38号 漢方の風 - 悪心(吐き気・胃部の気持ちの悪さ)
大学に入学すると様々なコンパが待ち構えています。
クラス別のコンパから始まり、滋賀県人会、クラブに属するとクラブコンパ、寮のコンパ、早速仲良くなった数人の仲間コンパ等である。私の父、兄(長兄)がお酒を嗜み、ご多分に漏れず私も好きで、大津祭り時や正月に良く飲んだものです。大学入学後のコンパでは、後先考えずに飲んだものです。
度が過ぎると決まって悪心が起こり、嘔吐することが度々であった。
社会人に為って、今日は飲み過ぎない様にしょうと心に誓って飲み会に出たものですが、飲み会が始まったら我を忘れて後先を考えずに飲酒してしまう、全く学習経験の出来ない私なのである。
卒後F社に入社した関係でプ○ン○ラ○の制吐作用を知るようになったにも関わらず、飲む前にプ○ン○ラ○を服むようになったのはF社を退社してから数年後の事である。
当時はプ○ン○ラ○の成分である塩酸メトクロプラミドを配合したOTC薬で『アペール』なる商品名の胃腸薬が上市されていて、それを服用するようになってからは悪心、嘔吐をしなくなった。(余程、度が過ぎると効かない事も経験した)
その後、漢方医学を学習してからは自分の体質を『半夏瀉心湯』証と弁証するようになり、お酒を飲む前には半夏瀉心湯と黄連解毒湯と茯苓末を併用する様にしている。
二日酔いを防いでくれて尿利が良くついて(利尿作用が有って)浮腫みを防いでくれます。
躁鬱病を思わせる30歳の女性は、下痢、悪心、不安感、頭痛、イライラ、臍部の動悸、舌炎等で悩んでおられました。
『甘草瀉心湯』と『抑肝散』を兼用して頂きました。排便が良くなり、気持ちの悪さも楽になり、頭痛も取れて良くなられました。
私の服用する半夏瀉心湯とこの甘草瀉心湯は心下部の痞えが最も大切な証である。又、これらの姉妹処方に黄連湯が有ります。
30歳代の第2子を妊娠された女性は悪心、乃ち悪阻(つわり)で何も食べられない状態で来店されました。
漢方医学書である新撰類聚方に太陽中風(たいようちゅうふう)、陽浮而陰弱(ようふにしていんじゃく)、陽浮者熱自発(ようふのものおのずからはっし)、陰弱者汗自出(いんじゃくのものあせおのずからいで)、嗇嗇悪寒(しょくしょくとしておかんし)、淅淅悪風(せきせきとしておふうし)、翕翕発熱(きゅうきゅうとしてほつねつし)、鼻鳴乾嘔者(びめいかんおうのもの)、本方主之(ほんぽうこれをつかさどる)…と桂枝湯篇に書かれています。
乃ち気の上衝が有って頭痛などがおこり、それに連れて胃気の上衝も起こり悪心、吐き気が起こる。と書かれております。そこでこの女性には『桂枝湯』と『半夏厚朴湯』を出産迄兼用して頂いた所、少しずつ食べられる様になり無事出産されました。
又、悪阻で何も食べられない人で胃が冷えて手足が冷たく心下部が硬く痞える場合は『乾姜人参半夏丸』が良いとあり、当薬局の薬篭に丸剤の乾姜人参半夏丸を備えているのですが、一度食道癌の術後の患者さんの酷い悪心に使った事があるだけで悪阻の方には使ったことが有りません。
私の次兄は数カ月前の昨年末に胃癌と診断されて胃の全摘術を受けた。
手術は無事終わり退院してからは悪心(ムカムカ)に悩まされ続けていた。
数日前に相談を受けた所、大建中湯、フォイパン、マーズレン、消化剤、下剤、それに前立腺癌薬カソデックスを服用していた。
漢方薬で何とかしてほしいと相談を受け、色々話を聞くと氷や冷たいものを摂取すると悪心が楽になるとの事であったので先ず大建中湯(熱を強く与える作用が有り、逆効果で有る)を止める様指導し、『半夏厚朴湯』と『六君子湯』を併用し『補中益気湯』を兼用するように投薬した所、一日服用しただけでとても楽になったと喜んでくれ、以来続けて服用している。
悪心は小柴胡湯始め上記の処方中に半夏(からすびしゃく)が入っています。
制吐作用が強い薬草である。大学の薬用植物学の授業で農閑期に是を採取し、換金して“へそくり”をしたとされ、別名“へそくり”と当時のお百姓さん達は言っていたと学んだ記憶が有ります。
性は温で燥湿作用が強く胃が冷えて湿邪が有り嘔吐する時に使用する事が基本である。
これに生姜と茯苓を加えたものが有名な『小半夏加茯苓湯』である。悪阻に良く処方されるが煎じ水に茯竜肝(竈の焼け土)を浸しておいた上澄み水で煎じた時に効果を強く発揮する。市販のものはそこの所は良く解らない。
刺激が強く、半夏の一片を口に含んだ時は早く吐き出さないと大変な事になります。
従って生姜を同時に煎じる事によって刺激が和らげられると学んだ。
なかがわ漢方堂薬局 中川 義雄