アトピー性皮膚炎・滋賀県・漢方薬 | なかがわ漢方堂薬局

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29号 漢方の風 ー鬱症状を伴う不安感。化膿性体質(術後の膿が止まらない)。

2011-09-12

 薬学部が6年制になり、5ヶ月の学外実習が義務付けられた。更に全国的に新しく薬学部が増設され、各学校では新入学の学生の取り込みに危機感が見られる。そこで各学校は法定の学外実習の他に特色のあるカリキュラムを既に組み入れている所もあり、又これから取り組もうとしている学校もあると聞いている。

 

医師と対等に向き合える様にする為の仮想実習や海外留学、更には特化した漢方医学を取り入れた講座等がそれである。我々4年制で学士を取り薬剤師になった者としては何処となく気後れ感はあるが、足りない2年の勉学期間を補うに余りある独自の卒後教育を実践して来たと言う自負心は有ります。取り分け大津市薬剤師会は多方面に活動し医療や福祉、教育に参画し、又会員の学力向上の為に研修会を実施して来ました。私も在宅医療部の理事を担当した時には、当時、薬剤師の在宅医療の係りが叫ばれ、在宅医療制度は勿論の事として、輸液の投与の仕方から内容迄も多くの本を読み勉強しました。又、独自の在宅患者さん専用の薬歴表も作成しました(田村先生の協力を得ながら…)。その薬歴表は滋賀県薬剤師会の他支部から、使用の申し入れが有り、今も使っておられる所もあると聞いております。又当時の会長である隠岐先生の指示もあって20万円の予算(滋賀県の医薬分業促進費)を頂き、瀬田地区の医薬分業に腐心した。全歯科医院への院外処方の働きから始め、分業をしていない開業医を講師に招き勉強会も実施した。更に思いついたのが当時、分業先進地区の長野県の上田地区が作成していた保険薬局のマップの瀬田地区版である。滋賀県では当時作成している所がなく、薬務課の分業担当官はそのマップを他の地区に見本として使用されたと聞いております。思い起こすと勉強始め様々な活動をして来た。

 

医薬分業が常態化した昨今、チーム医療の一員として医師や看護師さんとの、又患者さんとのコミュニケーションの重要性が叫ばれておりますが、うまくコミュニケート出来ていない現状が見て取れます。その為か、学校でも接遇のカリキュラムが組まれている様に聞いております。今から10数年前になりますが大津市薬剤師会の月例研修会で“接遇”の勉強会を行った事がありますが、大津市薬剤師会では既に問題意識を持ち、取り組んで来た経緯も有ります。 長らく市薬ニュースの原稿を書かせて頂いておりますが、特化した漢方医学を学んで卒業してくる薬剤師が現場に入った時に違和感を感じさせない為に、少しでもお役に立てればと思って居ります。

 

 今日は朝から、時間が取れたので急遽原稿を書いておりますが、午後からの予約のご相談内容は、一人目の方はふらつき、倦怠感を伴う不安感をお持ちの方。二人目はアトピー性皮膚炎。三人目は智歯抜歯後のトラブル(切開周囲部からの膿が止まらない)。四人目は早期(39才)に閉経に向かっていると診断された方である。一人目の不安感でお困りの40歳台の女性はパートタイムで仕事をされておられます。顔は赤ら顔で、かといって赤々している訳ではなく力のない赤さである。精神が不安定であるので重鎮安神作用の竜骨・牡蠣が配合されていて、更に気の上衝(浮陽と考えて)に効果のある桂枝加竜骨牡蠣湯を第一に、又生理周期の遅れが有り、気鬱が係っていると考え加味逍遥散を第2処方として交互に投薬しました。

 

3人目の智歯抜歯後のトラブルの方は、先ず望診(最初に見た第一印象、皮膚の色、艶等)から、脾の弱さが診てとれ、バクテリアに対する抗病力の弱さが有り、更に肉芽の形成力の弱さが有ると弁証出来ました。そこで小建中湯に黄耆末を加え、小柴胡湯との併服としました。乃ち内托(体力をつけて抗病力を増す方法)しながら炎症を取ろうと考えた訳である。この患者さんは智歯の切開術の前に内托しておけばこう言う事態にはなっていなかったと言えます。漢方医学が「未病を治す」と言われる所以である。同様に癌と診断され3大治療(摘出術、抗ガン剤の投与、放射線療法)を行う前に適切な漢方処方を服用しておくのも大切であろう…。因みに膿が止まらないその他の疾患(乳腺炎、副鼻腔炎、痔漏、面皰等)の治療には、十味敗毒散、排膿散及湯、荊防敗毒散、葛根湯加桔梗石膏、小柴胡湯加桔梗石膏を使い分ければ良い。

(大津市薬会報 2011年9月号掲載)

28号 漢方の風 ーアトピー性皮膚炎

2011-05-21

 東日本大震災に被災された方々には衷心よりお見舞い申し上げます。又、お亡くなりになられた御霊に十念(南無阿弥陀仏)を唱和し、ご家族には哀悼の意を表します。

宮古市の重茂半島の姉吉地区には先人が海抜60mの場所に“此処より下に家を建てるな”と刻んだ石碑を遺しているそうで、重茂地区の住民は以来それを守って来た結果、全ての世帯が今回の大地震の津波から被災を免れたと報じられていた。現代の科学的予測の或を超えた大津波の災禍から免れた先人の知恵の確かさを顧慮しなければならない。今回の大震災を見るに付け科学的根拠の危うさ(高さと強固さを計算して作られた防潮提と防波堤が破壊された等)を露呈したと言っても過言ではない。福島の原子力発電所も又、然りである。ダブルフェイルセーフ以上の安全を担保する知恵を絞らなければならない。想定外だったではすまされない…。佐藤栄佐久前福島県知事は起こるべくして起こったと憤っておられます。(前知事は原子力発電推進派でもあるが、原子力政策の隠蔽体質と闘って来られた)

アトピー性皮膚炎の治療においても、同じ事が言えると私は考えております。例えば、喘息の漢方治療をする時には背の青い魚だけでなく肉食をも極力避けるようにして戴く。これは先人の古書に書いてあることなのですが、漢方の臨床では経験的に実践して好結果を得ています。同様にアトピー性皮膚炎の治療においてもアレルゲン検査も大切ですが、何よりも大切な事は湿熱を溜め込まない食し方をする事と考えています。従って漢方治療では、間違った食生活から発生した湿熱を如何に捌くかを徹底して行うと、重度のアトピー性皮膚炎でさえ自然に元の綺麗な皮膚に戻るのである。湿熱を発生させる可能性のあるステロイド療法は漢方医学的にはしてはいけない事になるのですが、一時避難的には有効な手立てではあると考えております。

