アトピー性皮膚炎・滋賀県・漢方薬 | なかがわ漢方堂薬局

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漢方の風音 17号 打撲・内出血の危険性(駆瘀(くお)血(けつ)の重要性)

2023-01-12

なかがわ漢方堂薬局 中川義雄 

20数年ほど前の事です。当薬局は保険調剤をしておりました。調剤業務を忙しくしていた午前を過ぎようとしていた頃、○○警察署から電話が有りました。問い合わせ内容は、△△さんが自宅の居間で不審死を遂げたと言うものでした。
その部屋に当薬局の薬袋があり、どの様な薬を服んでいたかを教えてほしいと言う事でした。調剤歴より内容を伝えたのですが、一瞬、調剤過誤をしたのかと、物凄い不安感が頭をよぎった。
△△様は心臓疾患があって長期間、血小板凝集阻害薬など数種類の薬剤を服用しておられました。結果は調剤過誤が原因ではなく心臓のショック死だろうとの見解でした。
その電話があって数日が経ち、アッと思い出す事がありました。
△△様は亡くなられる数日前に処方箋を持って当薬局に来られたのですが、病院から当薬局に来る途中の狭い道(ちかみち)を歩いていた所、中学生位の男の子が自転車で物凄いスピードでぶつかって来たと言い、右腕は勿論、右半身の広範囲にひどい内出血を起こしていた。男の子は何も言わずに逃げて行ったと仰っていました。
つまり、△△様はその時の内出血が原因で亡くなられたのであろうと私は未だに思っております。

「漢方一貫堂医学」矢数格著の瘀血証体質・通導散証編に通導散は打撲傷の時に生じた瘀血が血熱を持って腹部から心臓部に上攻し、大小便が不通となって悶乱して死ぬ危険がある場合に用い、心下に急迫症状を呈すると同時に臍下膨満の傾向があるものである。
この打撲傷に際して生じた瘀血とは、むかし、刑罰の手段として行った杖傷(100叩きの刑)等の場合もそれであると書かれている。
つまり、杖傷の刑のあと体調を悪くして数か月~数年後に命を落とす事になるかも知れないので通導散でそれを防ぐと言うものである。
アイススケートをしていて、不意に突然衝突されて臀部から氷上に落ちて、強か強い衝撃を臀部に受けて以来、体調を悪くした方も知っております。
私の経験では42歳まで肩こり、首コリを全く知らなかったのですが、自動車事故で強く追突されてから首から肩にかけてのコリ、痛みを知るようになりました。

過日、150人以上の死者を出した韓国、梨泰院での圧死事故では立ったままで絶命した人もいたと言われております。
ある生存者がYOU TUBEで圧迫を受けていた部分の紫斑をアップしておりましたが足から腕にかけて接した部分の広範囲に内出血しており、圧迫された圧力の凄まじさを如実に物語っている。
今後のこれらの方の予後が心配です。
阪神淡路大震災で助け出されるまで長時間、柱の下敷きになっていて、その後、腎不全を発症して亡くなられた方が複数人おられた事も聞いております。

今から数年前、当時83歳の女性(骨粗鬆症で漢方治療中)が雑踏の石階段の途中で後ろから突然押され、顔を強か石段に強打して顔面半分にひどい内出血を起こした方の相談を受けたことがあります。
顎部の内出血が特に酷く、食事は勿論、言葉を発する事も出来ない有様であった。この方には通導散と芎帰調血飲第一加減と補中益気湯と三七人参を服用して頂きました。
回復を早めるのは勿論の事として、将来起りうる後遺症を防ぐ為の処方でもあった。

この瘀血証体質は後天的に生じる事が多いのですが生まれつき、持って生まれた方も沢山おられます。
年配の方はご存じだと思いますが往年の昭和の大横綱「大鵬」がその瘀血証体質であったと想像できる。
勿論、激しい相撲の稽古による衝撃も後天的に加わった事もありますが、あの若さで脳梗塞を発症した原因は生来の瘀血証体質であったと私は思っております。

漢方医学は「未病を治す」(将来、発症するであろう病気を予防する)が本来の目的としており、あの大横綱も塩分摂取に気を付けて通導散を組み入れた漢方処方薬を服用していれば脳梗塞を発症せずに少なくとも数十年は身体的に健康生活を送っていただろうと思っております。

若しも、自動車事故はじめ極めて強い衝撃を受けた時は強い駆瘀血薬で生じた瘀血を排除する事をお勧めします。

漢方の風音 16号 嗜眠証(朝起きられない)、うつ症状、ナルコレプシー

2022-08-02

なかがわ漢方堂薬局 中川義雄

最近、久し振りに睡眠傾向が強い二人の患者さんが来局されておられます。一人目の方は8時間の睡眠時間があるのにも関わらず職場で突然睡魔に襲われる。無呼吸症候群の検査も実施したがそれが原因ではないらしい。ナルコレプシーの可能性もあると言われている。問診中に咳払いをよくする事と喉をしめつけて発声している事に気が付いた。数年前には突発性難聴も罹患している事が問診の中で判明した。そこで、小柴胡湯加蒼朮茯苓製剤と香蘇散を併用して頂いた。すると嗜眠症状は取れた。続いて今現在、体質改善の目的で防風通聖散と竜胆瀉肝湯を併用して頂いている。

あと一人の方は“寝ても寝ても寝てしまう”と問診票に記入された方で疲れやすく、噫気(ゲップ)、悪心(ムカムカ)があり、お通じは軟いと記入されている。数年前にはセ〇ト〇ニ〇(SSRI製剤)を服用していたが今は廃薬しているとの事なので香砂六君子湯と人参湯を投与した。疲れやすさと悪心は無くなり嗜眠傾向も未だ少しあるが、可成り改善しているとの事なので更に眠気が無くなるまで同処方を継続服用中です。

10数年前の10歳代の男性はやはり十分睡眠時間を取っているのに関わらず朝、起きられない。更に体がだるく疲れやすく、疲れが取れないと問診票に書かれている。食事を摂ろうとするとムカついて吐きそうになるとも書かれている。身体症状としては微熱があって、とてものぼせ易く、顔が赤くなる。度々、腹痛を発する。低血圧もあって頓服でコ〇サ〇タと寝る前にセ〇ト〇ニ〇(SSRI製剤)を投薬されている。

この患者さんは虚労(きょろう)と考え、せんじ薬の黄耆建中湯(膠飴を使用)を服用して頂いた所、10日分服用で朝の起床が出来る日が出てきて更に30日分服用で微熱、腹痛が取れ、朝の起床は良好になったと薬歴に書かれている。

