35号 漢方の風 - 多系統委縮症とLeaky Gut syndrome
アトピー性皮膚炎、パーキンソン病、ピル
最近、多系統委縮症でお困りのお二人の方のお世話をさせていただいております。
漢方的弁証から見てお一人目の方は様々な症状や生活習慣をお聞きし、先ず初めに小建中湯を服用して頂きました。その後数年が経ち、現在は理法方薬に則り、臨機応変に処方を使い分けしております。
そして、つい最近お二人目の方が遠方から来局されました。
問診を丁寧に行い日常生活のお話をお伺いしました所(漢方で言う“証”を見極める事)、やはり小建中湯証である事が解りました。つまり“脾”が“虚”しているのである。
何となく脾の虚と多系統委縮症が関連しているのかも知れないと思いめぐらせておりました所、たまたま、多系統委縮症について述べておられるみきやまリハビリテーション病院の宮口修先生の文章を読ませて頂きました。
先生はやはり小建中湯が良いと仰っておられ、Leaky Gut Syndrome(腸管浸漏症候群)が脳を萎縮させているのではないかと文章を書かれておられます(実践もされておられます)。
小建中湯と言えば桂枝加芍薬湯に膠飴(こうい:糯米粉を麦芽で糖化して作った飴)を溶かせて作るのですが、その桂枝加芍薬湯には芍薬の量が多く(6g)処方されています。
芍薬は「大小腸の水滞を尿で排泄する水剤」で「腸管に水滞が有りそれが故に腸管の筋肉が冷えて固くなり、攣急、拘攣を起こしているものを治す」又、肝気(※)を柔げて筋肉を柔和(柔肝作用)する働きがあるとされており、冷えて柔軟性を失した腸管がひび割れを起こし、浸漏している状態を改善するであろうことは容易に察しが付きます。
通常、腸管の絨毛組織は炭素原子を12ダルトンとした時、500ダルトン迄の分子を吸収するとされているが腸管に浸漏なるひび割れがあればもっと大きな分子迄(5000ダルトン)もが体内に入ってくるとある栄養学者は言っておられます。
例えば胃の低酸症によってペプシンが充分に働かず分子量の大きいペプチドが腸管から吸収されてしまうとアトピー性皮膚炎が発症するのではないかと嘗ての市薬ニュースの漢方塾で書いた事が有りますが、あながち間違っていなかったと今更ながら思っております(ルイボスティにその改善作用が有るのではないだろうかと私見を述べました)。
又、その栄養学者は、分子量の大きな物質が浸漏(腸管から入ってくると)して来ると、当然、抗体が作られ、腸管にある神経組織と発生学的に同じ脳組織にも脳関門をすり抜けて抗体が作られ抗原と反応して脳が委縮するのではないかと述べられておられます。
多系統委縮症のみならずパーキンソン病もひょっとしたら同じ腸管浸漏症が関係しているのかも知れない。と言うのも、私の義兄はパーキンソン病を患った(数年前に60歳代後半に他界しました)のですが、振り返って見ると、やはり脾虚で小建中湯証で有った事が解ります。
又、その浸漏を惹き起こす物質の一つにピルが絡んでいるのではないかとその栄養学者は書いておられます。
そこで、ピルの副作用について朝日新聞デジタル(平成25年12月17日)に書かれていた内容を要約してみます。
生理痛や避妊目的で2012年度は推定100万人が服用していると書かれており、ピルの副作用は悪心、乳房痛、不正出血は良く見られるが、やはり血栓が出来やすい事が一番問題であると書かれている。
ピルを服まないグループでは10万人でおよそ5人に血栓が出来るとされているが服用グループでは10万人で3~5倍乃ち15~25人に血栓が発症する。ピルを服用する人は血栓が生じ得ると思って服用することが大切であると厚労省研究班の小林隆夫先生は述べられておられます。
頭痛、ふくらはぎ痛、胸部痛、視野の異常があればすぐに受診すべきであるとも述べられておられます。
上記の副作用が表出する迄もなく、密かに腸管に浸漏が隠れて進行している可能性も視野に入れなければならない。
私たちは(特に日本人は)、肝気を整え(※)、腸管が冷えない様、食生活に気を配り、腸管に水滞を起こさない先人の知恵を顧慮しなければならない。
※肝気:肝の機能を言い、昇発・透泄作用を行う。乃ち肝気を整えるとは
全身(身体、精神)をのびやかにする事。
(大津市薬会報 平成26年7月号)
なかがわ漢方堂薬局 中川 義雄(昭)