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漢方の風音 15号 桂枝茯苓丸
桂枝茯苓丸で※瘀血(おけつ)を改善して肩こり、冷えのぼせ、頭痛、月経痛、粘膜下筋腫の初期、不妊、肌荒れ、にきびetcを治す。
なかがわ漢方堂薬局 中川義雄
4月、桜の季節が終わると我が家のベランダでは2種類の牡丹が蕾を膨らませて花を咲かせる。
その牡丹が花を咲かせると今度は芍薬が蕾をつけ、牡丹が終わると芍薬が開花して順番に心を和ませてくれるのである。
この二つの花木は漢方薬では重要な働きをするのである。
牡丹の根皮(こんぴ)を牡丹皮(ぼたんぴ)と言い、牡丹皮は※瘀血(おけつ)、つまり血液が粘って流れが悪く、口が熱を帯び常に水で湿らせていたい(口渇ではなく口乾)、唇や舌の色が紫暗紅色を呈し、皮膚は鮫肌で青たんを生じやすく(知らないうちに青あざが出来やすい人)、歯茎や子宮に出血傾向を認める等…を改善する働きがある。
芍薬は根を乾かしたもので、筋肉の痙攣(子宮など)を緩め、鎮痛鎮痙作用や補益作用がある。
表題の桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)はこの牡丹皮、芍薬の他に桂皮、桃仁(桃の核)、茯苓で構成されている。
桃仁も又、牡丹皮と同様に瘀血を取ってくれます。瘀血の瘀は汚或いは悪に近い意味合いである。
瘀血を解消する事を駆瘀血(くおけつ)作用と言いますが、桂枝茯苓丸の駆瘀血作用(桃仁、牡丹皮)についてもう少し詳しく説明していきます。
桂枝茯苓丸は男性にも女性にも使えますが、一番よく使う症状は女性の卵巣、子宮に関わる病態である。
瘀血は骨盤内に炎症を起こし易く、子宮は血液の循環不良を起こすのである。
つまり、桂枝茯苓丸は下腹部の腫瘤や血腫、子宮内膜炎、卵巣嚢腫、月経不順、月経痛、不妊症、産後の子宮復古不全等を治す働きがあるのである。
毎月の月経血の排出が十分出来ないと骨盤内全体が瘀血を生じ様々なトラブルを引き起こすのである。
例えば卵巣に瘀血が生じた時を考えると二種類の女性ホルモン(エストローゲン:卵胞ホルモン、プロゲステロン:黄体ホルモン)の分泌の問題が考えられるし、優生卵胞(毎月排卵される卵子の素)の発育にも悪影響を及ぼします。
子宮には腫瘤が生じ、卵管にも悪影響が生じるのである。詰まるところ不妊を引き起こすのである。最近の当薬局での症例では卵巣捻転(卵巣が捻れて腹痛を起こし、酷い時は救急車で搬送され緊急手術となる)を瘀血が原因として駆瘀血剤で治した所です。
前稿で書きましたが明治生まれの女性の生涯の月経回数はざっと250回。一方、現代の女性の生涯月経回数は凡そ450回で回数だけを見ても現代女性は瘀血を発生するリスクが高く、その上、間違った食生活や社会の複雑化によるストレス(病理機序はここでは省略します)も瘀血を生じ、現代に生きる女性のリスクは計り知れないものが有ります。
数十年前、旅行の帰りに機内で隣りあった医師と漢方談義になり、その医師は桂枝茯苓丸にヨクイニンを加えると肌が見る見る綺麗になると仰っていましたが、美肌だけではなく骨盤内の瘀血が解消され、その女性の将来をも保証しているのである。
私の治験例では不妊でお困りの女性が無事妊娠し出産された例、ニキビ、肩こり、多嚢疱性卵巣、頭痛などが有ります。
男女を問わず骨盤内の欝血(痔、虫垂炎など)、自動車事故の後の瘀血の処理、スポーツによる打撲、体にメスを入れた手術の後にも広く使います。
昔、私の母親は血の道症と言う言葉を使っていました。
血の道症の意味は瘀血が原因で発症した神経性疾患(ノイローゼ、ヒステリー、うつ病、自律神経失調症など)の事を言い、桂枝茯苓丸で治す事があります。これは瘀血の上衝が原因であり、桂枝(=桂皮)が相俟って効果を発揮するのである。この瘀血の上衝による他の疾患としては様々な眼疾患(麦粒腫、角膜炎、眼底出血、虹彩炎、フリクテン性角結膜炎)がありますが、桂枝茯苓丸で治す場合があります。
瘀血の上衝を処理する他の処方を使って目眩(めまい)、耳鳴りを治療することもあります。
13号 漢方の風 ーオーガニックコットン(抵抗力をつける)ー
最近のテレビ番組から、感じた事を、書いてみたいと思います。オーガニックコットンの生産に係っている女性の番組で、彼女は、バングラデシュの農業従事者の困窮を救いたい気持ちを前面に出し、頑張っている姿が、放映されていた。バングラデシュは、北海道の約2倍の面積で、人口は、14000万人。元々低地で、その上、温暖化に伴う洪水で、せっかく手入れした畑が、流されてしまったりで、生活の厳しさが伺える。彼らの大きな生産は、主に、綿花の栽培から、糸紡ぎ迄なのだが、オーガニックでない場合、出来上がったコットンの売り上げの半分が、農薬代に消えてしまうのである。ちなみに、その農薬を一番売り込んでいるのは、ドイツの企業だそうである。オーガニックの元になるのは、アヒル、牛などの糞なのだが、彼らは、その糞を、手で扱っているものの、その表情には、将来を見据えた喜びが満ち溢れている。
