アトピー性皮膚炎・滋賀県・漢方薬 | なかがわ漢方堂薬局

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22号 漢方の風 ーアトピー性皮膚炎ー

2009-10-19

 知り合いのAさんの息子さんは、幼少の頃からアトピー性皮膚炎で悩んでいました。彼のお母さんは、かなり神経質な方で、傍(はた)から見ていても、その息子さんには、あれこれ“口うるさく”接しているのが見て取れる程であった。その息子さんには、ルイボスティーを勧めて飲んで頂いておりました。ルイボスティーを飲むと、確かに、カサカサの肌が綺麗になるとの事で長らく愛飲して頂きました。私から言わせると、本来の病因は、母親、乃ち“母原病”なのであるが(全てのアトピー性皮膚炎がそうだとは限りません)、その事を話すと、話がややこしくなるので、取り敢えずルイボスティーで事を済ませていたのである。然しながら、ねらい通りに、よく反応してくれました。母親からのストレスが脾(消化吸収機能)に影響を与え、ペプシンによる蛋白の消化が圧迫を受け、本来より分子量の大きいペプチドが生じ、それがアレルゲンと成り、アトピー性皮膚炎を引き起こしていたのであろうと考えたからである。それは、漢方の世界で、補中益気湯が脾気を高め、更に、水を捌(さば)いて呉れる作用を利用して、アトピー性皮膚炎に使用される事と通ずる所が有ります。その母親には、抑肝散なり加味逍遥散辺りを服用して頂くと、更に効果的であったであろう。

 

 私と、ルイボスティー(学名 アスパラサスリネアリス)との出会いは20数年前になります。当時は、カフェインを含まず、スカベンジャー機能を高めてくれ、皮膚が綺麗になりますといったキャッチコピーで販売しておりました。多くの人に飲んで頂いている間に、あるお客さんが、庭の枯れかかった木の根っこに煮出し終えたティーバッグを置いていた所、枯れる筈の木が花を咲かせたので、ビックリしたと仰有れ、何かしらのパワーを持っていると確信を持ちました。

 

 南アフリカ原産のこのお茶は、微量ミネラルやケルセチン(フラボノイド)を多く含有し、脾の働きを改善し、腸管の蠕動運動を促して便通を良くして便秘を改善したり、又、蛋白質の消化を良くして、より分子量の小さいペプチドにしてくれて、アレルゲンを少なくして、アトピー性皮膚炎を改善してくれるのであろうと私なりに解釈しております。因みにルイボスティーは巷に多く売られておりますが、粗悪品が多く、よく撰品する必要があります。

 

 アトピー性皮膚炎を治すには、食事に気をつけなければなりません。少なくとも昭和30年台の食事にすると自然にアトピー性皮膚炎は治るものと確信してはおりますが、その一方、生活水にも気をつける必要があります。昔の琵琶湖のクラスターの小さい、カルシウム始めミネラルたっぷりの水を摂る事が大切なのですが…。

 

 漢方では、アトピー性皮膚炎は“湿熱”が、諸悪の根源と考えます。甘いもの、油で揚げたもの、炭酸飲料、ビール、生クリーム製品等、枚挙に暇がありません。昭和30年台には、そう簡単に、口に入らないものばかりです。“湿熱”を引き起こす食べ物が氾濫している現代では、アトピー性皮膚炎や花粉症を、いつ発症してもおかしくないのである。昭和30年台の大津の朝は、納豆売り、瀬田川シジミ売り、煮豆売り等の独特の行商人の売り言葉で朝がやって来たものです。現代では、朝食はマーガリンのトースト、コーヒー、ミルク、甘いジャム、目玉焼きといった所でしょうか。東洋の思想を学校教育、栄養学、医学が取り入れなければ、医療費の削減にはならないであろう。

 

