アトピー性皮膚炎・滋賀県・漢方薬 | なかがわ漢方堂薬局

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漢方の風音 13号 インポテンツとNOと漢方薬

2022-01-12

漢方塾 1,脳卒中・心筋梗塞などの動脈硬化の原因と予防
    2,ED:Erectile Dysfunction (勃起不全)の漢方治療の一端

なかがわ漢方堂薬局 中川義雄

血管の構造は  ①血管外膜
        ②血管中膜
        ③平滑筋
        ④血管内皮(内皮下組織・内皮細胞)

の4層構造から成り立っています。そして血管に柔軟性があって拡張しやすい事は動脈硬化を予防することに繋がっている。血管の柔軟性は一酸化窒素(NO:Nitric Oxide)が重要な働きをしています。NOは“ノー”と発音せず“エヌオー”と発音する事は薬剤師の常識ですが、NOは血管内の平滑筋に作用して弛緩させ、血管を広げています。通常、血管内の血流が早くなると一番内側の内皮細胞によってNOが産生され、その結果平滑筋が弛緩して血管が広がる仕組みになっている。従って内皮細胞が衰えると柔軟性を保てなくなり、脳卒中や心筋梗塞などの動脈硬化と言った重篤な疾患を引き起こしやすくなる訳です。内皮細胞の機能低下を起こす原因は老化、高血糖、喫煙などである。
通常、血管が傷ついた時は止血するために血小板が集まって血栓が作られる。しかし、NOがあるとNOがその傷ついた血管を修復してくれるので血栓が作られずにすむ。その結果、血流はスムーズになる。所が、NOは酸化しやすい性質がありそれを防ぐ為には抗酸化物質を豊富に含んだ食材を摂取することが大切である。ビタミンA、C、E(ACE:エースと覚える)やポリフェノールなどが抗酸化作用を発揮する。具体的な食材としては人参、ブロッコリー、カボチャ、小松菜、パプリカ、大葉、アーモンドなどが有ります。私事ですが私は癌を罹患してから星野式ゲルマン療法や済陽(わたよう)式食事療法を参考に上記の食材を毎日食べるようにしていますが、それは同時にNOの酸化も防いでいる訳である。更に、私は癌に対して皮の付いたリンゴとトマト、舞茸も1日2回必ず食べるようにしています。

話を元に戻しますが、体の中でNOを作るにはアルギニンとシトルリンと呼ばれるアミノ酸が必要とされています。そこでアルギニンを多く摂取するには魚や赤みの肉、鶏肉、大豆、豆類などの良性蛋白質やナッツ類を食する事が大切です。但し、肉については肉に付き物の飽和脂肪酸がNOを作る組織を傷つけるので摂りすぎには注意が必要です。

端を更め、ここからはNOの血管拡張作用に関わるED(勃起不全)について書いてみたいと思います。過去に経験したEDに対して漢方薬を使った著効例を書いてみたいと思いますが、その前にペニスの勃起の作用機序を理解しなければなりません。ペニスの内部構造は海綿体と言う極めて細い血管の集合体で出来ている。通常、この海綿体へ繋がる陰茎深動脈と言う血管は緊張した状態になっており、海綿体には必要最低限の血液のみが流れるようになっている。脳が性的な興奮を覚えると陰茎深動脈内皮細胞からNOが放出され、血流を抑えていた平滑筋が弛緩して海綿体に血液が流れ込みペニスが膨張し勃起する仕組みになっている。

10数年前、EDで悩む決して心身が弱っているようには見えない20代後半の男性が相談に来られた。そこで、問診をすると心下痞硬(鳩(みずおちぶ)尾部が硬い)があって時に下痢をする事がわかった。又、口内炎を度々発症する事も確認出来たので「半夏瀉心湯証」と見なし半夏瀉心湯を勧めた。

EDにこの処方を選んだ理由は私が漢方医学初心者だったころ、漢方の大家(先生のお名前が思い出せません)が書かれたEDに対しての半夏瀉心湯の効果の《口訣》を覚えていたからである。精力増強する薬草を使わず半夏瀉心湯でEDを改善した経験は漢方医学的に“証”(体質)を見極める事の大切さを体現した。このことで「方証(ほうしょう)相対(そうたい)」「察証(さつしょう)弁(べん)治(ち)」的治療が漢方医学ではとても大切である事を改めて思い知った。

黄芩、人参、黄耆は血管内皮細胞のNO産生を誘導する事が実験で証明されている。使用した半夏瀉心湯には人参と黄芩が入っているのである。 以下は私の想像ですが、恐らく腸管内に存在するある種の腐敗菌が間接的にNO産生を阻害しており、半夏瀉心湯は腸管内の腐敗菌を減少させ、常在菌の発酵を促進して間接的にNO産生を正常にしているのだろうと思っている。この患者さんは心下痞硬が取れてお腹の状態も改善した事は言うまでもない。

参考までにその他のEDに対する口訣では炙甘草湯が良いと言うのもありました。

EDは

  1. 機能性(心因性)勃起障害…器質的には正常であるが精神的ストレスが係わっている為に勃起しない場合。
  2. 器質的勃起障害…老化や強い肉体疲労やある種の疾患に罹患して腎精(腎精とは腎に蓄えられた精微物質で骨格や知力の成長発育に欠かせない物質で性機能にも関わっている)を消耗してしまった時や手術などにより勃起神経を損傷した時、などによって勃起しない場合があります。

そこで、中医学的弁証は…
“肝”は気と血(けつ)の流れをコントロールしており精神的ストレスが加わると肝気が鬱滞して気血の流れが悪くなる。つまり精神的ストレスを受けると陰茎への気と血の流入が悪くなりEDになるのである。この機能性勃起障害を改善するには気の流れを良くし血流を改善する理気薬(柴胡、香附子、陳皮、枳実、半夏など)が効を奏す。又、一たび、勃起不全を経験するとその後も失敗するのではないか…と不安感が脳を支配し、又もや勃起不全を引き起こす。そういった不安感を解決してEDを改善するには“精”と“気血”を補う補気血薬(鹿茸、人参、黄耆、炙甘草、地黄、当帰、阿膠、竜眼肉、酸棗仁等)と不安感を取り除く安紳薬(竜骨、牡蛎、酸棗仁、竜眼肉など)を併用すると良い。

シンガポール、台湾、中国の福建省あたりを旅行すると竜眼肉(中国語でロンイェンロウと発音する)が空港の土産物店で沢山売っている。私もお土産で頂いた事があります。薄い殻を割ると中に球形の果肉が入っている。台湾人や中国人は大棗(ナツメ)と同様におやつ代わりによく食べる。つまり普段から大棗で脾を補い補気して、竜眼肉で血を補いながら安紳薬を摂取しているのである。

