アトピー性皮膚炎・滋賀県・漢方薬 | なかがわ漢方堂薬局

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Archive for the ‘菊池病’ Category

19号 漢方の風 ー精神的ストレスによる胃腸疾患・不眠

2009-01-20

 最近のニュースで、来年(2009年)から、マグロの漁獲高の制限の国際協定が実施されようとしていると伝えていた。一ころの凡そ30%の水揚げだそうである。マイワシに至っては最盛期の10%しか獲れていないとも伝えていた。スケトウタラも激減しているらしい。マグロの世界一の消費国は勿論、日本である。手軽に食べられる回転寿司の消費が拍車をかけているそうである。加えて中国、EU諸国の消費量も激増しているから、乱獲になるのは、いわば当然の成り行きである。日本のバイヤーは、マグロの買い付けに、頭を痛めているのだそうである。マグロ一つにしても、世界(経済)全体で一体化しており、地球規模で水産資源の将来を協議するのは、有って然るべきであろう。…となると、アメリカの劣後債権・プライムローンの不良債権化から始まった今日の経済危機は、“実体”の無い経済問題だけに、マグロの問題以上の難しさを秘めている。 ある経済学者は、実体の無い、言わば虚構に価値を見い出し、それを売り買いする所から脱却して、実体に有った、言い換えると“物質”や“技術”等に価値を見い出して行く経済社会にしなければならないと言っていた。

 人体に当てはめて、漢方的に言い換えると、実体である物質(陰的物質)、乃ち五臓や精(血 液等)を大切にしましょうと言う事になるのであろうか。現代人の健康を、陰陽の物差し で、全体視した時、確固とした物質(漢方では陰精と言います、)の担保が少なくなっている様に思える。つまり、東洋医学的アプローチで、何を、どの様に、どれ位、食するかが大切であると考えています。見た目の体格の良さよりも、例え、スマートでも確固とした陰精と健全な精神を宿した身体作りをしなければなりません。つまり、魂を大切にしなければならない。現代社会において、 “精微な物質的根拠が少ない”が故に“気が先走る”落ち着きの無い子供が増えている(モンスターペアレント等、大人にも多い)のも、当然と言えば当然である。

 我が医療業界を見たとき,EBM(根拠に基ずいた医療・医薬品)に根ざした医療が大切であると言われています。ややもすると、医薬品のみに根拠を求める風潮がある様に感じております。私自信、嘔吐と下痢で、夜中に救急で病院に駆け込んだら、専門外の眼科医が当直だった経験をしていますが、身分を明かして、当方の希望に沿った処方をして頂き、ホッとした事も有ります。特に漢方薬の投薬において、EBMのM(Medicine)は医薬品(漢方医薬品)だけの問題でなく、医療者のEBMについても、少し、根拠が足りないのではと、感じる時が多々見受けられます。漢方薬を長く調剤していると、処方箋を書く側と調剤をする側、双方に“根拠に基いていない”ケースが見受けられる事は、残念な事です。良く処方される加味逍遙散、葛根湯、補中益気湯、当帰芍薬散…等の構成生薬と役割分担は少なくとも知っておかなければならないのは言うまでも無いことですが…。果して如何でしょうか?漢方医学の基礎知識を根拠とすることによって,多少なりとも、医療費の削減も期待出来るのですが…。反面、薬草は天然資源(一部、栽培品もあります)だけに、マグロと同様、資源の枯渇を招いては、未来の子孫に申し訳が立たなくなってしまう、いわば諸刃の剣的要素も包含している。漢方薬を処方する時、“地に根ざした原生薬“を思い浮かべ乍ら処方しなさいと故青木先生に教えられました。薬草の無駄づかいを戒め、薬草に感謝の気持ちを持ちなさいとも教えられました。一つ一つの薬草を計量しながら煎じ薬を調合していると、薬草に感謝の気持ちが自然に湧いて来ます。”勿体無い“根拠の無い使い方は、厳に慎みたいものです。

 話は変わりますが、最近、私が良く使う処方に、(加味)帰脾湯があります。不眠で困って おられる人に使うのですが、胃腸が弱く、軟便?下痢若しくは便秘で、疲れ易く、めまい、 健忘(物忘れ)、不眠、熟睡感が無く、多夢を目標に使います。この処方は四君子湯の変方 で、それに養心安神作用の薬草が加味された処方構成になっています。従って、独特の望 診※が有り出血傾向が高いのは、言うまでも有りません。中枢神経の抑制性伝達物質であ るGABAを介して視床下部や大脳辺縁系を抑制するいわゆる睡眠薬とは、睡眠の“質” が違い、寝覚めの気だるさやフラツキはなく熟睡出来る様になったと患者さんは仰います。 その他に、不眠に良く使う処方は桂枝加竜骨牡蠣湯、柴胡加竜骨牡蠣湯、抑肝散、加味逍 遥散、黄連解毒湯、清心蓮子飲、瀉心湯、黄連湯、温胆湯、柴胡桂枝乾姜湯、猪苓湯、半 夏厚朴湯、等が有ります。

 無分別な木の伐採でアマゾンが大変な状況に有ります。そこで、移民入植した日本人が、 「アグロフォレストリー」なる「森の農業」を始めているとBS放送で放映していました。 収益を上げながら、森を再生しておられる日本人の知恵に、感服しました。薬草において も、子孫が漢方薬の恩恵を未来永劫に受けられる様に、生薬が枯渇しない方策を漢方薬メ ーカー始め関係者が知恵を絞って確かなものにしなければならない。然しながら、その前 に大切な事は、生薬の無駄使いをしないことであろう。

 ※望診…四診(望、聞、問、切)の一つで、患者さんを見た時の印象(表情、顔色、艶、 髪、鼻の形等)で判断する診断法。

 (大津市薬会報 2009年 1月号掲載)

18号 漢方の風 ー腎臓病(腎炎、頻尿、尿路感染症、性感染症…他)

2008-11-23

 いつぞやの漢方塾で“鼻炎の特効薬”である小青龍湯が突然発症する浮腫(漢方では風水と言います)にとても良く効く旨の文章を書きました。この小青龍湯は花粉症に良く使われており、一般的によく知られておりますが、鼻汁がクシャミと共にタラタラと流れる鼻炎や、痰が無色で然も量が多い喘息にとても良く効きます。これは心下に溜まった余分な水が風邪等の外邪によって、上方に衝動せられ(感染等の刺激、漢方では、外邪と言います)上気道に溢れて来た結果であり、決して、気の流れのベクトルが下方に向いていないが為に(気が上方に向いているが為に)、尿不利(尿が出にくい)になります(尿は下方にベクトルが向いて出やすくなります)。その結果、突発性の浮腫を起こします。この場合、小青龍湯が驚くほど著効を発揮します。漢方薬は効き目が遅く時間をかけて、じっくり効いてくるとの一般論が有りますが、この場合は即効が期待出来、とても良く効いてくれます。乃ち、感染症と腎炎等の浮腫みが関係している場合が漢方学的見地から見ると度々見受けられます。扁桃炎をともなう急性腎炎には、越婢加朮湯がとても良く効いてくれます。これらは、妊娠している場合は使わないのが普通です。その妊娠腎には、当帰芍薬散、五苓散、小柴胡湯、柴胡桂枝乾姜湯、九味檳榔湯、等を撰用すると良いと思います。更に腎臓、膀胱、尿路等の感染症には、小柴胡湯、柴胡桂枝湯、五苓散、猪苓湯、五淋散、竜胆瀉肝湯、猪苓湯合四物湯、通導散合竜胆瀉肝湯、等から撰用すると良い。