 

 湿熱とは湿邪と熱邪がくっ付いたもの。湿度の高い日本では湿邪(湿気)が外因(外敵)として皮膚を攻めて来る(風の邪が表を攻めて来て守りきれず発症するのが風邪と同じ考え)。昔なら汗をかいて皮下の湿を発散したものですが、冷房完備下の環境では発散は不可。それどころか口からは更に追い討ちをかける様に必要以上のジュース、ビール、アイス等の飲食物を摂る。内外から湿に攻められる結果、体中(細胞から組織、器官、夫々の間隙迄も)水が氾濫する。一方、フライ物、生クリーム、スナック菓子、インスタント食品等の甘食厚味な食べものの摂取過多が熱を生じ、地球温暖化も相俟って“湿熱”が出来上がるのである。この湿熱が体中を席巻し心の火と出合って強烈な痒みを発するのである。又、有機物を含んでいるであろう黄砂や花粉、ホルマリン、トルエン等が皮膚を攻め立て、体の防衛軍である衛気(えき:体表を守っている気)と遭遇し熱を生じ、湿熱は更に増長するのである。

 

 漢方薬でこれらの湿熱を捌き、一方、口からは前出の飲食物の制限をすると、あれほど頑固なアトピー性皮膚炎も改善して来るのである。これらの漢方理論及び食養生を“想定外だった”と社会が顧慮する日が来ると、反省が生まれ、より健康的な生活が保障されるであろう。何よりも医療費の削減迄もやってのける事が出来るでしょう。 ここで、あと一つ弁証しなければならない事が有ります。それは現代社会の作り出したストレスが火と化し病証を悪化されておられる患者さんも多く見られる事です。

漢方医学では肺は皮毛を主り、脾(大雑把に言えば胃腸機能)は肌肉を主ると言います。従ってアトピー性皮膚炎は肺と脾の病証といえます。又湿熱の充満しきっている少陽三焦と表裏関係にある心包経の病証とも言えます。又先天の腎の虚も考える必要が有ります。

 

 消風散、十味敗毒散、黄連解毒湯、辛夷清肺湯、六味丸、補中益気湯、猪苓湯、三物黄?湯、当帰飲子、温経湯、四逆散、加味逍遙散、荊艾連翹湯、抑肝散加陳半、麻杏甘石湯、地竜、越婢加朮湯、白虎加人参湯、竜胆瀉肝湯、柴胡桂枝湯辺りから3~4処方をうまく使い分けて治療します。治療には苦心惨憺するものの長年苦しんでこられた重症のアトピーが治って行かれる患者さんの笑顔に接し、漢方医学を勉強して良かったとつくづく感じております。

(大津市薬会報 2011年5月号掲載)

27号 漢方の風 ー膀胱炎・胃腸炎(風邪に伴う下痢)

2011-01-17

数年前、中国の養蜂家の番組の終わり部分を垣間見て、番組の冒頭から見落とした事を残念に思った事が有りました。所が、過日、BSで再放送がある事を知り、あらためて番組の最初から見る事が出き、数年来の望みが叶えられました。中国の西北部、新彊ウイグル地区から望む天山の高地で採取される天山山花蜜(糖度が高く薬草の香りが人気の蜂蜜で、高値で売買される)を中国の東部地区からミツバチと共に6000kmを移動して(中国を東から西まで縦断する)採取に出かける養蜂家親子のドキュメンタリー番組である。一口で6000kmと言っても凄まじい長行路である。予定を遅れて天山に到着した時には蜜蜂は半分が死んでしまっていた。それ程過酷な道のりである。仕事として立ち向かう親子のエネルギッシュで前向きな姿を見て私は何かを与えられました。

 

 12炭糖の花蜜を外勤蜂が蜜箱に持ち帰りそれを内勤蜂が自らの酵素で6炭糖に分解し6角形の巣房に溜め込み蝋で蓋をして熟成する。中学で習った12炭糖の分解、つまりショー(蔗糖)ニュー(乳糖)バク(麦芽糖)、ブカ(ブドウ糖と果糖) ブガ(ブドウ糖とガラクトース) ブーブー(ブドウ糖とブドウ糖)を思い出したり、中国人気質が理解出来たり、弱った蜜蜂に花粉を与えると元気を取り戻す…つまり、人間の前立腺肥大に花粉が奏効するヒントを呉れたり、蜜蜂にはイタリア蜂と黒蜂(北ヨーロッパに多い)がいる事、巣箱内の温度が35℃以上に上がらない様に巣箱の入口の間隙で羽ばたいて空気を巣箱内に送り込んだり等、興味一杯で見入りました。蜂蜜の元である天山高地の花は6月頃から開花し始める。防風、大黄、薄荷、つる人参等約10種類の薬草の花々である。一度、天山山花蜜を味わってみたいものです。

 

 蜂蜜を使った漢方薬に「東医宝鑑」に記載されている“瓊玉膏”(けいぎょくこう;蜂蜜、地黄、麦門冬、天門冬、地骨皮、人参、茯苓)があります。舐剤(しざい)と言って、なめる薬なのですが、蜂蜜と練り合わせていますので甘くて、脾が弱い人でも結構服用出来ます。瓊玉膏は東洋医学でいう所の脾、肺、腎を目標にします。

 

 高温多湿時に食欲が落ちることを良く経験しますが、これは湿気が脾胃を犯すためであり、手足がだるくなり、疲れて気力が落ちて来ます。それがすすむと手足が火照って喉が渇き、水分を取りたくなります。すると胃液が薄くなり消化が悪くなり食欲が落ちるといった悪循環になります。その結果多方面に悪影響が出てきます。ちょっとややこしい話に成りますが。胃腸で営養(漢方では営養と書きます)化された精微物質は多方面に供されますが余った精微物質は腎に貯えられます。だから脾胃が弱ると腎まで影響してきます。つまり腎陰虚になります。喉が渇き、手足が火照って来ます。勿論、脾胃の営養は真っ先に肺にも行きますので、その肺も陰虚になります。肺が弱ると風邪をひき易くなり、全身に営養を送れなくなり、尿の出が悪くなり、皮膚がくすんで艶が無くなります。更に肺陰虚がすすむと咳が止まらなくなり更に悪化すると痰に血が混じってきます。つまり肺、腎、脾が弱ると喘息は当然として便秘、不妊、免疫不全、アトピー性皮膚炎、糖尿病…等にもなりかねない。 “瓊玉膏”(けいぎょくこう)は脾、肺、腎を補いますので前出の疾患に良く使います。又、認知症の予防薬にもなります。もう亡くなられて10数年になりますが、100歳以上生きられた双子姉妹のきんさん、ぎんさんも服用されていたと聞いております。

