アトピー性皮膚炎・滋賀県・漢方薬 | なかがわ漢方堂薬局

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22号 漢方の風 ーアトピー性皮膚炎ー

2009-10-19

 知り合いのAさんの息子さんは、幼少の頃からアトピー性皮膚炎で悩んでいました。彼のお母さんは、かなり神経質な方で、傍(はた)から見ていても、その息子さんには、あれこれ“口うるさく”接しているのが見て取れる程であった。その息子さんには、ルイボスティーを勧めて飲んで頂いておりました。ルイボスティーを飲むと、確かに、カサカサの肌が綺麗になるとの事で長らく愛飲して頂きました。私から言わせると、本来の病因は、母親、乃ち“母原病”なのであるが(全てのアトピー性皮膚炎がそうだとは限りません)、その事を話すと、話がややこしくなるので、取り敢えずルイボスティーで事を済ませていたのである。然しながら、ねらい通りに、よく反応してくれました。母親からのストレスが脾(消化吸収機能)に影響を与え、ペプシンによる蛋白の消化が圧迫を受け、本来より分子量の大きいペプチドが生じ、それがアレルゲンと成り、アトピー性皮膚炎を引き起こしていたのであろうと考えたからである。それは、漢方の世界で、補中益気湯が脾気を高め、更に、水を捌(さば)いて呉れる作用を利用して、アトピー性皮膚炎に使用される事と通ずる所が有ります。その母親には、抑肝散なり加味逍遥散辺りを服用して頂くと、更に効果的であったであろう。

 

 私と、ルイボスティー(学名 アスパラサスリネアリス)との出会いは20数年前になります。当時は、カフェインを含まず、スカベンジャー機能を高めてくれ、皮膚が綺麗になりますといったキャッチコピーで販売しておりました。多くの人に飲んで頂いている間に、あるお客さんが、庭の枯れかかった木の根っこに煮出し終えたティーバッグを置いていた所、枯れる筈の木が花を咲かせたので、ビックリしたと仰有れ、何かしらのパワーを持っていると確信を持ちました。

 

 南アフリカ原産のこのお茶は、微量ミネラルやケルセチン(フラボノイド)を多く含有し、脾の働きを改善し、腸管の蠕動運動を促して便通を良くして便秘を改善したり、又、蛋白質の消化を良くして、より分子量の小さいペプチドにしてくれて、アレルゲンを少なくして、アトピー性皮膚炎を改善してくれるのであろうと私なりに解釈しております。因みにルイボスティーは巷に多く売られておりますが、粗悪品が多く、よく撰品する必要があります。

 

 アトピー性皮膚炎を治すには、食事に気をつけなければなりません。少なくとも昭和30年台の食事にすると自然にアトピー性皮膚炎は治るものと確信してはおりますが、その一方、生活水にも気をつける必要があります。昔の琵琶湖のクラスターの小さい、カルシウム始めミネラルたっぷりの水を摂る事が大切なのですが…。

 

 漢方では、アトピー性皮膚炎は“湿熱”が、諸悪の根源と考えます。甘いもの、油で揚げたもの、炭酸飲料、ビール、生クリーム製品等、枚挙に暇がありません。昭和30年台には、そう簡単に、口に入らないものばかりです。“湿熱”を引き起こす食べ物が氾濫している現代では、アトピー性皮膚炎や花粉症を、いつ発症してもおかしくないのである。昭和30年台の大津の朝は、納豆売り、瀬田川シジミ売り、煮豆売り等の独特の行商人の売り言葉で朝がやって来たものです。現代では、朝食はマーガリンのトースト、コーヒー、ミルク、甘いジャム、目玉焼きといった所でしょうか。東洋の思想を学校教育、栄養学、医学が取り入れなければ、医療費の削減にはならないであろう。

 

 アトピー性皮膚炎を治すには、黄連解毒湯、温清飲、補中益気湯、猪苓湯、黄ギ建中湯、加味逍遥散、抑肝散、十味敗毒湯、白虎加人参湯、麻黄附子細辛湯、辛夷清肺湯、桂枝湯加黄ギ、消風散、越婢加朮湯、桂枝人参湯、三物黄ゴン湯、六味丸等から撰用すれば良い。  アトピー性皮膚炎治療で、ステロイド剤を多用し、腎の陰精を傷つけると、漢方的手立てを打たなければ、取り返しの着かない状況を招きかねない。

 

 一口で漢方と言っても、古方、後世要方といった日本の漢方と中国の中医学等がありますが、日本の漢方理論では、なかなかアトピー性皮膚炎は治せません。日本の漢方理論と中医理論を上手くミックスして弁証すると、可なりの確率でアトピー性皮膚炎は“本治”出来ます。つまり、体質改善出来ます(見かけだけの治療を標治と言いますが、体質改善にはなりません)。

 

 食養生無くしては、漢方と言えども治せません。従って、本当の治療をするには、施治者と患者さんが、力を合わせて取り組まなければならないのは言うまでも無いことです。

 (大津市薬会報 2009年 10月号掲載)

21号 漢方の風 ー東洋医学的「胃」と「脾」について(出血、倦怠感、子宮脱、多汗)

2009-08-30

☆胃と脾…胃は受納と腐熟を主り、脾は運化を主る。更に胃は降濁を主り、脾は升精を主る。  胃気の正常な働きは“降”(下方)作用で有り、この働きが、逆に上に向いた(升)時に、  吃逆(しゃっくり)、噫気(げっぷ)や胃液が逆流したり、咽喉が詰ったりする。人によっ  ては、咳が出ることもある。   ……半夏厚朴湯で治療する。

 脾の正常な働きは“升”(上方)であり、失調して下に向いた時に下痢や胃が痞えたり、  延いては貧血、痩削(体重減少)を引き起こす。       ……六君子湯で治療する。

☆脾は生命活動の維持に必要な物質の産生と供給を行う⇒「後天の本」と言う。      ※脾の働き      (1)正常な脾の働きにより気・血・津液(水)が十分に作られると        気の固摂作用によって血管壁が丈夫になり、血液がもれずに        循行する(脾が弱いと不正出血、歯茎の出血等の原因になる)      (2)脾は肌肉・四肢を主る       …四肢、体幹、内臓の横紋筋・平滑筋を栄養する。        (脾が弱いと倦怠感、疲れ、手足のだるさを引き起こす)

☆胃と脾の働きを含めた消化吸収機能全般を「中気」と言う。(例 補中益気湯)

☆気虚の主な症状:元気がない、疲れ易い、言語に力がない、汗をかき易い、息切れ、             舌質が淡白、胖大、脈は無力等。  脾胃に気虚が起こると(気虚の中心)…疲れ易い、四肢がだるい、食欲不振、腹満、下痢、                    便秘、内臓下重、子宮脱、脱肛、等を引き起こす。

