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23号 漢方の風 ーアトピー性皮膚炎・肥満症ー
空蝉に最早命の臭いなし… これは亡き長兄が詠んだ詩です。蝉の抜け殻は、俳句の季語になりますが、漢方薬では、“?風剤”になります。?風とは、この場合は痒みを取ると言う意味になり、漢方処方としては、消風散に配合されています。その消風散はアトピー性皮膚炎によく使いますが、患部が湿潤している事が使用目標になります(それ以上に風証が見られる事が必要ですが)。乾燥性のアトピーに使用すると症状を悪化させるので注意が必要です。これは決して副作用ではなく、あくまでも使い方の問題であり、消風散の構成生薬をよく考えて使用すると失敗はしないものです。漢方薬の使用については、慎重に行わなければなりません。同じ動物生薬の中に“地竜”(みみず)が有ります。最近、地竜の使い方の吉岡先生の講演を起こした資料をk社が提供してくれ、追試した所、非常に良い結果を得ております。麻黄と石膏で皮下の“水”を捌き、更に地竜で血流を良くしてより水の捌きを高めて、鎮痒作用を高めます。痒みで、夜眠れない時は麻黄杏仁甘草石膏湯と地竜を併用すると、痒みが取れて、かきむしる事無く良く眠れます。
当薬局の難治性のアトピー性皮膚炎の最近の治験例を挙げて見ますと、30代の女性には、猪苓湯と補中益気湯に加味逍遥散で治癒。20代の女性は猪苓湯と補中益気湯に荊介連翹湯で治癒。その他温清飲、温経湯、梔子柏皮湯、黄連解毒湯、十味敗毒湯、柴胡清肝散、四物湯、黄ギ建中湯等をうまく組み合わせて使用すると難治性のアトピーでも大部分は治癒する事が出来ます。 所で、最近、漢方薬の保険適用を外す議論が、事業仕分けの俎上にあがりましたが、上記の30代の女性のアトピー性皮膚炎を漢方処方を使って“保険医療”で治療するとしたら、夫々の処方に適応する“架空の病名”をいわば作り挙げなくてはならない。病名と漢方処方が一致しなければ健康保険法に抵触するからである。即ち、不正請求になる。上記の30代の女性には、夫々、例えば膀胱炎なり胃下垂なり冷え性の病名を付けなければならない。実際はアトピー性皮膚炎の治療なのだが。漢方薬の保険適用には、やはり無理がある様に思えます。とはいえ、抗ガン剤や放射線療法での体力、気力の落ち込みに、漢方薬を医療保険扱いで投薬され恩恵を受けておられる方が大勢おられる事を考えると保険適用外とは、軽々には言えない。公平に考えて見て、何らかの落としどころを見い出さないと、現状のままでは、医療費の削減はもとより、ややもすると、生薬の無駄使いが行われ、延いては漢方薬その物の存在が危うくなる。絶滅の危機に頻している薬草は大切に扱わなくてはならない。漢方薬は“薬草に感謝”の気持ちを抱きながら使用しなければなりません。
話は変わりますが、アメリカでは国民の肥満が問題になっております。このままでは10年後には肥満症に関る医療費が現在の4倍になる試算が出ており、財政が持たないのだそうである。現在の日本の状況から見て、わが国でも、4倍はともかくとして、同じ事になるであろう事は十分に察しが着く。患者さんが病院で、痩せる漢方薬を出して下さいと言えば、鸚鵡返しに防風通聖散が処方されます。(漢方には詳しくないからと断る先生も居られますが…)私の経験では防風通聖散の90日分の院外処方箋を受け取った事が有りますが、表寒裏実熱とは決して見えない患者さんでした…。勿論、効き目は無かったと思われます。体調に不具合を感じたら服用を中止して下さいとお伝えしました。この事例も医療費の無駄かも知れません。防風通聖散には麻黄、荊芥、防風と言った辛温解表剤(発汗剤)が配合されています。発汗は注意しなければなりません、心臓の弱い患者さんには特に要注意である。心臓の気陰不足の人は意外に太っている人がおられるからです。OTC薬の九味半夏湯加減なる「扁鵲」(へんせき)と言う漢方薬を扱っておりますが、メタボリックには防風通聖散より、もっと安全で効果的と思っております。水毒、臓毒を捌き脂肪過多を減らしてくれます。因みに防風通聖散が身体に合う方(防風通聖散証と言います)は決してKYではなく、気配りの出来る方が多い様に思います。
(大津市薬会報 2010年 1月号掲載)