 

 話は変わりますが師走の季節になるとノロウイルス(Norwalk Virus)やB型ウイルスによる下痢が流行ってきます。中でも足が冷えて、上半身が熱く感じられ頭痛、鼻閉、肩こりを伴った胃腸型感冒も多く見られる様になります。  例えば、平常、冷えによる膀胱炎を繰り返す女性が、たまたま寒い環境に遭遇した際(冬の告別式や体育館での説明会等)には、いつも決まった様に、下腹部に不快症状を覚える膀胱炎を発症します。冷えに拠るものなので治療は温めて治さなければなりません。

 

 その膀胱炎症状に引き続き頭痛、肩こりが始まり、その数時間後に下痢を発症してしまった50歳代の患者さんがおられました。こういった事例では “冷え”に関する概念が乏しい西洋医学では、上手く適確に治す事は難しいと思います。陰陽学説を重んじる漢方医学では“冷え”を重要な「病因」と捉えるが為に、上手く適確に治す事が出来ます。漢方の常識では、風邪に伴う下痢には先ず葛根湯や五苓散を考えますが、こういった陰虚証(冷え症で虚弱体質の事。中医学の陰虚とは違います)の人には葛根湯、五苓散は使い切れません。寒い環境でひいた風邪状態(寒気、頭痛、鼻水等)を「表寒」と言います。又陰虚症の人は往々にして脾(消化吸収)が弱く、水を捌く力が弱いが為に、体内に“湿”(生体に不必要な水)を生じている事が多い。表寒(外因)と体内の湿(内因)が原因で胃腸型感冒を発症したものと弁証する事が出来ます。この内外の病因を取り除く処方である五積散が良く効いてくれました。エキス剤で無く本物の散剤の五積散を使った事も著効を得た理由であろう。

 

 端を更め、最近の話題を書いて見たいと思います。レアアースと同様天然資源である薬草の産出国と先進国との利益配分を如何にするかがCOP10で議論されましたが生物の多様性の観点から見ても重要な論点であることは当然である。南アフリカのペラルゴニウム シドイデスと言う薬草はドイツで風邪薬として製品化され(ドイツでは化学薬品である医薬品離れが根底にある)、売り上げを伸ばしており、その結果南アフリカのペラルゴニウムが枯渇してしまっているとの事である。原産国の資源で先進国企業が莫大な利益を上げており、利益の還元を原産国が要求するのは当然と言えば当然であろう。国際世論はバイオパイラシー(海賊行為)を許さないし、一方で絶滅種を増やさない為にもなるのである。

 

 中国からの輸入に頼っている日本の生薬の現状を見た時、中国からの輸入資源である漢方薬の将来に危機感を覚えておりましたが、日本で消費する薬草の半分以上を自給しようとする動きが経済界、国から起こって来ているとの最近の新聞記事を見て、ホットしている今日この頃である。

 (大津市薬会報 2011年1月号掲載)

26号 漢方の風 ー痔、シミ、肌荒れ

2010-10-02

 ダイエット、美容に関するテレビや週刊誌の報道が、美を追求する女性を駆り立てる事は、枚挙に暇が有りません。少し以前には「黒豆」の騒動がありましたが、数ヶ月前の「紫根」の報道は数十年、薬局業務に携わって来た私の経験の中で、間違いなくトップクラスの問い合わせの件数と期間の長さが有りました。その訳は後で解ったのですが、「紫根化粧水」(紫根15gを300mlの水で煮つめ、濾して冷ますと出来上がり)がクスミやシミを防ぎ、シワ、タルミにも効果があるとの内容だったそうですが、後日、生薬問屋さんからその内容を聞いて、合点がいきました。私の所では紫根は、煎じ薬では使う事が有りませんので、正式には置いていません。と言うのも近医のドクターが痔の薬を製造する為に購入されるので置いてあるだけなのです。漢方相談をしている最中の紫根の問い合わせは、丁重にお断りするのに大変でした。故青木馨生先生からは、生薬の販売は薬草店に任せて、漢方処方薬の相談業務、即ち「証の決定」業務に徹しなさいと教えられて居りました。又、こういったマスコミの報道にはエビデンス(確固とした証)が無い事が殆どで、ほんまに効くんやろうか?と思いながら販売する事はセンセーショナルな報道に乗じて金銭欲を満たす事に他ならない。昔の近江商人は品物を良く吟味し自分が納得した物を仕入れ、「三方良し」の商いをして顧客の信用を得て財を為したと聞いております。生薬の問屋の担当者は当方の薬局の為に10袋確保して呉れていたとの事でしたが…。折角の担当者さんの配慮に申し訳なく思っております。

 

 その紫根を使った漢方薬の代表格は「紫雲膏」である。ひび、あかぎれ、火傷、痔核の疼痛やただれ、かぶれに使用します。成分は紫根の他に当帰、ゴマ油、蜜蝋、豚脂である。最近は、褥創に使われる事が多い。女性の外陰部のただれにお勧めして喜ばれた経験が有ります。因みに褥創には和剤局方に出典されている「神仙太乙膏(しんせんたいいつこう)」がお勧めです。  シミやクスミを改善するには、やはり漢方処方薬が一番良いと断言しても過言では無い。冷え性で貧血顔で小水の近い、頭が重く、腹痛を訴えたりする女性には、当帰芍薬散の原末を処方します。肩こり、背中のこり、痛みにも奏効します。若し便秘があれば煎じ薬にして、芍薬を増量して麻子仁や大黄を加えると良い。綺麗な肌になり、冷え性も改善します。一方冷えのぼせが有って、唇の血流が悪く、やや肉付きの良い、経血の色が比重の高さを思わせる様な女性には桂枝茯苓丸が良く効きます。ヨクイニンを加えると更に肌が綺麗になります。加味逍遥散もシミ、ソバカスに良く効きます。加味逍遥散の効く女性は漢方に熟練して来ると、顔、体型を一目見ただけで解ります。性格がきっちりしていて、片付け上手で、ちょっと考え過ぎタイプと言った所です。お通じが良くなり肌が綺麗になります。更に現代の女性に欠かせない処方に温経湯が有ります。お腹が冷えて、生理が不順で不正出血を起こし、肌の荒れている女性が目標です。温経湯の口訣に“婦人、年五十所ばかり(50歳前後)…半産を得て(過去に流産をして)…云々”と有りますが、最近はミニスカートやエアコン等の生活様式の為でしょうか、若い女性に温経湯証が多くおられます。美を追求する女性には、これらの処方は当に打って付けなのですが…。最近の女性は漢方薬には見向きもしません。

