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24号 漢方の風 ー喘息の漢方治療ー

2010-05-13

 最近、興味を惹いた新聞記事は膵臓のβ細胞(インシュリン分泌細胞:血糖値を下げる働き)の働きが駄目になった場合、時間を経由してα細胞(グルカゴン分泌細胞:血糖値を上げる働き)の一部が少しづつβ細胞に変化して行く(つまり、α細胞がβ細胞に変化する)事が動物実験で確認されたと言った内容の記事です。これは東洋医学で言う“陰極まれば陽に転ず”に通じている様に思える。人体の自然治癒力の為せる所でしょうか。以前、脊柱管狭窄症の患者さんに半夏瀉心湯と四逆散と牡蠣殻のカルシュウムを皮切りに八味丸と生薬製剤二号方を併用し、時には八味丸と半夏瀉心湯を使い、最後は八味丸を長期に服用して頂きました。年1回の大学病院の検査で狭窄が広がっており問題無いと診断されたとの事で大いに喜ばれた経験があります。恐らくホメオスターシス(自然治癒力)が働いた為であろうと思われますがエビデンスは定かでは有りません。前出の漢方薬等がそのホメオスターシスを引き起こしたのであろうと推察しております。長く服用されたその過程では突然の歩行困難が改善し、一方、内科的症状である下痢、肩こり、疲れ、等の体調不良が改善し、体調の良さを実感された事が長きに亘って服用された所以であろう。

 

 漢方薬は抵抗力や自然治癒力を促進する働きが有ります。例えば風邪をひき易い或いは扁桃炎を起こし易い子供に「柴胡清肝散」を普段から服用させておくと夫々の感染を予防でき、或いは感染しても症状が軽くてすむ場合が多く有ります。「小建中湯」「荊艾連翹湯」「小柴胡湯」「柴胡桂枝湯」「八味丸」にも同様の事を経験します(他にも有りますが)。江戸時代に “外科倒し”と言う言葉が有ったそうで、伯耆の国の民間薬、「伯州散」を使用するとあれほど膿出が止まず塞がらなかった瘻孔や潰瘍が見る見るうちに治り、外科医の役割が減り患者が減ったと言われております。私の治験でも、どうしても会社を休めない(手術以外に治療法はなく1週間以上入院をする必要があると医師より言われていた)痔瘻の患者さんに伯州散を使い(通導散と竜胆瀉肝湯を併用)、膿の漏出を止め、喜ばれた事があります。現代において繰り返し発症する扁桃炎や発熱の患者さんに「柴胡清肝散」や「小建中湯」を上手く使うと感染を予防し小児科や耳鼻咽喉科に係院する患者さんの苦痛を取り除き、徒に耐性菌を増やすことも無いと思います。かと言って漢方薬を間違って使うと、ひどい体調不良を起こします(これは副作用ではなく誤治と言います)ので素人療法は厳に慎んで戴き、漢方の専門家に相談して頂きたいものです。

 

 話は変わりますが、あるホームページに喘息の漢方治療の事が書かれてありますが、発作時はβ交感神経作動薬を使い、体質改善的に抗アレルギー作用のある漢方薬を使うのが良いと書かれてあります。私の経験では、β作動薬やステロイドを使っていても救急車を度々呼んでいた患者さんに発作時に服用する様“五虎湯”や“小青竜湯加杏仁石膏”(小青竜湯合麻杏甘石湯)を渡しておくと救急車を呼ばなくて済む事があります。勿論、未病を治す意味で(現代医学的に言えば予防として)“柴朴湯”“防風通聖散合小青竜湯”“防風通聖散合通導散”“柴胡桂枝乾姜湯加杏仁茯苓”“補中益気湯加麦門冬五味子”“加味逍遥散合半夏厚朴湯”“大柴胡湯加厚朴蘇葉”他で、全く発作を起こさなくなったと喜ばれた症例も有ります。漢方薬が全てではありませんが、およその喘息は漢方治療で発作時にも予防にも対応出来ます。又喘息の予防で、最も大切な事は荒木正胤著「漢方鍼灸の治療」に書かれておりますが、食事を正すことです。①近海の背の青い魚をさける②肉食をさける③専ら少食にする…と書かれてあります。発作の時は食事が摂れません、従って発作が治まると大食してしまう。この悪循環を断ち切る事が発作を予防する為に必要であるとも書かれて有ります。この考え方が乃ち“科学”だと私は思うのですが、皆様は如何に思われますでしょうか。

 

 更に、端を更めますが、生き方、治療方針、物の見方、考え方等に参考になる話だと思いますので追記します。名歌「北国の春」に出てきます~こぶし咲くあの丘北国の~の辛夷(木筆、こぶし)の老木(樹齢250年)が3年ぶりに花を咲かせたと朝のTVで放映していたのですが、樹の専門家の話によると老木なので毎年花を咲かせるポテンシャルが無く、エネルギーを3年の間、貯えて、やっと咲かせているのだそうです。健気で、存在感のある、己を知っている辛夷の生き方に我々人間も学ばなければいけないと思いました。70歳台のひざ痛の患者さんには、治療の為、鍛える為にと、頑張って歩かれる方がおられますが、そんなに歩いたら駄目ですよと、又何かが原因で卵巣が一休みしている時に排卵誘発剤は使わない方が良いよと、教えてくれている様に思えてならない。卵巣の為に胃腸を正し、?血を取り、腎を補ってあげると卵巣本来の機能を取り戻してくれます。私もそろそろ“齢”なので、辛夷に見習わねばと思っております。

 (大津市薬会報 2010年 5月号掲載)

