アトピー性皮膚炎・滋賀県・漢方薬 | なかがわ漢方堂薬局

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38号 漢方の風 - 悪心(吐き気・胃部の気持ちの悪さ)

2016-08-04

大学に入学すると様々なコンパが待ち構えています。

クラス別のコンパから始まり、滋賀県人会、クラブに属するとクラブコンパ、寮のコンパ、早速仲良くなった数人の仲間コンパ等である。

私の父、兄(長兄)がお酒を嗜み、ご多分に漏れず私も好きで、大津祭り時や正月に良く飲んだものです。大学入学後のコンパでは、後先考えずに飲んだものです。

度が過ぎると決まって悪心が起こり、嘔吐することが度々であった。

社会人に為って、今日は飲み過ぎない様にしょうと心に誓って飲み会に出たものですが、飲み会が始まったら我を忘れて後先を考えずに飲酒してしまう、全く学習経験の出来ない私なのである。

卒後F社に入社した関係でプ○ン○ラ○の制吐作用を知るようになったにも関わらず、飲む前にプ○ン○ラ○を服むようになったのはF社を退社してから数年後の事である。

当時はプ○ン○ラ○の成分である塩酸メトクロプラミドを配合したOTC薬で『アペール』なる商品名の胃腸薬が上市されていて、それを服用するようになってからは悪心、嘔吐をしなくなった。(余程、度が過ぎると効かない事も経験した)

その後、漢方医学を学習してからは自分の体質を『半夏瀉心湯』証と弁証するようになり、お酒を飲む前には半夏瀉心湯と黄連解毒湯と茯苓末を併用する様にしている。

二日酔いを防いでくれて尿利が良くついて(利尿作用が有って)浮腫みを防いでくれます。

躁鬱病を思わせる30歳の女性は、下痢、悪心、不安感、頭痛、イライラ、臍部の動悸、舌炎等で悩んでおられました。

『甘草瀉心湯』と『抑肝散』を兼用して頂きました。排便が良くなり、気持ちの悪さも楽になり、頭痛も取れて良くなられました。

私の服用する半夏瀉心湯とこの甘草瀉心湯は心下部の痞えが最も大切な証である。又、これらの姉妹処方に黄連湯が有ります。

30歳代の第2子を妊娠された女性は悪心、乃ち悪阻(つわり)で何も食べられない状態で来店されました。

漢方医学書である新撰類聚方に太陽中風(たいようちゅうふう)、陽浮而陰弱(ようふにしていんじゃく)、陽浮者熱自発(ようふのものおのずからはっし)、陰弱者汗自出(いんじゃくのものあせおのずからいで)、嗇嗇悪寒(しょくしょくとしておかんし)、淅淅悪風(せきせきとしておふうし)、翕翕発熱(きゅうきゅうとしてほつねつし)、鼻鳴乾嘔者(びめいかんおうのもの)、本方主之(ほんぽうこれをつかさどる)…と桂枝湯篇に書かれています。

乃ち気の上衝が有って頭痛などがおこり、それに連れて胃気の上衝も起こり悪心、吐き気が起こる。と書かれております。そこでこの女性には『桂枝湯』と『半夏厚朴湯』を出産迄兼用して頂いた所、少しずつ食べられる様になり無事出産されました。

又、悪阻で何も食べられない人で胃が冷えて手足が冷たく心下部が硬く痞える場合は『乾姜人参半夏丸』が良いとあり、当薬局の薬篭に丸剤の乾姜人参半夏丸を備えているのですが、一度食道癌の術後の患者さんの酷い悪心に使った事があるだけで悪阻の方には使ったことが有りません。

私の次兄は数カ月前の昨年末に胃癌と診断されて胃の全摘術を受けた。

手術は無事終わり退院してからは悪心(ムカムカ)に悩まされ続けていた。

数日前に相談を受けた所、大建中湯、フォイパン、マーズレン、消化剤、下剤、それに前立腺癌薬カソデックスを服用していた。

漢方薬で何とかしてほしいと相談を受け、色々話を聞くと氷や冷たいものを摂取すると悪心が楽になるとの事であったので先ず大建中湯(熱を強く与える作用が有り、逆効果で有る)を止める様指導し、『半夏厚朴湯』と『六君子湯』を併用し『補中益気湯』を兼用するように投薬した所、一日服用しただけでとても楽になったと喜んでくれ、以来続けて服用している。