 水健康法が流行る昨今、それでなくても、ドロドロ血をサラサラ血に保つ為に、水分の補給が第一と、何処へ行くにもペットボトルを持参している人を良くみかけます。決して否定するものではありませんが…。  水よ水、身体のどこかに、寄り道して、居座らないで…と願うばかりである。脳細胞に居座ると、頭痛や眩暈、耳鳴りの原因にも成りかねない。又、消化管に居座ると下痢や胃下垂、逆流性食道炎の原因にも成りかねない。表皮に近い所に居座ると多汗症やアトピー性皮膚炎を引き起こす事にも成りかねない。蚊に刺された後、皮膚炎をおこし、なかなか治癒しない人がおられますが、それは、表皮に近い所に水が溜まっているからで、黄耆なる薬草を使い、表の水をさばくと治癒が早まります。  私にはこの様な経験が有ります。高校時代に20人ばかりで、地元の比良山に良く登りました。夏山は暑くて水分の補給が最も大切である。およそ20?30分歩くと休憩を取ります。その度にポリタンの水を飲むのですが、その時は余程、喉が渇いていたのか、少し飲み過ぎたが為に、休憩の後、出発して間もなく、ひどい疲労感に襲われ、歩けなくなってしまいました。その結果、わたしのザックを他のメンバーが担ぐ事になり、とんでもない迷惑をかけてしまいました。その時以来、私は喉が渇いても、冷たく冷やした水分は一度に沢山摂取しない様気をつける様になりました。漢方を学習した今、その理由が良く分かります。その一方、沢山の冷たい水分(例えば冷やしたビール)を飲んでも平気な人もおられます。水分摂取は個別的であるのです。私に診を乞うてやって来られた方には、水の摂り方をよく指導致します。水健康法で生理不順、アトピー、ニキビを悪化させた人を随分見て来ました。(水の摂取は、あくまでも個別的であります。)人間は、ひとつひとつの細胞迄、有機的に生きているのである。水の取りすぎが理由で、細胞間隙に水が溜まったり、延いては組織までも水が溜まったりして様々な病的症状を引き起こす人が多く居られます。人が健康を保つ上で「水」の摂取と排泄は注意深くしなければなりません。

 最近、頻尿で悩む人が随分増えて来た様に思います。その頻尿の遠因は地球温暖化が原因と言った事がありますが、清心蓮子飲、小建中湯、柴胡桂枝乾姜湯等で改善される人がおられます。地球温暖化と共に身体が暑くなり、水分を余計に摂ってしまったり、汗が出すぎて、その結果「心」を弱らせてしまったりして、頻尿が起こるのである。上記の処方がそれぞれ「心」に効果があるのは、言うまでも有りません。やはり、頻尿の治療にも「五臓」を見渡さなければならないのは言うまでもない。  甘食厚味な食習慣と平均気温の上昇が尿の浸透圧を上げたり、濃縮尿を引き起こしたりして、尿路系の感染症を引き起こし、一方では性感染症の蔓延を引き起こしているのであると私は考えております。食育と共に日本の食文化を見直さなければなりません。学校教育の中に日本の食文化を取り入れる時が来ているのでは無いでしょうか…。感染症においても食事が密接に関係しているのであり、医療においても、抗生物質や抗菌剤で、菌を“たたく”ばっかりの治療の見直しを計る時が、遅きに失しないよう真の漢方を広めなければならないと思っております。

 (大津市薬会報 2008年 11月号掲載)

17号 漢方の風 ー漢方薬の素晴らしさ、難しさー

2008-08-11

 平成20年5月22日、(社)大津市薬剤師会総会の後の懇親会の席上、広報担当の山口先生より、ひき続き原稿を提出して欲しい旨の依頼を受けました。「豚もおだてりゃ木に登る」ばかりに “煽”(おだて)を甘受 し、二つ返事で了解してしまいました。その4日後の朝、いつもの様に仕事前にパソコンのメールのチェックをした所、早速、原稿の締め切りは6月25日ですと言って来た。来月からは、毎月大きな漢方講演が控えており、今書かなければ、締め切りに間に合わなくなる事必定である。今日は5月26日とはいえ、早速パソコンに原稿を書き始めました。今回は、少々、手前味噌の話を書かせて頂きます。ご辛抱下さい。

 私の生家は、大津の旧東海道沿いにあって(現京町通)、江戸時代から続く茶商で、間違いなく、本物の“朝宮茶”も扱っております。私の祖父は茶業の傍ら、趣味で骨接ぎ屋さんやら漢方薬屋さんをしていた(現在なら薬事法違反)。次兄には、“お前はお爺ちゃんの血をひいたんや”と何時も言われる。その次兄は美術品の蒐集家で(西大津近くで中川美術館を開いている)、何でここに、こんなに素晴らしい美術品が有るの、と思ってしまう程である。弟の私の一寸した自慢である。一方、私の長兄は、変わり者で、茶業の傍ら色々な趣味を持っていた。私が云うのも変ですが、中でも、文学的素養は天性のものがあり、俳句に至っては「花藻社」の主宰をもしていた。又、県の文化功労賞の栄誉にも浴した。湖畔のびわこ文化ホールの西側の芝生には、大津市制100周年事業において句碑を建立させて頂いた。そこには、

“湖薄暑掬えば貝となるてのひら”(琵琶湖の水の美しさを謳った句) と刻まれている。

 一般市民が見て、先ず読めないし、当然意味も解らない。皆が解らなければ駄目でしょうと私が云ったら、長兄からは解らないから良い、と言い返された。やはり変わり者である。兄が俳壇に登場した頃は、私はまだ幼稚園から小学校に上がった頃である(17歳の年の差がある)。その頃の、最初の句集「銀河」の巻頭を埋めた句のいくつかを披露させて頂きます。

“黄タンポポ吾が青春第一章”

“虹見てる誰か吾をボヘミアンと云う”

“かすれたレコードかけて満月に乾杯”

“タンポポに春ですね「今日は」

“田園の詩人トマトより真瓜がお好き”

歳を重ね、次に出した句集「男眉」では、

“男眉立てて祭りの武者となる”

“しんしんと雪降り天ゆ楽奏す”