 アトピー性皮膚炎を治すには、黄連解毒湯、温清飲、補中益気湯、猪苓湯、黄ギ建中湯、加味逍遥散、抑肝散、十味敗毒湯、白虎加人参湯、麻黄附子細辛湯、辛夷清肺湯、桂枝湯加黄ギ、消風散、越婢加朮湯、桂枝人参湯、三物黄ゴン湯、六味丸等から撰用すれば良い。  アトピー性皮膚炎治療で、ステロイド剤を多用し、腎の陰精を傷つけると、漢方的手立てを打たなければ、取り返しの着かない状況を招きかねない。

 

 一口で漢方と言っても、古方、後世要方といった日本の漢方と中国の中医学等がありますが、日本の漢方理論では、なかなかアトピー性皮膚炎は治せません。日本の漢方理論と中医理論を上手くミックスして弁証すると、可なりの確率でアトピー性皮膚炎は“本治”出来ます。つまり、体質改善出来ます(見かけだけの治療を標治と言いますが、体質改善にはなりません)。

 

 食養生無くしては、漢方と言えども治せません。従って、本当の治療をするには、施治者と患者さんが、力を合わせて取り組まなければならないのは言うまでも無いことです。

 (大津市薬会報 2009年 10月号掲載)

18号 漢方の風 ー腎臓病(腎炎、頻尿、尿路感染症、性感染症…他)

2008-11-23

 いつぞやの漢方塾で“鼻炎の特効薬”である小青龍湯が突然発症する浮腫(漢方では風水と言います)にとても良く効く旨の文章を書きました。この小青龍湯は花粉症に良く使われており、一般的によく知られておりますが、鼻汁がクシャミと共にタラタラと流れる鼻炎や、痰が無色で然も量が多い喘息にとても良く効きます。これは心下に溜まった余分な水が風邪等の外邪によって、上方に衝動せられ(感染等の刺激、漢方では、外邪と言います)上気道に溢れて来た結果であり、決して、気の流れのベクトルが下方に向いていないが為に(気が上方に向いているが為に)、尿不利(尿が出にくい)になります(尿は下方にベクトルが向いて出やすくなります)。その結果、突発性の浮腫を起こします。この場合、小青龍湯が驚くほど著効を発揮します。漢方薬は効き目が遅く時間をかけて、じっくり効いてくるとの一般論が有りますが、この場合は即効が期待出来、とても良く効いてくれます。乃ち、感染症と腎炎等の浮腫みが関係している場合が漢方学的見地から見ると度々見受けられます。扁桃炎をともなう急性腎炎には、越婢加朮湯がとても良く効いてくれます。これらは、妊娠している場合は使わないのが普通です。その妊娠腎には、当帰芍薬散、五苓散、小柴胡湯、柴胡桂枝乾姜湯、九味檳榔湯、等を撰用すると良いと思います。更に腎臓、膀胱、尿路等の感染症には、小柴胡湯、柴胡桂枝湯、五苓散、猪苓湯、五淋散、竜胆瀉肝湯、猪苓湯合四物湯、通導散合竜胆瀉肝湯、等から撰用すると良い。

 水健康法が流行る昨今、それでなくても、ドロドロ血をサラサラ血に保つ為に、水分の補給が第一と、何処へ行くにもペットボトルを持参している人を良くみかけます。決して否定するものではありませんが…。  水よ水、身体のどこかに、寄り道して、居座らないで…と願うばかりである。脳細胞に居座ると、頭痛や眩暈、耳鳴りの原因にも成りかねない。又、消化管に居座ると下痢や胃下垂、逆流性食道炎の原因にも成りかねない。表皮に近い所に居座ると多汗症やアトピー性皮膚炎を引き起こす事にも成りかねない。蚊に刺された後、皮膚炎をおこし、なかなか治癒しない人がおられますが、それは、表皮に近い所に水が溜まっているからで、黄耆なる薬草を使い、表の水をさばくと治癒が早まります。  私にはこの様な経験が有ります。高校時代に20人ばかりで、地元の比良山に良く登りました。夏山は暑くて水分の補給が最も大切である。およそ20?30分歩くと休憩を取ります。その度にポリタンの水を飲むのですが、その時は余程、喉が渇いていたのか、少し飲み過ぎたが為に、休憩の後、出発して間もなく、ひどい疲労感に襲われ、歩けなくなってしまいました。その結果、わたしのザックを他のメンバーが担ぐ事になり、とんでもない迷惑をかけてしまいました。その時以来、私は喉が渇いても、冷たく冷やした水分は一度に沢山摂取しない様気をつける様になりました。漢方を学習した今、その理由が良く分かります。その一方、沢山の冷たい水分(例えば冷やしたビール)を飲んでも平気な人もおられます。水分摂取は個別的であるのです。私に診を乞うてやって来られた方には、水の摂り方をよく指導致します。水健康法で生理不順、アトピー、ニキビを悪化させた人を随分見て来ました。(水の摂取は、あくまでも個別的であります。)人間は、ひとつひとつの細胞迄、有機的に生きているのである。水の取りすぎが理由で、細胞間隙に水が溜まったり、延いては組織までも水が溜まったりして様々な病的症状を引き起こす人が多く居られます。人が健康を保つ上で「水」の摂取と排泄は注意深くしなければなりません。

