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8号 ペンギン堂経験記(アトピー性皮膚炎・子宮内膜症・子宮筋腫)
▲エピソード1) 手指のアトピー性皮膚炎で悩む看護助手の女性
患者は病院勤めの50歳代の女性で、医療用具の消毒薬を使用する必要から、恐らくそれにかぶれたのであろう。見ると、所どころひび割れがあったり、ガサガサで皮膚が剥離して赤むけ状態の所があったり、所どころ分泌物が出ていて痒みが強く、一見して、正視出来ない程の気の毒な皮膚炎であった。患者は子供の頃からの汗かきで、特に頭に汗をよくかく。又、夜間、尿が一乃至二回ある。便秘気味で、ガスがよく溜まり、硬便を排便する。仕事がハードである為か、疲れ易く、睡眠は熟睡との事であった。漢方的診断で重要なのが、汗の有無と発汗する状態、そして排便の状況である。恐らく発症前は、手に大量の汗をかいていたと推察出来るが、今は手の汗腺がやられ、却って乾燥している。更に質問を重ねた所、人よりも手が熱いという事が分かった。最初、小建中湯と桂苓丸料に、別に知母・地骨皮を加えて服用願った。地骨皮はクコの根皮で、知母共々、手の熱、(煩熱という)をよく取ってくれる。次いで黄ぎを加えて再服して頂き、約四割方改善するも、汗は続いている。痒みもまだあるので、最終的に加味桂枝湯と消風散を兼用して頂いた所、まるで別人の手の様に奇麗になった。コーヒーとパン食を禁じ、米飯に切り替えて頂いた事も見逃せない。
▲エピソード2) 子宮内膜症を併発した不妊症の女性
患者は長崎県佐世保市に住む36歳の女性で、遠隔地である為、FAXで問診を送付頂き、後はそれを元に電話で証の確定を行った患者さんである。ご主人の精子にも問題があり、妊娠はほぼ不可能である。ご主人は特に子供が欲しい訳でもなく、その後、自らの不妊治療は極めて消極的で、夫婦間の温度差は歴然としている。とにかく、奥さんの不妊を睨み乍ら内膜症の治療をする事になった。訴えは、激しい生理痛と時々生理が遅れる事があり、膣周りのカンジダによる痒みが時々起る。肩こりが強く、足先が冷え、腹が張りガスが溜まる・・・等の訴えがあった。最後に、不可欠な質問事項の汗はなく、便はかなり出にくい事が分かった。以上を漢方的に診断すると、子宮がかなり冷えている事が想像出来る。これは「お血」のなせる業と考え、桂苓丸料に牛膝と延胡索を加えて煎じて頂き、寝る前に桂苓丸加大黄を一回服用して頂いた。最初の30日分で、生理痛がかなり改善し、合計120日分服用後、主治医の診断の結果、悪い所見は全く無く、いつでも妊娠可能と太鼓判を押された。
▲エピソード3) 手術を薦められた月経過多出血を伴う子宮筋腫でお困りの女性
患者さんは、平成元年にペンギン堂を開店して間なしの患者さんで、大変苦慮して治癒できた思い出深い治験である。昭和24年生まれの方で、来局された時は血色素6.8で、立っているのも大変と思われる程貧血が強かった。立ち眩み、朝の目覚めの悪さ、便秘,下腹部の張りが強く、何よりも筋腫(手拳大)による出血過多で、HRT療法も過日受けていたとの事で、最早、手術しか打つ手がない様な状況であった。どうしても手術したくない理由で、当店の漢方になった訳である。 又、激しい生理痛もこの患者さんを苦しめていた。先ず当帰四逆湯と牛膝・延胡索を同時に煎じて頂いた所、生理痛はほとんどなくなったが、出血量は相変らずで、折衝飲や十全大補湯・?帰膠艾湯等を経て、考え抜いた末、使ったのが温清飲と折衝飲と三七人参の併用であった。生理痛・出血が止まり、長服の結果、いつの間にか筋腫はなくなっていたのであった。
(大津市薬会報 2006年4月号掲載)
1号 不妊症
