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漢方の風 43号 芍薬甘草湯

2019-12-28

漢方塾…不育症(流産癖)・妊娠中の咳

なかがわ漢方堂薬局 中川義雄


過日、NHKで多剤投薬のリスクについての番組がありました。
多剤服用の高齢(80歳)の女性が自宅で眩暈を起こして昏倒して酷い内出血を起こし、その後、寝たきり状態で要介護になった症例を挙げて、これは多剤投薬が原因で、その後然るべく先生の指導の下、減薬した所、その女性は鬱症状、不眠も無くなり元気さを取り戻された。
番組では穏やかさを取り戻し、減薬した医師への感謝の気持ちと共に喜びの表情を映し出していた。
多剤投薬のリスクを指摘した医師の話では概ね6種類以上の服薬で危険度が大きく上がる旨の説明をされていました。
勿論、6種類以下でも副作用は出るであろう、又、6種類以上でも大丈夫な場合も有るでしょう。つまり、絶えず多剤投薬の副作用に気をつけなければならない。
患者さんの服薬指導の現場に居る我々薬剤師の調剤業務は勿論の事、一般薬を販売している薬剤師も含めて配合禁忌や飲み合わせの不都合のチェックのみならず多剤投薬(健康食品も含めて)のリスクも考慮しなければならない。
医薬品はMain Effect(主作用)に対してSide Effect (副作用)が必ずあります。
患者さんに投薬する際はこの事を確り肝に銘じておかなければなりません。

ここからが本題ですが二度の不育症を経験された30歳代の女性が無事の妊娠と出産を期待して当薬局に相談に来られました。
最初の望診と聞診では、何となく疲れていて、色が白く、声の覇気が弱いと判断しました。そこで、先ず芎帰調血飲第一加減と当帰芍薬散と補中益気湯を組み合わせて服用して頂き最後に半夏瀉心湯と芎帰調血飲第一加減を服用して妊娠にこぎつけた。その後、安定期に入ってから出産まで漢方薬を服用して頂き無事、不育症を克服して元気な赤ちゃんを出産されました。
その報告の際、もし、2人目が欲しいのであれば産後少し日数を置いて芎帰調血飲第一加減を長服し、母乳の与乳は7カ月を目途にして下さいと指示をしておいた。
一年ばかり経って、二人目を妊娠した(第3週)と来局されました。
気が付いたら子宮脱を起こしているとの事で当帰芍薬散と補中益気湯を服用して頂き子宮脱は解消された。
数カ月が経った連休の最中(さなか)、お腹の大きいその患者さんはひどい咳で一睡も出来ず、流産も心配で翌朝ご主人に運転してもらい休日診療を受診されました。
そこで、処方されたのが小青竜湯であった。帰宅後、早速服用し、その後3回服用したが一向に良くならず寧ろ余計に悪くなった様な気がするとの事で連休明け後の朝一番に当薬局に相談にお見えになりました。
妊娠中はプロゲステロン(黄体)期と同じで体温が高く、その結果妊娠中の風邪は咳が強く出て中々止まらない。そもそも小青竜湯は乾姜、桂皮、細辛で肺を温めて咳を鎮めるのですが妊娠で体温が高く肺が熱を持っている患者さんに小青竜湯を投薬すると火に油を注ぐ事になり、咳が更に酷くなります。ましてや、麻黄が一日量として3g入っていますので、元々不育症のこの患者さんには子宮筋を収縮させて流産する可能性も出てきます。そこで、小青竜湯は中止して頂き麦門冬湯を服用して頂き事なきを得た。

