方処方と併用する必要があろうかと思います。漢方本来の“未病”を治す意味合いからすると元々抑肝散証のある人の認知症の予防に使うと良いのは言うまでもない事と推察できます。 最近、認知証に良く使われている他の処方は、加味温胆湯、釣藤散、黄連解毒湯、温清飲、加味帰脾湯、八味丸、六味丸、当帰芍薬散、人参養栄湯辺りでしょうか。
最近のTV番組で、認知症は脳だけの問題ではなく同時に他の臓器にも変化が起こっている、つまり脳細胞だけを見て診断を下すと誤診をしてしまう危険性があると専門医は仰っておられました。レビー小体型認知症では心臓の神経の検査をすると、より確かな診断が下せると言っておられました。それは五臓を底辺とした五角形に立脚した全体観(ホリスティック)が必要最小限である漢方医学で言う所の、心、肝、腎、脾、延いては肺、乃ち五臓を弁証しなければ処方の決定がおぼつかないのと同じである。然しながら、心は神志を主り、腎は骨随を主るとされ、心血又は腎精が虚すと健忘(物忘れ)症状が現れる所を見ると心と腎に注目する必要はある(西洋医学では物忘れと認知証とは別のものと言われておりますが)。薬草から見れば遠志、酸棗仁、山梔子、黄連、地黄、人参、茯苓等は注目しなければならない。その人参、茯苓、遠志、酸棗仁、地黄を配合している処方が加味温胆湯である。加味温胆湯には、それらの他に半夏、陳皮、大棗、生姜、甘草、竹茹、枳実、玄参、を配合した十三味で構成されている。加味温胆湯は漢方医学では“痰熱(濁)上擾”を目標とし、口が苦い、口が粘る、驚きやすい、不眠、実直で臆病な性格、悪心、抑鬱傾向等を目標に使います。構成生薬を分析すると、半夏、陳皮、茯苓、甘草、生姜は二陳湯で口の粘り、悪心、動悸、不眠、めまいをとるのですが、これは胃内に水が停滞し、その水(痰飲)が化熱し、脳の網様体を刺激して起こるのを改善すると中医処方解説に書かれている。竹茹、枳実で化熱した痰濁の熱を取り、遠志、酸棗仁で不眠、イライラを鎮め、不足している血管内の陰を玄参、地黄で補い、人参、茯苓、生姜、甘草、大棗で胃腸の働きを良くし、総じて痰熱を取り、胃から脳の網様体の働きを正常化して上記の症状を治すのであろう。これらの事を総合的に判断して認知証にも使用し得るのですが…。脳の前頭葉を刺激する行為、乃ち心や情景を思い浮かべる昭和の歌のカラオケや女性であれば料理をする等の実践と併行して行う事が最善の治療法かも知れない。将来、認知証の研究で、脳と胃、食道、十二指腸辺りとの共通物質が存在すると学会で発表があるかも知れません。
ある大学研究所の実験で、ラットを使い、迷路の先に餌を置き、正常なラットは餌に辿り着く事が出来る事を確認しておき、餌にカルシゥムを入れてあるグループと、入れていないグループとに分けて実験した所、カルシゥム有りのグループは全て餌に辿り着けたがカルシゥム抜きのグループは殆ど辿り着けなかった実験データがあります。乳酸カルシゥム等、カルシゥムにも様々の形のものがありますが、取り分け、炭酸カルシゥムが一番効果が有ったと結論着けられました。イオン化された牡蠣殻カルシゥムは、その炭酸カルシゥムが主成分である。おまけに牡蠣殻のミネラル組成はマグネシゥムを始め人間の血液のミネラル組成と殆ど同じである。当店で、牡蠣殻イオン化カルシゥムをお勧めしている所以である。腎に問題がある(他臓にも問題が有りますが)骨粗鬆症、アトピー性皮膚炎にもお勧めしております。
7月9日、NHKの朝の番組で“漢方薬が危ない”の放送をしておりました。漢方薬に使用する遺伝資源である薬草がここ1年で、とんでもない高騰をしている(1年前の2~4倍の相場価格)との事で、ある漢方の診療所では、通常の半分の量で処方していると放映していた。日本の大手薬草販売会社は売れば売るほど赤字になり、先行きの見当がつかないと言っておられました。このままでは世界の薬草の80%を消費している日本の漢方が危ない状況である。異常高騰の原因は異常気象による砂漠化や乱獲による減少、又資源国(中国)と商品化した消費国(日本のメーカー)の利益の配分が平等でないと言った理由であるらしい。国が薬価を決めている関係上、原料費が高騰し続けたらメーカーは立ち行かなくなるであろう。事業仕分けで保険適用から除外するかどうかの問題どころではない。日本のメーカーが薬草作りに更に力を注ぎ、生産量を増やすことと、無駄に漢方薬を使用しないこと(確かな漢方理論に則った弁証論治無く漢方薬を使わない)が、今、一番しなければならない事であろう。漢方薬を構成している薬草の一つ一つに感謝の気持ちを持ちなさいと故青木馨生先生が教えて下さいました。漢方の心を忘れない様、励みたいものです。