農薬を使った畑は、翌年は使い物にならない。一方、オーガニック畑は、毎年植え付けが可能であり、いわば無機質な土と有機的土壌の違いがあるのである。有機的土壌には、ミミズ等の生物が棲んでいる。お名前は、覚えておりませんが、とてつもなく美味しい、又一年経っても腐敗しないリンゴを作っておられるりんご農家の方と重ねて、番組を見ておりました。 一方、私が関係しております医学の世界では、私が、子供の頃、回虫を持っている生徒は、恐らく二桁を占めていたと思いますが、今は皆無に等しい状況である。ある医学博士は、30年前(私が勝手に感じている数字で、不確かですが)、余り見られなかった花粉症が、増え続けているのは、回虫の駆除と関係していると自説を唱えておられます。 私も、同感ですが、漢方的には、もっと、重要な事があるのです。其れは、資本主義社会の宿命なのですが、食環境、住宅環境、嗜好品、…と言った、日本人の体内環境を無視した所から、始まっている。 原稿を書いている今、タイミング良く、ご近所のMさんが、自分の畑で作ったキュウリを届けに来てくださいました。大根、三度豆、キャベツ、ほうれんそう、トマト…等、季節毎に、正に“旬”を戴くのである。スーパーで買ったものとは、味は、勿論の事、日持ちが、全然違うのは、何故なのか。いわば、オーガニック栽培だから、ちがうんヨ…と、Mさんは、ニッコリしながら教えて下さいます。
端を更めますが、漢方では、『気』『血』『水』と言った概念を、重要視します。「麻芍乾桂、関西のご飯」…これは、私がお弟子さんに教えている、小青龍湯の処方内容の覚え方ですが、麻黄、芍薬、乾姜、桂皮、甘草、細辛、五味子、半夏なのですが、これらの内、麻黄、乾姜、桂皮、細辛、五味子と何れも、温める作用のある薬草が、大半を占めている。一方、体内で、身体を冷やしている水を駆水する薬草も含まれている。つまり、簡単に言うと、身体を冷やしている水を、温めて、主に尿として駆水してやると、花粉症は治るのである。ある種の喘息も、同じ理由で、この小青龍湯で、簡単に治るのである。(素人療法は、危険ですので、必ず、専門家に相談して下さい。) 元に戻ってみると、食環境、住環境、嗜好品が問題と言っているのは、冬に、アイスを食べ、秋には、秋味のビール、冬には、冬のビール、冬に夏野菜、又その、真逆の事もありで、東洋医学的見地からすると、最早、正気の沙汰ではないと言っても過言ではない。 現代医学では、花粉症、喘息に、一部お手上げ状態の患者さんが、見受けられるのは、当然と言えば当然なのである。冷えと水毒が原因の喘息のお子さんが、薬嫌いで、アイスクリームに混ぜて服薬させるよう指導している、小児科医、薬剤師がおりますが、如何なものかと、思っております。
無機質な肉体と有機的複合体としての身体の捕らえ方の違い(つまりホリスティック)が、一番大切と考えているのは、漢方家の一致した考えであります。水飲み健康法を実践して、アトピー、ニキビ、生理痛を悪化させて、私に、診を乞うてやって来た患者さんが、多く居られますが、これは、正に、肉体を無機質なものと、かん違いしているほんの一例である。癌患者さんの放射線治療(全てでは有りませんが)も、その一例と思っております。人間の身体は、正に、有機的に複雑に、精神と肉体までも含めて、リンケージしているのである。 ずっと以前の番組で、VRE(史上、最強の耐性菌)感染は、何故、おこったのか(タイトル名は、違ったかも知れませんが)の放送の中で、産卵するニワトリの餌の中に、抗生物質が混ぜてあって、知らず知らずの内に、抗生物質を体内に摂り込んでおり、その結果、耐性菌が増えている。又、何かに感染すれば、兎に角、抗生物質、化学療法剤を、子供の頃から、度々投与するのも、耐性菌を増やし続けている要因にもなっていると番組では、言っていた。
体内環境をある意味、破壊し、純粋培養人間を作ってしまっている現代社会は、一体何処へ行き着くのであろうか。然しながら、適格な抗生物質の使用は、絶対的に必要である。密かに、蔓延しているSTD(性感染症)の撲滅には、正にその通りなのだが…。やはり、予防即ち、性教育の遅れが、結果的には、耐性菌を作ってしまう事にもなるのであろう。 オーガニックコットンを栽培した“土壌”を見るにつけ、抗生物質を頻用した肉体の何らかの“危うさ”を感じるのは、私だけで、あろうか?
(大津市薬会報 2007年 8月号掲載)