8月, 2009年
21号 漢方の風 ー東洋医学的「胃」と「脾」について(出血、倦怠感、子宮脱、多汗)
☆胃と脾…胃は受納と腐熟を主り、脾は運化を主る。更に胃は降濁を主り、脾は升精を主る。 胃気の正常な働きは“降”(下方)作用で有り、この働きが、逆に上に向いた(升)時に、 吃逆(しゃっくり)、噫気(げっぷ)や胃液が逆流したり、咽喉が詰ったりする。人によっ ては、咳が出ることもある。 ……半夏厚朴湯で治療する。
脾の正常な働きは“升”(上方)であり、失調して下に向いた時に下痢や胃が痞えたり、 延いては貧血、痩削(体重減少)を引き起こす。 ……六君子湯で治療する。
☆脾は生命活動の維持に必要な物質の産生と供給を行う⇒「後天の本」と言う。 ※脾の働き (1)正常な脾の働きにより気・血・津液(水)が十分に作られると 気の固摂作用によって血管壁が丈夫になり、血液がもれずに 循行する(脾が弱いと不正出血、歯茎の出血等の原因になる) (2)脾は肌肉・四肢を主る …四肢、体幹、内臓の横紋筋・平滑筋を栄養する。 (脾が弱いと倦怠感、疲れ、手足のだるさを引き起こす)
☆胃と脾の働きを含めた消化吸収機能全般を「中気」と言う。(例 補中益気湯)
☆気虚の主な症状:元気がない、疲れ易い、言語に力がない、汗をかき易い、息切れ、 舌質が淡白、胖大、脈は無力等。 脾胃に気虚が起こると(気虚の中心)…疲れ易い、四肢がだるい、食欲不振、腹満、下痢、 便秘、内臓下重、子宮脱、脱肛、等を引き起こす。
☆気虚の治方を補気(益気)と言う。 人参・黄耆・炙甘草等の補気薬と白朮・茯苓・山薬等の補脾薬を使用する。
☆四君子湯<和剤局方>…人参4g、白朮4g、茯苓4g、(炙)甘草1g (1)脾胃気虚を治す:症状は上記の気虚とほぼ同じ。 (2)治方を補気健脾と言う。
☆六君子湯は、二陳湯と四君子湯の合方である。
☆二陳湯<和剤局方>…半夏5g、陳皮4g、茯苓5g、炙甘草1g、干生姜1g (1)肺胃の痰湿の改善:白色で多量の喀痰、咳嗽、口が粘る、悪心、 嘔吐。時にめまい感、動悸、不眠等もともなう事がある。(治方を燥湿化痰と言う) (2)二陳湯の組成…(小半夏加茯苓湯に陳皮と甘草が加わった物):半夏、生姜、茯苓 (痰 飲による胃気上逆乃ち悪心・嘔吐・吃逆を治す)と陳皮、炙甘草 (肺の痰湿による咳嗽・ 喀痰を治す)により構成されている。
☆六君子湯<和剤局方>のまとめ…人参、白朮、茯苓、炙甘草、半夏、陳皮、生姜、大棗 (1)四君子湯と二陳湯との合方 (2)脾胃気虚の症候に痰湿or症候(*)をともなうもの *(悪心、嘔吐、呑酸、上腹部のつかえ、水様便、痰、咳嗽) (3)臨床の眼 心下部の痞え、食欲不振、疲れ易く、貧血気味、冷え性の者が多い。 胃炎、胃下垂、胃アトニー等に用いられ、消化不良、胃癌、悪阻、 神経衰弱、胃腸型感冒、老人の体力低下の改善、潰瘍性大腸炎に用いられる。 胃内停水、腹が軟弱、脈も弱い、全体に虚証の者を目標とする。 (4)胃癌で、胃除去術後、吃逆が止まらない →六君子湯加旋覆花
☆補中益気湯<弁惑論>…人参、白朮、黄耆、当帰、陳皮、大棗、生姜、炙甘草、柴胡、升麻 (1)虚証の疲労負担を補益する。(気虚に用いる) (2)結核、夏痩せ、病後の疲労、虚弱体質改善、食欲不振、虚弱者の感冒、 脱肛、痔疾、子宮脱、胃下垂、多汗症、遊走腎、ヘルニア等に用いられる。 食後眠くなる、手足がだるい、息切れ、頭がボーっとする等を目標にすると良い。 (3)脾胃気虚をともなう、出血傾向に用いる。(皮下出血、歯茎の出血、月経過多等) (4)舌質は淡紅・淡白 (5)目標は…、 1)手足の倦怠感、2)言語が軽微、3)眼に力がない、4)口内に白沫が出る、 5)食の味がなくなる、6)熱い物を好む、7)臍辺りの動悸、8)脈は散大で力がない の内1ー2症状あれば良いと書かれている (津田玄仙) 散大の脈とは、浮いていて散乱している脈。押さえると漸次消えて行く。 (6)黄耆 本草備要:気ヲ補ヒ 表ヲ固ム。 汗無キハ能ク発シ、汗有ルハ能ク止ム。 荒木正胤:肌表の水毒をとる。皮フの水疱、麻痺、疼痛を取り、 元気を増し、黄汗を治す。 痛みが一ヶ所に集った様に痛い事、夕方から夜が更けない内は、 手足を動かし回し、苦しがってねむれない。これを黄汗という。 胸がふさがって食べられなくて、その胸のふさがった所がつまった 様に痛くて、夕方から宵のうちは、非常に苦しがって眠れない。 (7)癌の放射線治療時の白血球減少に →補中益気湯加鶏血藤を使用すると白血球数が上昇する。
(大津市薬会報 2009年 8月号掲載)