滋賀県の漢方相談薬局

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漢方の風音 13号 インポテンツとNOと漢方薬

2022-01-12

漢方塾 1,脳卒中・心筋梗塞などの動脈硬化の原因と予防
    2,ED:Erectile Dysfunction (勃起不全)の漢方治療の一端

なかがわ漢方堂薬局 中川義雄

血管の構造は  ①血管外膜
        ②血管中膜
        ③平滑筋
        ④血管内皮(内皮下組織・内皮細胞)

の4層構造から成り立っています。そして血管に柔軟性があって拡張しやすい事は動脈硬化を予防することに繋がっている。血管の柔軟性は一酸化窒素(NO:Nitric Oxide)が重要な働きをしています。NOは“ノー”と発音せず“エヌオー”と発音する事は薬剤師の常識ですが、NOは血管内の平滑筋に作用して弛緩させ、血管を広げています。通常、血管内の血流が早くなると一番内側の内皮細胞によってNOが産生され、その結果平滑筋が弛緩して血管が広がる仕組みになっている。従って内皮細胞が衰えると柔軟性を保てなくなり、脳卒中や心筋梗塞などの動脈硬化と言った重篤な疾患を引き起こしやすくなる訳です。内皮細胞の機能低下を起こす原因は老化、高血糖、喫煙などである。
通常、血管が傷ついた時は止血するために血小板が集まって血栓が作られる。しかし、NOがあるとNOがその傷ついた血管を修復してくれるので血栓が作られずにすむ。その結果、血流はスムーズになる。所が、NOは酸化しやすい性質がありそれを防ぐ為には抗酸化物質を豊富に含んだ食材を摂取することが大切である。ビタミンA、C、E(ACE:エースと覚える)やポリフェノールなどが抗酸化作用を発揮する。具体的な食材としては人参、ブロッコリー、カボチャ、小松菜、パプリカ、大葉、アーモンドなどが有ります。私事ですが私は癌を罹患してから星野式ゲルマン療法や済陽(わたよう)式食事療法を参考に上記の食材を毎日食べるようにしていますが、それは同時にNOの酸化も防いでいる訳である。更に、私は癌に対して皮の付いたリンゴとトマト、舞茸も1日2回必ず食べるようにしています。

話を元に戻しますが、体の中でNOを作るにはアルギニンとシトルリンと呼ばれるアミノ酸が必要とされています。そこでアルギニンを多く摂取するには魚や赤みの肉、鶏肉、大豆、豆類などの良性蛋白質やナッツ類を食する事が大切です。但し、肉については肉に付き物の飽和脂肪酸がNOを作る組織を傷つけるので摂りすぎには注意が必要です。

端を更め、ここからはNOの血管拡張作用に関わるED(勃起不全)について書いてみたいと思います。過去に経験したEDに対して漢方薬を使った著効例を書いてみたいと思いますが、その前にペニスの勃起の作用機序を理解しなければなりません。ペニスの内部構造は海綿体と言う極めて細い血管の集合体で出来ている。通常、この海綿体へ繋がる陰茎深動脈と言う血管は緊張した状態になっており、海綿体には必要最低限の血液のみが流れるようになっている。脳が性的な興奮を覚えると陰茎深動脈内皮細胞からNOが放出され、血流を抑えていた平滑筋が弛緩して海綿体に血液が流れ込みペニスが膨張し勃起する仕組みになっている。

10数年前、EDで悩む決して心身が弱っているようには見えない20代後半の男性が相談に来られた。そこで、問診をすると心下痞硬(鳩(みずおちぶ)尾部が硬い)があって時に下痢をする事がわかった。又、口内炎を度々発症する事も確認出来たので「半夏瀉心湯証」と見なし半夏瀉心湯を勧めた。

EDにこの処方を選んだ理由は私が漢方医学初心者だったころ、漢方の大家(先生のお名前が思い出せません)が書かれたEDに対しての半夏瀉心湯の効果の《口訣》を覚えていたからである。精力増強する薬草を使わず半夏瀉心湯でEDを改善した経験は漢方医学的に“証”(体質)を見極める事の大切さを体現した。このことで「方証(ほうしょう)相対(そうたい)」「察証(さつしょう)弁(べん)治(ち)」的治療が漢方医学ではとても大切である事を改めて思い知った。

黄芩、人参、黄耆は血管内皮細胞のNO産生を誘導する事が実験で証明されている。使用した半夏瀉心湯には人参と黄芩が入っているのである。 以下は私の想像ですが、恐らく腸管内に存在するある種の腐敗菌が間接的にNO産生を阻害しており、半夏瀉心湯は腸管内の腐敗菌を減少させ、常在菌の発酵を促進して間接的にNO産生を正常にしているのだろうと思っている。この患者さんは心下痞硬が取れてお腹の状態も改善した事は言うまでもない。

参考までにその他のEDに対する口訣では炙甘草湯が良いと言うのもありました。

EDは

  1. 機能性(心因性)勃起障害…器質的には正常であるが精神的ストレスが係わっている為に勃起しない場合。
  2. 器質的勃起障害…老化や強い肉体疲労やある種の疾患に罹患して腎精(腎精とは腎に蓄えられた精微物質で骨格や知力の成長発育に欠かせない物質で性機能にも関わっている)を消耗してしまった時や手術などにより勃起神経を損傷した時、などによって勃起しない場合があります。

そこで、中医学的弁証は…
“肝”は気と血(けつ)の流れをコントロールしており精神的ストレスが加わると肝気が鬱滞して気血の流れが悪くなる。つまり精神的ストレスを受けると陰茎への気と血の流入が悪くなりEDになるのである。この機能性勃起障害を改善するには気の流れを良くし血流を改善する理気薬(柴胡、香附子、陳皮、枳実、半夏など)が効を奏す。又、一たび、勃起不全を経験するとその後も失敗するのではないか…と不安感が脳を支配し、又もや勃起不全を引き起こす。そういった不安感を解決してEDを改善するには“精”と“気血”を補う補気血薬(鹿茸、人参、黄耆、炙甘草、地黄、当帰、阿膠、竜眼肉、酸棗仁等)と不安感を取り除く安紳薬(竜骨、牡蛎、酸棗仁、竜眼肉など)を併用すると良い。

シンガポール、台湾、中国の福建省あたりを旅行すると竜眼肉(中国語でロンイェンロウと発音する)が空港の土産物店で沢山売っている。私もお土産で頂いた事があります。薄い殻を割ると中に球形の果肉が入っている。台湾人や中国人は大棗(ナツメ)と同様におやつ代わりによく食べる。つまり普段から大棗で脾を補い補気して、竜眼肉で血を補いながら安紳薬を摂取しているのである。

 

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