 

 話は変わりますが、紫根の配合されたOTC薬に○○○○○○内服薬が有ります。これは「痔」の内服薬なのですが、紫根の強心作用により、末梢の血液循環を良くして痔を改善するのであろう。私の専門である漢方薬では、やはり「乙字湯」が良く効きます。処方内容は単純なのですが(当帰、黄?、柴胡、升麻、大黄、甘草)、良く効きます。中でも柴胡、升麻がポイントなのです。それらの薬草を使った当帰建中湯加柴胡、升麻は冷え性で色白の方で痔核、脱肛の患者さんに長期に服用して頂きますと信じられない位大きな脱肛が治ります。他に柴胡、升麻の配剤された処方に補中益気湯がありますが、これも痔に良く使います。場合によっては乙字湯と併用しても良い。その他には、駆?血作用の桂枝茯苓丸も上手く使うと良いと思います。更に、痔の疼痛に、大塚敬節先生の著書に麻杏甘石湯が良いと書かれておりますが、その証があれば効く事は当然の事と思います。私は未だ使った事が有りませんが…。 過日、生前親しくさせて頂きました広瀬滋之先生が黄泉の国へ旅立たれました。先生の講演は度々拝聴させて頂き、多くの事を学ばさせて戴きました。先生の講演の中で、忘れられないのは麻杏甘石湯を処方したら、院外の薬局の薬剤師さんから、“先生この患者さんに接遇した所、喘息や空咳は無いと仰っていますが、何かの間違いでは”と疑義照会が有り、その薬剤師さんにもっと勉強しなさいと言った事を話されておられました。全くその通りだと思いました。先生のエッセイ調の文章はよく読ませて頂きました。読み易く、私の文章の目標でもありました。若くして(私の二歳年上)旅立たれた先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます。合掌。

 (大津市薬会報 2010年10月号掲載)

25号 漢方の風 ー認知症と漢方薬(侮れない牡蠣殻イオン化カルシゥム)

2010-08-02

 今回は、びわこ漢方サ-クルで6月、7月に講義した「漢方と認知症」について書いて見たいと思います。今や風邪に葛根湯、腓腹筋の攣縮(こむら返り)に芍薬甘草湯、開腹術後に大建中湯、認知症に抑肝散と言われる程、認知症に抑肝散がポピュラーになっています。抑肝散は取り分け妄想や徘徊、多怒等の周辺症状に効果があるとされる。西洋医学で周辺症状に使用される抗精神薬や抗鬱薬、抗不安薬はこの様な周辺症状を押さえ込む一方、それが為に日常の生活動作をも不活発にしてしまい、食事、歩行、会話等に悪影響を及ぼし生活の質を低下させているのが現状である。抑肝散には、そういった生活の質を低下させる悪影響は見られない。抑肝散の中心的役割をしている生薬は「釣藤鈎(ちょうとうこう)」である。釣藤鈎は汪昂著、寺師睦宋訓「本草備要」に、甘微寒。宣、風熱ヲ徐キ、驚ヲ定ム。心熱ヲ徐キ、肝風ヲ平ニス。久シク煎ジレバ則チ力(ちから)ヲ無クス。…とある。又、中山医学編、神戸中医学研究会訳「漢薬の臨床応用」にも20分以上煎じると効力が無くなると書かれている(1~2回沸騰させる位が良いとも書かれている)。乃ち釣藤鈎は熱に弱いのである。他薬と一緒に煎じると効力が無くなるので、当薬局では後煎と言って最後の5分間だけ煎じて頂く様にしています。又、加熱の影響を受けているエキス剤(顆粒剤)の抑肝散を投薬する時は天然のままで熱の影響を受けていない釣藤鈎の“原末”を追加して一緒に服用して頂くようにしております(抑肝散加釣藤末)。その抑肝散の作用機序は柴胡、釣藤で肝風を抑え、又甘草と共に自律神経を調整(疎肝解鬱作用)し、精神的、肉体的反応閾値を下げ、ストレスに対応出来る様にする。川?で頭痛をとり、当帰、川?で肝の血虚を治し、血流を良くし、茯苓、白朮、甘草で脾の虚を補い肝の暴走(周辺症状)を抑える。更には、鬱症状が顕著な場合は芍薬を追加するとより効果的です(抑肝散加芍薬)。因みに釣藤鈎は枝ではなく“鈎”(かぎ、とげ)である。鈎の部分に有効成分が多く含まれている。市場には、枝多し鈎少なしの原料生薬が出回っており、撰品が大切である。その点、エキス剤は果して如何でしょうか…。

 

漢方医学では周辺症状を取ることを標治と言い、中核症状を取ることを本治と言いますが、証があれば抑肝散には本治を期待しても良いのかも知れないと思っておりますが…。然しながら臨床では他の漢方処方と併用する必要があろうかと思います。漢方本来の“未病”を治す意味合いからすると元々抑肝散証のある人の認知症の予防に使うと良いのは言うまでもない事と推察できます。  最近、認知証に良く使われている他の処方は、加味温胆湯、釣藤散、黄連解毒湯、温清飲、加味帰脾湯、八味丸、六味丸、当帰芍薬散、人参養栄湯辺りでしょうか。

 

