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19号 漢方の風 ー精神的ストレスによる胃腸疾患・不眠

2009-01-20

 最近のニュースで、来年(2009年)から、マグロの漁獲高の制限の国際協定が実施されようとしていると伝えていた。一ころの凡そ30%の水揚げだそうである。マイワシに至っては最盛期の10%しか獲れていないとも伝えていた。スケトウタラも激減しているらしい。マグロの世界一の消費国は勿論、日本である。手軽に食べられる回転寿司の消費が拍車をかけているそうである。加えて中国、EU諸国の消費量も激増しているから、乱獲になるのは、いわば当然の成り行きである。日本のバイヤーは、マグロの買い付けに、頭を痛めているのだそうである。マグロ一つにしても、世界(経済)全体で一体化しており、地球規模で水産資源の将来を協議するのは、有って然るべきであろう。…となると、アメリカの劣後債権・プライムローンの不良債権化から始まった今日の経済危機は、“実体”の無い経済問題だけに、マグロの問題以上の難しさを秘めている。 ある経済学者は、実体の無い、言わば虚構に価値を見い出し、それを売り買いする所から脱却して、実体に有った、言い換えると“物質”や“技術”等に価値を見い出して行く経済社会にしなければならないと言っていた。

 人体に当てはめて、漢方的に言い換えると、実体である物質(陰的物質)、乃ち五臓や精(血 液等)を大切にしましょうと言う事になるのであろうか。現代人の健康を、陰陽の物差し で、全体視した時、確固とした物質(漢方では陰精と言います、)の担保が少なくなっている様に思える。つまり、東洋医学的アプローチで、何を、どの様に、どれ位、食するかが大切であると考えています。見た目の体格の良さよりも、例え、スマートでも確固とした陰精と健全な精神を宿した身体作りをしなければなりません。つまり、魂を大切にしなければならない。現代社会において、 “精微な物質的根拠が少ない”が故に“気が先走る”落ち着きの無い子供が増えている(モンスターペアレント等、大人にも多い)のも、当然と言えば当然である。

 我が医療業界を見たとき,EBM(根拠に基ずいた医療・医薬品)に根ざした医療が大切であると言われています。ややもすると、医薬品のみに根拠を求める風潮がある様に感じております。私自信、嘔吐と下痢で、夜中に救急で病院に駆け込んだら、専門外の眼科医が当直だった経験をしていますが、身分を明かして、当方の希望に沿った処方をして頂き、ホッとした事も有ります。特に漢方薬の投薬において、EBMのM(Medicine)は医薬品(漢方医薬品)だけの問題でなく、医療者のEBMについても、少し、根拠が足りないのではと、感じる時が多々見受けられます。漢方薬を長く調剤していると、処方箋を書く側と調剤をする側、双方に“根拠に基いていない”ケースが見受けられる事は、残念な事です。良く処方される加味逍遙散、葛根湯、補中益気湯、当帰芍薬散…等の構成生薬と役割分担は少なくとも知っておかなければならないのは言うまでも無いことですが…。果して如何でしょうか?漢方医学の基礎知識を根拠とすることによって,多少なりとも、医療費の削減も期待出来るのですが…。反面、薬草は天然資源(一部、栽培品もあります)だけに、マグロと同様、資源の枯渇を招いては、未来の子孫に申し訳が立たなくなってしまう、いわば諸刃の剣的要素も包含している。漢方薬を処方する時、“地に根ざした原生薬“を思い浮かべ乍ら処方しなさいと故青木先生に教えられました。薬草の無駄づかいを戒め、薬草に感謝の気持ちを持ちなさいとも教えられました。一つ一つの薬草を計量しながら煎じ薬を調合していると、薬草に感謝の気持ちが自然に湧いて来ます。”勿体無い“根拠の無い使い方は、厳に慎みたいものです。

 話は変わりますが、最近、私が良く使う処方に、(加味)帰脾湯があります。不眠で困って おられる人に使うのですが、胃腸が弱く、軟便?下痢若しくは便秘で、疲れ易く、めまい、 健忘(物忘れ)、不眠、熟睡感が無く、多夢を目標に使います。この処方は四君子湯の変方 で、それに養心安神作用の薬草が加味された処方構成になっています。従って、独特の望 診※が有り出血傾向が高いのは、言うまでも有りません。中枢神経の抑制性伝達物質であ るGABAを介して視床下部や大脳辺縁系を抑制するいわゆる睡眠薬とは、睡眠の“質” が違い、寝覚めの気だるさやフラツキはなく熟睡出来る様になったと患者さんは仰います。 その他に、不眠に良く使う処方は桂枝加竜骨牡蠣湯、柴胡加竜骨牡蠣湯、抑肝散、加味逍 遥散、黄連解毒湯、清心蓮子飲、瀉心湯、黄連湯、温胆湯、柴胡桂枝乾姜湯、猪苓湯、半 夏厚朴湯、等が有ります。

 無分別な木の伐採でアマゾンが大変な状況に有ります。そこで、移民入植した日本人が、 「アグロフォレストリー」なる「森の農業」を始めているとBS放送で放映していました。 収益を上げながら、森を再生しておられる日本人の知恵に、感服しました。薬草において も、子孫が漢方薬の恩恵を未来永劫に受けられる様に、生薬が枯渇しない方策を漢方薬メ ーカー始め関係者が知恵を絞って確かなものにしなければならない。然しながら、その前 に大切な事は、生薬の無駄使いをしないことであろう。

 ※望診…四診(望、聞、問、切)の一つで、患者さんを見た時の印象(表情、顔色、艶、 髪、鼻の形等)で判断する診断法。

 (大津市薬会報 2009年 1月号掲載)

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