(大津市薬会報 2010年 8月号掲載)
23号 漢方の風 ーアトピー性皮膚炎・肥満症ー
空蝉に最早命の臭いなし… これは亡き長兄が詠んだ詩です。蝉の抜け殻は、俳句の季語になりますが、漢方薬では、“?風剤”になります。?風とは、この場合は痒みを取ると言う意味になり、漢方処方としては、消風散に配合されています。その消風散はアトピー性皮膚炎によく使いますが、患部が湿潤している事が使用目標になります(それ以上に風証が見られる事が必要ですが)。乾燥性のアトピーに使用すると症状を悪化させるので注意が必要です。これは決して副作用ではなく、あくまでも使い方の問題であり、消風散の構成生薬をよく考えて使用すると失敗はしないものです。漢方薬の使用については、慎重に行わなければなりません。同じ動物生薬の中に“地竜”(みみず)が有ります。最近、地竜の使い方の吉岡先生の講演を起こした資料をk社が提供してくれ、追試した所、非常に良い結果を得ております。麻黄と石膏で皮下の“水”を捌き、更に地竜で血流を良くしてより水の捌きを高めて、鎮痒作用を高めます。痒みで、夜眠れない時は麻黄杏仁甘草石膏湯と地竜を併用すると、痒みが取れて、かきむしる事無く良く眠れます。
当薬局の難治性のアトピー性皮膚炎の最近の治験例を挙げて見ますと、30代の女性には、猪苓湯と補中益気湯に加味逍遥散で治癒。20代の女性は猪苓湯と補中益気湯に荊介連翹湯で治癒。その他温清飲、温経湯、梔子柏皮湯、黄連解毒湯、十味敗毒湯、柴胡清肝散、四物湯、黄ギ建中湯等をうまく組み合わせて使用すると難治性のアトピーでも大部分は治癒する事が出来ます。 所で、最近、漢方薬の保険適用を外す議論が、事業仕分けの俎上にあがりましたが、上記の30代の女性のアトピー性皮膚炎を漢方処方を使って“保険医療”で治療するとしたら、夫々の処方に適応する“架空の病名”をいわば作り挙げなくてはならない。病名と漢方処方が一致しなければ健康保険法に抵触するからである。即ち、不正請求になる。上記の30代の女性には、夫々、例えば膀胱炎なり胃下垂なり冷え性の病名を付けなければならない。実際はアトピー性皮膚炎の治療なのだが。漢方薬の保険適用には、やはり無理がある様に思えます。とはいえ、抗ガン剤や放射線療法での体力、気力の落ち込みに、漢方薬を医療保険扱いで投薬され恩恵を受けておられる方が大勢おられる事を考えると保険適用外とは、軽々には言えない。公平に考えて見て、何らかの落としどころを見い出さないと、現状のままでは、医療費の削減はもとより、ややもすると、生薬の無駄使いが行われ、延いては漢方薬その物の存在が危うくなる。絶滅の危機に頻している薬草は大切に扱わなくてはならない。漢方薬は“薬草に感謝”の気持ちを抱きながら使用しなければなりません。
話は変わりますが、アメリカでは国民の肥満が問題になっております。このままでは10年後には肥満症に関る医療費が現在の4倍になる試算が出ており、財政が持たないのだそうである。現在の日本の状況から見て、わが国でも、4倍はともかくとして、同じ事になるであろう事は十分に察しが着く。患者さんが病院で、痩せる漢方薬を出して下さいと言えば、鸚鵡返しに防風通聖散が処方されます。(漢方には詳しくないからと断る先生も居られますが…)私の経験では防風通聖散の90日分の院外処方箋を受け取った事が有りますが、表寒裏実熱とは決して見えない患者さんでした…。勿論、効き目は無かったと思われます。体調に不具合を感じたら服用を中止して下さいとお伝えしました。この事例も医療費の無駄かも知れません。防風通聖散には麻黄、荊芥、防風と言った辛温解表剤(発汗剤)が配合されています。発汗は注意しなければなりません、心臓の弱い患者さんには特に要注意である。心臓の気陰不足の人は意外に太っている人がおられるからです。OTC薬の九味半夏湯加減なる「扁鵲」(へんせき)と言う漢方薬を扱っておりますが、メタボリックには防風通聖散より、もっと安全で効果的と思っております。水毒、臓毒を捌き脂肪過多を減らしてくれます。因みに防風通聖散が身体に合う方(防風通聖散証と言います)は決してKYではなく、気配りの出来る方が多い様に思います。
(大津市薬会報 2010年 1月号掲載)