17号 漢方の風 ー漢方薬の素晴らしさ、難しさー

2008-08-11

 平成20年5月22日、(社)大津市薬剤師会総会の後の懇親会の席上、広報担当の山口先生より、ひき続き原稿を提出して欲しい旨の依頼を受けました。「豚もおだてりゃ木に登る」ばかりに “煽”(おだて)を甘受 し、二つ返事で了解してしまいました。その4日後の朝、いつもの様に仕事前にパソコンのメールのチェックをした所、早速、原稿の締め切りは6月25日ですと言って来た。来月からは、毎月大きな漢方講演が控えており、今書かなければ、締め切りに間に合わなくなる事必定である。今日は5月26日とはいえ、早速パソコンに原稿を書き始めました。今回は、少々、手前味噌の話を書かせて頂きます。ご辛抱下さい。

 私の生家は、大津の旧東海道沿いにあって(現京町通)、江戸時代から続く茶商で、間違いなく、本物の“朝宮茶”も扱っております。私の祖父は茶業の傍ら、趣味で骨接ぎ屋さんやら漢方薬屋さんをしていた(現在なら薬事法違反)。次兄には、“お前はお爺ちゃんの血をひいたんや”と何時も言われる。その次兄は美術品の蒐集家で(西大津近くで中川美術館を開いている)、何でここに、こんなに素晴らしい美術品が有るの、と思ってしまう程である。弟の私の一寸した自慢である。一方、私の長兄は、変わり者で、茶業の傍ら色々な趣味を持っていた。私が云うのも変ですが、中でも、文学的素養は天性のものがあり、俳句に至っては「花藻社」の主宰をもしていた。又、県の文化功労賞の栄誉にも浴した。湖畔のびわこ文化ホールの西側の芝生には、大津市制100周年事業において句碑を建立させて頂いた。そこには、

“湖薄暑掬えば貝となるてのひら”(琵琶湖の水の美しさを謳った句) と刻まれている。

 一般市民が見て、先ず読めないし、当然意味も解らない。皆が解らなければ駄目でしょうと私が云ったら、長兄からは解らないから良い、と言い返された。やはり変わり者である。兄が俳壇に登場した頃は、私はまだ幼稚園から小学校に上がった頃である(17歳の年の差がある)。その頃の、最初の句集「銀河」の巻頭を埋めた句のいくつかを披露させて頂きます。

“黄タンポポ吾が青春第一章”

“虹見てる誰か吾をボヘミアンと云う”

“かすれたレコードかけて満月に乾杯”

“タンポポに春ですね「今日は」

“田園の詩人トマトより真瓜がお好き”

歳を重ね、次に出した句集「男眉」では、

“男眉立てて祭りの武者となる”

“しんしんと雪降り天ゆ楽奏す”

“黙し鵙叫びたくなる世に棲みて”

“雪は純白こんな暗い世の中でも”

“沖へ帆を張って湖族の裔たらむか”

更に、長兄が亡くなる前の、「俳句界」(平成17年11月号)には、

“空蝉に早や生きものの臭ひ無し”

“雷三ッ日火攻めの窯が夜も唸る”

…等。今になって長兄の生き様を見る思いがします。

 それに引き換え、末弟の私は、それまで、極、普通に薬剤師の道を歩んで来ました。某メーカーに就職し、大学病院や町医者を見て来ました。現代医学の素晴らしさを感じつつも、同時に矛盾も一杯に憶え、僕の生きる道としては何か物足りなさを感じておりました。そして漢方を学んだ今、不確かであった、現代医学の危うさ、物足りなさがはっきりと認識出来るようになり、漢方を勉強して良かったとつくづく感じて居ります。

 人は、有機的複合体であり、喘息、アトピー性皮ふ炎、リウマチ、潰瘍性大腸炎、前立腺肥大…等全て、有機的に体内環境と繋がっております。咳を例にとると、五臓をして皆咳せしむ。一人肺にあらずと云って、五臓全てが咳の原因に成りうるのであると、古い書物に書かれている。初診では、ともすれば肺だけ診てしまう現代医学とは“診かた”が全く違うのである。…となると漢方家足るもの、皮膚病でさえ、又、何病であっても患者さんの全体を見なければならないのである。人を診るとなると、大変な作業になるのであり、責任は重大である。

 扁頭痛、下痢、足の関節痛、重症の冷えでお困りのAさんは、最近、呉茱萸湯合真武湯合附子湯を服用し始めて頂きました。二十日分服み終えた所ですが、服み始めた頃に足の甲にひどい鬱血がおこり、気分が悪くなって、頭痛発作も起こり、所謂、瞑眩(めんげん)があったものの、その後頭痛が、いつもより少し減じ、下痢は普通便に、膝痛は全くとれてしまった。そして、再診の今日、寝ていた髪は、ふわぁと立ち上がり、肌はしっとりと、女盛りの肌を取り戻している。

 処方箋の調剤をしていた頃は、凡そ、1400種類の医薬品を扱っておりました(当然夫々の作用機序も理解しております)が、上記のAさんを治療する医薬品はありません。漢方なら出来るのです。漢方の素晴らしさは、ここにあるのです。

 人は云います、私は、漢方は合いません、効きません…と。その患者さんに、よく聞くと,その医師は、舌も診ないし、脈も取らないし、腹診もしない。見たのは某メーカーの手帳だけであった…と。

 漢方の所為にしないで欲しいと、叫びたくなります。だけど、漢方薬と云えどもそう簡単にはいかないのも、現状である。私には、まだまだ勉強の日々が待っている。

 地球温暖化にともない、砂漠化が進み、原料生薬の収穫量が激減している。もっともっと生薬を大切に扱って欲しいと思い、漢方薬の正しい使い方を広めていかなければと思う今日この頃である。

(大津市薬会報 2008年 8月号掲載)

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