 

32号 漢方の風 ー陰陽学説から見た流産癖、ひざ痛

2013-01-25

 漢方医学は陰陽学説的弁証法を拠りどころとしている。古代中国人が生活の中で自然現象を長きに亘って観察し、宇宙間の全ての変化を解き明かした思考システムである。全ての事物には相対する陰と陽が存在しており、その陰と陽が相俟って(相互作用して)その事物の運動、変化、発展の原動力になっているとしている。陰と陽は夫々単独では存在する事が出来なく、陰陽は夫々相手の存在を自分の拠り所としている。乃ち上が有っての下であり、上が無ければ下が無い。熱は陽であり寒は陰であり、寒が無ければ熱を論じる事が出来ないといった具合である。つまり陰と陽は夫々単独では存在する事が出来ないのである。  宇宙は陰と陽の相互作用で成り立っている。又、漢方医学では人体を小宇宙として捉え、人体も陰陽のバランスで成り立っているとしている。そして、更に小宇宙である人体は大宇宙の中にバランス良く存在している事も大切としている。  この陰と陽は漢方治療においては絶対である。小宇宙である人体には陽である“気”(目に見えない)と、陰である“血”(目に見える)が存在し、気が血(物質)を生じ血(物質)が気を生じている。言い換えると色不異空(しきふいくう)、空不異色(くうふいしき)、色即是空(しきそくぜくう)、空即是色(くうそくぜしき)と通じる所がある。それ故、物質(色、陰)だけを論じても駄目なのである。物質である陰を生じるには陽が必要だからである。

 

 最近、ひざ痛に良いとしてグルコサミン、コンドロイチン、コラーゲン等のCMが様々な媒体で目にしたり耳にしたりします。又整形外科ではコラーゲンの注入が良く行われています。どちらも軟骨を作るが為の物質であり行為である。これらでひざ痛が楽になった方は沢山おられますが、効果がない方もおられます。色(しき)である物質(グルコサミン、コンドロイチン、コラーゲン等)を軟骨にする為のある種の気の力(作用)が働いているが為に軟骨は作られているのであり、若しこのある種の気の力(作用)が弱っているひざ痛の人にはコラーゲンを注入しても効果は少ない。前述のひざ痛が治まった人達はラッキーにも未だ気の力が残っていた人達である。漢方処方としては独活寄生丸を用いると良い。

 

 流産を繰り返すAさんは、精神的にも肉体的にも弱っておられた。子供が欲しいが、又、流産してしまう不安感で途方にくれておられた。不妊ではなく妊娠を持続する事が出来ないのである。そこで当薬局へ相談に来られたのである。現代医学的治療ではアスピリンやヘパリンで胎盤の血流をよくする治療法や夫のリンパ球の免疫療法が行われている。更にステロイドであるプレドニン療法もある。一方、漢方医学的見立て、乃ち“未病を治す”観点からすると不安感を持っておられるAさんは再度妊娠しても、今まで以上に妊娠を持続する気の力は減じており、再度流産する可能性は大きいと言っても過言ではない。体力の減衰も見られるが、精神の減衰が著しく、不安感を持つ事が妊娠を持続する気の力を萎えさせると考える事が出来るからである。漢方薬としては気を益す為に四君子湯の方意を持たせ、血を補う為に四物湯の方意を持たせ、流産を繰り返した気の落ち込みを取る為に逍遥散と香附子を主処方に組み立てて服用して頂いた所、たちまち妊娠して、無事、超安産で元気な赤ちゃんを出産された。陰と陽をバランス良く補った結果である。

 

 大宇宙である環境に小宇宙である人体が生きる。乃ち「人にやさしく自然に溶け込む」…が私(なかがわ漢方堂薬局)のモットーである。

(大津市薬会報 2013年1月号掲載)

31号 漢方の風 ー不眠、不安感、頭のふらつき

2012-07-05

 平成24年6月17日のY新聞にベンゾジアゼピン系薬剤である抗不安薬・睡眠薬により薬物依存に陥る危険性の事、又ベンゾジアゼピン系薬剤(以下BZ※)の服薬中止や減薬の際に現れた場合の離脱症状を減らす「やめ方」に関する記事が書かれていた。この記事を読み、ごく最近まで「止め方」のマニュアル、指針が無かった事を知った患者さん達は、さぞかし憤慨されておられる事でしょう。その主な離脱症状は更なる不安増大、イライラ、集中力低下、頭痛、吐き気などの精神、身体両面(※)に現れる。驚いたことに、日本での人口1000人当たりの使用量は米国の6倍にのぼると国連の国際麻薬統制委員会が2010年に報告していると書かれている。欧米では薬物依存を防ぐ為に使用を4週間以内に抑えるのが一般的とされている。日本の現実を見ると数年単位で服用しておられる患者さんが多数おられます。又、話は逸れますが、ずっと以前、大津市薬剤師会の講演で医師のT先生がBZ系薬剤の長期服用による認知症発症の危険性を話された事は記憶に新しい(動物実験で)。

 

 Y新聞の記事では、Tさん(40歳)は人前の過度の緊張、発汗の改善を目的として、BZ系薬剤(ソラナックス)を1日の最大量を4年半服み続けたが効果が無く、主治医の指導のもと半分に減薬した所、日光が異常に眩しい、暗闇でチカチカした光が見える、白内障、入眠時ミオクローヌス等の離脱症状が現れ、ベンゾジアゼピン離脱症候群と診断されたと書かれている。最近、BZ系薬剤の止め方の手順が英国のヘザーアシュトン教授によって「アシュトンマニュアル」としてインターネット上で読むことが出来る様になった。日本語のこの指針は、“正しい治療と薬の情報誌”に、この7月に記載される予定(平成24年6月に原稿を書いています)との事である。又、BZ以外で同様の影響を及ぼす薬剤もあると書かれている(デパス、マイスリー、アモバン)。  私の記憶ではBZ剤は今から44年前、私が薬剤師になった頃には既に上市されていたと記憶しております。この指針は遅きに失した感が否めません。このBZ系薬剤を処方された患者さんに接遇した時、「こんなに長く服んでも、大丈夫ですか?」と質問を受けた薬剤師は恐らく全員ではないでしょうか…。  当薬局にも、この不安感、フラツキを訴える患者さんが頓に増えていますが、漢方処方を決めるに困窮することが多い。五臓を見亘し、乃ち心、肝、脾を弁証し更に腎、肺と考えていきます。虚陽が昇り神(心)を冒すと桂枝加竜骨牡蠣湯で重鎮安神する。実証には柴胡加竜骨牡蠣湯を考える。心と脾を考えた時は帰脾湯を、脾と痰濁上擾を考えた時は(竹茹)温胆湯を、脾と腎を考えた時は苓桂甘棗湯を、…他、と言った具合です。