☆気虚の治方を補気(益気)と言う。  人参・黄耆・炙甘草等の補気薬と白朮・茯苓・山薬等の補脾薬を使用する。

☆四君子湯<和剤局方>…人参4g、白朮4g、茯苓4g、(炙)甘草1g   (1)脾胃気虚を治す:症状は上記の気虚とほぼ同じ。   (2)治方を補気健脾と言う。

☆六君子湯は、二陳湯と四君子湯の合方である。

☆二陳湯<和剤局方>…半夏5g、陳皮4g、茯苓5g、炙甘草1g、干生姜1g   (1)肺胃の痰湿の改善:白色で多量の喀痰、咳嗽、口が粘る、悪心、    嘔吐。時にめまい感、動悸、不眠等もともなう事がある。(治方を燥湿化痰と言う)   (2)二陳湯の組成…(小半夏加茯苓湯に陳皮と甘草が加わった物):半夏、生姜、茯苓 (痰    飲による胃気上逆乃ち悪心・嘔吐・吃逆を治す)と陳皮、炙甘草 (肺の痰湿による咳嗽・    喀痰を治す)により構成されている。

☆六君子湯<和剤局方>のまとめ…人参、白朮、茯苓、炙甘草、半夏、陳皮、生姜、大棗   (1)四君子湯と二陳湯との合方   (2)脾胃気虚の症候に痰湿or症候(*)をともなうもの      *(悪心、嘔吐、呑酸、上腹部のつかえ、水様便、痰、咳嗽)   (3)臨床の眼     心下部の痞え、食欲不振、疲れ易く、貧血気味、冷え性の者が多い。     胃炎、胃下垂、胃アトニー等に用いられ、消化不良、胃癌、悪阻、     神経衰弱、胃腸型感冒、老人の体力低下の改善、潰瘍性大腸炎に用いられる。     胃内停水、腹が軟弱、脈も弱い、全体に虚証の者を目標とする。   (4)胃癌で、胃除去術後、吃逆が止まらない     →六君子湯加旋覆花

☆補中益気湯<弁惑論>…人参、白朮、黄耆、当帰、陳皮、大棗、生姜、炙甘草、柴胡、升麻   (1)虚証の疲労負担を補益する。(気虚に用いる)   (2)結核、夏痩せ、病後の疲労、虚弱体質改善、食欲不振、虚弱者の感冒、    脱肛、痔疾、子宮脱、胃下垂、多汗症、遊走腎、ヘルニア等に用いられる。    食後眠くなる、手足がだるい、息切れ、頭がボーっとする等を目標にすると良い。   (3)脾胃気虚をともなう、出血傾向に用いる。(皮下出血、歯茎の出血、月経過多等)   (4)舌質は淡紅・淡白   (5)目標は…、    1)手足の倦怠感、2)言語が軽微、3)眼に力がない、4)口内に白沫が出る、    5)食の味がなくなる、6)熱い物を好む、7)臍辺りの動悸、8)脈は散大で力がない    の内1ー2症状あれば良いと書かれている (津田玄仙)    散大の脈とは、浮いていて散乱している脈。押さえると漸次消えて行く。   (6)黄耆    本草備要:気ヲ補ヒ 表ヲ固ム。          汗無キハ能ク発シ、汗有ルハ能ク止ム。    荒木正胤:肌表の水毒をとる。皮フの水疱、麻痺、疼痛を取り、          元気を増し、黄汗を治す。          痛みが一ヶ所に集った様に痛い事、夕方から夜が更けない内は、          手足を動かし回し、苦しがってねむれない。これを黄汗という。          胸がふさがって食べられなくて、その胸のふさがった所がつまった          様に痛くて、夕方から宵のうちは、非常に苦しがって眠れない。   (7)癌の放射線治療時の白血球減少に      →補中益気湯加鶏血藤を使用すると白血球数が上昇する。

 (大津市薬会報 2009年 8月号掲載)

20号 漢方の風 ー「知覚過敏」「利尿作用」「緑内障」

2009-04-25

 正月からの暴飲暴食が祟り、又、仕事の忙しさと建物のメンテナンスのストレスが加わり、二月に入ってから、熱い飲食をすると“歯がしみる“のを感じていたのですが、今朝はいよいよ、しみると言うより、歯が浮いて、可なりの痛みを感じる様になってしまった。所謂、知覚過敏に、なったのであろう。朝から、仕事の合間を見て、煎じ薬の「柴胡清肝散」(寿世保元)を作り、急いで煎じて服用した。原稿を書き始めた閉店前のこの時間には、痛みは和らぎ、多少の違和感はあるものの、このまま治まりそうな予感がします。驚いたのは、知覚過敏の治癒傾向よりも、排尿量の多さと排尿時の心地良い排尿感覚である。その後も、その排尿は続いている。可なりの余分な、体内の水が出たのは、充分察しがつく。さすれば、心臓の拍出に労するエネルギーの負担が軽減されているのも間違いないであろう。漢方で言う、心は神(精神活動)也を思うと、今晩の熟睡は、保証されているであろう。喜ばしい事である。

 臨床で、患者さんの浮腫みを見て、或いは浮腫みの訴えを聞いて、柴苓湯なり猪苓湯 (所謂、利尿作用が有るとされている処方)で余分の水を出そうとしても、そう思う様には効いてくれません。そこが、漢方薬の難しい所なのですが。逆に、歯の知覚過敏を治そうとした所、利尿作用が働いて、浮腫みが取れた事を考えると、これぞ、まさしくside effect つまり、狙いの主作用(知覚過敏)に付随した副作用(正しくは傍作用というべきかも知れませんが…)である。西洋医学で言う副作用(身体にとって悦ばしく無い作用、端的に言えば、害作用)とは異質な現象である。この様な、思いも寄らない「副作用」現象は、漢方を長く携わっていると、よく経験します。例えば、悪阻(つわり)を解消しようと、半夏瀉心湯を投薬したら、浮腫みが取れたりする事があります。その際、精神安定作用(悦ばしい副作用)が有るのは当然の事です…。他に、その半夏瀉心湯で経験する「副作用」現象では、胃の痞え、下痢を治そうとした所、精力が増強された事も経験しています。患者さんにとっては嬉しい副作用現象である。

 高血圧の治療を考えた時、ものの本には、大柴胡湯、柴胡加龍骨牡蠣湯、釣藤散、防風通聖散、黄連解毒湯、通導散、七物降下湯、八味丸、苓桂朮甘湯、加味逍遙散等が記載されています。どの処方にも、「証」があり、その患者さんが何れかの「証」、つまり何れかの体質かを見極める必要性に迫られる。所が、どう考えても、上記の処方に該当しない場合が有ります。患者さんの、あらゆる情報を考えて出た結果が、上記以外の処方であっても、一向に構わないのである。その患者さんが持っている体質、つまり“証”を把握すれば、その“証”にあった“処方”を思い切って投薬すれば良いのである。日本の漢方では、この事を「方証相対」と言っております。慣れてくると、望診だけで(見ただけで)その患者さんの“証”が解る事が多い。