 最近、頻尿で悩む人が随分増えて来た様に思います。その頻尿の遠因は地球温暖化が原因と言った事がありますが、清心蓮子飲、小建中湯、柴胡桂枝乾姜湯等で改善される人がおられます。地球温暖化と共に身体が暑くなり、水分を余計に摂ってしまったり、汗が出すぎて、その結果「心」を弱らせてしまったりして、頻尿が起こるのである。上記の処方がそれぞれ「心」に効果があるのは、言うまでも有りません。やはり、頻尿の治療にも「五臓」を見渡さなければならないのは言うまでもない。  甘食厚味な食習慣と平均気温の上昇が尿の浸透圧を上げたり、濃縮尿を引き起こしたりして、尿路系の感染症を引き起こし、一方では性感染症の蔓延を引き起こしているのであると私は考えております。食育と共に日本の食文化を見直さなければなりません。学校教育の中に日本の食文化を取り入れる時が来ているのでは無いでしょうか…。感染症においても食事が密接に関係しているのであり、医療においても、抗生物質や抗菌剤で、菌を“たたく”ばっかりの治療の見直しを計る時が、遅きに失しないよう真の漢方を広めなければならないと思っております。

 (大津市薬会報 2008年 11月号掲載)

10号 漢方の風 ーうつ病ー

2006-10-06

 バイオリニストの千住真理子さんがボランティア活動を実践されている事は、ある施設に訪問演奏された事を聞いていた時から知っていた。その施設の職員さんは、単にバイオリンの好きな女性が腕だめしに奏でに来ていると思っていたらしく、私が彼女の略歴を教えてあげた所、驚いた表情を見せていた。小学生の時に、天才と言わしめた彼女は、父親の期待を一身に受け、一日のほとんどの時間をバイオリンの練習に励んでいた。ところが、絶頂期を迎えていた20才で挫折を覚え、数年間バイオリンには一切触れなかった経験をしておられる。正に鬱的症状も出ていたらしく、最早、家族もバイオリニストとしての彼女の将来を諦めていたと述懐しておられた。その彼女を立ち直らせたキッカケは、ホスピス病棟での、ボランティア演奏だったとの事で、死を目前に迎えた患者さんに、同じく絶望の淵にいた自分が満足に演奏できなかった事が、ボランティア活動の・・・ひいては立ち直るキッカケになったとTVで話しておられた。

 私は、何故彼女がストラリバリのデュランティを手に入れたかは、知らなかったが、フランスの貴族であるデュランティ家から、最終的に、彼女が選ばれたとの事であった。幼少の頃、一日14時間も練習に励んだ事も努力家である彼女をして選ばしめた一因であったと私なりに勝手に想像している。

 その鬱的症状は、逍遥散や柴桂湯、柴胡疎肝湯、大柴胡湯、等の四逆散の変方とされる処方群や、香蘇散、分心気飲、半夏厚朴湯、柴胡加龍牡湯、防風通聖散等を選用すれば、良く効いてくれます。