 

 最近、K社からこの苓桂甘棗湯のエキス剤が上市された。苓桂甘棗湯は「汗を発して後、其の人臍下悸する者は奔豚(ほんとん)をなさんと欲す」と傷寒論に記載されている。奔豚病は猪が突進するかのように下腹部から動悸が始まりやがて胸から咽まで衝き上がってきて、今にも心臓が止まりそうと悶え苦しむ。嘔吐、ヒステリー、神経症、下腹部痛、胃液分泌過多、尿利減少、便秘、癲癇様症状等を同時に惹き起こす事が多い。当然、耳鳴りやフラツキを同時に惹き起こし、不安感を併発する事もあるでしょう。  これは腎の孤陽が上衝した結果発症するものと考える事が出来る。乃ち脾の働きを高めて(大棗、甘草)、陰精を作り、又、茯苓で心気を高めてその陰精を運び、上衝の邪を鎮め、桂皮で上衝の気を降ろし抗不安作用を発揮します。

 

 私が平成元年に漢方薬局を始めて、間もなく、この奔豚病で苦しんでいる40歳代の男の患者さんが来店されました。腹部の動悸と不安感で困窮されておられるとの事であった。赤ら顔で、腹部の動悸を強調されておられました。Doctor Shoppingを繰り返し、その苦しみを訴えても、なかなか理解してもらえないもどかしさが病態を更に悪くしている様に思えた。当時、エキス剤が無く煎じ薬で対応しました。この腹部の動悸を抑える為にβブロッカーを投薬され、Depression様症状に陥った患者さんを数人見てきました。心の気を抑える事になり、精神作用に悪影響を及ぼした為であろうと私なりに考えております。その際、服用を中止したものの、元の精神閾値に戻る可逆性は実に時間がかかる様に思っています。これらを見て、漢方医学で言う所の「心は神なり」を実感します。  他の処方では、心陰の不足と脾虚による不安感には、甘草と大棗と浮小麦で脾気を高めて生津し、心陰を補って不安感や悲哀感(漢方医学では臓躁と言います)をなくすものも有ります。  K社さんの苓桂甘棗湯が上市され、奔豚の病の患者さんの不安感、フラツキに対処出来る手立てが増えた事は私に安心感を与えてくれます。

※ BZ系薬剤…ソラナックス、コンスタン、レキソタン、マイスタン、リボトリール、ランドセン、セルシン、ワイパックス、ドラール、ベンザリン、ハルシオン、ユーロジン

※ 他の身体症状…筋硬直、疲労感、眼痛、耳鳴り、嗅覚異常、月経異常 、等

※ 他の精神症状…不眠、幻覚、パニック発作、抑鬱、強迫観念、等

(大津市薬会報 2012年7月号掲載)

30号 漢方の風 ーアトピー性皮膚炎の根治療法

2012-01-12

 比叡山延暦寺の根本中堂は織田信長の焼き討ち後、徳川家光により1642年に再建された。根本中堂を支える76本の柱は全て直径67cmに統一されていると新聞記事で読んだ。使われている木材は欅(けやき)だそうですが、腐朽し易い材芯を避けるが為に直径2mの欅を縦に4分割して夫々を1本の柱としている可能性があるらしい。つまり1本の木から4本の柱を作っている。耐用年数は800年で、築後約310年の1955年に腐朽した部分を取り除き、「根継ぎ」の技法で修理が行われている。耐用期限の800年後(西暦2400年頃)には、確実に木材の調達は不可能である(日本では伐採が祟って、多くの神社仏閣の大柱を海外から調達しているのが現状である)。そこで延暦寺は遠い先を見て10年前から比叡山中に欅を育てている。(無事育つ確率は10%だそうです)。又、創建時、檜(ひのき)の調達が難しかったが為に止む無く欅を使ったとも云われている。調査研究で腐朽の一番の原因は木の乾燥が充分で無かった為と考えられている。

 

 奇跡的に大空襲による焼失から逃れた姫路城の昭和の大改築は1955年から行われた。その2年前からの調査で天守閣を支えている東西の2本の大柱が夫々東南に50数cmずれている事が判明した。更に調査でその一本の西の大柱が芯から腐朽しており、継ぎ足しもまま成らない状況で再利用が出来ない事が判明し、直径1m以上長さ20数mの檜を探すことになった。やっとの事で木曽の山中で見つけたものの、切り出す途中で折れてしまい、工事は中断した。暫くして、同じ木曽の山中で2本目の檜を見つけ、山林鉄道で搬送途中、崖の所で重さに耐えられなくて、16mの所で折れてしまい、その先の部分(約11m)は谷底に落ちてしまった。その時の事故の場面はNHKのドキュメント放送でも捉えていた。結局、その残った16mの檜に姫路近郊の神社の境内の檜を継ぎ足して(木組みして)西の大柱として、無事、大天主は改築されたのである。

 

 延暦寺の根本中堂の柱は腐朽し易い芯を避けるが為に4分割したもので、姫路城の西の大柱も芯から腐朽が始まっており、漢方医学から見て、アトピー性皮膚炎の原因と通じる所がある。つまりアトピー性皮膚炎も体内、若しくは皮下の「湿」がそもそもの元凶であるからである。ステロイド剤は体内に湿を貯め込むが故にあとあと様々な問題を惹起するのである。しかし乍ら素早く炎症や痒みを抑える即効性があるのでそれを使用する有用性はある。その場合も湿を溜め込まない為に、未病を治す意味も含めて漢方薬を利用すると良いのは自明の理であろう。かと言って、なかがわ漢方堂では大半の患者様にステロイド剤は極力避けて頂いております。

 

 体内の湿(湿熱)を如何に取るかがアトピー性皮膚炎の漢方治療なのですが、その一方、痒みは心の火(厥陰心包経)を冷ます事で治療出来ます。詳しくは“漢方の風”28号をお読み下さい。甘い食べものは糖質(炭水化物)で細胞内のミトコンドリアのTCAサイクルで炭酸ガスと水に分解される。乃ち、湿を発生する。甘さのおっかけっこをしている現代社会の犠牲者が、つまりアトピー性皮膚炎や糖尿病の患者様である。

 

 湿(水)は様々な問題を惹き起こす。関節部位に溜まると関節炎になる。膝痛、腰痛、五十肩には防已黄耆湯、越婢加朮湯、疎経活血湯、ヨクイニン等で湿を取り除く。脳の網様体の湿(頭重、眩暈、耳鳴り、他)には半夏白朮天麻湯、温胆湯、当帰芍薬散、他から撰用する。産婦人科領域では、多嚢胞性卵巣も湿が絡んでいる。