 話は変わりますが、最近、緑内障の患者さんのお手伝いをさせて頂く事が多い。現代医学的には、緑内障の原因がよく解っていないのは周知の事ですが、漢方的には、浅田宗伯の勿誤薬室「方函」「口訣」に詳しく書かれています。  『腎気明目湯』   労神、腎虚、血少、眼痛、昏暗を治す。   当帰 川キュウ 熟地黄 生地黄 芍薬 桔梗 人参   梔子 黄連 白シ 菊花 蔓荊子 甘草   右十四味。  此の方ハ内障眼ノ主方トス。内障二気虚、血虚ノ分アリ。血虚ノ者ハ此ノ方トス。気虚ノ者ヲ益気聡明湯トス。…と有ります。  患者さんの腎、気、血を全体視して、良く弁証すれば、体質改善も可能と思っております。  数年前に人の紹介で来られた京都の患者さんでは、(その人の弟さんが、眼科医で、近い将来の失明を予告されていた)柴胡桂枝湯と釣藤散で失明を防げた症例も経験しております。何れも、アントラニール酸の網膜への働きを考えると天然タウリンの摂取も(合成タウリンは効果が無い)考慮すると良いと私は考えております。眼圧のコントロールに照準を合わせた現代医学とは、本質的に違います。  因みに、医王湯加防風、蔓荊子、白豆ク。十全大補湯加沈香、白豆ク、附子も撰用しなければならない…と書かれている。

 (大津市薬会報 2009年 4月号掲載)

19号 漢方の風 ー精神的ストレスによる胃腸疾患・不眠

2009-01-20

 最近のニュースで、来年(2009年)から、マグロの漁獲高の制限の国際協定が実施されようとしていると伝えていた。一ころの凡そ30%の水揚げだそうである。マイワシに至っては最盛期の10%しか獲れていないとも伝えていた。スケトウタラも激減しているらしい。マグロの世界一の消費国は勿論、日本である。手軽に食べられる回転寿司の消費が拍車をかけているそうである。加えて中国、EU諸国の消費量も激増しているから、乱獲になるのは、いわば当然の成り行きである。日本のバイヤーは、マグロの買い付けに、頭を痛めているのだそうである。マグロ一つにしても、世界(経済)全体で一体化しており、地球規模で水産資源の将来を協議するのは、有って然るべきであろう。…となると、アメリカの劣後債権・プライムローンの不良債権化から始まった今日の経済危機は、“実体”の無い経済問題だけに、マグロの問題以上の難しさを秘めている。 ある経済学者は、実体の無い、言わば虚構に価値を見い出し、それを売り買いする所から脱却して、実体に有った、言い換えると“物質”や“技術”等に価値を見い出して行く経済社会にしなければならないと言っていた。

 人体に当てはめて、漢方的に言い換えると、実体である物質(陰的物質)、乃ち五臓や精(血 液等)を大切にしましょうと言う事になるのであろうか。現代人の健康を、陰陽の物差し で、全体視した時、確固とした物質(漢方では陰精と言います、)の担保が少なくなっている様に思える。つまり、東洋医学的アプローチで、何を、どの様に、どれ位、食するかが大切であると考えています。見た目の体格の良さよりも、例え、スマートでも確固とした陰精と健全な精神を宿した身体作りをしなければなりません。つまり、魂を大切にしなければならない。現代社会において、 “精微な物質的根拠が少ない”が故に“気が先走る”落ち着きの無い子供が増えている(モンスターペアレント等、大人にも多い)のも、当然と言えば当然である。

 我が医療業界を見たとき,EBM(根拠に基ずいた医療・医薬品)に根ざした医療が大切であると言われています。ややもすると、医薬品のみに根拠を求める風潮がある様に感じております。私自信、嘔吐と下痢で、夜中に救急で病院に駆け込んだら、専門外の眼科医が当直だった経験をしていますが、身分を明かして、当方の希望に沿った処方をして頂き、ホッとした事も有ります。特に漢方薬の投薬において、EBMのM(Medicine)は医薬品(漢方医薬品)だけの問題でなく、医療者のEBMについても、少し、根拠が足りないのではと、感じる時が多々見受けられます。漢方薬を長く調剤していると、処方箋を書く側と調剤をする側、双方に“根拠に基いていない”ケースが見受けられる事は、残念な事です。良く処方される加味逍遙散、葛根湯、補中益気湯、当帰芍薬散…等の構成生薬と役割分担は少なくとも知っておかなければならないのは言うまでも無いことですが…。果して如何でしょうか?漢方医学の基礎知識を根拠とすることによって,多少なりとも、医療費の削減も期待出来るのですが…。反面、薬草は天然資源(一部、栽培品もあります)だけに、マグロと同様、資源の枯渇を招いては、未来の子孫に申し訳が立たなくなってしまう、いわば諸刃の剣的要素も包含している。漢方薬を処方する時、“地に根ざした原生薬“を思い浮かべ乍ら処方しなさいと故青木先生に教えられました。薬草の無駄づかいを戒め、薬草に感謝の気持ちを持ちなさいとも教えられました。一つ一つの薬草を計量しながら煎じ薬を調合していると、薬草に感謝の気持ちが自然に湧いて来ます。”勿体無い“根拠の無い使い方は、厳に慎みたいものです。

 話は変わりますが、最近、私が良く使う処方に、(加味)帰脾湯があります。不眠で困って おられる人に使うのですが、胃腸が弱く、軟便?下痢若しくは便秘で、疲れ易く、めまい、 健忘(物忘れ)、不眠、熟睡感が無く、多夢を目標に使います。この処方は四君子湯の変方 で、それに養心安神作用の薬草が加味された処方構成になっています。従って、独特の望 診※が有り出血傾向が高いのは、言うまでも有りません。中枢神経の抑制性伝達物質であ るGABAを介して視床下部や大脳辺縁系を抑制するいわゆる睡眠薬とは、睡眠の“質” が違い、寝覚めの気だるさやフラツキはなく熟睡出来る様になったと患者さんは仰います。 その他に、不眠に良く使う処方は桂枝加竜骨牡蠣湯、柴胡加竜骨牡蠣湯、抑肝散、加味逍 遥散、黄連解毒湯、清心蓮子飲、瀉心湯、黄連湯、温胆湯、柴胡桂枝乾姜湯、猪苓湯、半 夏厚朴湯、等が有ります。