悪心は小柴胡湯始め上記の処方中に半夏(からすびしゃく)が入っています。

制吐作用が強い薬草である。大学の薬用植物学の授業で農閑期に是を採取し、換金して“へそくり”をしたとされ、別名“へそくり”と当時のお百姓さん達は言っていたと学んだ記憶が有ります。

性は温で燥湿作用が強く胃が冷えて湿邪が有り嘔吐する時に使用する事が基本である。

これに生姜と茯苓を加えたものが有名な『小半夏加茯苓湯』である。悪阻に良く処方されるが煎じ水に茯竜肝(竈の焼け土)を浸しておいた上澄み水で煎じた時に効果を強く発揮する。市販のものはそこの所は良く解らない。

刺激が強く、半夏の一片を口に含んだ時は早く吐き出さないと大変な事になります。

従って生姜を同時に煎じる事によって刺激が和らげられると学んだ。

なかがわ漢方堂薬局 中川 義雄

27号 漢方の風 ー膀胱炎・胃腸炎(風邪に伴う下痢)

2011-01-17

数年前、中国の養蜂家の番組の終わり部分を垣間見て、番組の冒頭から見落とした事を残念に思った事が有りました。所が、過日、BSで再放送がある事を知り、あらためて番組の最初から見る事が出き、数年来の望みが叶えられました。中国の西北部、新彊ウイグル地区から望む天山の高地で採取される天山山花蜜(糖度が高く薬草の香りが人気の蜂蜜で、高値で売買される)を中国の東部地区からミツバチと共に6000kmを移動して(中国を東から西まで縦断する)採取に出かける養蜂家親子のドキュメンタリー番組である。一口で6000kmと言っても凄まじい長行路である。予定を遅れて天山に到着した時には蜜蜂は半分が死んでしまっていた。それ程過酷な道のりである。仕事として立ち向かう親子のエネルギッシュで前向きな姿を見て私は何かを与えられました。

 

 12炭糖の花蜜を外勤蜂が蜜箱に持ち帰りそれを内勤蜂が自らの酵素で6炭糖に分解し6角形の巣房に溜め込み蝋で蓋をして熟成する。中学で習った12炭糖の分解、つまりショー(蔗糖)ニュー(乳糖)バク(麦芽糖)、ブカ(ブドウ糖と果糖) ブガ(ブドウ糖とガラクトース) ブーブー(ブドウ糖とブドウ糖)を思い出したり、中国人気質が理解出来たり、弱った蜜蜂に花粉を与えると元気を取り戻す…つまり、人間の前立腺肥大に花粉が奏効するヒントを呉れたり、蜜蜂にはイタリア蜂と黒蜂(北ヨーロッパに多い)がいる事、巣箱内の温度が35℃以上に上がらない様に巣箱の入口の間隙で羽ばたいて空気を巣箱内に送り込んだり等、興味一杯で見入りました。蜂蜜の元である天山高地の花は6月頃から開花し始める。防風、大黄、薄荷、つる人参等約10種類の薬草の花々である。一度、天山山花蜜を味わってみたいものです。

 

 蜂蜜を使った漢方薬に「東医宝鑑」に記載されている“瓊玉膏”(けいぎょくこう;蜂蜜、地黄、麦門冬、天門冬、地骨皮、人参、茯苓)があります。舐剤(しざい)と言って、なめる薬なのですが、蜂蜜と練り合わせていますので甘くて、脾が弱い人でも結構服用出来ます。瓊玉膏は東洋医学でいう所の脾、肺、腎を目標にします。

 