 

 昔から石や鉄を多用せず木を使う日本の建築様式に係る人は木の特性を熟知している。木材の一番の敵は内外の湿である。東洋医学も又、湿は邪となり得ると捉えている。木も人間も自然の中に存在しており湿とのせめぎ合いの中で健やかさを保っている。

(大津市薬会報 2012年1月号掲載)

29号 漢方の風 ー鬱症状を伴う不安感。化膿性体質(術後の膿が止まらない)。

2011-09-12

 薬学部が6年制になり、5ヶ月の学外実習が義務付けられた。更に全国的に新しく薬学部が増設され、各学校では新入学の学生の取り込みに危機感が見られる。そこで各学校は法定の学外実習の他に特色のあるカリキュラムを既に組み入れている所もあり、又これから取り組もうとしている学校もあると聞いている。

 

医師と対等に向き合える様にする為の仮想実習や海外留学、更には特化した漢方医学を取り入れた講座等がそれである。我々4年制で学士を取り薬剤師になった者としては何処となく気後れ感はあるが、足りない2年の勉学期間を補うに余りある独自の卒後教育を実践して来たと言う自負心は有ります。取り分け大津市薬剤師会は多方面に活動し医療や福祉、教育に参画し、又会員の学力向上の為に研修会を実施して来ました。私も在宅医療部の理事を担当した時には、当時、薬剤師の在宅医療の係りが叫ばれ、在宅医療制度は勿論の事として、輸液の投与の仕方から内容迄も多くの本を読み勉強しました。又、独自の在宅患者さん専用の薬歴表も作成しました(田村先生の協力を得ながら…)。その薬歴表は滋賀県薬剤師会の他支部から、使用の申し入れが有り、今も使っておられる所もあると聞いております。又当時の会長である隠岐先生の指示もあって20万円の予算(滋賀県の医薬分業促進費)を頂き、瀬田地区の医薬分業に腐心した。全歯科医院への院外処方の働きから始め、分業をしていない開業医を講師に招き勉強会も実施した。更に思いついたのが当時、分業先進地区の長野県の上田地区が作成していた保険薬局のマップの瀬田地区版である。滋賀県では当時作成している所がなく、薬務課の分業担当官はそのマップを他の地区に見本として使用されたと聞いております。思い起こすと勉強始め様々な活動をして来た。

 

医薬分業が常態化した昨今、チーム医療の一員として医師や看護師さんとの、又患者さんとのコミュニケーションの重要性が叫ばれておりますが、うまくコミュニケート出来ていない現状が見て取れます。その為か、学校でも接遇のカリキュラムが組まれている様に聞いております。今から10数年前になりますが大津市薬剤師会の月例研修会で“接遇”の勉強会を行った事がありますが、大津市薬剤師会では既に問題意識を持ち、取り組んで来た経緯も有ります。 長らく市薬ニュースの原稿を書かせて頂いておりますが、特化した漢方医学を学んで卒業してくる薬剤師が現場に入った時に違和感を感じさせない為に、少しでもお役に立てればと思って居ります。

 

 今日は朝から、時間が取れたので急遽原稿を書いておりますが、午後からの予約のご相談内容は、一人目の方はふらつき、倦怠感を伴う不安感をお持ちの方。二人目はアトピー性皮膚炎。三人目は智歯抜歯後のトラブル(切開周囲部からの膿が止まらない)。四人目は早期(39才)に閉経に向かっていると診断された方である。一人目の不安感でお困りの40歳台の女性はパートタイムで仕事をされておられます。顔は赤ら顔で、かといって赤々している訳ではなく力のない赤さである。精神が不安定であるので重鎮安神作用の竜骨・牡蠣が配合されていて、更に気の上衝(浮陽と考えて)に効果のある桂枝加竜骨牡蠣湯を第一に、又生理周期の遅れが有り、気鬱が係っていると考え加味逍遥散を第2処方として交互に投薬しました。

 

3人目の智歯抜歯後のトラブルの方は、先ず望診(最初に見た第一印象、皮膚の色、艶等)から、脾の弱さが診てとれ、バクテリアに対する抗病力の弱さが有り、更に肉芽の形成力の弱さが有ると弁証出来ました。そこで小建中湯に黄耆末を加え、小柴胡湯との併服としました。乃ち内托(体力をつけて抗病力を増す方法)しながら炎症を取ろうと考えた訳である。この患者さんは智歯の切開術の前に内托しておけばこう言う事態にはなっていなかったと言えます。漢方医学が「未病を治す」と言われる所以である。同様に癌と診断され3大治療(摘出術、抗ガン剤の投与、放射線療法)を行う前に適切な漢方処方を服用しておくのも大切であろう…。因みに膿が止まらないその他の疾患(乳腺炎、副鼻腔炎、痔漏、面皰等)の治療には、十味敗毒散、排膿散及湯、荊防敗毒散、葛根湯加桔梗石膏、小柴胡湯加桔梗石膏を使い分ければ良い。

(大津市薬会報 2011年9月号掲載)

27号 漢方の風 ー膀胱炎・胃腸炎(風邪に伴う下痢)

2011-01-17

数年前、中国の養蜂家の番組の終わり部分を垣間見て、番組の冒頭から見落とした事を残念に思った事が有りました。所が、過日、BSで再放送がある事を知り、あらためて番組の最初から見る事が出き、数年来の望みが叶えられました。中国の西北部、新彊ウイグル地区から望む天山の高地で採取される天山山花蜜(糖度が高く薬草の香りが人気の蜂蜜で、高値で売買される)を中国の東部地区からミツバチと共に6000kmを移動して(中国を東から西まで縦断する)採取に出かける養蜂家親子のドキュメンタリー番組である。一口で6000kmと言っても凄まじい長行路である。予定を遅れて天山に到着した時には蜜蜂は半分が死んでしまっていた。それ程過酷な道のりである。仕事として立ち向かう親子のエネルギッシュで前向きな姿を見て私は何かを与えられました。

 

 12炭糖の花蜜を外勤蜂が蜜箱に持ち帰りそれを内勤蜂が自らの酵素で6炭糖に分解し6角形の巣房に溜め込み蝋で蓋をして熟成する。中学で習った12炭糖の分解、つまりショー(蔗糖)ニュー(乳糖)バク(麦芽糖)、ブカ(ブドウ糖と果糖) ブガ(ブドウ糖とガラクトース) ブーブー(ブドウ糖とブドウ糖)を思い出したり、中国人気質が理解出来たり、弱った蜜蜂に花粉を与えると元気を取り戻す…つまり、人間の前立腺肥大に花粉が奏効するヒントを呉れたり、蜜蜂にはイタリア蜂と黒蜂(北ヨーロッパに多い)がいる事、巣箱内の温度が35℃以上に上がらない様に巣箱の入口の間隙で羽ばたいて空気を巣箱内に送り込んだり等、興味一杯で見入りました。蜂蜜の元である天山高地の花は6月頃から開花し始める。防風、大黄、薄荷、つる人参等約10種類の薬草の花々である。一度、天山山花蜜を味わってみたいものです。