又、数年前の患者さんは昼夜逆転して、朝起きて学校に行けないとの相談で、吐き気があって食欲不振で倦怠感が有る。所謂、夜型生活になってしまっているのである。病院ではノ〇キ〇ンとメ〇ラ〇ク〇が投薬されている。最初、柴芍六君子湯と半夏厚朴湯との併用を20日分服用して頂いた所、元気になったので本人の判断で続服を中止した所、再度、体調が悪くなってきたので同処方を再服して睡眠も良くなった。

その後、体調良く生活していたが強いストレスがあって再度、夜の睡眠が悪くなり、朝の起床が出来なくなり、再度吐き気が出てきた。病院の診断でうつ症状と診断されレ〇サ〇ロ(SSRI製剤)を処方された。夜の睡眠が悪い所為か日中は嗜眠証と思しき眠気で食欲不振もあって体重が落ちてきた。そこで、香砂六君子湯を1日3回と寝る前に酸棗仁湯と帰脾湯と補中益気湯を併用して頂いた所、食欲が少し出てきて不安感が取れてきて1週間で数日起床出来るようになってきた。気持ちが前向きになって日中外出できるようになってきた。その後、悲喜こもごもであったが漢方薬の服用は中止した。

嗜眠証の漢方治療については30数年前のある機関誌にO先生が書かれた文章を思い出します。先生は「陰は陽に通じ、陽は陰に通じる」訳だから逆も又、真なりと考え不眠症の酸棗仁湯は嗜眠証にも効くだろうと考え、投薬したらその通り効いてくれたと書かれておりました。O先生の漢方医学センスを垣間見た思いを私は30数年間持ち続けている。

漢方の風音 15号 桂枝茯苓丸

2022-04-27

桂枝茯苓丸で※瘀血(おけつ)を改善して肩こり、冷えのぼせ、頭痛、月経痛、粘膜下筋腫の初期、不妊、肌荒れ、にきびetcを治す。

なかがわ漢方堂薬局 中川義雄

4月、桜の季節が終わると我が家のベランダでは2種類の牡丹が蕾を膨らませて花を咲かせる。
その牡丹が花を咲かせると今度は芍薬が蕾をつけ、牡丹が終わると芍薬が開花して順番に心を和ませてくれるのである。

この二つの花木は漢方薬では重要な働きをするのである。
牡丹の根皮(こんぴ)を牡丹皮(ぼたんぴ)と言い、牡丹皮は※瘀血(おけつ)、つまり血液が粘って流れが悪く、口が熱を帯び常に水で湿らせていたい(口渇ではなく口乾)、唇や舌の色が紫暗紅色を呈し、皮膚は鮫肌で青たんを生じやすく(知らないうちに青あざが出来やすい人)、歯茎や子宮に出血傾向を認める等…を改善する働きがある。
芍薬は根を乾かしたもので、筋肉の痙攣(子宮など)を緩め、鎮痛鎮痙作用や補益作用がある。
表題の桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)はこの牡丹皮、芍薬の他に桂皮、桃仁(桃の核)、茯苓で構成されている。
桃仁も又、牡丹皮と同様に瘀血を取ってくれます。瘀血の瘀は汚或いは悪に近い意味合いである。

瘀血を解消する事を駆瘀血(くおけつ)作用と言いますが、桂枝茯苓丸の駆瘀血作用(桃仁、牡丹皮)についてもう少し詳しく説明していきます。
桂枝茯苓丸は男性にも女性にも使えますが、一番よく使う症状は女性の卵巣、子宮に関わる病態である。
瘀血は骨盤内に炎症を起こし易く、子宮は血液の循環不良を起こすのである。
つまり、桂枝茯苓丸は下腹部の腫瘤や血腫、子宮内膜炎、卵巣嚢腫、月経不順、月経痛、不妊症、産後の子宮復古不全等を治す働きがあるのである。

毎月の月経血の排出が十分出来ないと骨盤内全体が瘀血を生じ様々なトラブルを引き起こすのである。
例えば卵巣に瘀血が生じた時を考えると二種類の女性ホルモン(エストローゲン:卵胞ホルモン、プロゲステロン:黄体ホルモン)の分泌の問題が考えられるし、優生卵胞(毎月排卵される卵子の素)の発育にも悪影響を及ぼします。
子宮には腫瘤が生じ、卵管にも悪影響が生じるのである。詰まるところ不妊を引き起こすのである。最近の当薬局での症例では卵巣捻転(卵巣が捻れて腹痛を起こし、酷い時は救急車で搬送され緊急手術となる)を瘀血が原因として駆瘀血剤で治した所です。

前稿で書きましたが明治生まれの女性の生涯の月経回数はざっと250回。一方、現代の女性の生涯月経回数は凡そ450回で回数だけを見ても現代女性は瘀血を発生するリスクが高く、その上、間違った食生活や社会の複雑化によるストレス(病理機序はここでは省略します)も瘀血を生じ、現代に生きる女性のリスクは計り知れないものが有ります。
数十年前、旅行の帰りに機内で隣りあった医師と漢方談義になり、その医師は桂枝茯苓丸にヨクイニンを加えると肌が見る見る綺麗になると仰っていましたが、美肌だけではなく骨盤内の瘀血が解消され、その女性の将来をも保証しているのである。

私の治験例では不妊でお困りの女性が無事妊娠し出産された例、ニキビ、肩こり、多嚢疱性卵巣、頭痛などが有ります。
男女を問わず骨盤内の欝血(痔、虫垂炎など)、自動車事故の後の瘀血の処理、スポーツによる打撲、体にメスを入れた手術の後にも広く使います。

昔、私の母親は血の道症と言う言葉を使っていました。
血の道症の意味は瘀血が原因で発症した神経性疾患(ノイローゼ、ヒステリー、うつ病、自律神経失調症など)の事を言い、桂枝茯苓丸で治す事があります。これは瘀血の上衝が原因であり、桂枝(=桂皮)が相俟って効果を発揮するのである。この瘀血の上衝による他の疾患としては様々な眼疾患(麦粒腫、角膜炎、眼底出血、虹彩炎、フリクテン性角結膜炎)がありますが、桂枝茯苓丸で治す場合があります。
瘀血の上衝を処理する他の処方を使って目眩(めまい)、耳鳴りを治療することもあります。

漢方の風音 14号 月経前症候群と月経前不快気分障害

2022-04-02

月経前症候群(PMS:Premenstrual Syndrome)と月経前不快気分障害(PMDD:Premenstrual Dysphonic Disorder)

