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36号 漢方の風 - アルツハイマー型認知症・アトピー性皮膚炎
数年前の事ですが、某大学の薬学部に在籍する学生さんとお話しをする機会が有りました。
その際、その学生さんはアトピー性皮膚炎を罹患して困っておられ、私が漢方医学に携わっている事を知って、質問をされた次第である。
その学生さんは皮膚が乾燥して痒みが強く皮膚科の医院に受診した。
保湿剤の軟膏と抗アレルギー剤と抑肝散が処方されたとの事であるが、将来の薬剤師の卵である学生さんは自分に抑肝散が処方された作用機序が解らず、ネットで調べて見たとの事である。
神経症、不眠症、小児夜啼き等が書かれておりアトピー性皮膚炎の際のイライラ、不眠、痒みにも効果があると書かれていたとの事である。
14日分を服用したが効果はサッパリで、自分には合わなかったのだろうと思っていたのだが、この機会に私にエビデンスを聞いて見たいと思った訳である。
その学生さんはサッパリした性格で言葉が流暢で会話が楽しく、自分の気持ちを素直に表現出来る、落ち着いた明るい性格の持ち主であった。
決して肝血(※)が虚していて、肝陽が抑えられないタイプではなかった。なので、その学生さんには効果が無くて当然で、抑肝散に効果が無かったのではなく、又、合わなかったのでも無く、合わせられなかったと考えるのが妥当でしょうと説明し、大切な事は望診や問診を行った上で、つまり“抑肝散の証”<肝血の虚に乗じて肝陽が上亢している>を弁証した上でアトピー性皮膚炎の患者さんに投薬する事が基本であると説明した所、複雑な気持ちを抱いていた。漢方薬は東洋医学的EBMに則った使い方が大切であるとその学生さんには教える事が出来た。
今から20年近い前に、生前、親しくさせて頂きました故広瀬滋之先生(数多くの漢方の著書が有ります)の京都での漢方講演を拝聴しに行った時に、世の漢方施術者に対して、漢方薬が合わなかったのでは無く、合わせられなかった事を深く考えるべきと仰っておられました。
その言葉を聞いて私自身も身が引き締まる思いを覚えた。
アトピー性皮膚炎に対する抑肝散の作用は前号の“LEAKY GUT SYNDROME の所で書きましたが”脾“のペプシンの作用をフリーにしてより小さいペプチドに分解する事であろう。又、三焦の流れを良くする事も考えられる。
その抑肝散は最近、アルツハイマー型認知症(AD)、レビー小体型認知症に高頻度に処方されます。所謂、周辺症状(怒り、イライラ、不安、妄想、徘徊他)の改善に使用されます。根治療法にはならないとされております。
ADの場合は(アミロイドカスケード仮説)はアミロイドβの沈着が重要視されていますが最近の研究で陳皮に含まれているノビレチンが非常に有効であるとされる研究論文が発表されております。
ノビレチンの抗認知作用は
- 記憶障害改善作用
- 脳コリン作動性神経変性抑制作用
- アルツハイマー型認知症の原因物質とされるアミロイドβの沈着抑制作用
- 神経成長因子
が動物実験で確認されている。(東北大学で抗認知症への動物実験を行っている。又、最近、それに基づいて東西の大学病院で臨床実験が開始されたと聞いております。)
ノビレチンはシークヮーサー始め柑橘系の果皮に含まれているが、通常の温州みかんの果皮にも若干含まれている。
所が、最近、コタロー社がある地区で高濃度にノビレチンを含有しているミカンを見つけ、その果皮のエキス剤をノビレチンピ(第3類医薬品)と号して発売を始めた。乃ちノビレチンピは一種の温州みかんの果皮で健胃、鎮嘔、鎮咳、去痰の効能・効果で上市されております。
当薬局では現在3名の方に服用して頂いている所です。
認知症の漢方治療は古くは桃核承気湯、当帰芍薬散が取り沙汰されておりましたが最近では「釣藤散」「?帰調血飲第一加減」「加味温胆湯」「通導散」「通導散合桂枝茯苓丸」「通導散合竜胆潟肝湯合補中益気湯」「加味帰脾湯」「通導散加桃仁牡丹皮合?帰調血飲第一加減」他から弁証を行って理法方薬通り行うと良いでしょう。中でも通導散には大いに期待が持てます。(通導散は強い薬方で使い方が難しく素人療法は禁物です。その際は漢方の専門家にご相談ください。)
※肝血:「肝は血を蔵す」とされる。腸管で吸収された栄養物質を含んだ血(けつ)は門脈系を通じ肝蔵に入り、分解、合成され貯蔵される。更に肝は自律神経系を主る為、血管運動に関与し身体各部の血流量を調節する。
更に女性には子宮に血液を供給し子宮の平滑筋や内膜を濡養(なんよう)して、或は自律神経を介してホルモン分泌を調節して月経を正常に行わせる。
陰陽互根であり、肝血は陰で、肝陽をコントロールしている。
なかがわ漢方堂薬局 中川 義雄