 

 蜂蜜を使った漢方薬に「東医宝鑑」に記載されている“瓊玉膏”(けいぎょくこう;蜂蜜、地黄、麦門冬、天門冬、地骨皮、人参、茯苓)があります。舐剤(しざい)と言って、なめる薬なのですが、蜂蜜と練り合わせていますので甘くて、脾が弱い人でも結構服用出来ます。瓊玉膏は東洋医学でいう所の脾、肺、腎を目標にします。

 

 高温多湿時に食欲が落ちることを良く経験しますが、これは湿気が脾胃を犯すためであり、手足がだるくなり、疲れて気力が落ちて来ます。それがすすむと手足が火照って喉が渇き、水分を取りたくなります。すると胃液が薄くなり消化が悪くなり食欲が落ちるといった悪循環になります。その結果多方面に悪影響が出てきます。ちょっとややこしい話に成りますが。胃腸で営養(漢方では営養と書きます)化された精微物質は多方面に供されますが余った精微物質は腎に貯えられます。だから脾胃が弱ると腎まで影響してきます。つまり腎陰虚になります。喉が渇き、手足が火照って来ます。勿論、脾胃の営養は真っ先に肺にも行きますので、その肺も陰虚になります。肺が弱ると風邪をひき易くなり、全身に営養を送れなくなり、尿の出が悪くなり、皮膚がくすんで艶が無くなります。更に肺陰虚がすすむと咳が止まらなくなり更に悪化すると痰に血が混じってきます。つまり肺、腎、脾が弱ると喘息は当然として便秘、不妊、免疫不全、アトピー性皮膚炎、糖尿病…等にもなりかねない。 “瓊玉膏”(けいぎょくこう)は脾、肺、腎を補いますので前出の疾患に良く使います。又、認知症の予防薬にもなります。もう亡くなられて10数年になりますが、100歳以上生きられた双子姉妹のきんさん、ぎんさんも服用されていたと聞いております。

 

 話は変わりますが師走の季節になるとノロウイルス(Norwalk Virus)やB型ウイルスによる下痢が流行ってきます。中でも足が冷えて、上半身が熱く感じられ頭痛、鼻閉、肩こりを伴った胃腸型感冒も多く見られる様になります。  例えば、平常、冷えによる膀胱炎を繰り返す女性が、たまたま寒い環境に遭遇した際(冬の告別式や体育館での説明会等)には、いつも決まった様に、下腹部に不快症状を覚える膀胱炎を発症します。冷えに拠るものなので治療は温めて治さなければなりません。

 

 その膀胱炎症状に引き続き頭痛、肩こりが始まり、その数時間後に下痢を発症してしまった50歳代の患者さんがおられました。こういった事例では “冷え”に関する概念が乏しい西洋医学では、上手く適確に治す事は難しいと思います。陰陽学説を重んじる漢方医学では“冷え”を重要な「病因」と捉えるが為に、上手く適確に治す事が出来ます。漢方の常識では、風邪に伴う下痢には先ず葛根湯や五苓散を考えますが、こういった陰虚証(冷え症で虚弱体質の事。中医学の陰虚とは違います)の人には葛根湯、五苓散は使い切れません。寒い環境でひいた風邪状態(寒気、頭痛、鼻水等)を「表寒」と言います。又陰虚症の人は往々にして脾(消化吸収)が弱く、水を捌く力が弱いが為に、体内に“湿”(生体に不必要な水)を生じている事が多い。表寒(外因)と体内の湿(内因)が原因で胃腸型感冒を発症したものと弁証する事が出来ます。この内外の病因を取り除く処方である五積散が良く効いてくれました。エキス剤で無く本物の散剤の五積散を使った事も著効を得た理由であろう。

 

 端を更め、最近の話題を書いて見たいと思います。レアアースと同様天然資源である薬草の産出国と先進国との利益配分を如何にするかがCOP10で議論されましたが生物の多様性の観点から見ても重要な論点であることは当然である。南アフリカのペラルゴニウム シドイデスと言う薬草はドイツで風邪薬として製品化され(ドイツでは化学薬品である医薬品離れが根底にある)、売り上げを伸ばしており、その結果南アフリカのペラルゴニウムが枯渇してしまっているとの事である。原産国の資源で先進国企業が莫大な利益を上げており、利益の還元を原産国が要求するのは当然と言えば当然であろう。国際世論はバイオパイラシー(海賊行為)を許さないし、一方で絶滅種を増やさない為にもなるのである。

 

 中国からの輸入に頼っている日本の生薬の現状を見た時、中国からの輸入資源である漢方薬の将来に危機感を覚えておりましたが、日本で消費する薬草の半分以上を自給しようとする動きが経済界、国から起こって来ているとの最近の新聞記事を見て、ホットしている今日この頃である。

 (大津市薬会報 2011年1月号掲載)

26号 漢方の風 ー痔、シミ、肌荒れ

2010-10-02

 ダイエット、美容に関するテレビや週刊誌の報道が、美を追求する女性を駆り立てる事は、枚挙に暇が有りません。少し以前には「黒豆」の騒動がありましたが、数ヶ月前の「紫根」の報道は数十年、薬局業務に携わって来た私の経験の中で、間違いなくトップクラスの問い合わせの件数と期間の長さが有りました。その訳は後で解ったのですが、「紫根化粧水」(紫根15gを300mlの水で煮つめ、濾して冷ますと出来上がり)がクスミやシミを防ぎ、シワ、タルミにも効果があるとの内容だったそうですが、後日、生薬問屋さんからその内容を聞いて、合点がいきました。私の所では紫根は、煎じ薬では使う事が有りませんので、正式には置いていません。と言うのも近医のドクターが痔の薬を製造する為に購入されるので置いてあるだけなのです。漢方相談をしている最中の紫根の問い合わせは、丁重にお断りするのに大変でした。故青木馨生先生からは、生薬の販売は薬草店に任せて、漢方処方薬の相談業務、即ち「証の決定」業務に徹しなさいと教えられて居りました。又、こういったマスコミの報道にはエビデンス(確固とした証)が無い事が殆どで、ほんまに効くんやろうか?と思いながら販売する事はセンセーショナルな報道に乗じて金銭欲を満たす事に他ならない。昔の近江商人は品物を良く吟味し自分が納得した物を仕入れ、「三方良し」の商いをして顧客の信用を得て財を為したと聞いております。生薬の問屋の担当者は当方の薬局の為に10袋確保して呉れていたとの事でしたが…。折角の担当者さんの配慮に申し訳なく思っております。