“黙し鵙叫びたくなる世に棲みて”

“雪は純白こんな暗い世の中でも”

“沖へ帆を張って湖族の裔たらむか”

更に、長兄が亡くなる前の、「俳句界」(平成17年11月号)には、

“空蝉に早や生きものの臭ひ無し”

“雷三ッ日火攻めの窯が夜も唸る”

…等。今になって長兄の生き様を見る思いがします。

 それに引き換え、末弟の私は、それまで、極、普通に薬剤師の道を歩んで来ました。某メーカーに就職し、大学病院や町医者を見て来ました。現代医学の素晴らしさを感じつつも、同時に矛盾も一杯に憶え、僕の生きる道としては何か物足りなさを感じておりました。そして漢方を学んだ今、不確かであった、現代医学の危うさ、物足りなさがはっきりと認識出来るようになり、漢方を勉強して良かったとつくづく感じて居ります。

 人は、有機的複合体であり、喘息、アトピー性皮ふ炎、リウマチ、潰瘍性大腸炎、前立腺肥大…等全て、有機的に体内環境と繋がっております。咳を例にとると、五臓をして皆咳せしむ。一人肺にあらずと云って、五臓全てが咳の原因に成りうるのであると、古い書物に書かれている。初診では、ともすれば肺だけ診てしまう現代医学とは“診かた”が全く違うのである。…となると漢方家足るもの、皮膚病でさえ、又、何病であっても患者さんの全体を見なければならないのである。人を診るとなると、大変な作業になるのであり、責任は重大である。

 扁頭痛、下痢、足の関節痛、重症の冷えでお困りのAさんは、最近、呉茱萸湯合真武湯合附子湯を服用し始めて頂きました。二十日分服み終えた所ですが、服み始めた頃に足の甲にひどい鬱血がおこり、気分が悪くなって、頭痛発作も起こり、所謂、瞑眩(めんげん)があったものの、その後頭痛が、いつもより少し減じ、下痢は普通便に、膝痛は全くとれてしまった。そして、再診の今日、寝ていた髪は、ふわぁと立ち上がり、肌はしっとりと、女盛りの肌を取り戻している。

 処方箋の調剤をしていた頃は、凡そ、1400種類の医薬品を扱っておりました(当然夫々の作用機序も理解しております)が、上記のAさんを治療する医薬品はありません。漢方なら出来るのです。漢方の素晴らしさは、ここにあるのです。

 人は云います、私は、漢方は合いません、効きません…と。その患者さんに、よく聞くと,その医師は、舌も診ないし、脈も取らないし、腹診もしない。見たのは某メーカーの手帳だけであった…と。

 漢方の所為にしないで欲しいと、叫びたくなります。だけど、漢方薬と云えどもそう簡単にはいかないのも、現状である。私には、まだまだ勉強の日々が待っている。

 地球温暖化にともない、砂漠化が進み、原料生薬の収穫量が激減している。もっともっと生薬を大切に扱って欲しいと思い、漢方薬の正しい使い方を広めていかなければと思う今日この頃である。

(大津市薬会報 2008年 8月号掲載)

16号 漢方の風 ー食育ー

2008-05-29

 最近、日光東照宮の杉が次ぎ次ぎと倒木している旨のニュースを聞きました。樹医の診断によれば、幹の中に空洞が生じ、自らの“重さ”を支えられなくなっている為で、原因は、根にあって杉の木立のすぐ側迄、道路整備がなされ、その結果、根に水分と栄養が行き渡らず根の力が弱っているからとの結論であった。根本的な対策として、コンクリートの型枠を根元に埋め、水分の補給と水はけが滞らない対策が既に始まっているとも伝えていた。少しホッとするニュースである。それに対して政治家の国会の答弁や、官僚の隠蔽体質、日本の伝統である“暖簾”を背負った筈の商人のモラルの低下等、実に腹立たしい。抜本的に改善されるのか、先が見えて来ない不安を感じているのは、私だけで無いのは言うまでもない。日々舞い込んでくるこれらのストレスに、いちいち反応していると、精神衛生的に良くない。些細な事ではあるが、日常周辺で襲ってくる様々なストレスに負けない身体作りをしなければならない事が急務であり、現代社会で生き抜く為の課題になるのである。

 そこで、漢方的に倒木杉を人間の身体におきかえて、考えてみると、杉の根と土の働きに相当するものは、膵臓の働き迄も含めた消化吸収機能全般に当たります。漢方ではこの働き(消化吸収機能全般)を“脾”の働きによるものと考えます。乃ち、“脾”の働きが悪いと、水はけが悪くなり、消化吸収が悪くなり、その結果、下痢、胃下垂、元気が無い、低血圧、延いてはアトピー迄も引き起こしたりします。勿論、顔色も悪くなります。この脾の働きを“脾気”といいますが、脾気を高める漢方処方は、四君子湯である。人参、白朮、茯苓、甘草で構成されており、様々な漢方処方の基本になっております。十全大補湯、補中益気湯、六君子湯、帰脾湯、釣藤散、参苓白朮散等があります。これらの処方群を見た時、いかに“脾”の働きが大切であるかが分かります。  千利休が茶道を通じて、持成しの心、いわば日常の“機微”を大切にする事を実践した様に、家族の為に、人の為に美味しいものを食べさせて上げたいと言う気持ちがそもそも“食育”の原点であると考えて居ります。食が肉体を育む事は勿論ですが、食が精神をも育んでいる事を忘れてはならない。何も栄養素を全うするだけでは無いのである。

 最近、漢方の講演を依頼される事が多いのですが、必ず東洋の“食”の考えをお話するようにして居ります。五味(酸、苦、甘、辛、※鹹)と五臓(肝、心、脾、肺、腎)との関係、更に進めて五志(怒、喜、思、悲、恐)と五臓の関係は勿論の事として、元来、日本の伝統食の中に、ω受容体(精神安定や睡眠や筋肉の働き等と関係する)と結合するものが多く含まれていたり、カテキンを代表とした抗酸化物質を含んでいたり、又、イソフラボン、更に微量ミネラルも多く含まれている事も知っておくべきである。即ち、お茶、旬の魚(貝類も含めて)、納豆、酢、茸類、葱類、豆類、ごま油(植物性油)、海藻類、旬の野菜、芋類を中心に摂取する様説明しております。それらにも増して、漢方的に最も大切な事は、日光の杉の如く、根がしっかりと、水分と栄養素を吸収する体制作りをする事(脾気を高める事)を更に説明します。その為にも、旬のものが欠かせないし、冷飲食を避ける事も重要なのである。  東洋(漢方)医学は、陰陽二元論である。“脾気”はその「陽」に当たります。確かな脾の働きが食べ物を消化吸収して「陰」、乃ち、筋肉や血を作り出します。五行論では脾は土に該当します。水はけの良い土がおいしくて立派な野菜を作り出します。一方、前回の漢方の記事にも書きましたが、脾を冷やし過ぎる事も“脾気”の機能低下に繋がります。冬のビール、酎ハイも慎まなければならないのは言うまでもない。脾は冷やしすぎてもいけないからである。又、前述のストレスに打ち勝つ為にも、脾を大切にしなければならない。(脾はストレスに弱い)