なかがわ漢方堂薬局 中川義雄

最近、生理(月経)をテーマにした記事や放送が多く取り上げられるようになった。
先頃、NHKでは月経困難症や月経前症候群をテーマにした番組が放送された所です。又、新聞、TVのマスメディアでは生理の貧困の話題も取り上げられている。
18~49歳の女性3000人を対象とした調査では8%の女性が生理用品の入手に苦労し、30歳未満では13%の女性が苦労した事があると回答している。背景には若い女性の年収の低さが関係しているとされている。

扨、本題のPMS、PMDDの漢方治療について書いていきます。
月経前症候群:PMSは腹部や胸の張り、頭痛、腹痛、下痢便秘の排便異常といった身体的症状と憂鬱感、イライラ、怒気などの精神症状があります。
通常、身体症状と精神症状が同時に現れますが、取り分け精神症状が強く表れるPMSをPMDDと分けて言うことが有ります。
このDはDysphonicの略で“憂いの”“悲しい”の意味です。PMSは女性ホルモン分泌の急激な低下が原因とされています。
子宮では受精した卵子を受け入れて育て上げる子宮内膜が2種類の女性ホルモン(エストローゲンとプロゲステロン)の働きで作られ維持されています。
若し、受精卵が出来なかったら女性ホルモンの分泌は減衰して、その結果子宮内膜は不必要になり崩壊して剥がれ落ちる事になります。これが月経です。
この不要となった内膜を排出する際に子宮は収縮して排出を促しており、その際何らかの原因で子宮筋(平滑筋)の柔軟性が乏しいと激しい痛みを伴います。
その昔(50年ほど前)では筋肉の収縮を抑えるパ〇リ〇(ブスコパンと同じ鎮痙剤)とピリン系鎮痛剤のスルピリンの合剤が月経痛に使われたものです。
鎮痛剤を使っても抑える事が出来ず日常生活に影響を及ぼす症状を月経困難症と言います。

PMSを発する女性は往々にして強い生理痛をおこす事があり、この場合はPMSが7~10日間あって、月経痛が数日間あるとするとひと月の半分は体調が悪いことになり、女性の社会進出を考えると社会問題と言っても過言ではありません。私の母親は明治40年代の生まれで7人の子供を育て上げた。
その頃の女性は5~8人を出産することは珍しくなく(11人兄弟姉妹の友人もいた)、妊娠中と授乳中は月経がなく、5人の出産の場合は妊娠中10か月と授乳中24か月を計算すると5×(10+24)÷12=14年となり月経年齢を当時14歳~49歳とすれば35年間の40%にあたる14年間は生理が無かった事になり逆に21年×12=252回の月経が有ったことになります。
現代の女性は生涯で450回月経があるとされておりPMSを発症する女性の苦しみは昔より約200回月経回数が多く遥かに辛いものがあります。

当薬局では多くの女性のPMS、月経困難症の漢方治療を行って来ましたが、漢方理論で対処するとうまく治療することが出来ます。

PMSの漢方治療は“気”と“血(けつ)”を弁証します。気の滞り(気滞)と血の滞り(瘀血)を解消するとPMSに対処することが出来ます。
生殖器は肝の経絡と繋がっており、自律神経とも繋がっており、その肝の経絡を流れる気が滞(気滞)ると自律神経は異常を起こし発汗や血流や女性ホルモンの分泌に異常を起こすことになる。自律神経はストレスによって乱れる事が現代医学で証明されており、逆にストレスの多い現代社会では生殖器に異常が起こっても不思議ではありません。
精神的ストレスは身体的には胸や喉、腹部のつまり感や張満感(張り)胸痛、腹痛を引き起こし、精神的にはイライラ、憂鬱感、怒気、を引き起こす。

つまりPMSは前出の気滞を解消する薬草(柴胡、枳実、厚朴、陳皮、香附子、半夏、烏薬、木香等)と瘀血を解消する薬草(当帰、芍薬、川芎、桃仁、牡丹皮、延胡索、紅花、牛膝等)を使ってうまく治療する事が出来ます。香附子、延胡索は鎮痛作用も併せ持っているので激しい月経痛には良く使います(例:芎帰調血飲第一加減、折衝飲、加味逍遙散加香附子、延胡索。etc)。

月経前になるとご主人に対して怒気を覚え包丁を持ってしまう、その為にご主人はPMSになると自宅に帰らず会社で暫く寝泊まりする例。逆に奥さんが子供とご主人に強く当たってしまう為に実家に避難する例。教鞭をとる女性の不妊治療漢方薬(40日間服用)では気滞と瘀血を取る薬草が入っていた為に「先生!この頃ニコニコしてイライラしなくなったね」と生徒から言われ、その後直ぐに妊娠された例。気持ちが滅入ってしまう例。その他、多数の症例があります。

月経困難症で鎮痛剤の減薬や使用しなくなった例など数多くの治験があります。

漢方薬は根本的な原因に対処して治療するためPMSや月経困難症は不妊治療共々最も得意とする分野である。

漢方の風音 13号 インポテンツとNOと漢方薬

2022-01-12

漢方塾 1,脳卒中・心筋梗塞などの動脈硬化の原因と予防
    2,ED:Erectile Dysfunction (勃起不全)の漢方治療の一端

なかがわ漢方堂薬局 中川義雄

血管の構造は  ①血管外膜
        ②血管中膜
        ③平滑筋
        ④血管内皮(内皮下組織・内皮細胞)

の4層構造から成り立っています。そして血管に柔軟性があって拡張しやすい事は動脈硬化を予防することに繋がっている。血管の柔軟性は一酸化窒素(NO:Nitric Oxide)が重要な働きをしています。NOは“ノー”と発音せず“エヌオー”と発音する事は薬剤師の常識ですが、NOは血管内の平滑筋に作用して弛緩させ、血管を広げています。通常、血管内の血流が早くなると一番内側の内皮細胞によってNOが産生され、その結果平滑筋が弛緩して血管が広がる仕組みになっている。従って内皮細胞が衰えると柔軟性を保てなくなり、脳卒中や心筋梗塞などの動脈硬化と言った重篤な疾患を引き起こしやすくなる訳です。内皮細胞の機能低下を起こす原因は老化、高血糖、喫煙などである。
通常、血管が傷ついた時は止血するために血小板が集まって血栓が作られる。しかし、NOがあるとNOがその傷ついた血管を修復してくれるので血栓が作られずにすむ。その結果、血流はスムーズになる。所が、NOは酸化しやすい性質がありそれを防ぐ為には抗酸化物質を豊富に含んだ食材を摂取することが大切である。ビタミンA、C、E(ACE:エースと覚える)やポリフェノールなどが抗酸化作用を発揮する。具体的な食材としては人参、ブロッコリー、カボチャ、小松菜、パプリカ、大葉、アーモンドなどが有ります。私事ですが私は癌を罹患してから星野式ゲルマン療法や済陽(わたよう)式食事療法を参考に上記の食材を毎日食べるようにしていますが、それは同時にNOの酸化も防いでいる訳である。更に、私は癌に対して皮の付いたリンゴとトマト、舞茸も1日2回必ず食べるようにしています。