 

 その紫根を使った漢方薬の代表格は「紫雲膏」である。ひび、あかぎれ、火傷、痔核の疼痛やただれ、かぶれに使用します。成分は紫根の他に当帰、ゴマ油、蜜蝋、豚脂である。最近は、褥創に使われる事が多い。女性の外陰部のただれにお勧めして喜ばれた経験が有ります。因みに褥創には和剤局方に出典されている「神仙太乙膏(しんせんたいいつこう)」がお勧めです。  シミやクスミを改善するには、やはり漢方処方薬が一番良いと断言しても過言では無い。冷え性で貧血顔で小水の近い、頭が重く、腹痛を訴えたりする女性には、当帰芍薬散の原末を処方します。肩こり、背中のこり、痛みにも奏効します。若し便秘があれば煎じ薬にして、芍薬を増量して麻子仁や大黄を加えると良い。綺麗な肌になり、冷え性も改善します。一方冷えのぼせが有って、唇の血流が悪く、やや肉付きの良い、経血の色が比重の高さを思わせる様な女性には桂枝茯苓丸が良く効きます。ヨクイニンを加えると更に肌が綺麗になります。加味逍遥散もシミ、ソバカスに良く効きます。加味逍遥散の効く女性は漢方に熟練して来ると、顔、体型を一目見ただけで解ります。性格がきっちりしていて、片付け上手で、ちょっと考え過ぎタイプと言った所です。お通じが良くなり肌が綺麗になります。更に現代の女性に欠かせない処方に温経湯が有ります。お腹が冷えて、生理が不順で不正出血を起こし、肌の荒れている女性が目標です。温経湯の口訣に“婦人、年五十所ばかり(50歳前後)…半産を得て(過去に流産をして)…云々”と有りますが、最近はミニスカートやエアコン等の生活様式の為でしょうか、若い女性に温経湯証が多くおられます。美を追求する女性には、これらの処方は当に打って付けなのですが…。最近の女性は漢方薬には見向きもしません。

 

 話は変わりますが、紫根の配合されたOTC薬に○○○○○○内服薬が有ります。これは「痔」の内服薬なのですが、紫根の強心作用により、末梢の血液循環を良くして痔を改善するのであろう。私の専門である漢方薬では、やはり「乙字湯」が良く効きます。処方内容は単純なのですが(当帰、黄?、柴胡、升麻、大黄、甘草)、良く効きます。中でも柴胡、升麻がポイントなのです。それらの薬草を使った当帰建中湯加柴胡、升麻は冷え性で色白の方で痔核、脱肛の患者さんに長期に服用して頂きますと信じられない位大きな脱肛が治ります。他に柴胡、升麻の配剤された処方に補中益気湯がありますが、これも痔に良く使います。場合によっては乙字湯と併用しても良い。その他には、駆?血作用の桂枝茯苓丸も上手く使うと良いと思います。更に、痔の疼痛に、大塚敬節先生の著書に麻杏甘石湯が良いと書かれておりますが、その証があれば効く事は当然の事と思います。私は未だ使った事が有りませんが…。 過日、生前親しくさせて頂きました広瀬滋之先生が黄泉の国へ旅立たれました。先生の講演は度々拝聴させて頂き、多くの事を学ばさせて戴きました。先生の講演の中で、忘れられないのは麻杏甘石湯を処方したら、院外の薬局の薬剤師さんから、“先生この患者さんに接遇した所、喘息や空咳は無いと仰っていますが、何かの間違いでは”と疑義照会が有り、その薬剤師さんにもっと勉強しなさいと言った事を話されておられました。全くその通りだと思いました。先生のエッセイ調の文章はよく読ませて頂きました。読み易く、私の文章の目標でもありました。若くして(私の二歳年上)旅立たれた先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます。合掌。

 (大津市薬会報 2010年10月号掲載)

21号 漢方の風 ー東洋医学的「胃」と「脾」について(出血、倦怠感、子宮脱、多汗)

2009-08-30

☆胃と脾…胃は受納と腐熟を主り、脾は運化を主る。更に胃は降濁を主り、脾は升精を主る。  胃気の正常な働きは“降”(下方)作用で有り、この働きが、逆に上に向いた(升)時に、  吃逆(しゃっくり)、噫気(げっぷ)や胃液が逆流したり、咽喉が詰ったりする。人によっ  ては、咳が出ることもある。   ……半夏厚朴湯で治療する。

 脾の正常な働きは“升”(上方)であり、失調して下に向いた時に下痢や胃が痞えたり、  延いては貧血、痩削(体重減少)を引き起こす。       ……六君子湯で治療する。

☆脾は生命活動の維持に必要な物質の産生と供給を行う⇒「後天の本」と言う。      ※脾の働き      (1)正常な脾の働きにより気・血・津液(水)が十分に作られると        気の固摂作用によって血管壁が丈夫になり、血液がもれずに        循行する(脾が弱いと不正出血、歯茎の出血等の原因になる)      (2)脾は肌肉・四肢を主る       …四肢、体幹、内臓の横紋筋・平滑筋を栄養する。        (脾が弱いと倦怠感、疲れ、手足のだるさを引き起こす)

☆胃と脾の働きを含めた消化吸収機能全般を「中気」と言う。(例 補中益気湯)

☆気虚の主な症状:元気がない、疲れ易い、言語に力がない、汗をかき易い、息切れ、             舌質が淡白、胖大、脈は無力等。  脾胃に気虚が起こると(気虚の中心)…疲れ易い、四肢がだるい、食欲不振、腹満、下痢、                    便秘、内臓下重、子宮脱、脱肛、等を引き起こす。

☆気虚の治方を補気(益気)と言う。  人参・黄耆・炙甘草等の補気薬と白朮・茯苓・山薬等の補脾薬を使用する。

☆四君子湯<和剤局方>…人参4g、白朮4g、茯苓4g、(炙)甘草1g   (1)脾胃気虚を治す:症状は上記の気虚とほぼ同じ。   (2)治方を補気健脾と言う。

☆六君子湯は、二陳湯と四君子湯の合方である。

☆二陳湯<和剤局方>…半夏5g、陳皮4g、茯苓5g、炙甘草1g、干生姜1g   (1)肺胃の痰湿の改善:白色で多量の喀痰、咳嗽、口が粘る、悪心、    嘔吐。時にめまい感、動悸、不眠等もともなう事がある。(治方を燥湿化痰と言う)   (2)二陳湯の組成…(小半夏加茯苓湯に陳皮と甘草が加わった物):半夏、生姜、茯苓 (痰    飲による胃気上逆乃ち悪心・嘔吐・吃逆を治す)と陳皮、炙甘草 (肺の痰湿による咳嗽・    喀痰を治す)により構成されている。