 最近、某大手メーカーが、βグルカンの商品を発売しました。吸収率が高い事が謳い文句なのですが、因みに価格は27,000円。腸管にあるパイエル板のM細胞を刺激する観点と心臓への悪影響を考えた時、どうにも理解し難い。私の勉強不足かもしれませんが、訳が分からない。更に、キ○ベ○ンのコマーシャルも腹立たしい。世間一般の人があのコマーシャルを見たとき、キ○ベ○ンさえ飲んでおけば脂肪が吸収されず、太らないよ、といった印象を与えている様に思えてならない。企業の倫理観が問われます。この様にいちいち反応している私は、人生修行が足りないのかも知れない。情報が好き放題に飛び交っている生活空間にあって、我々薬剤師は患者さん、お客様と一番近い所にいる町の科学者(化学者ではなく)である。薬の知識は当然の事として、生活、健康に密着した情報を与え続けなければならない。

(大津市薬会報 2008年 5月号掲載)

  ※鹹(かん)…塩辛い

15号 漢方の風 ー風邪と免疫力ー

2008-01-16

 最近、タクシーの乗車拒否ならぬ、調剤拒否らしき話をよく耳にします。遠まわしに、やんわり断るパターンが最も多いのではないかと思いますが、患者さんにしてみれば、拒否したがっているのを明白に感じ取っているのである。患者さんとの接遇、応対に誠心誠意尽くさなければならないと感じて居ります。諸先輩と共に、医薬分業の進展に努力して来た過去を、ふと思い出している今日この頃である。

 本題に入りますが、物(事)には、ほとんどのものに、表と裏が有ります。漢方の考えにも、表と裏が有ります。内外、表裏といった概念です。一見して相反するこの二面性は、東洋医学的弁証法として最も大切であり、臨床に当り、この弁証なくして、治療は有り得ないのである。

 そこで、先ず、「内外」について説明しますと、内は、内の原因(内因)であり、外は、外の原因(外因)である。病気はこのどちらかが、原因で発症するのである。どちらもが絡んでいる場合も当然有り得ますが。“内因”には、「喜怒憂思悲恐驚」つまり「七情」が有り、この七つの感情のコントロールが宜しく無ければ、病気を惹き起こすのである。更に、内因として、あと一つ重要なのは、「房室の不摂生」つまり「過度な性行為」が有ります。これについては、後ほど、追記します。

 一方“外因”としては、「風寒暑湿燥火」つまり「六淫」が有ります。例えば、風(ふう)が悪さをした時、その悪さをしたものを邪と言いますが、この場合、風の邪が悪さをしたので、風邪(ふうじゃ)に中(あた)った、若しくは、風邪を受けると言います。又、同様に寒邪、暑邪、湿邪、燥邪、火邪と言います。

 これら六淫の中で、取り分け、夏のエアコンによる過度な冷え、冬のアイス、ビールによる体の冷えが原因で発症した寒邪による病気に注目しなければならない。往々にして、風と同時にやって来たり(風寒の邪)、湿と共にやって来たり(寒湿の邪)します。

 時は冬、エアコンの効いた室内で、冷えたビールを飲み、デザートにアイスクリームを食べる。乃ち、寒、湿を同時に取り込み、揚句の果てに、ある人はリウマチを、ある人は扁頭痛を、ある人はアトピーを、また、ある人は鼻炎を惹き起こすのである。治療には、風寒湿の邪を取り除かねばならない。

 内因としての、前出の「房室の不摂生」つまり「過度な性行為」にも、注意を払わなければならない。その理由は、人体内で最も重要な腎精を損うからである。

 あるホームページをみて、驚きました。本当なのか、真偽は、定かではありませんが、ある塾では、射精したあと、脳内物質が活発に働くのが、その根拠らしいのですが、試験が始まる直前に自慰行為を奨めていると言う。その為、試験会場のトイレは一杯になると、実しやかに書かれている。一方、ある番組で、射精時に10万ボルトの電流が流れ、脳細胞が破壊されると、学者が言っていたのを見ました。漢方的には、前者が謬っているのは、明白ですが、間違いなく脳内物質の活発な働きが見られ、一時的に脳を活発にして、目の前の受験戦争を勝ち抜く為の必要悪なのでしょうか。

 この議論の論点は考えさせられます。つまり、その生徒の半世紀後の精神生活を考えて見た時に、どちらが正しかったかは、その時に気がつくのであろう。恐らく、その生徒の自慰の習癖が、問題なのであろう。漢方的には、つまり、腎精の事を考えると、免疫にも関ってくるであろうし、若し、その生徒がアトピー性皮ふ炎を罹患していたならば、治癒機転を得るのに、更なる時間を費やす事になるであろう(ある種のアトピーの場合)。勿論、個人個人により、腎精の量的ボリュウムや腎精の生産能力の高低が関っているので、一概には、言えませんが…。当方の患者さんが、ゴルフの前日は、スコアが落ちるので、性行為をしないと真剣に言っておられます。ここらあたりに、何か、ヒントが隠されている様に思います。

 端を更め、話を戻しますが、文字通り、風邪の季節がやって来ました。風寒の邪の感受を避ける事が、一番大切であるのですが、その方法としては、(1)暖かくする事。(2)睡眠を充分にとる事。それでも‘寒いな’と思ったら、(3)熱い生姜湯を飲むことをお勧めします。どこかのメーカーの風邪薬より、間違いなく効く事、請け合いです。(4)最後に、塩入番茶のうがいが、お勧めです。

 それでも、風邪、寒邪に浸襲された(中った)時、桂枝湯、葛根湯、麻黄湯、小青龍湯、五苓散、桂麻三兄弟の何れか、参蘇飲、香蘇散、真武湯、麻黄細辛附子湯、防風通聖散、五積散、銀翹散、等から撰用すると良い。それでも、こじれてしまった時は、柴胡桂枝湯を始め様々な漢方処方が対処して呉れます。

 何といっても、漢方は、『未病』を治す考えがあります。乃ち、風邪を引き難くする予防の為の処方が沢山有ります。一人一人の体質を見極め、投与すると、確かな手応えが有ります。これは、風邪に限った訳ではなく、膀胱炎、腎盂炎、扁桃腺炎、副鼻腔炎、鼻炎、耳下腺炎、尿路感染症、性感染症、気管支炎、口内炎、結膜炎、膿痂疹…等、様々な感染症の予防に、確実に役に立って呉れます。この事は、多くの医療人が東洋医学の研鑽をした時、医療費の削減に大きく貢献する事になるであろうし、感染症で悩んでいる多くの患者さんの健康で快適な生活を約束するものである。最も、現在の医療保険制度では、“予防”に対して保険診療は認められていない。漢方薬は、そもそも、自宅で煎じて服用するものである。私の母親は、7人の子供を育てあげましたが、何かあった時、薬草を土瓶で煎じ、兄弟姉妹が、それぞれが子供の頃、苦かったり、臭かったりの煎じ薬を飲まされたものです。若い方は想像もつかないでしょうが、ミミズ(漢方では、地竜と言います)も煎じて服まされたものです。