 無分別な木の伐採でアマゾンが大変な状況に有ります。そこで、移民入植した日本人が、 「アグロフォレストリー」なる「森の農業」を始めているとBS放送で放映していました。 収益を上げながら、森を再生しておられる日本人の知恵に、感服しました。薬草において も、子孫が漢方薬の恩恵を未来永劫に受けられる様に、生薬が枯渇しない方策を漢方薬メ ーカー始め関係者が知恵を絞って確かなものにしなければならない。然しながら、その前 に大切な事は、生薬の無駄使いをしないことであろう。

 ※望診…四診(望、聞、問、切)の一つで、患者さんを見た時の印象(表情、顔色、艶、 髪、鼻の形等)で判断する診断法。

 (大津市薬会報 2009年 1月号掲載)

18号 漢方の風 ー腎臓病(腎炎、頻尿、尿路感染症、性感染症…他)

2008-11-23

 いつぞやの漢方塾で“鼻炎の特効薬”である小青龍湯が突然発症する浮腫(漢方では風水と言います)にとても良く効く旨の文章を書きました。この小青龍湯は花粉症に良く使われており、一般的によく知られておりますが、鼻汁がクシャミと共にタラタラと流れる鼻炎や、痰が無色で然も量が多い喘息にとても良く効きます。これは心下に溜まった余分な水が風邪等の外邪によって、上方に衝動せられ(感染等の刺激、漢方では、外邪と言います)上気道に溢れて来た結果であり、決して、気の流れのベクトルが下方に向いていないが為に(気が上方に向いているが為に)、尿不利(尿が出にくい)になります(尿は下方にベクトルが向いて出やすくなります)。その結果、突発性の浮腫を起こします。この場合、小青龍湯が驚くほど著効を発揮します。漢方薬は効き目が遅く時間をかけて、じっくり効いてくるとの一般論が有りますが、この場合は即効が期待出来、とても良く効いてくれます。乃ち、感染症と腎炎等の浮腫みが関係している場合が漢方学的見地から見ると度々見受けられます。扁桃炎をともなう急性腎炎には、越婢加朮湯がとても良く効いてくれます。これらは、妊娠している場合は使わないのが普通です。その妊娠腎には、当帰芍薬散、五苓散、小柴胡湯、柴胡桂枝乾姜湯、九味檳榔湯、等を撰用すると良いと思います。更に腎臓、膀胱、尿路等の感染症には、小柴胡湯、柴胡桂枝湯、五苓散、猪苓湯、五淋散、竜胆瀉肝湯、猪苓湯合四物湯、通導散合竜胆瀉肝湯、等から撰用すると良い。

 水健康法が流行る昨今、それでなくても、ドロドロ血をサラサラ血に保つ為に、水分の補給が第一と、何処へ行くにもペットボトルを持参している人を良くみかけます。決して否定するものではありませんが…。  水よ水、身体のどこかに、寄り道して、居座らないで…と願うばかりである。脳細胞に居座ると、頭痛や眩暈、耳鳴りの原因にも成りかねない。又、消化管に居座ると下痢や胃下垂、逆流性食道炎の原因にも成りかねない。表皮に近い所に居座ると多汗症やアトピー性皮膚炎を引き起こす事にも成りかねない。蚊に刺された後、皮膚炎をおこし、なかなか治癒しない人がおられますが、それは、表皮に近い所に水が溜まっているからで、黄耆なる薬草を使い、表の水をさばくと治癒が早まります。  私にはこの様な経験が有ります。高校時代に20人ばかりで、地元の比良山に良く登りました。夏山は暑くて水分の補給が最も大切である。およそ20?30分歩くと休憩を取ります。その度にポリタンの水を飲むのですが、その時は余程、喉が渇いていたのか、少し飲み過ぎたが為に、休憩の後、出発して間もなく、ひどい疲労感に襲われ、歩けなくなってしまいました。その結果、わたしのザックを他のメンバーが担ぐ事になり、とんでもない迷惑をかけてしまいました。その時以来、私は喉が渇いても、冷たく冷やした水分は一度に沢山摂取しない様気をつける様になりました。漢方を学習した今、その理由が良く分かります。その一方、沢山の冷たい水分(例えば冷やしたビール)を飲んでも平気な人もおられます。水分摂取は個別的であるのです。私に診を乞うてやって来られた方には、水の摂り方をよく指導致します。水健康法で生理不順、アトピー、ニキビを悪化させた人を随分見て来ました。(水の摂取は、あくまでも個別的であります。)人間は、ひとつひとつの細胞迄、有機的に生きているのである。水の取りすぎが理由で、細胞間隙に水が溜まったり、延いては組織までも水が溜まったりして様々な病的症状を引き起こす人が多く居られます。人が健康を保つ上で「水」の摂取と排泄は注意深くしなければなりません。

 最近、頻尿で悩む人が随分増えて来た様に思います。その頻尿の遠因は地球温暖化が原因と言った事がありますが、清心蓮子飲、小建中湯、柴胡桂枝乾姜湯等で改善される人がおられます。地球温暖化と共に身体が暑くなり、水分を余計に摂ってしまったり、汗が出すぎて、その結果「心」を弱らせてしまったりして、頻尿が起こるのである。上記の処方がそれぞれ「心」に効果があるのは、言うまでも有りません。やはり、頻尿の治療にも「五臓」を見渡さなければならないのは言うまでもない。  甘食厚味な食習慣と平均気温の上昇が尿の浸透圧を上げたり、濃縮尿を引き起こしたりして、尿路系の感染症を引き起こし、一方では性感染症の蔓延を引き起こしているのであると私は考えております。食育と共に日本の食文化を見直さなければなりません。学校教育の中に日本の食文化を取り入れる時が来ているのでは無いでしょうか…。感染症においても食事が密接に関係しているのであり、医療においても、抗生物質や抗菌剤で、菌を“たたく”ばっかりの治療の見直しを計る時が、遅きに失しないよう真の漢方を広めなければならないと思っております。

 (大津市薬会報 2008年 11月号掲載)

17号 漢方の風 ー漢方薬の素晴らしさ、難しさー

2008-08-11

 平成20年5月22日、(社)大津市薬剤師会総会の後の懇親会の席上、広報担当の山口先生より、ひき続き原稿を提出して欲しい旨の依頼を受けました。「豚もおだてりゃ木に登る」ばかりに “煽”(おだて)を甘受 し、二つ返事で了解してしまいました。その4日後の朝、いつもの様に仕事前にパソコンのメールのチェックをした所、早速、原稿の締め切りは6月25日ですと言って来た。来月からは、毎月大きな漢方講演が控えており、今書かなければ、締め切りに間に合わなくなる事必定である。今日は5月26日とはいえ、早速パソコンに原稿を書き始めました。今回は、少々、手前味噌の話を書かせて頂きます。ご辛抱下さい。