 高温多湿時に食欲が落ちることを良く経験しますが、これは湿気が脾胃を犯すためであり、手足がだるくなり、疲れて気力が落ちて来ます。それがすすむと手足が火照って喉が渇き、水分を取りたくなります。すると胃液が薄くなり消化が悪くなり食欲が落ちるといった悪循環になります。その結果多方面に悪影響が出てきます。ちょっとややこしい話に成りますが。胃腸で営養(漢方では営養と書きます)化された精微物質は多方面に供されますが余った精微物質は腎に貯えられます。だから脾胃が弱ると腎まで影響してきます。つまり腎陰虚になります。喉が渇き、手足が火照って来ます。勿論、脾胃の営養は真っ先に肺にも行きますので、その肺も陰虚になります。肺が弱ると風邪をひき易くなり、全身に営養を送れなくなり、尿の出が悪くなり、皮膚がくすんで艶が無くなります。更に肺陰虚がすすむと咳が止まらなくなり更に悪化すると痰に血が混じってきます。つまり肺、腎、脾が弱ると喘息は当然として便秘、不妊、免疫不全、アトピー性皮膚炎、糖尿病…等にもなりかねない。 “瓊玉膏”(けいぎょくこう)は脾、肺、腎を補いますので前出の疾患に良く使います。又、認知症の予防薬にもなります。もう亡くなられて10数年になりますが、100歳以上生きられた双子姉妹のきんさん、ぎんさんも服用されていたと聞いております。

 

 話は変わりますが師走の季節になるとノロウイルス(Norwalk Virus)やB型ウイルスによる下痢が流行ってきます。中でも足が冷えて、上半身が熱く感じられ頭痛、鼻閉、肩こりを伴った胃腸型感冒も多く見られる様になります。  例えば、平常、冷えによる膀胱炎を繰り返す女性が、たまたま寒い環境に遭遇した際(冬の告別式や体育館での説明会等)には、いつも決まった様に、下腹部に不快症状を覚える膀胱炎を発症します。冷えに拠るものなので治療は温めて治さなければなりません。

 

 その膀胱炎症状に引き続き頭痛、肩こりが始まり、その数時間後に下痢を発症してしまった50歳代の患者さんがおられました。こういった事例では “冷え”に関する概念が乏しい西洋医学では、上手く適確に治す事は難しいと思います。陰陽学説を重んじる漢方医学では“冷え”を重要な「病因」と捉えるが為に、上手く適確に治す事が出来ます。漢方の常識では、風邪に伴う下痢には先ず葛根湯や五苓散を考えますが、こういった陰虚証(冷え症で虚弱体質の事。中医学の陰虚とは違います)の人には葛根湯、五苓散は使い切れません。寒い環境でひいた風邪状態(寒気、頭痛、鼻水等)を「表寒」と言います。又陰虚症の人は往々にして脾(消化吸収)が弱く、水を捌く力が弱いが為に、体内に“湿”(生体に不必要な水)を生じている事が多い。表寒(外因)と体内の湿(内因)が原因で胃腸型感冒を発症したものと弁証する事が出来ます。この内外の病因を取り除く処方である五積散が良く効いてくれました。エキス剤で無く本物の散剤の五積散を使った事も著効を得た理由であろう。

 

 端を更め、最近の話題を書いて見たいと思います。レアアースと同様天然資源である薬草の産出国と先進国との利益配分を如何にするかがCOP10で議論されましたが生物の多様性の観点から見ても重要な論点であることは当然である。南アフリカのペラルゴニウム シドイデスと言う薬草はドイツで風邪薬として製品化され(ドイツでは化学薬品である医薬品離れが根底にある)、売り上げを伸ばしており、その結果南アフリカのペラルゴニウムが枯渇してしまっているとの事である。原産国の資源で先進国企業が莫大な利益を上げており、利益の還元を原産国が要求するのは当然と言えば当然であろう。国際世論はバイオパイラシー(海賊行為)を許さないし、一方で絶滅種を増やさない為にもなるのである。

 

 中国からの輸入に頼っている日本の生薬の現状を見た時、中国からの輸入資源である漢方薬の将来に危機感を覚えておりましたが、日本で消費する薬草の半分以上を自給しようとする動きが経済界、国から起こって来ているとの最近の新聞記事を見て、ホットしている今日この頃である。

 (大津市薬会報 2011年1月号掲載)

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