☆六君子湯<和剤局方>のまとめ…人参、白朮、茯苓、炙甘草、半夏、陳皮、生姜、大棗   (1)四君子湯と二陳湯との合方   (2)脾胃気虚の症候に痰湿or症候(*)をともなうもの      *(悪心、嘔吐、呑酸、上腹部のつかえ、水様便、痰、咳嗽)   (3)臨床の眼     心下部の痞え、食欲不振、疲れ易く、貧血気味、冷え性の者が多い。     胃炎、胃下垂、胃アトニー等に用いられ、消化不良、胃癌、悪阻、     神経衰弱、胃腸型感冒、老人の体力低下の改善、潰瘍性大腸炎に用いられる。     胃内停水、腹が軟弱、脈も弱い、全体に虚証の者を目標とする。   (4)胃癌で、胃除去術後、吃逆が止まらない     →六君子湯加旋覆花

☆補中益気湯<弁惑論>…人参、白朮、黄耆、当帰、陳皮、大棗、生姜、炙甘草、柴胡、升麻   (1)虚証の疲労負担を補益する。(気虚に用いる)   (2)結核、夏痩せ、病後の疲労、虚弱体質改善、食欲不振、虚弱者の感冒、    脱肛、痔疾、子宮脱、胃下垂、多汗症、遊走腎、ヘルニア等に用いられる。    食後眠くなる、手足がだるい、息切れ、頭がボーっとする等を目標にすると良い。   (3)脾胃気虚をともなう、出血傾向に用いる。(皮下出血、歯茎の出血、月経過多等)   (4)舌質は淡紅・淡白   (5)目標は…、    1)手足の倦怠感、2)言語が軽微、3)眼に力がない、4)口内に白沫が出る、    5)食の味がなくなる、6)熱い物を好む、7)臍辺りの動悸、8)脈は散大で力がない    の内1ー2症状あれば良いと書かれている (津田玄仙)    散大の脈とは、浮いていて散乱している脈。押さえると漸次消えて行く。   (6)黄耆    本草備要:気ヲ補ヒ 表ヲ固ム。          汗無キハ能ク発シ、汗有ルハ能ク止ム。    荒木正胤:肌表の水毒をとる。皮フの水疱、麻痺、疼痛を取り、          元気を増し、黄汗を治す。          痛みが一ヶ所に集った様に痛い事、夕方から夜が更けない内は、          手足を動かし回し、苦しがってねむれない。これを黄汗という。          胸がふさがって食べられなくて、その胸のふさがった所がつまった          様に痛くて、夕方から宵のうちは、非常に苦しがって眠れない。   (7)癌の放射線治療時の白血球減少に      →補中益気湯加鶏血藤を使用すると白血球数が上昇する。

 (大津市薬会報 2009年 8月号掲載)

17号 漢方の風 ー漢方薬の素晴らしさ、難しさー

2008-08-11

 平成20年5月22日、(社)大津市薬剤師会総会の後の懇親会の席上、広報担当の山口先生より、ひき続き原稿を提出して欲しい旨の依頼を受けました。「豚もおだてりゃ木に登る」ばかりに “煽”(おだて)を甘受 し、二つ返事で了解してしまいました。その4日後の朝、いつもの様に仕事前にパソコンのメールのチェックをした所、早速、原稿の締め切りは6月25日ですと言って来た。来月からは、毎月大きな漢方講演が控えており、今書かなければ、締め切りに間に合わなくなる事必定である。今日は5月26日とはいえ、早速パソコンに原稿を書き始めました。今回は、少々、手前味噌の話を書かせて頂きます。ご辛抱下さい。

 私の生家は、大津の旧東海道沿いにあって(現京町通)、江戸時代から続く茶商で、間違いなく、本物の“朝宮茶”も扱っております。私の祖父は茶業の傍ら、趣味で骨接ぎ屋さんやら漢方薬屋さんをしていた(現在なら薬事法違反)。次兄には、“お前はお爺ちゃんの血をひいたんや”と何時も言われる。その次兄は美術品の蒐集家で(西大津近くで中川美術館を開いている)、何でここに、こんなに素晴らしい美術品が有るの、と思ってしまう程である。弟の私の一寸した自慢である。一方、私の長兄は、変わり者で、茶業の傍ら色々な趣味を持っていた。私が云うのも変ですが、中でも、文学的素養は天性のものがあり、俳句に至っては「花藻社」の主宰をもしていた。又、県の文化功労賞の栄誉にも浴した。湖畔のびわこ文化ホールの西側の芝生には、大津市制100周年事業において句碑を建立させて頂いた。そこには、

“湖薄暑掬えば貝となるてのひら”(琵琶湖の水の美しさを謳った句) と刻まれている。

 一般市民が見て、先ず読めないし、当然意味も解らない。皆が解らなければ駄目でしょうと私が云ったら、長兄からは解らないから良い、と言い返された。やはり変わり者である。兄が俳壇に登場した頃は、私はまだ幼稚園から小学校に上がった頃である(17歳の年の差がある)。その頃の、最初の句集「銀河」の巻頭を埋めた句のいくつかを披露させて頂きます。

“黄タンポポ吾が青春第一章”

“虹見てる誰か吾をボヘミアンと云う”

“かすれたレコードかけて満月に乾杯”

“タンポポに春ですね「今日は」

“田園の詩人トマトより真瓜がお好き”

歳を重ね、次に出した句集「男眉」では、

“男眉立てて祭りの武者となる”

“しんしんと雪降り天ゆ楽奏す”

“黙し鵙叫びたくなる世に棲みて”

“雪は純白こんな暗い世の中でも”

“沖へ帆を張って湖族の裔たらむか”

更に、長兄が亡くなる前の、「俳句界」(平成17年11月号)には、

“空蝉に早や生きものの臭ひ無し”

“雷三ッ日火攻めの窯が夜も唸る”

…等。今になって長兄の生き様を見る思いがします。

 それに引き換え、末弟の私は、それまで、極、普通に薬剤師の道を歩んで来ました。某メーカーに就職し、大学病院や町医者を見て来ました。現代医学の素晴らしさを感じつつも、同時に矛盾も一杯に憶え、僕の生きる道としては何か物足りなさを感じておりました。そして漢方を学んだ今、不確かであった、現代医学の危うさ、物足りなさがはっきりと認識出来るようになり、漢方を勉強して良かったとつくづく感じて居ります。