話を元に戻しますが、体の中でNOを作るにはアルギニンとシトルリンと呼ばれるアミノ酸が必要とされています。そこでアルギニンを多く摂取するには魚や赤みの肉、鶏肉、大豆、豆類などの良性蛋白質やナッツ類を食する事が大切です。但し、肉については肉に付き物の飽和脂肪酸がNOを作る組織を傷つけるので摂りすぎには注意が必要です。

端を更め、ここからはNOの血管拡張作用に関わるED(勃起不全)について書いてみたいと思います。過去に経験したEDに対して漢方薬を使った著効例を書いてみたいと思いますが、その前にペニスの勃起の作用機序を理解しなければなりません。ペニスの内部構造は海綿体と言う極めて細い血管の集合体で出来ている。通常、この海綿体へ繋がる陰茎深動脈と言う血管は緊張した状態になっており、海綿体には必要最低限の血液のみが流れるようになっている。脳が性的な興奮を覚えると陰茎深動脈内皮細胞からNOが放出され、血流を抑えていた平滑筋が弛緩して海綿体に血液が流れ込みペニスが膨張し勃起する仕組みになっている。

10数年前、EDで悩む決して心身が弱っているようには見えない20代後半の男性が相談に来られた。そこで、問診をすると心下痞硬(鳩(みずおちぶ)尾部が硬い)があって時に下痢をする事がわかった。又、口内炎を度々発症する事も確認出来たので「半夏瀉心湯証」と見なし半夏瀉心湯を勧めた。

EDにこの処方を選んだ理由は私が漢方医学初心者だったころ、漢方の大家(先生のお名前が思い出せません)が書かれたEDに対しての半夏瀉心湯の効果の《口訣》を覚えていたからである。精力増強する薬草を使わず半夏瀉心湯でEDを改善した経験は漢方医学的に“証”(体質)を見極める事の大切さを体現した。このことで「方証(ほうしょう)相対(そうたい)」「察証(さつしょう)弁(べん)治(ち)」的治療が漢方医学ではとても大切である事を改めて思い知った。

黄芩、人参、黄耆は血管内皮細胞のNO産生を誘導する事が実験で証明されている。使用した半夏瀉心湯には人参と黄芩が入っているのである。 以下は私の想像ですが、恐らく腸管内に存在するある種の腐敗菌が間接的にNO産生を阻害しており、半夏瀉心湯は腸管内の腐敗菌を減少させ、常在菌の発酵を促進して間接的にNO産生を正常にしているのだろうと思っている。この患者さんは心下痞硬が取れてお腹の状態も改善した事は言うまでもない。

参考までにその他のEDに対する口訣では炙甘草湯が良いと言うのもありました。

EDは

  1. 機能性(心因性)勃起障害…器質的には正常であるが精神的ストレスが係わっている為に勃起しない場合。
  2. 器質的勃起障害…老化や強い肉体疲労やある種の疾患に罹患して腎精(腎精とは腎に蓄えられた精微物質で骨格や知力の成長発育に欠かせない物質で性機能にも関わっている)を消耗してしまった時や手術などにより勃起神経を損傷した時、などによって勃起しない場合があります。

そこで、中医学的弁証は…
“肝”は気と血(けつ)の流れをコントロールしており精神的ストレスが加わると肝気が鬱滞して気血の流れが悪くなる。つまり精神的ストレスを受けると陰茎への気と血の流入が悪くなりEDになるのである。この機能性勃起障害を改善するには気の流れを良くし血流を改善する理気薬(柴胡、香附子、陳皮、枳実、半夏など)が効を奏す。又、一たび、勃起不全を経験するとその後も失敗するのではないか…と不安感が脳を支配し、又もや勃起不全を引き起こす。そういった不安感を解決してEDを改善するには“精”と“気血”を補う補気血薬(鹿茸、人参、黄耆、炙甘草、地黄、当帰、阿膠、竜眼肉、酸棗仁等)と不安感を取り除く安紳薬(竜骨、牡蛎、酸棗仁、竜眼肉など)を併用すると良い。

シンガポール、台湾、中国の福建省あたりを旅行すると竜眼肉(中国語でロンイェンロウと発音する)が空港の土産物店で沢山売っている。私もお土産で頂いた事があります。薄い殻を割ると中に球形の果肉が入っている。台湾人や中国人は大棗(ナツメ)と同様におやつ代わりによく食べる。つまり普段から大棗で脾を補い補気して、竜眼肉で血を補いながら安紳薬を摂取しているのである。

 

漢方の風音 12号 コロナウイルスより深刻な不死身のスーパー薬剤耐性菌の出現

2020-07-08

MRSA血流感染から腸腰筋膿瘍を形成した症例

なかがわ漢方堂薬局 中川義雄


2016年9月、国連にて耐性菌に関する特別会合が開催された。議題は人類を危うくしている人為による3つの課題についてである。その3つの課題とは①地球温暖化②スーパー薬剤耐性菌③生活習慣病である。中でも薬剤耐性菌の問題は我々の孫の世代はおろか子供の世代に深刻な事態を惹き起こそうとしているのである。

私が大学を出て製薬会社に就職した52年前の丁度その頃(アポロ宇宙船が月に到達した年)、MRSA (Methicillin-Resistant Staphylococcus Aureus :メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)が問題になっていた時期である。私の勤めた製薬会社にはMRSAに効果のある“オルベニン”という抗生物質があり,耐性菌については良く勉強したものです。

1928年(一説には29年)、微生物学者アレキサンダーフレミングが実験中、培養していたシャーレの一つに偶然、青かびが入り、その青カビの周りだけ、細菌の繁殖が抑えられている事を見つけ、精査して、青かびが出している成分が細菌を死滅させている事を発見したのである。フレミングはその物質をペニシリンとなづけた。ペニシリン発見後、増産には10年程掛かったのであるが、ペニシリンの効果は絶大で、1875年に特定の細菌が特定の感染症を引き起こす事が発見されて以来の感染症の恐怖から解放されたと世界の誰しもが思ったのである。アレキサンダーフレミングは当初から、感染症に対してペニシリンの使用量が少ない、つまり血中濃度が一定濃度に上がらないと細菌が死滅するどころか生き延びる事になり、ペニシリンに慣れて耐性を生じると警告を発していたのである。