(大津市薬会報 2008年 1月号掲載)

14号 漢方の風 ー漢方 癌治療(故青木先生の教えによる)ー

2007-11-18

 平成3年4月より、毎月一回、滋賀県薬剤師会館の二階で故青木馨生先生の漢方勉強会を拝聴しました。先生の講義は、方術(漢方薬の使い方)はそっちのけで、ひたすら、養生法の大切さを教えられました。

 ある理由で、最近その時のノートを読み返す事が多い。その第一回目の講義は、臨床家(西洋医学も東洋医学も含めて)は如何様に有るべきかが主な内容であった。ある理由とは、私自身、時々、漢方の臨床家としての責任の重さに打ちひしがれそうになるからである。先生の言葉は重く心を衝きます。漢方家として、大切な事は、学者であっては駄目で、あく迄も臨床家であれ!病んでいる人に対して、情なくしては駄目(放っておけない)。祈りであり、真剣であれ!時には、慙愧の念で涙し、反省し、それを記録し、科学的に、正確に究め、実験する。即ち、臨床に始まり臨床に終わる。なかでも養生は一番大切で、生活に密着した、簡単で、誰にでも出来るものでなければならない。真理を求めなさい。…といった内容であった。患者さんの生活様式を考慮して、一緒に悩み一緒に考えるようにしている毎日である。それらの上に立って、患者さんの全体を見る事が何よりも大切と心しております。

 膵炎から膵臓癌を発した患者さんは、係りつけの医師に食べ物の摂取について質問をした所。「何を食べても構いません!」が、その返事だったそうである。これ程、辛い事は有りません。つまり、生き方を訊ねているのである。よく問診してみると、毎日下痢が続いているとの事である。抗がん剤の所為であると決め付けていたのであるが、東洋医学的には、下痢が続くと免疫力が落ちるので、ひょっとしたらと思い、脂質の多い食品を中止して貰った所、翌日から下痢が止まった。漢方的には、やっと、ここからが出発点である。よく生きる為に必要な食生活の事、生活のリズム、調息法、等、実践して頂き、人参湯合当芍散にヨクイニンと白花蛇舌草を煎じて服用して頂いております。

 江戸時代の観相家である水野南北は、人相は運命を左右する。取り分け何を食するかが一番大切と自ら実践して確信を得たと書物を残している。食事の内容によって人の運命が決まるのである。美味しさとは食べ物の側に有るのではなく、食べる人の側にあると青木先生は仰っておられました。粗食と言われる物の中に真の美味しさがあるのである。又、癌の末期は、痩せて来るものであるが、先手必勝で、癌で痩せる前に、自ら粗食を実践し、痩せてしまうと癌細胞は大きくならない。従って、転移もしないと教わりました。恐らく、これは免疫系が活発になった為であろう。青木先生に係った癌患者さんは、殆ど、改善されていたと、お付の薬剤師さんから聞きました。

 比叡山 律院 大阿闍梨 叡南俊照師の元へお加持を受けに行った際、出された、昼食の美味しかった事。何も高価な素材を使った物でもなく、所謂、粗食と言われるものであるのだが…。あるデパ地下で長蛇の列が出来るハンバーグを買ってきて、飼っている犬にお裾分けした所、近寄ってくるや、そそくさと向こうへ行ってしまった、と患者さんが言っていた(故青木先生の話)。又、新聞の投稿記事に、飼っている犬を残し、日帰りの家族旅行に行き、夜、帰宅するや、さぞかし、お腹が空いているだろうと思いながら、インスタントのパックごはんを温めインスタントの味噌汁をかけて、与えた所、喜んで食べるものと思っていた所、しっぽを振って近寄って来て、クンクンと臭いを嗅いだだけで、何も食べずにあっちへ行ってしまった。急いでご飯を炊いて、味噌汁を作って与えた所、余程、お腹が空いていたのか、ガツガツと食べた。と書かれていた。人間は、進化の過程で、食べてはいかんとする、身を守る本能を置き忘れて終ったのであろう。

 般若心経に五蘊が有ります。色、受想行識でありますが、色は物体で眼に見えるもの、即ちサイエンス、つまり現代医学である。受想行識は、目に見えないもの、即ち、気、東洋医学なのである。アトピー性皮ふ炎、癌、精神疾患、…等、‘気’のアプローチなくして‘本治’は恐らく難しいと私は常々思っております。結局の所、自然治癒力を最大限に発揮させる事が肝要なのである。色、物体としては、何を、どれ位、食するかであり、一方、気、心、精神、の養生として、瞑想、座禅、気功、ヨガ、調息法、等の実践が自然治癒力を最大限に発揮させるのである。

 青木先生の癌治療は奇を衒った漢方処方では決して無く、有り触れた日本の漢方を淡々と処方されていただけである。漢方家としては、このありふれた漢方を処方するのが実に難しいのである。青木先生と雖も患者さんの養生があったからこそ、改善出来たのであろう。まして、この頃は、漢方薬と言うものは、アルミパックに入ったザラザラした顆粒の事だと思っている人が多く、煎じ薬でないと効果が弱く、煎じ薬を服ませる説得に労を尽くさねばならない。

 私の所へ診を乞うてやって来たのであって、美味しいケーキを買いにやって来たのでは無く、病気を治しにやって来た事を気づかせてあげる努力が大切と教わりました。  最後に、水野南北の言葉を書いて終わります。「人の運命は全く飲食の如何に拠る、是を以って予が相法の極意とする。大食を為す者は必ず運、宜しからず、不意の災禍損失多かるべし」

(大津市薬会報 2007年11月号掲載)

13号 漢方の風 ーオーガニックコットン(抵抗力をつける)ー

2007-08-01

 最近のテレビ番組から、感じた事を、書いてみたいと思います。オーガニックコットンの生産に係っている女性の番組で、彼女は、バングラデシュの農業従事者の困窮を救いたい気持ちを前面に出し、頑張っている姿が、放映されていた。バングラデシュは、北海道の約2倍の面積で、人口は、14000万人。元々低地で、その上、温暖化に伴う洪水で、せっかく手入れした畑が、流されてしまったりで、生活の厳しさが伺える。彼らの大きな生産は、主に、綿花の栽培から、糸紡ぎ迄なのだが、オーガニックでない場合、出来上がったコットンの売り上げの半分が、農薬代に消えてしまうのである。ちなみに、その農薬を一番売り込んでいるのは、ドイツの企業だそうである。オーガニックの元になるのは、アヒル、牛などの糞なのだが、彼らは、その糞を、手で扱っているものの、その表情には、将来を見据えた喜びが満ち溢れている。