最近のTV番組で、認知症は脳だけの問題ではなく同時に他の臓器にも変化が起こっている、つまり脳細胞だけを見て診断を下すと誤診をしてしまう危険性があると専門医は仰っておられました。レビー小体型認知症では心臓の神経の検査をすると、より確かな診断が下せると言っておられました。それは五臓を底辺とした五角形に立脚した全体観(ホリスティック)が必要最小限である漢方医学で言う所の、心、肝、腎、脾、延いては肺、乃ち五臓を弁証しなければ処方の決定がおぼつかないのと同じである。然しながら、心は神志を主り、腎は骨随を主るとされ、心血又は腎精が虚すと健忘(物忘れ)症状が現れる所を見ると心と腎に注目する必要はある(西洋医学では物忘れと認知証とは別のものと言われておりますが)。薬草から見れば遠志、酸棗仁、山梔子、黄連、地黄、人参、茯苓等は注目しなければならない。その人参、茯苓、遠志、酸棗仁、地黄を配合している処方が加味温胆湯である。加味温胆湯には、それらの他に半夏、陳皮、大棗、生姜、甘草、竹茹、枳実、玄参、を配合した十三味で構成されている。加味温胆湯は漢方医学では“痰熱(濁)上擾”を目標とし、口が苦い、口が粘る、驚きやすい、不眠、実直で臆病な性格、悪心、抑鬱傾向等を目標に使います。構成生薬を分析すると、半夏、陳皮、茯苓、甘草、生姜は二陳湯で口の粘り、悪心、動悸、不眠、めまいをとるのですが、これは胃内に水が停滞し、その水(痰飲)が化熱し、脳の網様体を刺激して起こるのを改善すると中医処方解説に書かれている。竹茹、枳実で化熱した痰濁の熱を取り、遠志、酸棗仁で不眠、イライラを鎮め、不足している血管内の陰を玄参、地黄で補い、人参、茯苓、生姜、甘草、大棗で胃腸の働きを良くし、総じて痰熱を取り、胃から脳の網様体の働きを正常化して上記の症状を治すのであろう。これらの事を総合的に判断して認知証にも使用し得るのですが…。脳の前頭葉を刺激する行為、乃ち心や情景を思い浮かべる昭和の歌のカラオケや女性であれば料理をする等の実践と併行して行う事が最善の治療法かも知れない。将来、認知証の研究で、脳と胃、食道、十二指腸辺りとの共通物質が存在すると学会で発表があるかも知れません。

 

 ある大学研究所の実験で、ラットを使い、迷路の先に餌を置き、正常なラットは餌に辿り着く事が出来る事を確認しておき、餌にカルシゥムを入れてあるグループと、入れていないグループとに分けて実験した所、カルシゥム有りのグループは全て餌に辿り着けたがカルシゥム抜きのグループは殆ど辿り着けなかった実験データがあります。乳酸カルシゥム等、カルシゥムにも様々の形のものがありますが、取り分け、炭酸カルシゥムが一番効果が有ったと結論着けられました。イオン化された牡蠣殻カルシゥムは、その炭酸カルシゥムが主成分である。おまけに牡蠣殻のミネラル組成はマグネシゥムを始め人間の血液のミネラル組成と殆ど同じである。当店で、牡蠣殻イオン化カルシゥムをお勧めしている所以である。腎に問題がある(他臓にも問題が有りますが)骨粗鬆症、アトピー性皮膚炎にもお勧めしております。

 

 7月9日、NHKの朝の番組で“漢方薬が危ない”の放送をしておりました。漢方薬に使用する遺伝資源である薬草がここ1年で、とんでもない高騰をしている(1年前の2~4倍の相場価格)との事で、ある漢方の診療所では、通常の半分の量で処方していると放映していた。日本の大手薬草販売会社は売れば売るほど赤字になり、先行きの見当がつかないと言っておられました。このままでは世界の薬草の80%を消費している日本の漢方が危ない状況である。異常高騰の原因は異常気象による砂漠化や乱獲による減少、又資源国(中国)と商品化した消費国(日本のメーカー)の利益の配分が平等でないと言った理由であるらしい。国が薬価を決めている関係上、原料費が高騰し続けたらメーカーは立ち行かなくなるであろう。事業仕分けで保険適用から除外するかどうかの問題どころではない。日本のメーカーが薬草作りに更に力を注ぎ、生産量を増やすことと、無駄に漢方薬を使用しないこと(確かな漢方理論に則った弁証論治無く漢方薬を使わない)が、今、一番しなければならない事であろう。漢方薬を構成している薬草の一つ一つに感謝の気持ちを持ちなさいと故青木馨生先生が教えて下さいました。漢方の心を忘れない様、励みたいものです。

 (大津市薬会報 2010年 8月号掲載)

24号 漢方の風 ー喘息の漢方治療ー

2010-05-13

 最近、興味を惹いた新聞記事は膵臓のβ細胞(インシュリン分泌細胞:血糖値を下げる働き)の働きが駄目になった場合、時間を経由してα細胞(グルカゴン分泌細胞:血糖値を上げる働き)の一部が少しづつβ細胞に変化して行く(つまり、α細胞がβ細胞に変化する)事が動物実験で確認されたと言った内容の記事です。これは東洋医学で言う“陰極まれば陽に転ず”に通じている様に思える。人体の自然治癒力の為せる所でしょうか。以前、脊柱管狭窄症の患者さんに半夏瀉心湯と四逆散と牡蠣殻のカルシュウムを皮切りに八味丸と生薬製剤二号方を併用し、時には八味丸と半夏瀉心湯を使い、最後は八味丸を長期に服用して頂きました。年1回の大学病院の検査で狭窄が広がっており問題無いと診断されたとの事で大いに喜ばれた経験があります。恐らくホメオスターシス(自然治癒力)が働いた為であろうと思われますがエビデンスは定かでは有りません。前出の漢方薬等がそのホメオスターシスを引き起こしたのであろうと推察しております。長く服用されたその過程では突然の歩行困難が改善し、一方、内科的症状である下痢、肩こり、疲れ、等の体調不良が改善し、体調の良さを実感された事が長きに亘って服用された所以であろう。

 