 私の生家は、大津の旧東海道沿いにあって(現京町通)、江戸時代から続く茶商で、間違いなく、本物の“朝宮茶”も扱っております。私の祖父は茶業の傍ら、趣味で骨接ぎ屋さんやら漢方薬屋さんをしていた(現在なら薬事法違反)。次兄には、“お前はお爺ちゃんの血をひいたんや”と何時も言われる。その次兄は美術品の蒐集家で(西大津近くで中川美術館を開いている)、何でここに、こんなに素晴らしい美術品が有るの、と思ってしまう程である。弟の私の一寸した自慢である。一方、私の長兄は、変わり者で、茶業の傍ら色々な趣味を持っていた。私が云うのも変ですが、中でも、文学的素養は天性のものがあり、俳句に至っては「花藻社」の主宰をもしていた。又、県の文化功労賞の栄誉にも浴した。湖畔のびわこ文化ホールの西側の芝生には、大津市制100周年事業において句碑を建立させて頂いた。そこには、

“湖薄暑掬えば貝となるてのひら”(琵琶湖の水の美しさを謳った句) と刻まれている。

 一般市民が見て、先ず読めないし、当然意味も解らない。皆が解らなければ駄目でしょうと私が云ったら、長兄からは解らないから良い、と言い返された。やはり変わり者である。兄が俳壇に登場した頃は、私はまだ幼稚園から小学校に上がった頃である(17歳の年の差がある)。その頃の、最初の句集「銀河」の巻頭を埋めた句のいくつかを披露させて頂きます。

“黄タンポポ吾が青春第一章”

“虹見てる誰か吾をボヘミアンと云う”

“かすれたレコードかけて満月に乾杯”

“タンポポに春ですね「今日は」

“田園の詩人トマトより真瓜がお好き”

歳を重ね、次に出した句集「男眉」では、

“男眉立てて祭りの武者となる”

“しんしんと雪降り天ゆ楽奏す”

“黙し鵙叫びたくなる世に棲みて”

“雪は純白こんな暗い世の中でも”

“沖へ帆を張って湖族の裔たらむか”

更に、長兄が亡くなる前の、「俳句界」(平成17年11月号)には、

“空蝉に早や生きものの臭ひ無し”

“雷三ッ日火攻めの窯が夜も唸る”

…等。今になって長兄の生き様を見る思いがします。

 それに引き換え、末弟の私は、それまで、極、普通に薬剤師の道を歩んで来ました。某メーカーに就職し、大学病院や町医者を見て来ました。現代医学の素晴らしさを感じつつも、同時に矛盾も一杯に憶え、僕の生きる道としては何か物足りなさを感じておりました。そして漢方を学んだ今、不確かであった、現代医学の危うさ、物足りなさがはっきりと認識出来るようになり、漢方を勉強して良かったとつくづく感じて居ります。

 人は、有機的複合体であり、喘息、アトピー性皮ふ炎、リウマチ、潰瘍性大腸炎、前立腺肥大…等全て、有機的に体内環境と繋がっております。咳を例にとると、五臓をして皆咳せしむ。一人肺にあらずと云って、五臓全てが咳の原因に成りうるのであると、古い書物に書かれている。初診では、ともすれば肺だけ診てしまう現代医学とは“診かた”が全く違うのである。…となると漢方家足るもの、皮膚病でさえ、又、何病であっても患者さんの全体を見なければならないのである。人を診るとなると、大変な作業になるのであり、責任は重大である。

 扁頭痛、下痢、足の関節痛、重症の冷えでお困りのAさんは、最近、呉茱萸湯合真武湯合附子湯を服用し始めて頂きました。二十日分服み終えた所ですが、服み始めた頃に足の甲にひどい鬱血がおこり、気分が悪くなって、頭痛発作も起こり、所謂、瞑眩(めんげん)があったものの、その後頭痛が、いつもより少し減じ、下痢は普通便に、膝痛は全くとれてしまった。そして、再診の今日、寝ていた髪は、ふわぁと立ち上がり、肌はしっとりと、女盛りの肌を取り戻している。

 処方箋の調剤をしていた頃は、凡そ、1400種類の医薬品を扱っておりました(当然夫々の作用機序も理解しております)が、上記のAさんを治療する医薬品はありません。漢方なら出来るのです。漢方の素晴らしさは、ここにあるのです。

 人は云います、私は、漢方は合いません、効きません…と。その患者さんに、よく聞くと,その医師は、舌も診ないし、脈も取らないし、腹診もしない。見たのは某メーカーの手帳だけであった…と。

 漢方の所為にしないで欲しいと、叫びたくなります。だけど、漢方薬と云えどもそう簡単にはいかないのも、現状である。私には、まだまだ勉強の日々が待っている。

 地球温暖化にともない、砂漠化が進み、原料生薬の収穫量が激減している。もっともっと生薬を大切に扱って欲しいと思い、漢方薬の正しい使い方を広めていかなければと思う今日この頃である。

(大津市薬会報 2008年 8月号掲載)

16号 漢方の風 ー食育ー

2008-05-29

 最近、日光東照宮の杉が次ぎ次ぎと倒木している旨のニュースを聞きました。樹医の診断によれば、幹の中に空洞が生じ、自らの“重さ”を支えられなくなっている為で、原因は、根にあって杉の木立のすぐ側迄、道路整備がなされ、その結果、根に水分と栄養が行き渡らず根の力が弱っているからとの結論であった。根本的な対策として、コンクリートの型枠を根元に埋め、水分の補給と水はけが滞らない対策が既に始まっているとも伝えていた。少しホッとするニュースである。それに対して政治家の国会の答弁や、官僚の隠蔽体質、日本の伝統である“暖簾”を背負った筈の商人のモラルの低下等、実に腹立たしい。抜本的に改善されるのか、先が見えて来ない不安を感じているのは、私だけで無いのは言うまでもない。日々舞い込んでくるこれらのストレスに、いちいち反応していると、精神衛生的に良くない。些細な事ではあるが、日常周辺で襲ってくる様々なストレスに負けない身体作りをしなければならない事が急務であり、現代社会で生き抜く為の課題になるのである。

 そこで、漢方的に倒木杉を人間の身体におきかえて、考えてみると、杉の根と土の働きに相当するものは、膵臓の働き迄も含めた消化吸収機能全般に当たります。漢方ではこの働き(消化吸収機能全般)を“脾”の働きによるものと考えます。乃ち、“脾”の働きが悪いと、水はけが悪くなり、消化吸収が悪くなり、その結果、下痢、胃下垂、元気が無い、低血圧、延いてはアトピー迄も引き起こしたりします。勿論、顔色も悪くなります。この脾の働きを“脾気”といいますが、脾気を高める漢方処方は、四君子湯である。人参、白朮、茯苓、甘草で構成されており、様々な漢方処方の基本になっております。十全大補湯、補中益気湯、六君子湯、帰脾湯、釣藤散、参苓白朮散等があります。これらの処方群を見た時、いかに“脾”の働きが大切であるかが分かります。  千利休が茶道を通じて、持成しの心、いわば日常の“機微”を大切にする事を実践した様に、家族の為に、人の為に美味しいものを食べさせて上げたいと言う気持ちがそもそも“食育”の原点であると考えて居ります。食が肉体を育む事は勿論ですが、食が精神をも育んでいる事を忘れてはならない。何も栄養素を全うするだけでは無いのである。