 農薬を使った畑は、翌年は使い物にならない。一方、オーガニック畑は、毎年植え付けが可能であり、いわば無機質な土と有機的土壌の違いがあるのである。有機的土壌には、ミミズ等の生物が棲んでいる。お名前は、覚えておりませんが、とてつもなく美味しい、又一年経っても腐敗しないリンゴを作っておられるりんご農家の方と重ねて、番組を見ておりました。  一方、私が関係しております医学の世界では、私が、子供の頃、回虫を持っている生徒は、恐らく二桁を占めていたと思いますが、今は皆無に等しい状況である。ある医学博士は、30年前(私が勝手に感じている数字で、不確かですが)、余り見られなかった花粉症が、増え続けているのは、回虫の駆除と関係していると自説を唱えておられます。  私も、同感ですが、漢方的には、もっと、重要な事があるのです。其れは、資本主義社会の宿命なのですが、食環境、住宅環境、嗜好品、…と言った、日本人の体内環境を無視した所から、始まっている。  原稿を書いている今、タイミング良く、ご近所のMさんが、自分の畑で作ったキュウリを届けに来てくださいました。大根、三度豆、キャベツ、ほうれんそう、トマト…等、季節毎に、正に“旬”を戴くのである。スーパーで買ったものとは、味は、勿論の事、日持ちが、全然違うのは、何故なのか。いわば、オーガニック栽培だから、ちがうんヨ…と、Mさんは、ニッコリしながら教えて下さいます。

 端を更めますが、漢方では、『気』『血』『水』と言った概念を、重要視します。「麻芍乾桂、関西のご飯」…これは、私がお弟子さんに教えている、小青龍湯の処方内容の覚え方ですが、麻黄、芍薬、乾姜、桂皮、甘草、細辛、五味子、半夏なのですが、これらの内、麻黄、乾姜、桂皮、細辛、五味子と何れも、温める作用のある薬草が、大半を占めている。一方、体内で、身体を冷やしている水を駆水する薬草も含まれている。つまり、簡単に言うと、身体を冷やしている水を、温めて、主に尿として駆水してやると、花粉症は治るのである。ある種の喘息も、同じ理由で、この小青龍湯で、簡単に治るのである。(素人療法は、危険ですので、必ず、専門家に相談して下さい。)  元に戻ってみると、食環境、住環境、嗜好品が問題と言っているのは、冬に、アイスを食べ、秋には、秋味のビール、冬には、冬のビール、冬に夏野菜、又その、真逆の事もありで、東洋医学的見地からすると、最早、正気の沙汰ではないと言っても過言ではない。  現代医学では、花粉症、喘息に、一部お手上げ状態の患者さんが、見受けられるのは、当然と言えば当然なのである。冷えと水毒が原因の喘息のお子さんが、薬嫌いで、アイスクリームに混ぜて服薬させるよう指導している、小児科医、薬剤師がおりますが、如何なものかと、思っております。

 無機質な肉体と有機的複合体としての身体の捕らえ方の違い(つまりホリスティック)が、一番大切と考えているのは、漢方家の一致した考えであります。水飲み健康法を実践して、アトピー、ニキビ、生理痛を悪化させて、私に、診を乞うてやって来た患者さんが、多く居られますが、これは、正に、肉体を無機質なものと、かん違いしているほんの一例である。癌患者さんの放射線治療(全てでは有りませんが)も、その一例と思っております。人間の身体は、正に、有機的に複雑に、精神と肉体までも含めて、リンケージしているのである。  ずっと以前の番組で、VRE(史上、最強の耐性菌)感染は、何故、おこったのか(タイトル名は、違ったかも知れませんが)の放送の中で、産卵するニワトリの餌の中に、抗生物質が混ぜてあって、知らず知らずの内に、抗生物質を体内に摂り込んでおり、その結果、耐性菌が増えている。又、何かに感染すれば、兎に角、抗生物質、化学療法剤を、子供の頃から、度々投与するのも、耐性菌を増やし続けている要因にもなっていると番組では、言っていた。

 体内環境をある意味、破壊し、純粋培養人間を作ってしまっている現代社会は、一体何処へ行き着くのであろうか。然しながら、適格な抗生物質の使用は、絶対的に必要である。密かに、蔓延しているSTD(性感染症)の撲滅には、正にその通りなのだが…。やはり、予防即ち、性教育の遅れが、結果的には、耐性菌を作ってしまう事にもなるのであろう。  オーガニックコットンを栽培した“土壌”を見るにつけ、抗生物質を頻用した肉体の何らかの“危うさ”を感じるのは、私だけで、あろうか?

(大津市薬会報 2007年 8月号掲載)

12号 宮廷女官チャングムの誓いを見終わって(めまい・つわり)

2007-04-25

 当初、勤務薬剤師のTさんと家内が毎週楽しみにしていた『大長今』(テチャングム)は、私自身全く興味が有りませんでした。ある日、調剤室で、伏竜肝(ぶくりゅうかん)なる漢方薬が話題に上がりました(昨晩の放送で出てきた為)。その事がキッカケで私もその後、『大長今』を見ることになりました。ある漢方メーカーの手帳の小半夏加茯苓湯の効能を見てみますと悪阻(つわり)に効果あり、と記載されています。その小半夏加茯苓湯は、通常の漢方薬とは、煎じ方も服用法も違っています。私が、幼少の頃、生家には、釜戸(おくどさん)があり、その釜戸から屋根を貫いて煙突がそそり立っていた。母親の手伝いをして釜戸に薪(まき)をくべて、ご飯を炊いたりお湯を沸かしたりした思い出があります。その煙突には、煤がたまり煙突掃除屋さんなる職業も有りました。一方、釜戸には、灰土が貯まり、煙突へぬける空気孔が詰まらない様に、時々その灰土を掻き出し掃除をしたものです。その灰土を含んだ釜戸の土が即ち、伏竜肝である。小半夏加茯苓湯は、その伏竜肝を水に浸け、その上澄み液で、半夏、生姜、茯苓を煎じたものが本来の小半夏加茯苓湯であって、メーカーより発売されているエキス剤は、恐らくそうではないと私は思っておりますが…果してどうなのでしょうか。つまり伏竜肝の上澄み液で煎じた小半夏加茯苓湯は釜戸の灰土を含んだ土の成分が大きな役割を果たしているのである。又、一般的な漢方薬の服み方は、煎じた液を3回に分服し、しかも熱いうちに又は温めて服用するのが通例である。この小半夏加茯苓湯は“歩くこと一厘計りにて服用すべし”とあり、約一時間毎に服用し、杯に一杯ずつ、更に、冷まして服用する様に…と口訣に有ります。そのように調剤室でTさん、家内に説明した事がキッカケで、どんな薬草が出てくるか興味を持ったが為に、私もハマッテしまったのである。然しながら、番組が進む内に、脈を診る場面と鍼を打つ場面が多く見られるものの薬草はあまり見られず、特に私が志している日本の漢方とはいささか違っていた。一方東洋医学で最も大切な、全体観つまりホリスティックな東洋的手法は漢方の本質なのだが、その本質は全く同じであった。その本質をチャングムファンが分かってくれると良いのだが…と思っていたのですが、一般の人にとっては、やはり、そこの理解は、少々難解だった様です。