 モーツアルトがもてはやされている昨今、彼女はバッハが好きで、好んでバッハを演奏するそうです。彼女の一番好きな言葉は、バイオリン、ギター、ウクレレ等の共鳴板の中の支えとして入っている“魂柱”だそうです。

 上記の防風通聖散が、depressionに効果がある事はあまり知られていないのではないでしょうか。構成生薬からみてみると表と裏に倶に実の状況で、5月病や、月曜病等、又、ストレス性の喘息にもよく応じてくれます。TVでのCMで脂肪太りに“防風通聖散”とは、全く恐れ入っております。私の近所のDBの患者さんで防風通聖散がぴったり効きそうな方は、脂肪太りではなく、筋肉質の体型をしておられます。関東の患者さんで統合失調症と喘息とアトピー性皮膚炎を併発しておられる患者さんには、防風通聖散と通導散を合方して頂き良い結果を得ています。  ところで話は変りますが、医療保険の世界では今やジェネリック医薬品が医療費の削減には欠かせない存在となっておりますが、あるメーカーの5月号の情報誌に貝原益軒の養生訓の一節が記載されております。『東垣が曰く、細末の薬は、経絡にめぐらず、只、胃中臓腑の癪を去る。下焦の病には大丸を用ゆ。中焦の病は、之に次ぐ。上焦を治するには極めて小丸にす。丸薬、上焦の病には、細やかにしてやはらかに早く化しやすきがよし。中焦の薬は小丸にして堅かるべし。下焦の薬は大丸にして堅きがよし』

 医療受給者の納得を得る為と、医療経済の視点とから、先人の知恵の剤型の大切さを、我々薬剤師は、注意を払う必要があろう。私自身、多くの患者さんを見るにつけ、麻子仁丸料エキス顆粒と本来の麻子仁丸の丸剤との効き目の違いを実感しているところである。(DB:糖尿病)

(大津市薬会報 2006年10月号掲載)

8号 ペンギン堂経験記(アトピー性皮膚炎・子宮内膜症・子宮筋腫)

2006-04-22

▲エピソード1) 手指のアトピー性皮膚炎で悩む看護助手の女性

 患者は病院勤めの50歳代の女性で、医療用具の消毒薬を使用する必要から、恐らくそれにかぶれたのであろう。見ると、所どころひび割れがあったり、ガサガサで皮膚が剥離して赤むけ状態の所があったり、所どころ分泌物が出ていて痒みが強く、一見して、正視出来ない程の気の毒な皮膚炎であった。患者は子供の頃からの汗かきで、特に頭に汗をよくかく。又、夜間、尿が一乃至二回ある。便秘気味で、ガスがよく溜まり、硬便を排便する。仕事がハードである為か、疲れ易く、睡眠は熟睡との事であった。漢方的診断で重要なのが、汗の有無と発汗する状態、そして排便の状況である。恐らく発症前は、手に大量の汗をかいていたと推察出来るが、今は手の汗腺がやられ、却って乾燥している。更に質問を重ねた所、人よりも手が熱いという事が分かった。最初、小建中湯と桂苓丸料に、別に知母・地骨皮を加えて服用願った。地骨皮はクコの根皮で、知母共々、手の熱、(煩熱という)をよく取ってくれる。次いで黄ぎを加えて再服して頂き、約四割方改善するも、汗は続いている。痒みもまだあるので、最終的に加味桂枝湯と消風散を兼用して頂いた所、まるで別人の手の様に奇麗になった。コーヒーとパン食を禁じ、米飯に切り替えて頂いた事も見逃せない。