その後、様々な抗生物質が開発され、養鶏、養豚、畜産や酪農など様々な分野で伝染病を防ぐ目的で抗生物質を飼料に混ぜて与えたのである。すると意外な事が分かったのである。抗生物質を家畜に与えると各家畜の発育が促進され、収穫効率を上げる事が分かり(一定期間与えると15%体重が上がる)、その結果抗生物質は産業を活性化し、増々需要が増えたのである。その頃の抗生物質は家畜の病気の治療、予防ではなく成長促進剤として使われ、5年間で200トン以上の抗生物質が家畜に与えられたのである。こうして、家畜の腸管で耐性菌が生まれ、糞便に排泄され、そこに群がったハエが耐性菌を運び限りなく人間社会に伝播していったのである。

50年前から世界の医学者、微生物学者達は耐性菌の問題は重大案件であると共通認識を持っていたのですが、50年後の今、事態は改善されるどころか益々悪い状況を招いている。

1950年頃、慶応大学医学部の渡邊力博士(48歳胃癌で死去された)は多くの病原細菌が同時に多数の治療薬剤に対して抵抗性を獲得する機作が新しい型の細胞質遺伝物質(又は核外遺伝物質)によって説明されることを発見し、これに多剤耐性因子と名付けた。世界の微生物学者が驚いた偉大な発見であった。

この多剤耐性因子の正体はプラスミドであることが後に判明する。それまでは遺伝形質・DNAにより親から子と縦の繋がりで耐性が伝播していくと考えられていたのですがこのプラスミドの発見により横の伝播が発見されたのである。つまり、異種間の細菌のやり取りで耐性が広まっていく事が分かったのである。

2007年インドでプラスミドの一種であるニューデリーメタロβラクタマーゼ(略称NDM-1)が発見され、2012年にはNDM-1の変異系が世界中で42種類の細菌に、55か国に拡散している事が分かった。

細菌はグラム陰性、グラム陽性、マイコプラズマ、リケッチア、クラミジア等に分類されますがペプチドグリカン層で構成された細胞壁を持たないマイコプラズマやリケッチア、クラミジアを除いて大多数のグラム陽性、陰性細菌の細胞壁の合成を阻害して殺菌する最後に開発された「カルバペネム系」抗生物質が効かない事態の到来を意味している。カルバペネム系抗生物質は最後の手段として取っておくべきと主張している学者が多い中でカルバペネム系抗生物質を良く使う病院では院内感染が多く発生していると言われている。

2018年バングラデシュ、ダッカの病院では正常分娩で生まれた新生児が母親の膣内の耐性菌感染の影響で20~30%の割合で死亡している現状がある。

最近、特に問題になっている菌に肺炎桿菌があります。これは1958年に開発されたポリペプチド系ポリミキシン製剤:「コリスチン」がこの肺炎桿菌に特異的に効果があり、世界的に肺炎桿菌に対する最後の切り札とされてきた。このコリスチンにも、例外なく家畜の餌に多用されてきた影響で2015年に耐性を持つ遺伝子『MCR-1』が特定された。2017年に家畜に与える事が禁止になったが耐性菌を研究している学者達は世界の終わりを覚悟した。

このままでは2050年には一切の外科的治療、歯の抜歯、虫垂炎、形成外科、癌の除去術…すべての手術が出来なくなるのです。世界で豊であろうが貧しい国の人であろうが誰もが手術は出来なくなり、年間1000万人が死ぬ事になるそうです。当然GDPにも影響して世界不況を招くと言われている。


 

数年前、ある人の紹介でMRSA(耐性黄色ブドウ球菌)血流感染から腸腰筋膿瘍を形成した患者さんが来局されました。当初、腰痛は勿論、40度を超える発熱があったそうです。長期の入院後、自宅療養で1日アモキシシリン8カプセルを服用しているものの腰痛、倦怠感、微熱が取れず困り果てているとの事でした。

そこで、黄耆建中湯の煎じ薬を投薬し、最初の3日間のみ、オーストラリア産の牛黄を併用して頂きました。20日分服用後、腰痛は少し残っているもののほゞ9カ月ぶりに平熱になったとの事。都合、1カ月半服用後、体のだるさは取れて、熱は以来ずっと平熱で元気を取り戻し、諦めかけていた仕事も再開したと喜んで戴きました。つまり患者さんの免疫力が勝った結果である。

漢方の風音 11号 片頭痛・月経痛・便秘(五積散の使い方)

2019-01-24

漢方塾…片頭痛・月経痛・便秘(五積散の使い方)

なかがわ漢方堂薬局 中川義雄


先日、長年行きたかった壱岐の島に行ってきた。中学の「地理」で勉強した時に何故か行ってみたいと思った所が2か所あって1つが北海道の然別湖で、あと1つが壱岐の島であった。然別湖は過去に二度行きましたが壱岐の島は今回が初めてで長年の夢が叶いました。博多からジェット船に乗り1時間強で渡島出来ます。日本の3大遺跡の1つである原(はる)の辻遺跡(3大遺跡※1:登呂遺跡、吉野ケ里遺跡、原の辻遺跡)があって、弥生時代にこの小さな島に大陸文化が渡って来て交易が始まりとても栄えた事は驚きであった。因みに魏志倭人伝に壱岐国(一支国:いきこく)の記述があります。