 漢方薬は抵抗力や自然治癒力を促進する働きが有ります。例えば風邪をひき易い或いは扁桃炎を起こし易い子供に「柴胡清肝散」を普段から服用させておくと夫々の感染を予防でき、或いは感染しても症状が軽くてすむ場合が多く有ります。「小建中湯」「荊艾連翹湯」「小柴胡湯」「柴胡桂枝湯」「八味丸」にも同様の事を経験します(他にも有りますが)。江戸時代に “外科倒し”と言う言葉が有ったそうで、伯耆の国の民間薬、「伯州散」を使用するとあれほど膿出が止まず塞がらなかった瘻孔や潰瘍が見る見るうちに治り、外科医の役割が減り患者が減ったと言われております。私の治験でも、どうしても会社を休めない(手術以外に治療法はなく1週間以上入院をする必要があると医師より言われていた)痔瘻の患者さんに伯州散を使い(通導散と竜胆瀉肝湯を併用)、膿の漏出を止め、喜ばれた事があります。現代において繰り返し発症する扁桃炎や発熱の患者さんに「柴胡清肝散」や「小建中湯」を上手く使うと感染を予防し小児科や耳鼻咽喉科に係院する患者さんの苦痛を取り除き、徒に耐性菌を増やすことも無いと思います。かと言って漢方薬を間違って使うと、ひどい体調不良を起こします(これは副作用ではなく誤治と言います)ので素人療法は厳に慎んで戴き、漢方の専門家に相談して頂きたいものです。

 

 話は変わりますが、あるホームページに喘息の漢方治療の事が書かれてありますが、発作時はβ交感神経作動薬を使い、体質改善的に抗アレルギー作用のある漢方薬を使うのが良いと書かれてあります。私の経験では、β作動薬やステロイドを使っていても救急車を度々呼んでいた患者さんに発作時に服用する様“五虎湯”や“小青竜湯加杏仁石膏”(小青竜湯合麻杏甘石湯)を渡しておくと救急車を呼ばなくて済む事があります。勿論、未病を治す意味で(現代医学的に言えば予防として)“柴朴湯”“防風通聖散合小青竜湯”“防風通聖散合通導散”“柴胡桂枝乾姜湯加杏仁茯苓”“補中益気湯加麦門冬五味子”“加味逍遥散合半夏厚朴湯”“大柴胡湯加厚朴蘇葉”他で、全く発作を起こさなくなったと喜ばれた症例も有ります。漢方薬が全てではありませんが、およその喘息は漢方治療で発作時にも予防にも対応出来ます。又喘息の予防で、最も大切な事は荒木正胤著「漢方鍼灸の治療」に書かれておりますが、食事を正すことです。①近海の背の青い魚をさける②肉食をさける③専ら少食にする…と書かれてあります。発作の時は食事が摂れません、従って発作が治まると大食してしまう。この悪循環を断ち切る事が発作を予防する為に必要であるとも書かれて有ります。この考え方が乃ち“科学”だと私は思うのですが、皆様は如何に思われますでしょうか。

 

 更に、端を更めますが、生き方、治療方針、物の見方、考え方等に参考になる話だと思いますので追記します。名歌「北国の春」に出てきます~こぶし咲くあの丘北国の~の辛夷(木筆、こぶし)の老木(樹齢250年)が3年ぶりに花を咲かせたと朝のTVで放映していたのですが、樹の専門家の話によると老木なので毎年花を咲かせるポテンシャルが無く、エネルギーを3年の間、貯えて、やっと咲かせているのだそうです。健気で、存在感のある、己を知っている辛夷の生き方に我々人間も学ばなければいけないと思いました。70歳台のひざ痛の患者さんには、治療の為、鍛える為にと、頑張って歩かれる方がおられますが、そんなに歩いたら駄目ですよと、又何かが原因で卵巣が一休みしている時に排卵誘発剤は使わない方が良いよと、教えてくれている様に思えてならない。卵巣の為に胃腸を正し、?血を取り、腎を補ってあげると卵巣本来の機能を取り戻してくれます。私もそろそろ“齢”なので、辛夷に見習わねばと思っております。

 (大津市薬会報 2010年 5月号掲載)

23号 漢方の風 ーアトピー性皮膚炎・肥満症ー

2010-01-12

 空蝉に最早命の臭いなし…  これは亡き長兄が詠んだ詩です。蝉の抜け殻は、俳句の季語になりますが、漢方薬では、“?風剤”になります。?風とは、この場合は痒みを取ると言う意味になり、漢方処方としては、消風散に配合されています。その消風散はアトピー性皮膚炎によく使いますが、患部が湿潤している事が使用目標になります(それ以上に風証が見られる事が必要ですが)。乾燥性のアトピーに使用すると症状を悪化させるので注意が必要です。これは決して副作用ではなく、あくまでも使い方の問題であり、消風散の構成生薬をよく考えて使用すると失敗はしないものです。漢方薬の使用については、慎重に行わなければなりません。同じ動物生薬の中に“地竜”(みみず)が有ります。最近、地竜の使い方の吉岡先生の講演を起こした資料をk社が提供してくれ、追試した所、非常に良い結果を得ております。麻黄と石膏で皮下の“水”を捌き、更に地竜で血流を良くしてより水の捌きを高めて、鎮痒作用を高めます。痒みで、夜眠れない時は麻黄杏仁甘草石膏湯と地竜を併用すると、痒みが取れて、かきむしる事無く良く眠れます。

 

 当薬局の難治性のアトピー性皮膚炎の最近の治験例を挙げて見ますと、30代の女性には、猪苓湯と補中益気湯に加味逍遥散で治癒。20代の女性は猪苓湯と補中益気湯に荊介連翹湯で治癒。その他温清飲、温経湯、梔子柏皮湯、黄連解毒湯、十味敗毒湯、柴胡清肝散、四物湯、黄ギ建中湯等をうまく組み合わせて使用すると難治性のアトピーでも大部分は治癒する事が出来ます。  所で、最近、漢方薬の保険適用を外す議論が、事業仕分けの俎上にあがりましたが、上記の30代の女性のアトピー性皮膚炎を漢方処方を使って“保険医療”で治療するとしたら、夫々の処方に適応する“架空の病名”をいわば作り挙げなくてはならない。病名と漢方処方が一致しなければ健康保険法に抵触するからである。即ち、不正請求になる。上記の30代の女性には、夫々、例えば膀胱炎なり胃下垂なり冷え性の病名を付けなければならない。実際はアトピー性皮膚炎の治療なのだが。漢方薬の保険適用には、やはり無理がある様に思えます。とはいえ、抗ガン剤や放射線療法での体力、気力の落ち込みに、漢方薬を医療保険扱いで投薬され恩恵を受けておられる方が大勢おられる事を考えると保険適用外とは、軽々には言えない。公平に考えて見て、何らかの落としどころを見い出さないと、現状のままでは、医療費の削減はもとより、ややもすると、生薬の無駄使いが行われ、延いては漢方薬その物の存在が危うくなる。絶滅の危機に頻している薬草は大切に扱わなくてはならない。漢方薬は“薬草に感謝”の気持ちを抱きながら使用しなければなりません。