▲エピソード2) 子宮内膜症を併発した不妊症の女性

 患者は長崎県佐世保市に住む36歳の女性で、遠隔地である為、FAXで問診を送付頂き、後はそれを元に電話で証の確定を行った患者さんである。ご主人の精子にも問題があり、妊娠はほぼ不可能である。ご主人は特に子供が欲しい訳でもなく、その後、自らの不妊治療は極めて消極的で、夫婦間の温度差は歴然としている。とにかく、奥さんの不妊を睨み乍ら内膜症の治療をする事になった。訴えは、激しい生理痛と時々生理が遅れる事があり、膣周りのカンジダによる痒みが時々起る。肩こりが強く、足先が冷え、腹が張りガスが溜まる・・・等の訴えがあった。最後に、不可欠な質問事項の汗はなく、便はかなり出にくい事が分かった。以上を漢方的に診断すると、子宮がかなり冷えている事が想像出来る。これは「お血」のなせる業と考え、桂苓丸料に牛膝と延胡索を加えて煎じて頂き、寝る前に桂苓丸加大黄を一回服用して頂いた。最初の30日分で、生理痛がかなり改善し、合計120日分服用後、主治医の診断の結果、悪い所見は全く無く、いつでも妊娠可能と太鼓判を押された。

▲エピソード3) 手術を薦められた月経過多出血を伴う子宮筋腫でお困りの女性

 患者さんは、平成元年にペンギン堂を開店して間なしの患者さんで、大変苦慮して治癒できた思い出深い治験である。昭和24年生まれの方で、来局された時は血色素6.8で、立っているのも大変と思われる程貧血が強かった。立ち眩み、朝の目覚めの悪さ、便秘,下腹部の張りが強く、何よりも筋腫(手拳大)による出血過多で、HRT療法も過日受けていたとの事で、最早、手術しか打つ手がない様な状況であった。どうしても手術したくない理由で、当店の漢方になった訳である。 又、激しい生理痛もこの患者さんを苦しめていた。先ず当帰四逆湯と牛膝・延胡索を同時に煎じて頂いた所、生理痛はほとんどなくなったが、出血量は相変らずで、折衝飲や十全大補湯・?帰膠艾湯等を経て、考え抜いた末、使ったのが温清飲と折衝飲と三七人参の併用であった。生理痛・出血が止まり、長服の結果、いつの間にか筋腫はなくなっていたのであった。

(大津市薬会報 2006年4月号掲載)

7号 魂(何故現代の若者はキレるのか?)

2006-01-19

 魄の話は以前の漢方塾で書いた事がありますが、今回は魂についてふれてみたいと思います。

 金田一京助・国語辞典を引いて見ると、魂とは生物の肉体に宿り、精神作用を受け持ち、生命を保つと考えられるものとあり、気力、精神とあります。一方、漢方用語大辞典では、魂とは、人の精神の働きの一種、肝が血を蔵さなかったり、肝血の不足によって、魂は神に随わず動き、無遊、うわごと等の病証を現す。肝は魂の居所也。神に随いて往来する者、これを魂という。魂傷らるれば狂忘して精せず、精せざれば人に当たりて正しからず、陰縮まりて攣筋し、云々とあります。つまり、正しい精神生活(普通の日常生活をも含む)を過す為には、魂は必要不可欠であり、肝(肝血)が正しくなくては、魂は精神活動に一致せず狂忘する事になる。さすれば、肝血を蔵す事が最も大切と考えて良い。漢方の臨床では、陰と陽の均衡を弁証する事になる。

 最近食育が地域、職場等で脚光を浴びておりますが、最近のTV番組でその食育の討論番組が放映されていた。パネリストの一人に、某巨大ファーストフードのトップが招かれていた。日本は民主主義国家で全てにチャンスを与えるものだと変に関心したりしておりました。アメリカでは、HIVの騒動があった凡そ20年程前に、大統領の諮問機関が食育の問題を取り上げ、東洋の食を取り入れるべきと答申を出している。それは、日本の討論会の議論がどこかズレている感がある。然し乍ら、今の乱れた食事からすれば有意義な討論会といえるだろう。若しかしたら、その先を考えた第一歩であれば良いのだが・・・。

 亦、water crisisなる番組では、1kgの牛肉を生産する為には20屯の水が必要になると放送していた。良質な牛肉を生産するには、とうもろこしが必要であり、砂漠を農地として使用する為である。水量のcrisisもあり、事は重大である。科学者として我々薬剤師の特性が、一隅を照らし光明を見い出す手助けになればと願っております。