 最近、漢方の講演を依頼される事が多いのですが、必ず東洋の“食”の考えをお話するようにして居ります。五味(酸、苦、甘、辛、※鹹)と五臓(肝、心、脾、肺、腎)との関係、更に進めて五志(怒、喜、思、悲、恐)と五臓の関係は勿論の事として、元来、日本の伝統食の中に、ω受容体(精神安定や睡眠や筋肉の働き等と関係する)と結合するものが多く含まれていたり、カテキンを代表とした抗酸化物質を含んでいたり、又、イソフラボン、更に微量ミネラルも多く含まれている事も知っておくべきである。即ち、お茶、旬の魚(貝類も含めて)、納豆、酢、茸類、葱類、豆類、ごま油(植物性油)、海藻類、旬の野菜、芋類を中心に摂取する様説明しております。それらにも増して、漢方的に最も大切な事は、日光の杉の如く、根がしっかりと、水分と栄養素を吸収する体制作りをする事(脾気を高める事)を更に説明します。その為にも、旬のものが欠かせないし、冷飲食を避ける事も重要なのである。  東洋(漢方)医学は、陰陽二元論である。“脾気”はその「陽」に当たります。確かな脾の働きが食べ物を消化吸収して「陰」、乃ち、筋肉や血を作り出します。五行論では脾は土に該当します。水はけの良い土がおいしくて立派な野菜を作り出します。一方、前回の漢方の記事にも書きましたが、脾を冷やし過ぎる事も“脾気”の機能低下に繋がります。冬のビール、酎ハイも慎まなければならないのは言うまでもない。脾は冷やしすぎてもいけないからである。又、前述のストレスに打ち勝つ為にも、脾を大切にしなければならない。(脾はストレスに弱い)

 最近、某大手メーカーが、βグルカンの商品を発売しました。吸収率が高い事が謳い文句なのですが、因みに価格は27,000円。腸管にあるパイエル板のM細胞を刺激する観点と心臓への悪影響を考えた時、どうにも理解し難い。私の勉強不足かもしれませんが、訳が分からない。更に、キ○ベ○ンのコマーシャルも腹立たしい。世間一般の人があのコマーシャルを見たとき、キ○ベ○ンさえ飲んでおけば脂肪が吸収されず、太らないよ、といった印象を与えている様に思えてならない。企業の倫理観が問われます。この様にいちいち反応している私は、人生修行が足りないのかも知れない。情報が好き放題に飛び交っている生活空間にあって、我々薬剤師は患者さん、お客様と一番近い所にいる町の科学者(化学者ではなく)である。薬の知識は当然の事として、生活、健康に密着した情報を与え続けなければならない。

(大津市薬会報 2008年 5月号掲載)

  ※鹹(かん)…塩辛い

15号 漢方の風 ー風邪と免疫力ー

2008-01-16

 最近、タクシーの乗車拒否ならぬ、調剤拒否らしき話をよく耳にします。遠まわしに、やんわり断るパターンが最も多いのではないかと思いますが、患者さんにしてみれば、拒否したがっているのを明白に感じ取っているのである。患者さんとの接遇、応対に誠心誠意尽くさなければならないと感じて居ります。諸先輩と共に、医薬分業の進展に努力して来た過去を、ふと思い出している今日この頃である。

 本題に入りますが、物(事)には、ほとんどのものに、表と裏が有ります。漢方の考えにも、表と裏が有ります。内外、表裏といった概念です。一見して相反するこの二面性は、東洋医学的弁証法として最も大切であり、臨床に当り、この弁証なくして、治療は有り得ないのである。

 そこで、先ず、「内外」について説明しますと、内は、内の原因(内因)であり、外は、外の原因(外因)である。病気はこのどちらかが、原因で発症するのである。どちらもが絡んでいる場合も当然有り得ますが。“内因”には、「喜怒憂思悲恐驚」つまり「七情」が有り、この七つの感情のコントロールが宜しく無ければ、病気を惹き起こすのである。更に、内因として、あと一つ重要なのは、「房室の不摂生」つまり「過度な性行為」が有ります。これについては、後ほど、追記します。

 一方“外因”としては、「風寒暑湿燥火」つまり「六淫」が有ります。例えば、風(ふう)が悪さをした時、その悪さをしたものを邪と言いますが、この場合、風の邪が悪さをしたので、風邪(ふうじゃ)に中(あた)った、若しくは、風邪を受けると言います。又、同様に寒邪、暑邪、湿邪、燥邪、火邪と言います。

 これら六淫の中で、取り分け、夏のエアコンによる過度な冷え、冬のアイス、ビールによる体の冷えが原因で発症した寒邪による病気に注目しなければならない。往々にして、風と同時にやって来たり(風寒の邪)、湿と共にやって来たり(寒湿の邪)します。

 時は冬、エアコンの効いた室内で、冷えたビールを飲み、デザートにアイスクリームを食べる。乃ち、寒、湿を同時に取り込み、揚句の果てに、ある人はリウマチを、ある人は扁頭痛を、ある人はアトピーを、また、ある人は鼻炎を惹き起こすのである。治療には、風寒湿の邪を取り除かねばならない。

 内因としての、前出の「房室の不摂生」つまり「過度な性行為」にも、注意を払わなければならない。その理由は、人体内で最も重要な腎精を損うからである。

 あるホームページをみて、驚きました。本当なのか、真偽は、定かではありませんが、ある塾では、射精したあと、脳内物質が活発に働くのが、その根拠らしいのですが、試験が始まる直前に自慰行為を奨めていると言う。その為、試験会場のトイレは一杯になると、実しやかに書かれている。一方、ある番組で、射精時に10万ボルトの電流が流れ、脳細胞が破壊されると、学者が言っていたのを見ました。漢方的には、前者が謬っているのは、明白ですが、間違いなく脳内物質の活発な働きが見られ、一時的に脳を活発にして、目の前の受験戦争を勝ち抜く為の必要悪なのでしょうか。

 この議論の論点は考えさせられます。つまり、その生徒の半世紀後の精神生活を考えて見た時に、どちらが正しかったかは、その時に気がつくのであろう。恐らく、その生徒の自慰の習癖が、問題なのであろう。漢方的には、つまり、腎精の事を考えると、免疫にも関ってくるであろうし、若し、その生徒がアトピー性皮ふ炎を罹患していたならば、治癒機転を得るのに、更なる時間を費やす事になるであろう(ある種のアトピーの場合)。勿論、個人個人により、腎精の量的ボリュウムや腎精の生産能力の高低が関っているので、一概には、言えませんが…。当方の患者さんが、ゴルフの前日は、スコアが落ちるので、性行為をしないと真剣に言っておられます。ここらあたりに、何か、ヒントが隠されている様に思います。