 人は、有機的複合体であり、喘息、アトピー性皮ふ炎、リウマチ、潰瘍性大腸炎、前立腺肥大…等全て、有機的に体内環境と繋がっております。咳を例にとると、五臓をして皆咳せしむ。一人肺にあらずと云って、五臓全てが咳の原因に成りうるのであると、古い書物に書かれている。初診では、ともすれば肺だけ診てしまう現代医学とは“診かた”が全く違うのである。…となると漢方家足るもの、皮膚病でさえ、又、何病であっても患者さんの全体を見なければならないのである。人を診るとなると、大変な作業になるのであり、責任は重大である。

 扁頭痛、下痢、足の関節痛、重症の冷えでお困りのAさんは、最近、呉茱萸湯合真武湯合附子湯を服用し始めて頂きました。二十日分服み終えた所ですが、服み始めた頃に足の甲にひどい鬱血がおこり、気分が悪くなって、頭痛発作も起こり、所謂、瞑眩(めんげん)があったものの、その後頭痛が、いつもより少し減じ、下痢は普通便に、膝痛は全くとれてしまった。そして、再診の今日、寝ていた髪は、ふわぁと立ち上がり、肌はしっとりと、女盛りの肌を取り戻している。

 処方箋の調剤をしていた頃は、凡そ、1400種類の医薬品を扱っておりました(当然夫々の作用機序も理解しております)が、上記のAさんを治療する医薬品はありません。漢方なら出来るのです。漢方の素晴らしさは、ここにあるのです。

 人は云います、私は、漢方は合いません、効きません…と。その患者さんに、よく聞くと,その医師は、舌も診ないし、脈も取らないし、腹診もしない。見たのは某メーカーの手帳だけであった…と。

 漢方の所為にしないで欲しいと、叫びたくなります。だけど、漢方薬と云えどもそう簡単にはいかないのも、現状である。私には、まだまだ勉強の日々が待っている。

 地球温暖化にともない、砂漠化が進み、原料生薬の収穫量が激減している。もっともっと生薬を大切に扱って欲しいと思い、漢方薬の正しい使い方を広めていかなければと思う今日この頃である。

(大津市薬会報 2008年 8月号掲載)

7号 魂(何故現代の若者はキレるのか?)

2006-01-19

 魄の話は以前の漢方塾で書いた事がありますが、今回は魂についてふれてみたいと思います。

 金田一京助・国語辞典を引いて見ると、魂とは生物の肉体に宿り、精神作用を受け持ち、生命を保つと考えられるものとあり、気力、精神とあります。一方、漢方用語大辞典では、魂とは、人の精神の働きの一種、肝が血を蔵さなかったり、肝血の不足によって、魂は神に随わず動き、無遊、うわごと等の病証を現す。肝は魂の居所也。神に随いて往来する者、これを魂という。魂傷らるれば狂忘して精せず、精せざれば人に当たりて正しからず、陰縮まりて攣筋し、云々とあります。つまり、正しい精神生活(普通の日常生活をも含む)を過す為には、魂は必要不可欠であり、肝(肝血)が正しくなくては、魂は精神活動に一致せず狂忘する事になる。さすれば、肝血を蔵す事が最も大切と考えて良い。漢方の臨床では、陰と陽の均衡を弁証する事になる。

 最近食育が地域、職場等で脚光を浴びておりますが、最近のTV番組でその食育の討論番組が放映されていた。パネリストの一人に、某巨大ファーストフードのトップが招かれていた。日本は民主主義国家で全てにチャンスを与えるものだと変に関心したりしておりました。アメリカでは、HIVの騒動があった凡そ20年程前に、大統領の諮問機関が食育の問題を取り上げ、東洋の食を取り入れるべきと答申を出している。それは、日本の討論会の議論がどこかズレている感がある。然し乍ら、今の乱れた食事からすれば有意義な討論会といえるだろう。若しかしたら、その先を考えた第一歩であれば良いのだが・・・。

 亦、water crisisなる番組では、1kgの牛肉を生産する為には20屯の水が必要になると放送していた。良質な牛肉を生産するには、とうもろこしが必要であり、砂漠を農地として使用する為である。水量のcrisisもあり、事は重大である。科学者として我々薬剤師の特性が、一隅を照らし光明を見い出す手助けになればと願っております。

 私の大学での友人が、海苔の研究に携わっております。海苔にはビタミンDを除く全てのビタミンが含まれている。しかも人間が必要なミネラルも全て含まれており他に血圧を下げるペプチド類、癌細胞のアポトーシスを促したり、新生血管の抑制に効く物質も含まれている・・・と同窓会の席で教えてくれた。トレースエレメントの豊富なものは、色素やミネラル等が共に存在し、見かけは黒い物が多く免疫に効果的と中医学では言っていると私も友人に話したが、彼は、非科学的な事を言っていると思ったに違いない。

 福田一典先生の「漢方がん治療」では、八味丸や六味丸を多用されている。末期ガンの患者さんは腎が虚しているとの理由からである。勿論補気薬、駆?血薬、抗ガン作用のある薬草も駆使されておられる。要するに、何を食するかが、確かな魂を包含した精神を作り、癌の予防にもなり得るのである。私がアトピー性皮膚炎の患者さんから診を乞われた時、過去の食生活をしっかり問診するのは、最も必要な情報の一つだからである。先天性の問題も吟味し乍ら食育を考えているのである。口が渇き、甘いものを好み、冬では寒がりで、のぼせ易く、といった患者であれば、小建中湯に黄蓍を加えて主処方とする。結局は、薬食同源が根本であると考えているからであり、何を多く食したが、今のアトピーを引き起こしていると考え、それを是正するのである。腸管の状態も同時に見据えているのである。

 話は変りますが、クラシック音楽に興味のある私は、忙しい合い間を縫って、ウィーンへ旅した。ついでに、当地の薬局も2軒訪ねて見た。家内が目が乾燥して辛いというので、通訳を通じて訴えた所、アポテーカ(薬剤師)は、こちらの訴えをじっくりと聞き、長期に使うのか、短期なのかを聞き、少しで良いと言ったら、その若い女性のアポテーカはニッコリと頷き、私達が見ている奥の調剤台の引き出しからその目薬を取り出し、丁寧に使い方を教えてくれた。そのゆったりとした穏やかな一連の動作は、安心感を与えてくれるし、同時に誇りを感じた。未だに、この様な薬局(アポテーケ)がこの世にあるのだと感心し、日本でのコンビニでの販売云々の議論のナンセンスさを身にしみて感じた。

(大津市薬会報 2006年1月号掲載)

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