Archive for the ‘関節痛’ Category
漢方の風 40号 ロコモティブ
ロコモティブ(腰痛、関節痛、ひざ痛、認知症)
なかがわ漢方堂薬局 中川 義雄(昭)
私の生家は創業160年の茶商で江戸時代に大名行列が行き来していた東海道(現在の京町通)に有ります。京町家(キョウマチヤ)と同じで、俗にウナギの寝床と言いますが「店舗兼用の母屋」と「離れ」の間には「庭先」と「蔵」が有って、更に「離れ」の奥(奥の事を「裏」と大津では言います)にはお茶の倉庫があり、表の店舗と裏の倉庫を、つまり「表」と「裏」をレールで繋いであって、その上を「トロッコ」が走っていた。
図式では、(表)店舗兼母屋-庭先-蔵-離れ-小倉庫-大倉庫(裏)
(表)店舗兼母屋……トロッコ(お茶を運ぶ)……大倉庫(裏)
表から裏迄約70メートル近く有りますので商品を倉庫から店舗に運ぶ為にトロッコが必要だったのである。第二次世界大戦までは男衆が7名と女衆4名とお手伝いさんが2名働いていたと聞いている。男衆は全員戦争に行ったので戦後生まれの私は知り得ません。江戸時代、その店舗の前を町人や武士が行き来していたのである。
ある時、薩摩藩の大名行列が京町通にやって来た。梅林(県庁の南側一帯をウメバヤシと言います)に住居するY青年(16歳)が行列の前を誤って横切り”手打ち”(切り捨てご免)になるところを当店舗に逃げ込んで来た。当時の店主の中川ミノが裏の大倉庫の茶箱の中にY青年を潜ませ、押し問答の末一命を救ったと当家では代々伝えられている。恐らく大倉庫の裏の塀を乗り越えて逃げて行ったとでも言ったのであろう。
江戸時代にその気丈なミノの長男として生まれた祖父は東洋の施術を心得ていて、本業の茶商の他に柔道整復師らしき整体や時には煎じ薬を使って困っている人に施術していたと聞いている。私は7人兄弟の末っ子で、私が生まれた時には祖父は他界しており私は知りません。桂皮、大棗等の薬草が家に有ったと兄から聞いていますので、恐らく桂枝湯加減や桂枝加芍薬湯加減を使って風邪、神経痛、関節痛、リウマチ等を治していたであろう事が察せられる。今の時代、この二つの処方の展開でこれらの症状は治しきれないと思います。取り分け腰痛や関節痛を治す事が得意だったと聞いているが現代漢方医術では前出の処方の他に独活寄生丸、疎経活血湯、?苡仁湯、通導散、防風通聖散、?帰調血飲第一加減、八味丸、地竜、附子湯加減…他が必要であろう。
最近ひざ痛のCMでよく耳にするイミダゾールペプチド(カルノシン)配合のロコモティブ製品は理に適った考えである。カルノシン(βアラニンとヒスチジンが結合したジペプチド)やアンセリンを摂取すると速やかに夫々のアミノ酸に分解され、骨格筋や脳へ運ばれて行き、速やかにイミダゾールペプチド合成酵素の働きでカルノシンに再合成される。このイミダゾールペプチド(カルノシン)は鳥の羽の胸筋部や回遊魚であるマグロの尾びれに近い部分に多く存在しており、筋肉の疲労物質である乳酸の分解を促し、又、強力な抗酸化作用を発揮して細胞内の活性酸素をスカベンジ(消去)して細胞の疲労を速やかに解消するのである。斯くして渡り鳥が1万kmをノンストップで飛ぶメカニズムが解明されたのである。
関節痛に対してグルコサミン、Nアセチルグルコサミンで軟骨の生成を促す(グルコサミン類は保水性のある軟骨の一種であるプロテオグリカンを生合成する為に必要な一成分)だけではなく関節の支持組織である骨格筋の維持にイミダゾールペプチドを同時に摂取する有効性、つまりロコモティブの考え方は重要である。
最近そのイミダゾールペプチド(カルノシン)が認知症の予防に係っているとする研究発表がなされている。筋肉の疲労を解消するカルノシンは生後、使い過ぎた脳の疲労をも解消し、認知症の予防になるのではないかと推論し、実験の結果それが立証されたのである。余談になりますが少し認知症と老人班とアルミニウムについて触れます。大脳皮質や海馬に沈着する老人班(アミロイド班)はアルツハイマー型認知症の原因と言われて久しいが最近の研究では老人班は結果であってアミロイド班が表れる前にβタンパクが神経細胞に沈着する。このβタンパクはアルミニウムによって凝集し、アミロイドβを作り出す。その結果、老人班が形成される(βタンパクを凝集させるアルミニウムはアジア大陸で発生した酸性物質が日本の上空で雨に溶けて降り、土壌を酸性化し、その結果土壌中のアルミニウムがイオン化して野菜に取り込まれ我々の口に入るのである。)
イミダゾールペプチドがロコモティブシンドロームのみならず、認知症に光明を持たらせてくれる可能性は高い。
前出のひざ痛や腰痛、下肢痛に使用する独活寄生丸(千金方)は八珍湯(去白朮)が処方内に含まれており、気と血の虚を補う一方、同じく処方内に含まれている桑寄生、杜仲、牛膝が筋肉と骨を丈夫にする(補肝腎、壮筋骨)作用を併せ持っている。独活寄生丸は当薬局の頻用処方の一つであり気血が虚している人にはとても効果を発揮する。
その独活寄生丸の処方内容を良く吟味してみると、1350年前(AD650年頃)に孫思?(ソンシバク)が千金方(センキンホウ)の中でロコモティブを実践していたと言う事が出来る。漢方医学は将来に亘って人類を救う一手段であると確信しています。生薬資源が枯渇状況に有る現在、エビデンスに則った漢方薬の使い方、乃ち弁証論治を肝に銘じなければならない。