 私の大学での友人が、海苔の研究に携わっております。海苔にはビタミンDを除く全てのビタミンが含まれている。しかも人間が必要なミネラルも全て含まれており他に血圧を下げるペプチド類、癌細胞のアポトーシスを促したり、新生血管の抑制に効く物質も含まれている・・・と同窓会の席で教えてくれた。トレースエレメントの豊富なものは、色素やミネラル等が共に存在し、見かけは黒い物が多く免疫に効果的と中医学では言っていると私も友人に話したが、彼は、非科学的な事を言っていると思ったに違いない。

 福田一典先生の「漢方がん治療」では、八味丸や六味丸を多用されている。末期ガンの患者さんは腎が虚しているとの理由からである。勿論補気薬、駆?血薬、抗ガン作用のある薬草も駆使されておられる。要するに、何を食するかが、確かな魂を包含した精神を作り、癌の予防にもなり得るのである。私がアトピー性皮膚炎の患者さんから診を乞われた時、過去の食生活をしっかり問診するのは、最も必要な情報の一つだからである。先天性の問題も吟味し乍ら食育を考えているのである。口が渇き、甘いものを好み、冬では寒がりで、のぼせ易く、といった患者であれば、小建中湯に黄蓍を加えて主処方とする。結局は、薬食同源が根本であると考えているからであり、何を多く食したが、今のアトピーを引き起こしていると考え、それを是正するのである。腸管の状態も同時に見据えているのである。

 話は変りますが、クラシック音楽に興味のある私は、忙しい合い間を縫って、ウィーンへ旅した。ついでに、当地の薬局も2軒訪ねて見た。家内が目が乾燥して辛いというので、通訳を通じて訴えた所、アポテーカ(薬剤師)は、こちらの訴えをじっくりと聞き、長期に使うのか、短期なのかを聞き、少しで良いと言ったら、その若い女性のアポテーカはニッコリと頷き、私達が見ている奥の調剤台の引き出しからその目薬を取り出し、丁寧に使い方を教えてくれた。そのゆったりとした穏やかな一連の動作は、安心感を与えてくれるし、同時に誇りを感じた。未だに、この様な薬局(アポテーケ)がこの世にあるのだと感心し、日本でのコンビニでの販売云々の議論のナンセンスさを身にしみて感じた。

(大津市薬会報 2006年1月号掲載)

4号 気魄(人生は努力の繰り返し・漢方は風邪を引きにくくする)

2005-04-05

 高校時代、ラクビー部に所属した私は、正月のラクビー大学選手権が一番の楽しみである。取り分け同志社大学の熱烈なファンである。昨年の大会で早稲田大学に惜敗して以来、私の気持ちの中では、打倒!早稲田を目標に一年間頑張って来た。大学選手権の予選は、年末から始まり準決勝が1月2日国立競技場で行われる。果して捲土重来を期すべく、今年も早稲田大学と対峙したのである。そして両校のフィフティーンが、グランドに立ち、セレモニーが始まった。先ず早稲田大学の校歌が国立競技場に鳴り響いた。テレビでは、早稲田の選手達をアップで取らえる。その表情には正に「気魄」がみなぎっていた。  中でも2人の選手は大泣きしており、アナウンサーも、しっかりその場面を描写していた。私としては厭な予感がしたものの、それにも増した気魄を同志社大学に期待した。が、次の画面を見た瞬間、私は、愕然とした。全く気魄が感じられない。結果は大敗で、私の見た所、試合前に決着はついていたも同然である。

 高校時代の初めての試合の初めての本番でのタックルに飛び込んだ時の衝撃は、それ迄に経験した事のないものであった。眼前の火花と共に暫くの間、意識を失っていた。気がついてみると全く別の場所で試合が進行しており、結局その試合では、その後、全くタックルが出来なかった。私はその後、気魄の大切さを学び、練習を重ね相手を倒す事が出来、チームも一定の栄光を勝利する事が出来た。