 

 話は変わりますが、アメリカでは国民の肥満が問題になっております。このままでは10年後には肥満症に関る医療費が現在の4倍になる試算が出ており、財政が持たないのだそうである。現在の日本の状況から見て、わが国でも、4倍はともかくとして、同じ事になるであろう事は十分に察しが着く。患者さんが病院で、痩せる漢方薬を出して下さいと言えば、鸚鵡返しに防風通聖散が処方されます。(漢方には詳しくないからと断る先生も居られますが…)私の経験では防風通聖散の90日分の院外処方箋を受け取った事が有りますが、表寒裏実熱とは決して見えない患者さんでした…。勿論、効き目は無かったと思われます。体調に不具合を感じたら服用を中止して下さいとお伝えしました。この事例も医療費の無駄かも知れません。防風通聖散には麻黄、荊芥、防風と言った辛温解表剤(発汗剤)が配合されています。発汗は注意しなければなりません、心臓の弱い患者さんには特に要注意である。心臓の気陰不足の人は意外に太っている人がおられるからです。OTC薬の九味半夏湯加減なる「扁鵲」(へんせき)と言う漢方薬を扱っておりますが、メタボリックには防風通聖散より、もっと安全で効果的と思っております。水毒、臓毒を捌き脂肪過多を減らしてくれます。因みに防風通聖散が身体に合う方(防風通聖散証と言います)は決してKYではなく、気配りの出来る方が多い様に思います。

 (大津市薬会報 2010年 1月号掲載)

22号 漢方の風 ーアトピー性皮膚炎ー

2009-10-19

 知り合いのAさんの息子さんは、幼少の頃からアトピー性皮膚炎で悩んでいました。彼のお母さんは、かなり神経質な方で、傍(はた)から見ていても、その息子さんには、あれこれ“口うるさく”接しているのが見て取れる程であった。その息子さんには、ルイボスティーを勧めて飲んで頂いておりました。ルイボスティーを飲むと、確かに、カサカサの肌が綺麗になるとの事で長らく愛飲して頂きました。私から言わせると、本来の病因は、母親、乃ち“母原病”なのであるが(全てのアトピー性皮膚炎がそうだとは限りません)、その事を話すと、話がややこしくなるので、取り敢えずルイボスティーで事を済ませていたのである。然しながら、ねらい通りに、よく反応してくれました。母親からのストレスが脾(消化吸収機能)に影響を与え、ペプシンによる蛋白の消化が圧迫を受け、本来より分子量の大きいペプチドが生じ、それがアレルゲンと成り、アトピー性皮膚炎を引き起こしていたのであろうと考えたからである。それは、漢方の世界で、補中益気湯が脾気を高め、更に、水を捌(さば)いて呉れる作用を利用して、アトピー性皮膚炎に使用される事と通ずる所が有ります。その母親には、抑肝散なり加味逍遥散辺りを服用して頂くと、更に効果的であったであろう。

 

 私と、ルイボスティー(学名 アスパラサスリネアリス)との出会いは20数年前になります。当時は、カフェインを含まず、スカベンジャー機能を高めてくれ、皮膚が綺麗になりますといったキャッチコピーで販売しておりました。多くの人に飲んで頂いている間に、あるお客さんが、庭の枯れかかった木の根っこに煮出し終えたティーバッグを置いていた所、枯れる筈の木が花を咲かせたので、ビックリしたと仰有れ、何かしらのパワーを持っていると確信を持ちました。

 

 南アフリカ原産のこのお茶は、微量ミネラルやケルセチン(フラボノイド)を多く含有し、脾の働きを改善し、腸管の蠕動運動を促して便通を良くして便秘を改善したり、又、蛋白質の消化を良くして、より分子量の小さいペプチドにしてくれて、アレルゲンを少なくして、アトピー性皮膚炎を改善してくれるのであろうと私なりに解釈しております。因みにルイボスティーは巷に多く売られておりますが、粗悪品が多く、よく撰品する必要があります。

 

 アトピー性皮膚炎を治すには、食事に気をつけなければなりません。少なくとも昭和30年台の食事にすると自然にアトピー性皮膚炎は治るものと確信してはおりますが、その一方、生活水にも気をつける必要があります。昔の琵琶湖のクラスターの小さい、カルシウム始めミネラルたっぷりの水を摂る事が大切なのですが…。

 

 漢方では、アトピー性皮膚炎は“湿熱”が、諸悪の根源と考えます。甘いもの、油で揚げたもの、炭酸飲料、ビール、生クリーム製品等、枚挙に暇がありません。昭和30年台には、そう簡単に、口に入らないものばかりです。“湿熱”を引き起こす食べ物が氾濫している現代では、アトピー性皮膚炎や花粉症を、いつ発症してもおかしくないのである。昭和30年台の大津の朝は、納豆売り、瀬田川シジミ売り、煮豆売り等の独特の行商人の売り言葉で朝がやって来たものです。現代では、朝食はマーガリンのトースト、コーヒー、ミルク、甘いジャム、目玉焼きといった所でしょうか。東洋の思想を学校教育、栄養学、医学が取り入れなければ、医療費の削減にはならないであろう。

 

 アトピー性皮膚炎を治すには、黄連解毒湯、温清飲、補中益気湯、猪苓湯、黄ギ建中湯、加味逍遥散、抑肝散、十味敗毒湯、白虎加人参湯、麻黄附子細辛湯、辛夷清肺湯、桂枝湯加黄ギ、消風散、越婢加朮湯、桂枝人参湯、三物黄ゴン湯、六味丸等から撰用すれば良い。  アトピー性皮膚炎治療で、ステロイド剤を多用し、腎の陰精を傷つけると、漢方的手立てを打たなければ、取り返しの着かない状況を招きかねない。

 

 一口で漢方と言っても、古方、後世要方といった日本の漢方と中国の中医学等がありますが、日本の漢方理論では、なかなかアトピー性皮膚炎は治せません。日本の漢方理論と中医理論を上手くミックスして弁証すると、可なりの確率でアトピー性皮膚炎は“本治”出来ます。つまり、体質改善出来ます(見かけだけの治療を標治と言いますが、体質改善にはなりません)。

 

 食養生無くしては、漢方と言えども治せません。従って、本当の治療をするには、施治者と患者さんが、力を合わせて取り組まなければならないのは言うまでも無いことです。

 (大津市薬会報 2009年 10月号掲載)

