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漢方の風音 11号 片頭痛・月経痛・便秘(五積散の使い方)
漢方塾…片頭痛・月経痛・便秘(五積散の使い方)
なかがわ漢方堂薬局 中川義雄
先日、長年行きたかった壱岐の島に行ってきた。中学の「地理」で勉強した時に何故か行ってみたいと思った所が2か所あって1つが北海道の然別湖で、あと1つが壱岐の島であった。然別湖は過去に二度行きましたが壱岐の島は今回が初めてで長年の夢が叶いました。博多からジェット船に乗り1時間強で渡島出来ます。日本の3大遺跡の1つである原(はる)の辻遺跡(3大遺跡※1:登呂遺跡、吉野ケ里遺跡、原の辻遺跡)があって、弥生時代にこの小さな島に大陸文化が渡って来て交易が始まりとても栄えた事は驚きであった。因みに魏志倭人伝に壱岐国(一支国:いきこく)の記述があります。
島には戦時中に作られた巨大砲台あとがあり、又、島の近くの沖合に自衛隊の護衛艦らしき艦船が2隻停泊しており本土を守る前線に近い場所である事を思い知りました。
執権北条時宗の鎌倉時代に日本の征服を試みた元のフビライハンは先ず大陸に近い対馬で残虐な殺戮を繰り返し、次いで壱岐の島でも同様に殺戮を行い、九州上陸を果たそうとしました。所謂、蒙古襲来(元寇)である。
つまり対馬、壱岐は大陸から日本本土への中継地点でその昔大陸文化が壱岐の国にやって来て交易が盛んになり栄えた事は十分想像できる。因みに対馬と九州の中間地点に壱岐の島があります。
旅の途中私の専門の漢方医学はこの壱岐の国の繁栄があったにも拘らず何の説明も文書も耳にも目にもしなかったのは、卑弥呼の邪馬台国の時代の医学は「巫医」※2(ふい)であったからであろう。卑弥呼そのものが巫医を行っていたとされる時代であり、漢方医学が無かった事は想像できる。
我が国で、漢方医学が初めて登場したのは平安時代に中国の宋・金元医学を学んだ丹波康頼が著した医心方が始まりで、それ以前の弥生時代の壱岐国(一支国)では存在していなかったのは当然であろう。
中国の張機(字名を張仲景と言う)が著した最古の医学書「傷寒論」は後漢(AD25~220年)の時代で日本では弥生時代後期に相当し魏志倭人伝(AD290年頃)に記載されている邪馬台国・卑弥呼(AD240年頃没)の時代である。壱岐国(一支国)の原の辻遺跡はBC300年~AD300年頃迄とされており大陸と交易が有ったとしても漢方医学は伝来していなかったのは当然であろう。
端を更め、今回は今まで漢方塾で出て来なかった五積散の使用経験を書いて見たいと思います。(五積散:当薬局ではエキス剤ではなく原末散剤を使用しています)
片頭痛でお困りのAさんは元来冷え症で、冷えが強くなるとのぼせも同時に起こって来る。同時に前後にやって来る月経は激痛を伴い、耐えがたいと言う。肩凝り、鳩尾の痞え、耳鳴り、眩暈、動悸、微熱もあって訴えを聞いている私も同情を禁じ得ません。
五積散は“気血痰寒食“による積聚(つまり五積)を取るとされている。構成生薬は当帰、芍薬、川芎、白朮、茯苓、厚朴、陳皮、半夏、白芷、枳殻、桔梗、乾姜、桂枝、麻黄、甘草、大棗で構成されており、桂枝湯、麻黄湯、半夏厚朴湯、苓桂朮甘湯、苓姜朮甘湯、二陳湯、平胃散、四物湯の方意を含んでいる。
そこでAさんには五積散に呉茱萸、延胡索を併服して頂き、頓服に呉茱萸湯を服用して頂いております。
Bさんはやはり頭痛、胃痛、胸やけ、悪心、強い月経痛、疲れやすい、お腹が張る(腹満)、痺れ、冷え性でお困りです。この女性にも五積散に呉茱萸、延胡索、時に香附子を兼用して頂いた所、具合が良く長期に服用して頂いております。