島には戦時中に作られた巨大砲台あとがあり、又、島の近くの沖合に自衛隊の護衛艦らしき艦船が2隻停泊しており本土を守る前線に近い場所である事を思い知りました。
執権北条時宗の鎌倉時代に日本の征服を試みた元のフビライハンは先ず大陸に近い対馬で残虐な殺戮を繰り返し、次いで壱岐の島でも同様に殺戮を行い、九州上陸を果たそうとしました。所謂、蒙古襲来(元寇)である。
つまり対馬、壱岐は大陸から日本本土への中継地点でその昔大陸文化が壱岐の国にやって来て交易が盛んになり栄えた事は十分想像できる。因みに対馬と九州の中間地点に壱岐の島があります。
旅の途中私の専門の漢方医学はこの壱岐の国の繁栄があったにも拘らず何の説明も文書も耳にも目にもしなかったのは、卑弥呼の邪馬台国の時代の医学は「巫医」※2(ふい)であったからであろう。卑弥呼そのものが巫医を行っていたとされる時代であり、漢方医学が無かった事は想像できる。
我が国で、漢方医学が初めて登場したのは平安時代に中国の宋・金元医学を学んだ丹波康頼が著した医心方が始まりで、それ以前の弥生時代の壱岐国(一支国)では存在していなかったのは当然であろう。
中国の張機(字名を張仲景と言う)が著した最古の医学書「傷寒論」は後漢(AD25~220年)の時代で日本では弥生時代後期に相当し魏志倭人伝(AD290年頃)に記載されている邪馬台国・卑弥呼(AD240年頃没)の時代である。壱岐国(一支国)の原の辻遺跡はBC300年~AD300年頃迄とされており大陸と交易が有ったとしても漢方医学は伝来していなかったのは当然であろう。


端を更め、今回は今まで漢方塾で出て来なかった五積散の使用経験を書いて見たいと思います。(五積散:当薬局ではエキス剤ではなく原末散剤を使用しています)


片頭痛でお困りのAさんは元来冷え症で、冷えが強くなるとのぼせも同時に起こって来る。同時に前後にやって来る月経は激痛を伴い、耐えがたいと言う。肩凝り、鳩尾の痞え、耳鳴り、眩暈、動悸、微熱もあって訴えを聞いている私も同情を禁じ得ません。


五積散は“気血痰寒食“による積聚(つまり五積)を取るとされている。構成生薬は当帰、芍薬、川芎、白朮、茯苓、厚朴、陳皮、半夏、白芷、枳殻、桔梗、乾姜、桂枝、麻黄、甘草、大棗で構成されており、桂枝湯、麻黄湯、半夏厚朴湯、苓桂朮甘湯、苓姜朮甘湯、二陳湯、平胃散、四物湯の方意を含んでいる。


そこでAさんには五積散に呉茱萸、延胡索を併服して頂き、頓服に呉茱萸湯を服用して頂いております。


Bさんはやはり頭痛、胃痛、胸やけ、悪心、強い月経痛、疲れやすい、お腹が張る(腹満)、痺れ、冷え性でお困りです。この女性にも五積散に呉茱萸、延胡索、時に香附子を兼用して頂いた所、具合が良く長期に服用して頂いております。


Cさんは赤ら顔で冷え性、便秘でお困りの年配の女性で五積散と麻子仁丸を兼用して長期に亘って服用頂きました。服用後体調が良く排便もスムーズでとても喜んで戴きましたが高年齢で残念ながらお亡くなりになりました。この女性は痩せ型で冷え性にも拘わらず何れかの薬局で三黄瀉心湯(大黄が入っている)の錠剤を進められて長く服用されておられました。三黄瀉心湯は冷やす作用が強い為、当然この女性は排便は出来るものの快便にはならず結果的には更なる便秘体質を生じる事になる。
他には腰痛、冷えを伴う婦人病に良く使って居ります。


※1登呂遺跡、吉野ケ里遺跡、長野県の平出(ひらいで)遺跡を3大遺跡と称する事もある
※2《「ぶい」とも》巫女 (みこ) と医者。また、両者の役割を兼ねた者。

漢方の風音 10号 漢方書との出会い(化膿症、腫物)

2018-10-30

漢方書との出会い(化膿症、腫物)

      

中川 義雄

昭和44年大学を卒業して直ちに製薬企業に就職し、MR(Medical Representative :医薬情報担当者とは名ばかりで当時はプロパーと称し、添付による値引き合戦やドクターへの贈り物等の手段による自社製品販売が主要な仕事であったが、時に本来の医薬情報業務をする事もあった)の立場で医療界に身を置きましたが、業務内容が馴染めず1年足らずで退社しチェーン薬局に再就職しました。スーパーのテナントの薬局の店長として赴任して間もなく、先輩の岡本先生(故人)…彼も又、製薬会社に就職されましたが肌に合わなかったのかは承知していませんが早期退社して同じチェーン薬局に再就職されました…から奨めて頂いたのが大塚敬節著「症候による漢方治療の実際」と言う分厚い漢方の専門書です。当時の製薬企業の初任給が2万~3万円の時代に1冊が4000円で非常に高価な本でした。

然しながらこの一冊は、仕事内容は勿論の事、西洋医学になにか違和感を感じていた私に強烈なインパクトを与えてくれました。その違和感とは、西洋医学は感染症に対しての抗生物質は別にして慢性疾患に対しての真の治療である体質改善をすることが果たして出来るのであろうかと言う疑問であった。

当時、漢方理論が有る事も知らなかった私でしたが(漢方は経験医学で理論は無いと思っていた)、本を開いて見ると、めまい、片頭痛、咳、排尿異常、不妊、肩こり、悪心、視力障害、嚥下障害、等の漢方治療法が口訣(くけつ)の様に事細かく書かれていて無我夢中で読み、読んでいる途中からどんどんと面白くなって来て忽ち読み切りました。読後は人生を左右するとても大きな希望と灯りを与えてくれました。 それは、私が小学生低学年の時、隣近所の3名の先輩(3歳から6歳年長)に、探検と称し、連れられ、逢坂小学校の奥の朝日ヶ丘から浅井山の奥へ奥へと分け入り、途中から道に迷い、幼少だった私は必死の思いで後をついて行き、その内に日が暮れてきてほぼ暗闇の中を歩くことになりました。彷徨い歩いている内に漸く遠くで一軒家の窓明かりを見つけました。辿り着いたところは膳所の山里でした。この本との出会いはその時の灯りを見つけた時の感動に似た出来事でした。


そんな折「化膿症、腫物」編の最初に記載されている「十味敗毒湯」の使い方を読んでいたが為に一命が救えた奇跡の様な経験をしました。

スーパーのテナントの薬局の店長として働いていた24歳の頃の経験です。定期的に500グラムの平綿(ひらめん)を買いに来られるお客さんがおられました。余りにも何度も買いに来られますので、ある日、思い切ってその用途を聞いてみたのである。病名は不確かですが要約すると最初、足の指が化膿して腐敗した為に指を切断した。すると暫くすると切断部が再度化膿して腐敗してきた為に足首から先を切断したとの事。すると、暫くして再度切断部分が化膿して腐敗して来たので今度は膝の部分を切断したとの事。再度、同様に化膿、腐敗してきたので大腿部を切断した。私が思い切って訊ねてみた時が当にその大腿部が化膿してきた時であった。次は最早、切断部が無いので途方に暮れて、死を覚悟しているとの事でした。