 今から数年前エビデンス(根拠に基ずいた医療)に立脚した医療が叫ばれるようになった時、現代医療的感覚が絶対的とされ、漢方薬は、医療ではなく代替医療(Alternative)のカテゴリーに包含されてしまった。その代替医療である漢方薬が難治とされる病気に効果を発揮してくれる事は、何と皮肉な事であろうか。故青木先生から、「科学が迷信か、迷信が科学か、」そこが大切と、荒木正胤先生が、仰っていた…と聞いた事があります。  旧大津市内の年配の女性が、私の所のホームページを見て相談に見えました。主訴は、雲の上を歩くようなメマイである。ある病院でパ○シ○、リ○ゼ、ド○マ○ー○、ハ○シ○ン、メ○ス○ン、セ○ド○ル、イ○バ○ド、が処方されている。約一時間ご相談にのりましたが、一番大切な事は何が原因で現症を呈す様になったかであって、そこの所を考えた時、その患者さんが、如何なる生活をし、何を食し、如何なる環境で過ごして来たか、はたまた、如何なる性格か、間違った健康法を実践していないか、心に痞えているものはないか、更には、如何なる死生観を持っておられるか、等々問診するのである。その患者さんは、胃下垂があり、頭帽感があり、低血圧症で、仕事に、家庭にと一所懸命に働いてきた事等を顧慮して、半夏白朮天麻湯(加味方)の煎じ薬を服用していただいております。  最近になって、びわこ漢方サークルの受講希望者が増えてきました。いま、現在、太陽病下篇を終わろうとしている所ですが、(ここを終えると半分以上終えた事になる。)少しでも多くの方に、漢方を理解して戴きたいと願っております。(ご希望の方は、いつでもご参加下さい。)その為にも、次回の講習会では、少し、最初に戻ってから…と、思っております。

 日本の漢方では、『証』を重要視します。証とは一種のカテゴリー分類であり、例えば、皆さんが、一番馴染みのある葛根湯を例に取りますと、脈が浮いており、寒気があり、項の凝りがあり、汗は出ていなくて、体力的には、弱っていなくて、(表実証といいます。慢性病の場合は寒気がない)の体質的カテゴリーの人がいた時、その人の現代医学的病名が何であれ、例えば、“蓄膿”“ニキビ”“下痢”“腰痛”“夜尿症”“リュウマチ”“扁桃腺炎”“蕁麻疹”“結膜炎”“頭痛”“頸肩腕症候群”“皮膚病”“母乳の出が悪い”“鼻炎”…等全て治るのである。最近、あるホームページを見ていたところ、防風通聖散は、決して肥満症の薬ではありません。それは一貫堂医学(明治時代に*森道伯先生が興した漢方理論大綱)がお腹に皮下脂肪がついている『重役腹』…を目標にした事から始まっているからと書いてありました。前回の「漢方塾」でも書きましたが、一貫堂医学では、決して重役腹のみを目標にしている訳ではなく、臓毒証なる『証』を目標にしております。テレビや様々なメディアでやせ薬としての位置付けで、宣伝しておりますが(証が合っていない事が多い為)、効果がない事の方が圧倒的に多く、むしろ、見えない‘害’が忍び寄っている事のほうがあるかもしれない。企業の倫理観が問われます。漢方薬始め医薬品を軽く見ては?大変な事になりますヨ?と言いたい。TVで、ヨーロッパのある国が、インドの綿花地帯で、布製品を(仕上がったショール等は、EU諸国でブランド物として、販売されている。)、劣悪な環境のもと、苛酷な労働を強いて、生産している状況をドキュメント放送しておりましたが、強烈な酸、アルカリの液の中で、素手、素足で仕事をしている人達や、重金属をため池に流し込んでいる場面等を見るにつけ、化学薬品を扱った経験のある者としては、空恐ろしさを感じ、同時に怒りを覚えました。企業の倫理観は、一体何処へ行ってしまったのだろうか。富める者が貧しい人達の犠牲の上に立っているのが、現実であるとナレーションは、結んでいた。この様に、今こそ、グローバルな世界観を持つ事が、大切であり、医療においても、全体的発想(ホリスティック)でなければならないのである。それが故に、なかがわ漢方堂薬局は“人に優しく、自然に溶け込む”を、理念としているのである。                                            *《森道伯先生:医者でもあり宗教家でもある。禅に参じ、真言に通じられ、霊的感覚を体得された医術家であった、と漢方一貫堂医学(医道の日本社) に書かれている。体質を三大証に分類し漢方治療を実践された。?血証体質、解毒証体質、臓毒証体質がそれである。防風通聖散は臓毒証体質に用いられ、大正から昭和の初期にかけて頻用されたが、最近は用いる機会が少ないと故星野良明先生より教わった。?血証体質には通導散、解毒証体質には柴胡清肝散、荊芥連翹湯、竜胆瀉肝湯を用いる。》

(大津市薬会報 2007年 4月号掲載)

11号 漢方の風 ー心変わりー(長期の鼻炎と微熱)

