アトピー性皮膚炎・滋賀県・漢方薬 | なかがわ漢方堂薬局

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10月, 2010年

26号 漢方の風 ー痔、シミ、肌荒れ

2010-10-02

 ダイエット、美容に関するテレビや週刊誌の報道が、美を追求する女性を駆り立てる事は、枚挙に暇が有りません。少し以前には「黒豆」の騒動がありましたが、数ヶ月前の「紫根」の報道は数十年、薬局業務に携わって来た私の経験の中で、間違いなくトップクラスの問い合わせの件数と期間の長さが有りました。その訳は後で解ったのですが、「紫根化粧水」(紫根15gを300mlの水で煮つめ、濾して冷ますと出来上がり)がクスミやシミを防ぎ、シワ、タルミにも効果があるとの内容だったそうですが、後日、生薬問屋さんからその内容を聞いて、合点がいきました。私の所では紫根は、煎じ薬では使う事が有りませんので、正式には置いていません。と言うのも近医のドクターが痔の薬を製造する為に購入されるので置いてあるだけなのです。漢方相談をしている最中の紫根の問い合わせは、丁重にお断りするのに大変でした。故青木馨生先生からは、生薬の販売は薬草店に任せて、漢方処方薬の相談業務、即ち「証の決定」業務に徹しなさいと教えられて居りました。又、こういったマスコミの報道にはエビデンス(確固とした証)が無い事が殆どで、ほんまに効くんやろうか?と思いながら販売する事はセンセーショナルな報道に乗じて金銭欲を満たす事に他ならない。昔の近江商人は品物を良く吟味し自分が納得した物を仕入れ、「三方良し」の商いをして顧客の信用を得て財を為したと聞いております。生薬の問屋の担当者は当方の薬局の為に10袋確保して呉れていたとの事でしたが…。折角の担当者さんの配慮に申し訳なく思っております。

 

 その紫根を使った漢方薬の代表格は「紫雲膏」である。ひび、あかぎれ、火傷、痔核の疼痛やただれ、かぶれに使用します。成分は紫根の他に当帰、ゴマ油、蜜蝋、豚脂である。最近は、褥創に使われる事が多い。女性の外陰部のただれにお勧めして喜ばれた経験が有ります。因みに褥創には和剤局方に出典されている「神仙太乙膏(しんせんたいいつこう)」がお勧めです。  シミやクスミを改善するには、やはり漢方処方薬が一番良いと断言しても過言では無い。冷え性で貧血顔で小水の近い、頭が重く、腹痛を訴えたりする女性には、当帰芍薬散の原末を処方します。肩こり、背中のこり、痛みにも奏効します。若し便秘があれば煎じ薬にして、芍薬を増量して麻子仁や大黄を加えると良い。綺麗な肌になり、冷え性も改善します。一方冷えのぼせが有って、唇の血流が悪く、やや肉付きの良い、経血の色が比重の高さを思わせる様な女性には桂枝茯苓丸が良く効きます。ヨクイニンを加えると更に肌が綺麗になります。加味逍遥散もシミ、ソバカスに良く効きます。加味逍遥散の効く女性は漢方に熟練して来ると、顔、体型を一目見ただけで解ります。性格がきっちりしていて、片付け上手で、ちょっと考え過ぎタイプと言った所です。お通じが良くなり肌が綺麗になります。更に現代の女性に欠かせない処方に温経湯が有ります。お腹が冷えて、生理が不順で不正出血を起こし、肌の荒れている女性が目標です。温経湯の口訣に“婦人、年五十所ばかり(50歳前後)…半産を得て(過去に流産をして)…云々”と有りますが、最近はミニスカートやエアコン等の生活様式の為でしょうか、若い女性に温経湯証が多くおられます。美を追求する女性には、これらの処方は当に打って付けなのですが…。最近の女性は漢方薬には見向きもしません。

 

 話は変わりますが、紫根の配合されたOTC薬に○○○○○○内服薬が有ります。これは「痔」の内服薬なのですが、紫根の強心作用により、末梢の血液循環を良くして痔を改善するのであろう。私の専門である漢方薬では、やはり「乙字湯」が良く効きます。処方内容は単純なのですが(当帰、黄?、柴胡、升麻、大黄、甘草)、良く効きます。中でも柴胡、升麻がポイントなのです。それらの薬草を使った当帰建中湯加柴胡、升麻は冷え性で色白の方で痔核、脱肛の患者さんに長期に服用して頂きますと信じられない位大きな脱肛が治ります。他に柴胡、升麻の配剤された処方に補中益気湯がありますが、これも痔に良く使います。場合によっては乙字湯と併用しても良い。その他には、駆?血作用の桂枝茯苓丸も上手く使うと良いと思います。更に、痔の疼痛に、大塚敬節先生の著書に麻杏甘石湯が良いと書かれておりますが、その証があれば効く事は当然の事と思います。私は未だ使った事が有りませんが…。 過日、生前親しくさせて頂きました広瀬滋之先生が黄泉の国へ旅立たれました。先生の講演は度々拝聴させて頂き、多くの事を学ばさせて戴きました。先生の講演の中で、忘れられないのは麻杏甘石湯を処方したら、院外の薬局の薬剤師さんから、“先生この患者さんに接遇した所、喘息や空咳は無いと仰っていますが、何かの間違いでは”と疑義照会が有り、その薬剤師さんにもっと勉強しなさいと言った事を話されておられました。全くその通りだと思いました。先生のエッセイ調の文章はよく読ませて頂きました。読み易く、私の文章の目標でもありました。若くして(私の二歳年上)旅立たれた先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます。合掌。

 (大津市薬会報 2010年10月号掲載)

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