そこで、化膿症、腫物編に書いてある「十味敗毒湯」を大塚敬節先生の本を開いて、見せながらひょっとしたら効果が有るかも知れないと思いお薦めしたのである。

数日後、すっかり忘れていた頃にそのお客さんが、ふと来店されまして、化膿が止まったので更に1箱を買いに来たとの事でした。更にその数日後、すっかり傷跡が綺麗になったと菓子折りを持ってお礼に来られました。因みにその時の十味敗毒湯は原末と釜で煎じたエキス剤とを混ぜ合わせた製剤であり、原末が入っていた事が功を奏したのだろうと思って居ります。

その後、妊娠中毒症後の腎炎(蛋白+4、尿潜血?+)で強い倦怠感の方に柴苓湯で、潰瘍性大腸炎で人工肛門の施術日程が決まっていた方が帰耆建中湯他で手術を回避出来た方、心臓の病気(病名は不明)で手術日が決まっていた方が手術を回避出来た…等この大塚敬節先生の本を参考にして多くの方の健康に寄与出来た。

そののち、陰陽虚実の弁証法や五行論、気血水(きけつすい)理論を勉強して、再度読み返した時、この本の真の素晴らしさが理解出来、更に様々な疾患でお悩みの方の治療のお手伝いが出来るようになりました。今ではこの十味敗毒湯の使い方はただ闇雲に使っては駄目で十味敗毒湯“証”(症では無く)を把握した上で使用すると様々化膿性疾患を上手く治療する事が出来ます。現在の当薬局では抗生物質代わりに他処方として「荊防敗毒散」「千金内托散」をよく使います。


大学の2年先輩で同じMRを経験して薬局に転職された同じ境遇の故岡本邦夫先生は西洋医学に自分の道を見いだせず東洋医学に関心を持ち大塚敬節先生の本と出会い、後輩の私に勧めてくれました。

故岡本邦夫先輩には今なお感謝しております。因みに岡本邦夫先生は大学の合唱団の先輩で音楽的素養が素晴らしく私が入団した時の指揮者で選曲が「眠れ幼き魂」「童謡」「真間の手古奈」「スティーブンフォスター集」「旅」「蔵王」「子守歌」「富士山」等、反戦の歌からミュージカル、童謡迄幅広いレパートリーを目指されておりました。

漢方の風音 9号 腸内フローラ 自律神経失調症 生理痛 口内炎

2018-02-11

腸内フローラ。自律神経失調症。生理痛。口内炎

      

なかがわ漢方堂薬局 中川 義雄(昭)

可成り以前、口内炎と腸内細菌とその漢方治療について薬剤師会の会報に寄稿した事が有ります。

通常は腸管内に有るある種の細菌がビタミンB2を作り出し、そのビタミンB2が補酵素として働いて代謝(クエン酸サイクル)を円滑にして口内炎を防いでいるのだが、そのB2生産細菌が何らかの理由で減少した時に口内炎が発症します。漢方医学では<上熱下寒>と言ってお腹が冷えてゴロゴロと鳴ってトイレに行き下痢をする(下寒)…その結果、ビタミンB2生産細菌を下痢で消失する。一方、上半身は熱を持ってニキビが発生したり脳が興奮して不眠だったり、又、炎症を発生しやすい状況を作り出す(上熱)。その結果、その両面が相まって口内炎が発生します。

上半身は熱を持ち下半身(お腹)は冷えて下痢をする時に半夏瀉心湯を服用してお腹を温め、(上である)口内の熱を冷ますとその細菌が再び増殖してビタミンB2を作り出し、その結果、口内炎は治癒するのである。

これは腸管内の細菌が人の健康に大いに係っている。つまり後出の腸内フローラが疾病に関与している事を示唆しているのですが当時、今ほど腸管と健康の因果関係は分かっていなかった。只、アメリカのハウザー食の提唱者であるゲイロード・ハウザー博士は腸管と健康の関係を説いて、乳酸菌、酵母を主成分にしたハウザーローヤルを上市していた。同時にハウザー小麦胚芽とケールを主成分にした緑の野菜…ハウザーグリーンを摂取することを提唱して健康長寿法を説いた。当時、医学界はその説には殆ど関心が無かった様に思います。


最近、その腸管内の細菌叢(腸内フローラ)と疾病との関係が多方面(主にアメリカ)で研究、発表されている。アメリカでは慢性疲労症候群や鬱病、肥満の患者さんに健康な人の糞便を移植して夫々の疾患を治療する試みがなされて良い成績を収めている。

最近では30種類の病気と腸内フローラが関係していることが解明されている。糖尿病、癌、肥満、アレルギー、鬱病、慢性疲労症候群などである。

腸内フローラはテレビで再三、取り上げられて放映されており、視聴された方も多いかと思います。

そこで、漢方医学と腸内フローラとの関係を考えて見ましょう。

四逆散(柴胡・芍薬・枳実・炒甘草)と言う漢方処方が有ります。この処方薬は「肝気鬱結」を目標に使用します。肝気鬱結とは肝の本来の働きが疏滞した状態を言います。肝は感情、情緒を主っていますので、肝の気が疏滞すると感情、情緒が鬱滞します。つまり、鬱症状や不安感やイライラ、自律神経失調症と言った症状が出てきます。肝の経絡は子宮、卵巣に繋がっていますので生理痛や月経不順も出てきます。「五行論」では肝は自然界の木に配当します。木は土(土壌)の栄養を吸い上げて宇宙へ向かってノビノビと伸びて行きます。謂わば、土の犠牲の上に乗っかって居るわけです。従って木と土は良好な関係ではありません。

臨床では、四逆散は木(自律神経等)が伸びやかでない時に効果を発揮してくれます。

肝の気が異常になれば「脾」である土(土壌)にも悪影響を及ぼしてきます。「脾」とは胃、腸管などの消化器官全般を主る臓器を言い、自然界では土に配当します。現代医学の脾臓とは違います。

ここで、自律神経と消化器官、主に腸管との関係が分かって来ます。正常な腸の働きと自律神経、脳神経には相関関係がある訳です。

自律神経が安定し感情が安定している時は腸内も安定している事が理解出来、感情が鬱的であったり、ストレスを受けている時は腸内フローラも正常さを失う事になるのである。

正常な脳のネットワークを維持する為の主な刺激電動物質はセロトニンである。人体のセロトニン分布は腸管が90%で脳内が2%であり、最近の研究で脳内のセロトニンは腸管から供給されていることが解明されている。腸内環境が良いと脳にセロトニンを確り供給出来る事が想像できます。