2007-01-23

 将来の進路を決断する時期が近づいていた頃、学年でトップクラスの成績を残しているA君は漸く進学校へ進む決心をした。音楽的素養を持って生まれたA君はその才能をいかんなく発揮して、最早、師を凌ぐ程の実力を持っていた。それまで、A君は、両親は勿論の事、学校の先生、音楽の師の全ての人生の先輩の反対を押し切って、進学校ではなく、音楽の道へ進もうと決めていたのだった。そのA君は通年性の鼻炎で、一年以上ある耳鼻咽喉科へ通院した。鼻洗浄と内服薬と頓服の治療を継続して受けていたにもかかわらず、使用済みのティッシュペーパーをポケットは勿論カバンにも一杯に詰め込んで帰宅する毎日であった。そのA君が母親に連れられて私の元を訪れた。小青竜湯加桔梗石膏、葛根湯加川キュウ辛夷、ある時は柴胡桂枝湯を、時を見て状態を見乍ら、投薬した。生真面目なA君は、私の指示を守り、頑張って服用してくれ、その甲斐あって、あれ程、頑固な鼻炎が、すっかり治ってしまった。それは私の力ではなく、A君の努力の賜物だったと思っている。将来を左右するA君の心変わりは、いつもの様に、音楽のレッスンにやって来た時だったと、後日音楽の師が私の元を訪れて教えてくれた。両親はじめ学校の先生も、A君の心変わりにホッとされたそうである。あれ程、周囲の反対を押し切って迄もの、頑ななまでの決心の翻意は、一体何だったのか、その音楽の師は、A君に訊ねてみたという事であった。それは、あれ程悩んでいた自分の鼻炎を救ってくれた漢方薬の確かさを実感し、自分は将来、医師になって、様々な病気で悩んでいる人達を漢方薬で治してあげたいという事であった。そこで、あのA君の心変わりをさせた薬局の薬剤師はどんな人物か、とても気になって、その音楽の師は、当薬局を訪れたのであった。その結果、上述の全てを私も知ったのである。A君の事だから、10数年後必ず、りっぱな漢方医になってくれるものと確信を持っている。  数年前、S中学の学校薬剤師を任命されている関係で、S中学の総合学習の授業で話をして欲しいと、校長先生から要請があり、話しをさせて頂いた事があった。高校時代のラグビー部で培った気魄の事、又薬学部へ進み、製薬メーカー、勤務薬剤師を経て、漢方薬局を開設する迄の努力の事等、話をさせて頂いた。貝原益軒の「なせばなる、なさねばならぬ何ごとも、なさぬは人のなさぬなりけり」と説いて、努力の大切さを話した。いじめが社会問題となっております。約60%の生徒が、いじめた経験があり、その殆どの生徒が、いじめられる側が悪いと言い放った。又、ある時は、先生自らがいじめを行っていた。嘗ての大津市薬会報で、それは、魂の問題と私は書いた。この原稿を書いている約1ヶ月前、ある中学校の女生徒が、私に診を乞うてやってきた。見た目以上に、又、思った以上に彼女はしっかりした考えを持っていた。一人の人間として向き合った時、私はそれに気がついたのである。又、更にその1ヶ月前、ある精神科の医療施設で、漢方薬の講演を依頼された。何を話そうか考えぬいた揚句、NEETと呼ばれる人達の事を漢方的に話した。ほとんどの人は、自分の価値観で物事を判断するのである。その価値観の平均値に近い圧倒的大多数が正義であり、赤信号も皆で渡れば平気で渡れるのである。茗荷村の創始者である田村一二先生の言葉に「自とは、他の存在があるから、自があるのであって、つまり、他に自は生かされているのである云々」といった内容のものがあります。精神疾患と診断された患者さん、NEETと呼ばれる人々、親子の断絶で苦しんでいる人々等。東洋的手法で向き合った時、つまり、価値観の平均値に近い圧倒的大多数ではなく、陰陽虚実的で、全人的で、宇宙的見地で、向き合った時、真実が明らかになり、救われる人が沢山おられるものと常々思っている。長年の微熱で仕事に通えなかったBさんは、父親から根性がないと叱責をあび、親子間には深い溝があった。現代医学的にはとりたてて問題なしと聞かされた父親からすれば、根性論になるのである。あるキッカケでその父親が当店を訪れ、漢方医学的にその病気の性質(漢方では証という)について説明した所、父親は、自分の考え違いに気がつき、その結果、息子さんであるBさんは、柴胡桂枝湯加黄耆茯苓で平熱に戻り、職場復帰出来た。

(大津市薬会報 2007年 1月号掲載)

10号 漢方の風 ーうつ病ー

2006-10-06

 バイオリニストの千住真理子さんがボランティア活動を実践されている事は、ある施設に訪問演奏された事を聞いていた時から知っていた。その施設の職員さんは、単にバイオリンの好きな女性が腕だめしに奏でに来ていると思っていたらしく、私が彼女の略歴を教えてあげた所、驚いた表情を見せていた。小学生の時に、天才と言わしめた彼女は、父親の期待を一身に受け、一日のほとんどの時間をバイオリンの練習に励んでいた。ところが、絶頂期を迎えていた20才で挫折を覚え、数年間バイオリンには一切触れなかった経験をしておられる。正に鬱的症状も出ていたらしく、最早、家族もバイオリニストとしての彼女の将来を諦めていたと述懐しておられた。その彼女を立ち直らせたキッカケは、ホスピス病棟での、ボランティア演奏だったとの事で、死を目前に迎えた患者さんに、同じく絶望の淵にいた自分が満足に演奏できなかった事が、ボランティア活動の・・・ひいては立ち直るキッカケになったとTVで話しておられた。

 私は、何故彼女がストラリバリのデュランティを手に入れたかは、知らなかったが、フランスの貴族であるデュランティ家から、最終的に、彼女が選ばれたとの事であった。幼少の頃、一日14時間も練習に励んだ事も努力家である彼女をして選ばしめた一因であったと私なりに勝手に想像している。

 その鬱的症状は、逍遥散や柴桂湯、柴胡疎肝湯、大柴胡湯、等の四逆散の変方とされる処方群や、香蘇散、分心気飲、半夏厚朴湯、柴胡加龍牡湯、防風通聖散等を選用すれば、良く効いてくれます。

 モーツアルトがもてはやされている昨今、彼女はバッハが好きで、好んでバッハを演奏するそうです。彼女の一番好きな言葉は、バイオリン、ギター、ウクレレ等の共鳴板の中の支えとして入っている“魂柱”だそうです。

 上記の防風通聖散が、depressionに効果がある事はあまり知られていないのではないでしょうか。構成生薬からみてみると表と裏に倶に実の状況で、5月病や、月曜病等、又、ストレス性の喘息にもよく応じてくれます。TVでのCMで脂肪太りに“防風通聖散”とは、全く恐れ入っております。私の近所のDBの患者さんで防風通聖散がぴったり効きそうな方は、脂肪太りではなく、筋肉質の体型をしておられます。関東の患者さんで統合失調症と喘息とアトピー性皮膚炎を併発しておられる患者さんには、防風通聖散と通導散を合方して頂き良い結果を得ています。  ところで話は変りますが、医療保険の世界では今やジェネリック医薬品が医療費の削減には欠かせない存在となっておりますが、あるメーカーの5月号の情報誌に貝原益軒の養生訓の一節が記載されております。『東垣が曰く、細末の薬は、経絡にめぐらず、只、胃中臓腑の癪を去る。下焦の病には大丸を用ゆ。中焦の病は、之に次ぐ。上焦を治するには極めて小丸にす。丸薬、上焦の病には、細やかにしてやはらかに早く化しやすきがよし。中焦の薬は小丸にして堅かるべし。下焦の薬は大丸にして堅きがよし』

 医療受給者の納得を得る為と、医療経済の視点とから、先人の知恵の剤型の大切さを、我々薬剤師は、注意を払う必要があろう。私自身、多くの患者さんを見るにつけ、麻子仁丸料エキス顆粒と本来の麻子仁丸の丸剤との効き目の違いを実感しているところである。(DB:糖尿病)

(大津市薬会報 2006年10月号掲載)

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