 端を更め、話を戻しますが、文字通り、風邪の季節がやって来ました。風寒の邪の感受を避ける事が、一番大切であるのですが、その方法としては、(1)暖かくする事。(2)睡眠を充分にとる事。それでも‘寒いな’と思ったら、(3)熱い生姜湯を飲むことをお勧めします。どこかのメーカーの風邪薬より、間違いなく効く事、請け合いです。(4)最後に、塩入番茶のうがいが、お勧めです。

 それでも、風邪、寒邪に浸襲された(中った)時、桂枝湯、葛根湯、麻黄湯、小青龍湯、五苓散、桂麻三兄弟の何れか、参蘇飲、香蘇散、真武湯、麻黄細辛附子湯、防風通聖散、五積散、銀翹散、等から撰用すると良い。それでも、こじれてしまった時は、柴胡桂枝湯を始め様々な漢方処方が対処して呉れます。

 何といっても、漢方は、『未病』を治す考えがあります。乃ち、風邪を引き難くする予防の為の処方が沢山有ります。一人一人の体質を見極め、投与すると、確かな手応えが有ります。これは、風邪に限った訳ではなく、膀胱炎、腎盂炎、扁桃腺炎、副鼻腔炎、鼻炎、耳下腺炎、尿路感染症、性感染症、気管支炎、口内炎、結膜炎、膿痂疹…等、様々な感染症の予防に、確実に役に立って呉れます。この事は、多くの医療人が東洋医学の研鑽をした時、医療費の削減に大きく貢献する事になるであろうし、感染症で悩んでいる多くの患者さんの健康で快適な生活を約束するものである。最も、現在の医療保険制度では、“予防”に対して保険診療は認められていない。漢方薬は、そもそも、自宅で煎じて服用するものである。私の母親は、7人の子供を育てあげましたが、何かあった時、薬草を土瓶で煎じ、兄弟姉妹が、それぞれが子供の頃、苦かったり、臭かったりの煎じ薬を飲まされたものです。若い方は想像もつかないでしょうが、ミミズ(漢方では、地竜と言います)も煎じて服まされたものです。

(大津市薬会報 2008年 1月号掲載)

14号 漢方の風 ー漢方 癌治療(故青木先生の教えによる)ー

2007-11-18

 平成3年4月より、毎月一回、滋賀県薬剤師会館の二階で故青木馨生先生の漢方勉強会を拝聴しました。先生の講義は、方術(漢方薬の使い方)はそっちのけで、ひたすら、養生法の大切さを教えられました。

 ある理由で、最近その時のノートを読み返す事が多い。その第一回目の講義は、臨床家(西洋医学も東洋医学も含めて)は如何様に有るべきかが主な内容であった。ある理由とは、私自身、時々、漢方の臨床家としての責任の重さに打ちひしがれそうになるからである。先生の言葉は重く心を衝きます。漢方家として、大切な事は、学者であっては駄目で、あく迄も臨床家であれ!病んでいる人に対して、情なくしては駄目(放っておけない)。祈りであり、真剣であれ!時には、慙愧の念で涙し、反省し、それを記録し、科学的に、正確に究め、実験する。即ち、臨床に始まり臨床に終わる。なかでも養生は一番大切で、生活に密着した、簡単で、誰にでも出来るものでなければならない。真理を求めなさい。…といった内容であった。患者さんの生活様式を考慮して、一緒に悩み一緒に考えるようにしている毎日である。それらの上に立って、患者さんの全体を見る事が何よりも大切と心しております。

 膵炎から膵臓癌を発した患者さんは、係りつけの医師に食べ物の摂取について質問をした所。「何を食べても構いません!」が、その返事だったそうである。これ程、辛い事は有りません。つまり、生き方を訊ねているのである。よく問診してみると、毎日下痢が続いているとの事である。抗がん剤の所為であると決め付けていたのであるが、東洋医学的には、下痢が続くと免疫力が落ちるので、ひょっとしたらと思い、脂質の多い食品を中止して貰った所、翌日から下痢が止まった。漢方的には、やっと、ここからが出発点である。よく生きる為に必要な食生活の事、生活のリズム、調息法、等、実践して頂き、人参湯合当芍散にヨクイニンと白花蛇舌草を煎じて服用して頂いております。

 江戸時代の観相家である水野南北は、人相は運命を左右する。取り分け何を食するかが一番大切と自ら実践して確信を得たと書物を残している。食事の内容によって人の運命が決まるのである。美味しさとは食べ物の側に有るのではなく、食べる人の側にあると青木先生は仰っておられました。粗食と言われる物の中に真の美味しさがあるのである。又、癌の末期は、痩せて来るものであるが、先手必勝で、癌で痩せる前に、自ら粗食を実践し、痩せてしまうと癌細胞は大きくならない。従って、転移もしないと教わりました。恐らく、これは免疫系が活発になった為であろう。青木先生に係った癌患者さんは、殆ど、改善されていたと、お付の薬剤師さんから聞きました。

 比叡山 律院 大阿闍梨 叡南俊照師の元へお加持を受けに行った際、出された、昼食の美味しかった事。何も高価な素材を使った物でもなく、所謂、粗食と言われるものであるのだが…。あるデパ地下で長蛇の列が出来るハンバーグを買ってきて、飼っている犬にお裾分けした所、近寄ってくるや、そそくさと向こうへ行ってしまった、と患者さんが言っていた(故青木先生の話)。又、新聞の投稿記事に、飼っている犬を残し、日帰りの家族旅行に行き、夜、帰宅するや、さぞかし、お腹が空いているだろうと思いながら、インスタントのパックごはんを温めインスタントの味噌汁をかけて、与えた所、喜んで食べるものと思っていた所、しっぽを振って近寄って来て、クンクンと臭いを嗅いだだけで、何も食べずにあっちへ行ってしまった。急いでご飯を炊いて、味噌汁を作って与えた所、余程、お腹が空いていたのか、ガツガツと食べた。と書かれていた。人間は、進化の過程で、食べてはいかんとする、身を守る本能を置き忘れて終ったのであろう。

 般若心経に五蘊が有ります。色、受想行識でありますが、色は物体で眼に見えるもの、即ちサイエンス、つまり現代医学である。受想行識は、目に見えないもの、即ち、気、東洋医学なのである。アトピー性皮ふ炎、癌、精神疾患、…等、‘気’のアプローチなくして‘本治’は恐らく難しいと私は常々思っております。結局の所、自然治癒力を最大限に発揮させる事が肝要なのである。色、物体としては、何を、どれ位、食するかであり、一方、気、心、精神、の養生として、瞑想、座禅、気功、ヨガ、調息法、等の実践が自然治癒力を最大限に発揮させるのである。