以上の事を踏まえると肝の気の鬱結を治療する「四逆散」の重要さが分かります。

以前、※大津市薬剤師会の会誌に腸管侵漏症(腸漏れ)の記事を書いたことが有りますが、その内容は本来吸収されない分子量の大きい物質(ホルモン剤や未消化の蛋白質等)がひび割れした腸管から侵入して腸管の神経叢と抗原抗体反応を起こし、腸管の神経叢と発生学的に同じ脳内の神経に抗原抗体反応が波及して委縮症やパーキンソン病を惹起していると言うものである。これも又、腸と脳の病気の関係性を言ったものです。

※詳しくは当ホームページに記載してあります。

漢方の風音 8号 阿膠(アキョウ)

2016-12-08

甲状腺機能亢進症。結代脈。膀胱炎。

バリトン 中川 義雄

随分長い期間、気になっていたアメリカの大統領選挙が終わった。ヒラリーに投票した人達の落胆さはイギリスのEU脱退に反対した人達以上のものが有る様に思える。

ラスベガスのトランプタワーで働く下流層の従業員(ヒスパニック系の女性従業員が70%を占めている)の時間給の低さは言うに及ばず、労働組合(ユニオン)の設置を妨害したりで、女性従業員は全てにおいて虐げられている。

その彼女達はトランプの会社の従業員にも拘らずヒラリーに投票したと公言して憚らない。

全米のヒラリー支持者は明日の希望が持てないと虚脱感に苛まれた。一部の支持者は“トランプは我々の大統領ではない”とデモを繰り広げた。


トランプが大統領に就任した暁には日本においてとても気になるのが防衛費の問題であろう。

アメリカの軍事費がGDPの3.3%に対して日本の軍事費が0.99%だからその差の2.31%を埋め合わせる負担を日本、ひいては韓国、NATO等に求めると選挙演説で語った。

最近のニュースで、ウクライナへのロシア軍の侵攻を目の当たりにしたポーランドの若者達はロシアの侵攻に備えて自主的に軍事訓練を行っていると伝えている。

今の緊迫した世界の渦中にあって日本は如何なる道を執るのであろうか。

或るジャーナリストがアメリカ軍は今現在何も日本を守っていないのが現状でトランプが日本から米軍を撤退すると言えばどうぞ撤退して下さいと応じれば良いと記事に書いていた。(今の日本にはその様な度胸を持っている政治家はいないとも書いていた)。

米軍に使っている年間5000億円~7000億円の費用が浮いてくるし、就中、沖縄県民の念願が叶うと言うものである。

因みに中国の軍事費は1.6%と言われている。


その中国で最近気になっているインデペンド紙の記事を米CNNで放送していた。

記事の内容はロバの輸入の事(爆買)で中国がやり玉に挙げられていると言うものである。

爆買先はアフリカ諸国である。ロバの皮を除毛した後に皮を煮詰めて作ったのが阿膠(アキョウ)であり、漢方医学ではとても重要な生薬である。

つまりロバの爆買はロバから作られる生薬の阿膠が目的なのである。阿膠の効能は生血、止血、潤肺(咳止め)、滋養等で使用される。又、ある種の不妊治療(これが一番重要である)には無くてはならない生薬でもある。

膀胱炎、尿道炎で血尿が出ている時は阿膠が含まれている猪苓湯で止血出来る訳である。中国山東省東阿県の阿膠が最も品質が良く当薬局でも創業以来ずっと山東阿膠を仕入れている(十数年前山東阿膠が品薄で仕入れられない時期がありましたが…)。

中国山東省の農家では畑の耕作や運搬にロバを使っていたのだが農機具、トラクターの普及と共にロバを飼育する農家が激減した為に阿膠が不足しているのである。

20年前と比較すると1100万頭いたロバが年に30万頭ずつ激減して現在では600万頭になっている。

業界では牛、馬、豚で作った偽物の阿膠が出回っている次第である。そこで中国人が目を着けたのがアフリカである。


因みに阿膠を使用している処方は前出の“猪苓湯”始め“温経湯”“黄連阿膠湯※”“婦人宝”“?帰膠艾湯”“炙甘草湯”等がある。

どれも重要な処方である。例えば甲状腺機能亢進や脈の結代や極度の疲労には炙甘草湯が月経不順等の婦人科系疾患には温経湯が無くてはならない。


そのアフリカの農業の市場規模は現在29兆円であるが20年先では92兆円が見込まれており世界の穀倉地帯に成長する事は必至である。

2025年までに中国のアフリカ投資は100兆円になるとの事。食料自給不足の日本にとっては他人事ではない。

幸いに南鳥島近海の海底に多量の希土類(レアアース)が見つかって居り、それを基に、又、独自の技術力で日本は何とか生き延びられそうである。

話しがそれましたが西アフリカのブルキナワアソでの第1四半期のロバの輸出量は18000頭で、1年で72000頭になろうとしていて、急遽ブルキナワアソの政府は輸出を禁止した。同様にニジェールも輸出を禁止した。

ニジェールでは数年前は1頭3500円だったのが今や15000円になっている。そこに目を付けた経済力のあるケニア、南アフリカはロバの飼育を開始して積極的に取引を始めている。

アフリカにも南北問題が有り、富める国は益々富むのである。アフリカ南部のボツアナではロバの密輸組織がブラックマーケットでロバを売り捌いている所を捉えられた。


記事では爆買している中国人を批判しているがその阿膠を大量に消費しているのが日本である。漢方薬は生薬である。

陰陽虚実に則った理法方薬の弁証の基に漢方薬を使用し、ロバの命を無駄にしない様に販売、投薬していきたいものである。


※黄連阿膠湯…傷寒論(しょうかん論)の少陰病(しょういん病)篇に記載されている。目標は内熱が有って体液が枯燥し、熱が心胸に差し迫り胸苦しくて眠れない。傷寒論では臥する事を得ずと記載されている。


私自身の治験では難病疾患で死期迫った年長の女性がベッドの上で煩躁甚だしく苦しくて何日も寝ていない。

看病している家族もその苦悶している姿を見るにつけいたたまれなく疲労困憊している…と相談を受けた。

問診をしたところ患者は氷を口に入れる事を盛んに乞う事が解り、黄連阿膠湯証と弁証した。

家族は早速煎じて主治医の同意を得て与えた所、暫くしてスヤスヤと気持ちよさそうに眠りについた、と大変喜ばれた。

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