Cさんは赤ら顔で冷え性、便秘でお困りの年配の女性で五積散と麻子仁丸を兼用して長期に亘って服用頂きました。服用後体調が良く排便もスムーズでとても喜んで戴きましたが高年齢で残念ながらお亡くなりになりました。この女性は痩せ型で冷え性にも拘わらず何れかの薬局で三黄瀉心湯(大黄が入っている)の錠剤を進められて長く服用されておられました。三黄瀉心湯は冷やす作用が強い為、当然この女性は排便は出来るものの快便にはならず結果的には更なる便秘体質を生じる事になる。
他には腰痛、冷えを伴う婦人病に良く使って居ります。
※1登呂遺跡、吉野ケ里遺跡、長野県の平出(ひらいで)遺跡を3大遺跡と称する事もある
※2《「ぶい」とも》巫女 (みこ) と医者。また、両者の役割を兼ねた者。
34号 漢方の風 - 鼓脹・腹脹、腹満(放屁、お腹のはり) –
日を過ぎる事、数日前、ある人の紹介で60歳代の女性がご相談に来られました。相談机の前に座られた瞬間、可なり体力が落ちているのが見て取れた。
乃ち漢方医学的表現で言う大いなる虚証である。又、大いなる虚労(可成り疲れている)でもあるのが見て取れた。その女性は様々な主訴を持っておられる事(ここでは割愛します)がお薬手帳を見せて頂き良く解りました。同時にお薬手帳の必要性を改めて思い知りました。
当方への主訴は鼓脹と腹脹である。又便秘症でもあるとの事。このお腹の張りの苦しさは経験したものでないと解らないが、漢方の口訣を数々読んでいると、この腹脹、腹満が度々出てくるので私にはその辛さが良く解ります。
そのお薬手帳を見て目を疑いました。
ガ○モ○ン、ガ○コ○、ビ○フ○ル○ン、カ○グとあり最後に防風通聖散(各30日分)と有りました。恐らく便秘が有るので防風通聖散が処方されたのであろう事は察しが付きます。
腹満、腹脹、便秘は漢方では実証(体力がある人)でも見られ、防風通聖散には調胃承気湯が入っており、実証の患者さんの腹満、腹張、便秘に使っても問題は有りませんが、この患者さんは明らかに虚していることが解り(虚証である事が解るの意)、服用する事により更に体力を失い、更なる腹満、腹張を惹き起こした事も充分察しがつきます。
悪いことに、生真面目なこの患者さんは30日分全て服み切ってしまった。
防風通聖散は体内の“毒邪”を二便(大小便の事)、皮膚(発汗、皮膚呼吸)、肺呼吸から食毒、風毒、水毒、梅毒、酒毒、鬱毒を排出して体調を整える処方である。
つまり体内のあり余った邪をあらゆる手段を用いて排出して、体調を整える作用である(その際、体内のエネルギーも体外に出してしまうので虚証の患者さんには絶対に使ってはならないのである)。その結果、実証の人の中性脂肪値、コレステロール値、血糖値、尿酸値等を下げてくれます。
防風通聖散の使い方は「漢方一貫堂医学:矢数 格著」に詳しく書かれていますので参考にされたい。
ふと思い起こしてみて、当方の薬歴を調べてみた所、平成10年にお腹が張って辛く苦しい思いをされておられた73歳の男の方が相談に来られておられます。
やはり痩せていて、見るからに虚証で有ることが解ります。そこで厚朴、生姜、半夏、人参、甘草を購入いただき、同時に煎じて服用して頂いた所、あの辛く苦しいお腹の張りが、忽ち取れてとても喜ばれた経験が有ります。因みに大建中湯では全く効果が有りませんでした。
当時50歳代後半の女性はC型肝炎でやはり腹満で苦しんでおられましたが、便秘も有り茵陳蒿湯で治まりました。この方はその後しびれ、腰痛、ひざ痛等で困った時は当方へご相談にお見えになられています。
西洋医学と東洋医学の良いところを上手くミックスした医療が待ち望まれている今日この頃ではないでしょうか。
それにしても、先出の60歳代の患者さんの処方を調剤した薬剤師さんにも上手く対応して欲しかった事は言うまでもない事です。
なかがわ漢方堂薬局 中川 義雄(昭)