 青木先生の癌治療は奇を衒った漢方処方では決して無く、有り触れた日本の漢方を淡々と処方されていただけである。漢方家としては、このありふれた漢方を処方するのが実に難しいのである。青木先生と雖も患者さんの養生があったからこそ、改善出来たのであろう。まして、この頃は、漢方薬と言うものは、アルミパックに入ったザラザラした顆粒の事だと思っている人が多く、煎じ薬でないと効果が弱く、煎じ薬を服ませる説得に労を尽くさねばならない。

 私の所へ診を乞うてやって来たのであって、美味しいケーキを買いにやって来たのでは無く、病気を治しにやって来た事を気づかせてあげる努力が大切と教わりました。  最後に、水野南北の言葉を書いて終わります。「人の運命は全く飲食の如何に拠る、是を以って予が相法の極意とする。大食を為す者は必ず運、宜しからず、不意の災禍損失多かるべし」

(大津市薬会報 2007年11月号掲載)

13号 漢方の風 ーオーガニックコットン(抵抗力をつける)ー

2007-08-01

 最近のテレビ番組から、感じた事を、書いてみたいと思います。オーガニックコットンの生産に係っている女性の番組で、彼女は、バングラデシュの農業従事者の困窮を救いたい気持ちを前面に出し、頑張っている姿が、放映されていた。バングラデシュは、北海道の約2倍の面積で、人口は、14000万人。元々低地で、その上、温暖化に伴う洪水で、せっかく手入れした畑が、流されてしまったりで、生活の厳しさが伺える。彼らの大きな生産は、主に、綿花の栽培から、糸紡ぎ迄なのだが、オーガニックでない場合、出来上がったコットンの売り上げの半分が、農薬代に消えてしまうのである。ちなみに、その農薬を一番売り込んでいるのは、ドイツの企業だそうである。オーガニックの元になるのは、アヒル、牛などの糞なのだが、彼らは、その糞を、手で扱っているものの、その表情には、将来を見据えた喜びが満ち溢れている。

 農薬を使った畑は、翌年は使い物にならない。一方、オーガニック畑は、毎年植え付けが可能であり、いわば無機質な土と有機的土壌の違いがあるのである。有機的土壌には、ミミズ等の生物が棲んでいる。お名前は、覚えておりませんが、とてつもなく美味しい、又一年経っても腐敗しないリンゴを作っておられるりんご農家の方と重ねて、番組を見ておりました。  一方、私が関係しております医学の世界では、私が、子供の頃、回虫を持っている生徒は、恐らく二桁を占めていたと思いますが、今は皆無に等しい状況である。ある医学博士は、30年前(私が勝手に感じている数字で、不確かですが)、余り見られなかった花粉症が、増え続けているのは、回虫の駆除と関係していると自説を唱えておられます。  私も、同感ですが、漢方的には、もっと、重要な事があるのです。其れは、資本主義社会の宿命なのですが、食環境、住宅環境、嗜好品、…と言った、日本人の体内環境を無視した所から、始まっている。  原稿を書いている今、タイミング良く、ご近所のMさんが、自分の畑で作ったキュウリを届けに来てくださいました。大根、三度豆、キャベツ、ほうれんそう、トマト…等、季節毎に、正に“旬”を戴くのである。スーパーで買ったものとは、味は、勿論の事、日持ちが、全然違うのは、何故なのか。いわば、オーガニック栽培だから、ちがうんヨ…と、Mさんは、ニッコリしながら教えて下さいます。

 端を更めますが、漢方では、『気』『血』『水』と言った概念を、重要視します。「麻芍乾桂、関西のご飯」…これは、私がお弟子さんに教えている、小青龍湯の処方内容の覚え方ですが、麻黄、芍薬、乾姜、桂皮、甘草、細辛、五味子、半夏なのですが、これらの内、麻黄、乾姜、桂皮、細辛、五味子と何れも、温める作用のある薬草が、大半を占めている。一方、体内で、身体を冷やしている水を駆水する薬草も含まれている。つまり、簡単に言うと、身体を冷やしている水を、温めて、主に尿として駆水してやると、花粉症は治るのである。ある種の喘息も、同じ理由で、この小青龍湯で、簡単に治るのである。(素人療法は、危険ですので、必ず、専門家に相談して下さい。)  元に戻ってみると、食環境、住環境、嗜好品が問題と言っているのは、冬に、アイスを食べ、秋には、秋味のビール、冬には、冬のビール、冬に夏野菜、又その、真逆の事もありで、東洋医学的見地からすると、最早、正気の沙汰ではないと言っても過言ではない。  現代医学では、花粉症、喘息に、一部お手上げ状態の患者さんが、見受けられるのは、当然と言えば当然なのである。冷えと水毒が原因の喘息のお子さんが、薬嫌いで、アイスクリームに混ぜて服薬させるよう指導している、小児科医、薬剤師がおりますが、如何なものかと、思っております。

 無機質な肉体と有機的複合体としての身体の捕らえ方の違い(つまりホリスティック)が、一番大切と考えているのは、漢方家の一致した考えであります。水飲み健康法を実践して、アトピー、ニキビ、生理痛を悪化させて、私に、診を乞うてやって来た患者さんが、多く居られますが、これは、正に、肉体を無機質なものと、かん違いしているほんの一例である。癌患者さんの放射線治療(全てでは有りませんが)も、その一例と思っております。人間の身体は、正に、有機的に複雑に、精神と肉体までも含めて、リンケージしているのである。  ずっと以前の番組で、VRE(史上、最強の耐性菌)感染は、何故、おこったのか(タイトル名は、違ったかも知れませんが)の放送の中で、産卵するニワトリの餌の中に、抗生物質が混ぜてあって、知らず知らずの内に、抗生物質を体内に摂り込んでおり、その結果、耐性菌が増えている。又、何かに感染すれば、兎に角、抗生物質、化学療法剤を、子供の頃から、度々投与するのも、耐性菌を増やし続けている要因にもなっていると番組では、言っていた。

 体内環境をある意味、破壊し、純粋培養人間を作ってしまっている現代社会は、一体何処へ行き着くのであろうか。然しながら、適格な抗生物質の使用は、絶対的に必要である。密かに、蔓延しているSTD(性感染症)の撲滅には、正にその通りなのだが…。やはり、予防即ち、性教育の遅れが、結果的には、耐性菌を作ってしまう事にもなるのであろう。  オーガニックコットンを栽培した“土壌”を見るにつけ、抗生物質を頻用した肉体の何らかの“危うさ”を感じるのは、私だけで、あろうか?

(大津市薬会報 2007年 8月号掲載)

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