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27号 漢方の風 ー膀胱炎・胃腸炎(風邪に伴う下痢)

2011-01-17

数年前、中国の養蜂家の番組の終わり部分を垣間見て、番組の冒頭から見落とした事を残念に思った事が有りました。所が、過日、BSで再放送がある事を知り、あらためて番組の最初から見る事が出き、数年来の望みが叶えられました。中国の西北部、新彊ウイグル地区から望む天山の高地で採取される天山山花蜜(糖度が高く薬草の香りが人気の蜂蜜で、高値で売買される)を中国の東部地区からミツバチと共に6000kmを移動して(中国を東から西まで縦断する)採取に出かける養蜂家親子のドキュメンタリー番組である。一口で6000kmと言っても凄まじい長行路である。予定を遅れて天山に到着した時には蜜蜂は半分が死んでしまっていた。それ程過酷な道のりである。仕事として立ち向かう親子のエネルギッシュで前向きな姿を見て私は何かを与えられました。

 

 12炭糖の花蜜を外勤蜂が蜜箱に持ち帰りそれを内勤蜂が自らの酵素で6炭糖に分解し6角形の巣房に溜め込み蝋で蓋をして熟成する。中学で習った12炭糖の分解、つまりショー(蔗糖)ニュー(乳糖)バク(麦芽糖)、ブカ(ブドウ糖と果糖) ブガ(ブドウ糖とガラクトース) ブーブー(ブドウ糖とブドウ糖)を思い出したり、中国人気質が理解出来たり、弱った蜜蜂に花粉を与えると元気を取り戻す…つまり、人間の前立腺肥大に花粉が奏効するヒントを呉れたり、蜜蜂にはイタリア蜂と黒蜂(北ヨーロッパに多い)がいる事、巣箱内の温度が35℃以上に上がらない様に巣箱の入口の間隙で羽ばたいて空気を巣箱内に送り込んだり等、興味一杯で見入りました。蜂蜜の元である天山高地の花は6月頃から開花し始める。防風、大黄、薄荷、つる人参等約10種類の薬草の花々である。一度、天山山花蜜を味わってみたいものです。

 

 蜂蜜を使った漢方薬に「東医宝鑑」に記載されている“瓊玉膏”(けいぎょくこう;蜂蜜、地黄、麦門冬、天門冬、地骨皮、人参、茯苓)があります。舐剤(しざい)と言って、なめる薬なのですが、蜂蜜と練り合わせていますので甘くて、脾が弱い人でも結構服用出来ます。瓊玉膏は東洋医学でいう所の脾、肺、腎を目標にします。

 

 高温多湿時に食欲が落ちることを良く経験しますが、これは湿気が脾胃を犯すためであり、手足がだるくなり、疲れて気力が落ちて来ます。それがすすむと手足が火照って喉が渇き、水分を取りたくなります。すると胃液が薄くなり消化が悪くなり食欲が落ちるといった悪循環になります。その結果多方面に悪影響が出てきます。ちょっとややこしい話に成りますが。胃腸で営養(漢方では営養と書きます)化された精微物質は多方面に供されますが余った精微物質は腎に貯えられます。だから脾胃が弱ると腎まで影響してきます。つまり腎陰虚になります。喉が渇き、手足が火照って来ます。勿論、脾胃の営養は真っ先に肺にも行きますので、その肺も陰虚になります。肺が弱ると風邪をひき易くなり、全身に営養を送れなくなり、尿の出が悪くなり、皮膚がくすんで艶が無くなります。更に肺陰虚がすすむと咳が止まらなくなり更に悪化すると痰に血が混じってきます。つまり肺、腎、脾が弱ると喘息は当然として便秘、不妊、免疫不全、アトピー性皮膚炎、糖尿病…等にもなりかねない。 “瓊玉膏”(けいぎょくこう)は脾、肺、腎を補いますので前出の疾患に良く使います。又、認知症の予防薬にもなります。もう亡くなられて10数年になりますが、100歳以上生きられた双子姉妹のきんさん、ぎんさんも服用されていたと聞いております。

 

 話は変わりますが師走の季節になるとノロウイルス(Norwalk Virus)やB型ウイルスによる下痢が流行ってきます。中でも足が冷えて、上半身が熱く感じられ頭痛、鼻閉、肩こりを伴った胃腸型感冒も多く見られる様になります。  例えば、平常、冷えによる膀胱炎を繰り返す女性が、たまたま寒い環境に遭遇した際(冬の告別式や体育館での説明会等)には、いつも決まった様に、下腹部に不快症状を覚える膀胱炎を発症します。冷えに拠るものなので治療は温めて治さなければなりません。

 

 その膀胱炎症状に引き続き頭痛、肩こりが始まり、その数時間後に下痢を発症してしまった50歳代の患者さんがおられました。こういった事例では “冷え”に関する概念が乏しい西洋医学では、上手く適確に治す事は難しいと思います。陰陽学説を重んじる漢方医学では“冷え”を重要な「病因」と捉えるが為に、上手く適確に治す事が出来ます。漢方の常識では、風邪に伴う下痢には先ず葛根湯や五苓散を考えますが、こういった陰虚証(冷え症で虚弱体質の事。中医学の陰虚とは違います)の人には葛根湯、五苓散は使い切れません。寒い環境でひいた風邪状態(寒気、頭痛、鼻水等)を「表寒」と言います。又陰虚症の人は往々にして脾(消化吸収)が弱く、水を捌く力が弱いが為に、体内に“湿”(生体に不必要な水)を生じている事が多い。表寒(外因)と体内の湿(内因)が原因で胃腸型感冒を発症したものと弁証する事が出来ます。この内外の病因を取り除く処方である五積散が良く効いてくれました。エキス剤で無く本物の散剤の五積散を使った事も著効を得た理由であろう。

 

 端を更め、最近の話題を書いて見たいと思います。レアアースと同様天然資源である薬草の産出国と先進国との利益配分を如何にするかがCOP10で議論されましたが生物の多様性の観点から見ても重要な論点であることは当然である。南アフリカのペラルゴニウム シドイデスと言う薬草はドイツで風邪薬として製品化され(ドイツでは化学薬品である医薬品離れが根底にある)、売り上げを伸ばしており、その結果南アフリカのペラルゴニウムが枯渇してしまっているとの事である。原産国の資源で先進国企業が莫大な利益を上げており、利益の還元を原産国が要求するのは当然と言えば当然であろう。国際世論はバイオパイラシー(海賊行為)を許さないし、一方で絶滅種を増やさない為にもなるのである。

 

 中国からの輸入に頼っている日本の生薬の現状を見た時、中国からの輸入資源である漢方薬の将来に危機感を覚えておりましたが、日本で消費する薬草の半分以上を自給しようとする動きが経済界、国から起こって来ているとの最近の新聞記事を見て、ホットしている今日この頃である。

 (大津市薬会報 2011年1月号掲載)

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