端を更めますが、最近、地球温暖化の所為か腓腹筋攣縮(こむら返り)を起こす方が多く見受けられます。そこで、巷でよく処方されるのが芍薬甘草湯(各メーカー共通の68番)です。
芍薬甘草湯には甘草が6g/日入って居り、その副作用である偽アルドステロン症については注意が必要です。
そこで、偽アルドステロン症について復習して見ましょう。
甘草に含まれるグリチルリチンは腸内細菌によりグリチルリチン酸に代謝される。このグリチルリチン酸がコルチゾールをコルチゾンに変換する酵素(11β-Hydroxy steroid-Dehydrogenase type2)の働きを抑制する。その結果、鉱質コルチコイド作用の有るコルチゾールが増加する。コルチゾールは浮腫、高血圧、低カリウム血症を惹き起こし、四肢の脱力等を発症する。甘草1gの長期服用で1%発症し6gで11倍の11%発症するとされている。そこで、芍薬甘草湯には甘草が6g入っているので偽アルドステロン症を発症するリスクが高いので充分注意する必要が有ります。
甘草含有漢方薬の投薬についてある学者は甘草2g/日以下にする事が発症予防につながると言って居られます。
20数年前漢方医学を志している旧知の薬剤師は甘草を炙って炙甘草にすると偽アルドステロン症のリスクを減らす事が出来るであろうと推論を言って居りました。そこで、当方担当のMRさんに尋ねてみた所、その様にリスクを減じる事が出来ると言っている先生は多くおられるとの事でしたがエビデンスは分かりません。
甘草と炙甘草の薬性の違いは、甘草は瀉剤(しゃざい)であり心火や所謂、熱火を瀉す作用があり、一方炙甘草は脾胃の不足を補い、上焦、中焦、下焦の三焦の元気を補うとされています。
傷寒論の中では70処方に甘草が含まれており、その内、甘草は少陰病篇に出て来る桔梗湯と甘草湯だけであとは全て炙甘草(甘草を炙る)を使う様指示している。
各メーカーの葛根湯始め68種類のエキス剤は炙甘草を使用しているかは不明であるが添付文書には甘草と表記されていますので炙甘草は使われていないと思われます。と言いますのも炙甘草湯の甘草は炙甘草と書かれている事から類推出来ます。

芍薬甘草湯は『傷寒論』太陽病上篇の最後に記載されています。参考までにその条文を記します。

傷寒脉浮。自汗出。小便數。心煩。微悪寒。脚攣急。反與桂枝湯。欲攻其表。此誤也。得之便厥。咽中乾。煩躁。吐逆者。作甘草乾姜湯與之。以復其陽。若厥癒足温者。更作芍薬甘草湯與之。其脚即伸。若胃氣不和。譫語者。少與調胃承気湯。若重発汗。復加燒鍼者。四逆湯主之。

問日。證象陽旦。按法治之。而増劇。厥逆。咽中乾。兩脛拘急而譫語。師曰。言夜半手足當温。两脚當伸。後如師言。何以知此。答曰。寸口脉浮而大。浮則為風。大則為虚。風則生微熱。虚則两脛攣。病證象桂枝。因加附子。參其間。増湯令汗出。附子温脛。亡陽故也。厥逆。咽中乾。煩躁。陽明内結。譫語煩亂。更飲甘草乾姜湯。夜半陽氣還。兩足当熱。脛尚微拘急。重与芍薬甘草湯。爾乃脛伸。以承氣湯微溏。則止其譫語。故知病可癒。

陽旦とは日中の事で陽旦病は太陽病(寒気がし、脉は浮いて、頭から首筋が強張って痛んだり、汗が有ったり無かったり、場合によっては関節が痛んだりする)を意味する。
そこで、太陽病では無いのに間違って太陽病だと軽々に弁じ、桂枝湯や葛根湯、麻黄湯、小青竜湯等を使い、誤って発汗した時は様々な害(症状)が出る。これは決して副作用では有りません。手足が氷の様に冷たくなり、両足が攣縮したり、煩躁してうわ言を言ったり、ダラダラと大汗をかいて心臓が止まりそうになったり、場合によってはそのまま死を迎えたりもする。
上記の処方の中で一番作用の弱い桂枝湯でさえ起こりうるのだから、ましてや麻黄湯、葛根湯、小青竜湯等は注意して弁証しなければなりません。