5月25日の夜、山口先生より、原稿依頼の電話があり、一ツ返事で諒承し、漢方の事は勿論の事、免疫の事、医原病の事等について起草しましょうとお伝えしました。 その翌日、慌ただしく、調剤をしていた所、電話の向うに喜びに満ちた声がありました。何と44才にして、無事、女児を出産したとの御礼の電話であった。後日、母親を伴って、正式に、御礼に来られ、漢方薬の服用は勿論の事、私の教え通りに生活全般を見直した賜物と言っておられました。そこで、今回は、不妊治療について書いて見ました。
漢方による不妊治療の第一人者と言われている寺師睦宗先生の不妊治療最高年令は、44才と言っておられた様に記憶しておりますが、私の手懸けた不妊治療で、44才は、これで二人目と言う事になった。30才台の方と比べ、40才だからと言っても、特に変わった事もなく、身体の歪みを是正するだけの事である。それにも増して気になるのが、男性不妊であろう。嘗って、副会長をしておりました時に、三師会協議会で、少子化の問題が俎上に登った事がありました。当時の医師会長をしておられた福井先生に、不妊の問題もあるのではと申し上げました所、数字的には、殆んど影響しないと仰っておられましたが、私は潜在的には、数多くの方が、おられる様に思います。
前号の市薬会報で少し触れましたが、免疫の自律神経支配説(安保徹先生)の論理からすると、男女共々、大変な時代になったと思います。生理周期の異常、劇しい生理痛、過多月経、過少月経と様々な悩みを抱えておられる女性の多くが、不妊に悩んでおられます。産婦人科の門をくぐった時、そこには、ステロイド剤が待っており、生理痛には、NSAIDが待っているのである。様々な、子宮の叫びに耳を傾ける事なく、血液やその他のデータを根拠にしてである。これらの薬剤は、身体全体の代謝を抑制してしまう(陰的作用)事になり、延いては血流を更に悪くする結果を招く事になり、子宮は、益々悲惨な叫びを発するのである。
漢方で、不妊治療をしている時、決まって感じる事は、女性が、みるみる美しくなって来る事であるが、その美しさが、見てとれて来たら、最早、治癒出来たも同然である。5月の連休に旅した時、機内でお会いした姫路のドクターは、桂枝茯苓丸加ヨクイニンは、女性を、みるみる美しくすると仰っておられました。見た目の美しさ以上に、子宮や卵巣が、キレイになっているのは、言う迄もない事です。
上古天真論に、七紀の事が書かれておりますが、女子は、7才、14才、21才、28才、・・・と7年毎に節目があり、28才が最も強壮で、髪も豊かであり云々、・・・。49才にして、血脈に血が少くなり、月経が止まり、子供が出来なくなると記されており、44才と言うのは、ひょっとしたら限界なのかも知れない。
漢方薬としては、当芍散、加味逍遙散、四物湯、温経湯、桂苓丸、呉姜湯、等の婦人薬は、当然として、柴胡剤、人参湯、六君子湯、牛車腎気丸、防己黄耆湯、香蘇散等を駆使すれば良いと思います。行間がお許し頂ければ、あと少し男性不妊について書いてみたいと思います。 精子に問題があるのは、免疫に問題があるとも言われており、漢方的には、胃腸が悪いと、免疫が異常を起こし、不妊になる場合もある事は、容易に察しがつく。男性不妊は、脾胃を念頭に入れなければならない。Kさんなる相談者は、ある病院で、八味地黄丸を投与されており、それは、さながら鸚鵡返しの処方と言える。服後、食欲がなくなり、胃が痞えるとの訴えがあり、奥さんからすれば、それでも、頑張って服用して欲しいと言うのは、解らない訳でもない。不妊と胃腸の虚弱の関係を説明した所、服用を強いた自分を反省しておられました。漢方はその人にやさしくないと駄目とも言えましょう。因に、Kさんには、黄耆健中湯を服用して頂きました。
(大津市薬会報 2004年8月号掲載)