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漢方の風 45号 痔の漢方治療

2021-01-25

漢方塾…痔の漢方治療


なかがわ漢方堂薬局 中川義雄(昭)


20歳代で大塚敬節先生の著による「症候による漢方治療の実際」に巡り合い、次いで矢数道明先生の著による「漢方処方解説」に出会い、それらの書物が私の人生に多大な影響を与えてくれました。


私は中学1年生の2学期になって勉強に目覚め、文机(ふづくえ)に座布団の姿勢で1日数時間自宅で勉強したものです。生来、凍傷の出来やすく血流の悪い体質である事と父親が痔の手術歴がある遺伝体質に加え座布団での長時間の座位は肛門部の欝血を生じるために“痔”の発生リスクは高く、案の定、痔に罹患した。母親が座薬と円座と乙字湯を近所の“I”薬局で購入してきた。早く治りたい私は漢方薬(乙字湯)が痔に効果があるとは、当時思いもしなかった為に服薬コンプライアンスは非常に悪く、主に座薬で症状を抑える事に専念していた。高校生になって症状は更に悪化して、痛みで授業に集中出来ずとても辛い思いをしました。それからというものは毎年5~6月になると必ず痔を発症して苦しめられた。あの痛さは本当に辛い。うっかり、くしゃみをしようものなら半日はズキンズキンと痛む。大学の合唱団の練習では複式で大きく息を吸うだけでズキンズキンと痛んだ。社会人になってから、前出の漢方書や他の漢方書に出会って、乙字湯の治験を読み、乙字湯の処方構成の薬草の働きを学んで、漸く乙字湯の絶大な効果を知った。其れからというものは服薬コンプライアンスを守り長期の苦しみからは解放された。


痔核(いぼ痔)は内痔静脈叢に生じた欝血が原因でできる内痔核と外痔静脈叢に欝血が生じてできる外痔核があります。内痔核の発生する部分(肛門から数センチ入った所に歯状線なる組織が有ってその歯状線より上部の肛門上皮部に発生する痔核)は知覚神経の分布は無く、痛みはありませんが外痔核の発生するお尻の出口に近い部分には下直腸神経や尾骨神経があって痛みが発生するのである。この外痔核が発生する部分には肛門括約筋があり、外痔核の痛みによって肛門括約筋が痙攣を起こすと痛みは激痛になり、座ることも歩くことも困難になり、前述のくしゃみをすると半日痛みが続くことになるのである。


痔の漢方治療は色々な方法がありますが、乙字湯を筆頭に桃核承気湯、桂枝茯苓丸、甲字湯、補中益気湯、当帰建中湯加減、麻杏甘石湯、桂枝加芍薬湯加大黄、柴胡桂枝湯、芎帰膠艾湯、芍薬甘草湯、紫雲膏、伯州散等を使い分けて治療することが出来る。勿論、証を弁証して他の必要な処方は併用する。大柴胡湯や半夏厚朴湯、黄連解毒湯(加大黄)、半夏瀉心湯等がそれである。


乙字湯は原南陽の経験方で当帰、柴胡、升麻、黄芩、甘草、大黄で構成されている。南陽は柴胡と升麻を升提(下がっているものを持ち上げる作用)の意で用いているが勿誤方函口訣(浅田宗伯)では湿と熱を駆邪する作用を考慮すべきと言っているが私は経験上どちらも有りと思っている。


他の手段としてはズキンズキンと痛んでいるときに生甘草を濃く煎じて温罨(おんあん)する方法もあります。


平成元年に漢方薬局を立ち上げた頃は痔の相談が多かったが大痔主の私が相談を受ける訳なので患者さんからの信頼は厚く、治癒率は高かった。中でも忘れられない治験があります。


57歳の男の患者さんで、主訴は本人曰く、小指大の大きさの脱肛でしたが、よくよく聞いてみると痛みはなく内痔核が弛緩性脱出を繰り返していた。つまり内痔核が排便時に毎回脱出する為、毎回指で押し込むのである。又、ゴルフのスイングをすると力が入って内痔核が脱出するのでゴルフは止めているとの事であった。その方は色白でビールが大好きで汗かき、寒がりで疲れやすく、軟便、時に下痢をすると当時の問診票に書いてある。桂枝加芍薬湯証と見なし、処方はせんじ薬で当帰建中湯に柴胡と升麻を同時に煎じて根気強く服用していただいた。すると、弛緩性の内痔核の脱出はすっかり納まって、排便時に脱出することがなくなり、ゴルフが出来るようになったととても喜んでいただいた。漢方薬は不思議に良く効くと言って数人の痔以外の方を紹介して頂いた。


40歳代の女性の外痔核は煎じ薬の麻杏甘石湯で2~3日で治まる。多くの痔の患者さんの相談を受け、痔の出血、痛みの対処法を会得した。


最近、前立腺癌を放射線で治療する方が多くおられます。週5日、約2か月間放射線を前立腺癌に向けて前後左右、数か所から照射するのであるが(最近、放射線療法が進歩して、5日間前後の照射で済む定位放射線治療も開発されている)、多くの方が放射線による爛が生じ排便時の痛みと出血に悩まされるのである。膀胱が爛れておびただしい出血の患者さんも相談に来られたことがある。当帰建中湯と芎帰膠艾湯との併用や補中益気湯と乙字湯の併用でうまく治療することが出来る。