 そこで、気魄について調べて見た。漢方医学大辞典では、魄は、精神意識活動の一部分を言い、本能的感覚と動作に属す。例えば、新生児の吸乳と啼哭(ていこく)など、又、冷熱痛痒感覚と体幹肢体の動作などをさす。この種の働きは、人体の物質的基礎を構成する精と密接な関係があるとあり、精が足りれば身体は健全となり魄も宜しくなる。魄が十分であれば、感覚は敏感となり、動作も正確となる。更に精は、人体の構成と生命活動を維持する基本物質である。人体を構成する部分を先天(生殖)の精、生命活動を維持するのに必要なものを後天(水穀)の精という-中略-精気が絶えず消耗されると水穀の精の生成、補充を促す。精が充足すれば生命力は強く、外界の変化に適応し病気になりにくい。精が虚すれば、生命力は減退する、云々。水穀の精を補充すべく、肺と脾胃の確かな働きを基本に毎日のひたむきな練習と努力があれば、魄は研ぎすまされ、自ずと気魄が醸し出されるのであろう。

 過日、泉下に旅立たれた河野先生との初めての出会いは、私の大学の入学式後のガイダンスの時である。当時、先生は、執行部の委員長をされており、在校生を代表して壇上にたたれたのである。はっきりとは憶えておりませんが、美辞麗句を並べた挨拶ではなく、入学した事の満足感は捨て、これからの学生時代を如何に過ごすかが大切であるといった内容だった様に思います。その言葉に緊張感を憶え、先生の気魄を感じ取りました。亦、在宅介護医療部の理事をしていた時の三師会協議会の席上、在宅患者さんとの薬剤師の係りやかかりつけ薬局の説明をした時の矢継ぎ早の医師会の先生方の質問に、私がたじろいでいる時、先生はマイクを取って、この様に話されました。”薬剤師が新しい試みに、不安もあるが、誠心誠意努力しようとしている所であり、じっくり見守って欲しい。その後、皆様の質問に誠心誠意お答えする”と。会場は一瞬の静寂の後、次の議題に進行した。会議のあと河野先生は私の所にやって来て、”中川、今日の会議は良かったナアー、今迄の三師会の中で一番良かったヨ”と仰って下さいました。正に先生の真骨頂である。先生との憶い出は、一杯ありますが、先生の一面を披露して、これで終わりたいと思います。心よりご冥福をお祈り致します。

 話は変わりますが、今年も例年通りインフルエンザが流行り出した。心疾患を持つ70才代の女性は、柴胡姜桂湯、更年期症状らしき異常発汗をする女性には、炙甘草湯と柴胡姜桂湯、子宮筋腫を患っておられる50才台の女性は柴胡桂枝湯、精神疾患の患者さんには加味逍遥散、或いは抑肝散、扁桃腺を持つ5才の女の子には小建中湯、アトピー性皮膚炎で来店された京都の20才代の男性は荊芥連翹湯加減・・・と様々な患者さんがおられます。皆様が異口同音に仰られるのは、周囲全員が風邪を引いているのに自分だけが風邪を引かない、又例え引いても症状が軽くてすむ・・・とこれは前出の精を各々の処方が充足させているからであろう。

(大津市薬会報 2005年4月号掲載)

2号 薬膳(甘さを追ってはダメ・五つの味を均等にとる)

2004-11-06

 2年以上前の事ですが、NHKの番組で、中国を代表する一料理「魯菜(ろさい)」(山東料理)を継承している佐藤孟江さんの番組を見た。それは正に薬膳であり、とってつけた今風の薬膳とは全く違っている。彼女は、多分、70才代の老婦人で、ご主人と二人で、四谷で魯菜料理の店を営んでおられる。そもそも佐藤さんは、山東省で10代の時、皿洗い、雑用から料理の世界に入ったとの事 。厳しい修行だった事は容易に察しがつく。砂糖も一切使わない、大棗、桂皮、陳皮、拘杞子、生姜、甘草、木天蓼(もくてんりょう)等の薬草から旨味を引き出すらしい。彼女が何故、正統派とも言うべき真の魯菜料理を継承できたかは、やはり努力の人で、老板(料理長)が見込んだからであろう。