32号 漢方の風 ー陰陽学説から見た流産癖、ひざ痛

2013-01-25

 漢方医学は陰陽学説的弁証法を拠りどころとしている。古代中国人が生活の中で自然現象を長きに亘って観察し、宇宙間の全ての変化を解き明かした思考システムである。全ての事物には相対する陰と陽が存在しており、その陰と陽が相俟って(相互作用して)その事物の運動、変化、発展の原動力になっているとしている。陰と陽は夫々単独では存在する事が出来なく、陰陽は夫々相手の存在を自分の拠り所としている。乃ち上が有っての下であり、上が無ければ下が無い。熱は陽であり寒は陰であり、寒が無ければ熱を論じる事が出来ないといった具合である。つまり陰と陽は夫々単独では存在する事が出来ないのである。  宇宙は陰と陽の相互作用で成り立っている。又、漢方医学では人体を小宇宙として捉え、人体も陰陽のバランスで成り立っているとしている。そして、更に小宇宙である人体は大宇宙の中にバランス良く存在している事も大切としている。  この陰と陽は漢方治療においては絶対である。小宇宙である人体には陽である“気”(目に見えない)と、陰である“血”(目に見える)が存在し、気が血(物質)を生じ血(物質)が気を生じている。言い換えると色不異空(しきふいくう)、空不異色(くうふいしき)、色即是空(しきそくぜくう)、空即是色(くうそくぜしき)と通じる所がある。それ故、物質(色、陰)だけを論じても駄目なのである。物質である陰を生じるには陽が必要だからである。

 

 最近、ひざ痛に良いとしてグルコサミン、コンドロイチン、コラーゲン等のCMが様々な媒体で目にしたり耳にしたりします。又整形外科ではコラーゲンの注入が良く行われています。どちらも軟骨を作るが為の物質であり行為である。これらでひざ痛が楽になった方は沢山おられますが、効果がない方もおられます。色(しき)である物質(グルコサミン、コンドロイチン、コラーゲン等)を軟骨にする為のある種の気の力(作用)が働いているが為に軟骨は作られているのであり、若しこのある種の気の力(作用)が弱っているひざ痛の人にはコラーゲンを注入しても効果は少ない。前述のひざ痛が治まった人達はラッキーにも未だ気の力が残っていた人達である。漢方処方としては独活寄生丸を用いると良い。

 

 流産を繰り返すAさんは、精神的にも肉体的にも弱っておられた。子供が欲しいが、又、流産してしまう不安感で途方にくれておられた。不妊ではなく妊娠を持続する事が出来ないのである。そこで当薬局へ相談に来られたのである。現代医学的治療ではアスピリンやヘパリンで胎盤の血流をよくする治療法や夫のリンパ球の免疫療法が行われている。更にステロイドであるプレドニン療法もある。一方、漢方医学的見立て、乃ち“未病を治す”観点からすると不安感を持っておられるAさんは再度妊娠しても、今まで以上に妊娠を持続する気の力は減じており、再度流産する可能性は大きいと言っても過言ではない。体力の減衰も見られるが、精神の減衰が著しく、不安感を持つ事が妊娠を持続する気の力を萎えさせると考える事が出来るからである。漢方薬としては気を益す為に四君子湯の方意を持たせ、血を補う為に四物湯の方意を持たせ、流産を繰り返した気の落ち込みを取る為に逍遥散と香附子を主処方に組み立てて服用して頂いた所、たちまち妊娠して、無事、超安産で元気な赤ちゃんを出産された。陰と陽をバランス良く補った結果である。

 

 大宇宙である環境に小宇宙である人体が生きる。乃ち「人にやさしく自然に溶け込む」…が私(なかがわ漢方堂薬局)のモットーである。

(大津市薬会報 2013年1月号掲載)

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