26号 漢方の風 ー痔、シミ、肌荒れ

2010-10-02

 ダイエット、美容に関するテレビや週刊誌の報道が、美を追求する女性を駆り立てる事は、枚挙に暇が有りません。少し以前には「黒豆」の騒動がありましたが、数ヶ月前の「紫根」の報道は数十年、薬局業務に携わって来た私の経験の中で、間違いなくトップクラスの問い合わせの件数と期間の長さが有りました。その訳は後で解ったのですが、「紫根化粧水」(紫根15gを300mlの水で煮つめ、濾して冷ますと出来上がり)がクスミやシミを防ぎ、シワ、タルミにも効果があるとの内容だったそうですが、後日、生薬問屋さんからその内容を聞いて、合点がいきました。私の所では紫根は、煎じ薬では使う事が有りませんので、正式には置いていません。と言うのも近医のドクターが痔の薬を製造する為に購入されるので置いてあるだけなのです。漢方相談をしている最中の紫根の問い合わせは、丁重にお断りするのに大変でした。故青木馨生先生からは、生薬の販売は薬草店に任せて、漢方処方薬の相談業務、即ち「証の決定」業務に徹しなさいと教えられて居りました。又、こういったマスコミの報道にはエビデンス(確固とした証)が無い事が殆どで、ほんまに効くんやろうか?と思いながら販売する事はセンセーショナルな報道に乗じて金銭欲を満たす事に他ならない。昔の近江商人は品物を良く吟味し自分が納得した物を仕入れ、「三方良し」の商いをして顧客の信用を得て財を為したと聞いております。生薬の問屋の担当者は当方の薬局の為に10袋確保して呉れていたとの事でしたが…。折角の担当者さんの配慮に申し訳なく思っております。

 

 その紫根を使った漢方薬の代表格は「紫雲膏」である。ひび、あかぎれ、火傷、痔核の疼痛やただれ、かぶれに使用します。成分は紫根の他に当帰、ゴマ油、蜜蝋、豚脂である。最近は、褥創に使われる事が多い。女性の外陰部のただれにお勧めして喜ばれた経験が有ります。因みに褥創には和剤局方に出典されている「神仙太乙膏(しんせんたいいつこう)」がお勧めです。  シミやクスミを改善するには、やはり漢方処方薬が一番良いと断言しても過言では無い。冷え性で貧血顔で小水の近い、頭が重く、腹痛を訴えたりする女性には、当帰芍薬散の原末を処方します。肩こり、背中のこり、痛みにも奏効します。若し便秘があれば煎じ薬にして、芍薬を増量して麻子仁や大黄を加えると良い。綺麗な肌になり、冷え性も改善します。一方冷えのぼせが有って、唇の血流が悪く、やや肉付きの良い、経血の色が比重の高さを思わせる様な女性には桂枝茯苓丸が良く効きます。ヨクイニンを加えると更に肌が綺麗になります。加味逍遥散もシミ、ソバカスに良く効きます。加味逍遥散の効く女性は漢方に熟練して来ると、顔、体型を一目見ただけで解ります。性格がきっちりしていて、片付け上手で、ちょっと考え過ぎタイプと言った所です。お通じが良くなり肌が綺麗になります。更に現代の女性に欠かせない処方に温経湯が有ります。お腹が冷えて、生理が不順で不正出血を起こし、肌の荒れている女性が目標です。温経湯の口訣に“婦人、年五十所ばかり(50歳前後)…半産を得て(過去に流産をして)…云々”と有りますが、最近はミニスカートやエアコン等の生活様式の為でしょうか、若い女性に温経湯証が多くおられます。美を追求する女性には、これらの処方は当に打って付けなのですが…。最近の女性は漢方薬には見向きもしません。

 

 話は変わりますが、紫根の配合されたOTC薬に○○○○○○内服薬が有ります。これは「痔」の内服薬なのですが、紫根の強心作用により、末梢の血液循環を良くして痔を改善するのであろう。私の専門である漢方薬では、やはり「乙字湯」が良く効きます。処方内容は単純なのですが(当帰、黄?、柴胡、升麻、大黄、甘草)、良く効きます。中でも柴胡、升麻がポイントなのです。それらの薬草を使った当帰建中湯加柴胡、升麻は冷え性で色白の方で痔核、脱肛の患者さんに長期に服用して頂きますと信じられない位大きな脱肛が治ります。他に柴胡、升麻の配剤された処方に補中益気湯がありますが、これも痔に良く使います。場合によっては乙字湯と併用しても良い。その他には、駆?血作用の桂枝茯苓丸も上手く使うと良いと思います。更に、痔の疼痛に、大塚敬節先生の著書に麻杏甘石湯が良いと書かれておりますが、その証があれば効く事は当然の事と思います。私は未だ使った事が有りませんが…。 過日、生前親しくさせて頂きました広瀬滋之先生が黄泉の国へ旅立たれました。先生の講演は度々拝聴させて頂き、多くの事を学ばさせて戴きました。先生の講演の中で、忘れられないのは麻杏甘石湯を処方したら、院外の薬局の薬剤師さんから、“先生この患者さんに接遇した所、喘息や空咳は無いと仰っていますが、何かの間違いでは”と疑義照会が有り、その薬剤師さんにもっと勉強しなさいと言った事を話されておられました。全くその通りだと思いました。先生のエッセイ調の文章はよく読ませて頂きました。読み易く、私の文章の目標でもありました。若くして(私の二歳年上)旅立たれた先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます。合掌。

 (大津市薬会報 2010年10月号掲載)

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