 寛いだ気分で見ていたので、それ以上の薬草は、目に留まらなかったが、前出の薬草の効能を考えてみた時、それは正に、宇宙的で、全人的で、人を慮んばかった「持て成し」の精神が充分に伺える。胃腸の弱い人、腰の悪い人、心臓が弱く浮腫(むく)み易い人、風邪を引き易い人等々である。番組では、現代の中国の新魯菜料理の紹介もしていたが、甘みを出す為に塩の4倍の白砂糖を使いなさいと、その料理長は誇らしげに言っていた。

 過量の甘みは脾胃(胃腸の働き)を損ない、胃下垂、下痢、出血、免疫能の異常、等を引き起こす。特にアトピー性皮膚炎、癌、リウマチを治す為には、腸管を整える事が先決であろう。腸の消化管組織にあるM細胞から取り込まれたある種の物質が、特殊化されたリンパ節を刺激し、マクロファージやNK細胞等の免疫細胞を活性化します。成熟した樹状細胞にも働きかけ、免疫調節や能力を高めると言われている。従って、これは単なる消化管だけの問題ではなく、全身の免疫力の問題ということを物語っている。  話は若干それたが、要は免疫力を向上させる為には、胃腸(脾胃)を整えることが大切であり、その為には、甘みを過量に摂らないことも免疫力を向上させる一つの方策であるという事ができる。そうすると、新魯菜は、もはや薬膳ではないという事ができる。

 その年の五月、連休を利用して、観光を兼ねて北京へ行った。他の目的は、中国で漢方書を手に入れる事でもあり、お陰で帰りの荷物の重量が増し、ほとほと困った。漢方の専門書のコーナーでは、その本の豊富さと廉価さ、更に英訳本が数多く揃っていたのが驚きであった。日本人の著した中国語訳も揃っている。 何冊かピックアップして選んでいた所、現地のガ イドさんから片言の日本語で「お父さん(私の事)、これ解るんですか?」と聞かれた。「見ていると何となく意味が訳るんです」と答えると、「私、解らない」と言うんです。中国人が中国語の本が読めないなんて事があるんだ・・・。これもまた驚きであった。(文化大革命の影響もあるとの事でした。)

 話は変わりますが、ガイドさんの説明で、皇帝の居た所は、黄色の屋根瓦、黄色の垂れ幕等、黄色を使ったという事であった。黄色は地上の王を意味し、一番重要な所 (物)を意味している。漢方の弁証論 治の一方法に五行論があるが、青は春で肝臓を、赤は夏で心臓を、白は秋で肺を、黒は冬で腎臓を意味し、黄色は土用で脾胃を意味している。従って、脾胃(黄色)は人体の中で一番重要な所という事になる。  これは、いみじくも免疫の話と一致するのである。金の時代に李杲(東垣)が著した「脾胃論」がある。それは、土は万物の母であり、脾胃を確かなものにする事が最重要課題で、そこから健康が生まれるという考えであり、医王湯なる処方を考え出した。医王湯とは、現代では補中益気湯と名付けられている。「甘」「黄」「脾胃」「王(皇帝)」「土用」「湿」「涎」「棗」等は、同じ範疇に入るのである。

 序(ついで)に、胃に関係する話題として、ピロリ菌について書いてみたい。漢方処方の中に柴胡桂枝湯加茴香牡蛎というのがある。牡蛎とはカキ殻のことであるが、北海道のサロマ湖に注ぐトカロチ川流域には六ヶ所の牧場があり、その糞尿処理にホタテ貝を、また瀬戸内海に面する養豚業者から出る糞尿処理にアコヤ貝を利用している実験がある。何れも貝殻を敷き詰めた所に汚物と水を共に流すというものであるが、貝を使うと使わないでは、BOD(生物学 的酸素要求量)は3450mgから17mgに、およそ200分の1になったとの事である。

 自然の培地と人間の培地(胃袋)とでは環境が違うかも知れないが、過去に当店で胃症状をこの柴桂湯加茴香牡蛎で治した方がおられるが、ひょっとしたら、ピロリ菌除去が出来ていたのかも知れない。

(大津市薬会報 2004年11月号掲載)

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