21号 漢方の風 ー東洋医学的「胃」と「脾」について(出血、倦怠感、子宮脱、多汗)

2009-08-30

☆胃と脾…胃は受納と腐熟を主り、脾は運化を主る。更に胃は降濁を主り、脾は升精を主る。  胃気の正常な働きは“降”(下方)作用で有り、この働きが、逆に上に向いた(升)時に、  吃逆(しゃっくり)、噫気(げっぷ)や胃液が逆流したり、咽喉が詰ったりする。人によっ  ては、咳が出ることもある。   ……半夏厚朴湯で治療する。

 脾の正常な働きは“升”(上方)であり、失調して下に向いた時に下痢や胃が痞えたり、  延いては貧血、痩削(体重減少)を引き起こす。       ……六君子湯で治療する。

☆脾は生命活動の維持に必要な物質の産生と供給を行う⇒「後天の本」と言う。      ※脾の働き      (1)正常な脾の働きにより気・血・津液(水)が十分に作られると        気の固摂作用によって血管壁が丈夫になり、血液がもれずに        循行する(脾が弱いと不正出血、歯茎の出血等の原因になる)      (2)脾は肌肉・四肢を主る       …四肢、体幹、内臓の横紋筋・平滑筋を栄養する。        (脾が弱いと倦怠感、疲れ、手足のだるさを引き起こす)

☆胃と脾の働きを含めた消化吸収機能全般を「中気」と言う。(例 補中益気湯)

☆気虚の主な症状:元気がない、疲れ易い、言語に力がない、汗をかき易い、息切れ、             舌質が淡白、胖大、脈は無力等。  脾胃に気虚が起こると(気虚の中心)…疲れ易い、四肢がだるい、食欲不振、腹満、下痢、                    便秘、内臓下重、子宮脱、脱肛、等を引き起こす。

☆気虚の治方を補気(益気)と言う。  人参・黄耆・炙甘草等の補気薬と白朮・茯苓・山薬等の補脾薬を使用する。

☆四君子湯<和剤局方>…人参4g、白朮4g、茯苓4g、(炙)甘草1g   (1)脾胃気虚を治す:症状は上記の気虚とほぼ同じ。   (2)治方を補気健脾と言う。

☆六君子湯は、二陳湯と四君子湯の合方である。

☆二陳湯<和剤局方>…半夏5g、陳皮4g、茯苓5g、炙甘草1g、干生姜1g   (1)肺胃の痰湿の改善:白色で多量の喀痰、咳嗽、口が粘る、悪心、    嘔吐。時にめまい感、動悸、不眠等もともなう事がある。(治方を燥湿化痰と言う)   (2)二陳湯の組成…(小半夏加茯苓湯に陳皮と甘草が加わった物):半夏、生姜、茯苓 (痰    飲による胃気上逆乃ち悪心・嘔吐・吃逆を治す)と陳皮、炙甘草 (肺の痰湿による咳嗽・    喀痰を治す)により構成されている。

☆六君子湯<和剤局方>のまとめ…人参、白朮、茯苓、炙甘草、半夏、陳皮、生姜、大棗   (1)四君子湯と二陳湯との合方   (2)脾胃気虚の症候に痰湿or症候(*)をともなうもの      *(悪心、嘔吐、呑酸、上腹部のつかえ、水様便、痰、咳嗽)   (3)臨床の眼     心下部の痞え、食欲不振、疲れ易く、貧血気味、冷え性の者が多い。     胃炎、胃下垂、胃アトニー等に用いられ、消化不良、胃癌、悪阻、     神経衰弱、胃腸型感冒、老人の体力低下の改善、潰瘍性大腸炎に用いられる。     胃内停水、腹が軟弱、脈も弱い、全体に虚証の者を目標とする。   (4)胃癌で、胃除去術後、吃逆が止まらない     →六君子湯加旋覆花

☆補中益気湯<弁惑論>…人参、白朮、黄耆、当帰、陳皮、大棗、生姜、炙甘草、柴胡、升麻   (1)虚証の疲労負担を補益する。(気虚に用いる)   (2)結核、夏痩せ、病後の疲労、虚弱体質改善、食欲不振、虚弱者の感冒、    脱肛、痔疾、子宮脱、胃下垂、多汗症、遊走腎、ヘルニア等に用いられる。    食後眠くなる、手足がだるい、息切れ、頭がボーっとする等を目標にすると良い。   (3)脾胃気虚をともなう、出血傾向に用いる。(皮下出血、歯茎の出血、月経過多等)   (4)舌質は淡紅・淡白   (5)目標は…、    1)手足の倦怠感、2)言語が軽微、3)眼に力がない、4)口内に白沫が出る、    5)食の味がなくなる、6)熱い物を好む、7)臍辺りの動悸、8)脈は散大で力がない    の内1ー2症状あれば良いと書かれている (津田玄仙)    散大の脈とは、浮いていて散乱している脈。押さえると漸次消えて行く。   (6)黄耆    本草備要:気ヲ補ヒ 表ヲ固ム。          汗無キハ能ク発シ、汗有ルハ能ク止ム。    荒木正胤:肌表の水毒をとる。皮フの水疱、麻痺、疼痛を取り、          元気を増し、黄汗を治す。          痛みが一ヶ所に集った様に痛い事、夕方から夜が更けない内は、          手足を動かし回し、苦しがってねむれない。これを黄汗という。          胸がふさがって食べられなくて、その胸のふさがった所がつまった          様に痛くて、夕方から宵のうちは、非常に苦しがって眠れない。   (7)癌の放射線治療時の白血球減少に      →補中益気湯加鶏血藤を使用すると白血球数が上昇する。

 (大津市薬会報 2009年 8月号掲載)

20号 漢方の風 ー「知覚過敏」「利尿作用」「緑内障」

2009-04-25

 正月からの暴飲暴食が祟り、又、仕事の忙しさと建物のメンテナンスのストレスが加わり、二月に入ってから、熱い飲食をすると“歯がしみる“のを感じていたのですが、今朝はいよいよ、しみると言うより、歯が浮いて、可なりの痛みを感じる様になってしまった。所謂、知覚過敏に、なったのであろう。朝から、仕事の合間を見て、煎じ薬の「柴胡清肝散」(寿世保元)を作り、急いで煎じて服用した。原稿を書き始めた閉店前のこの時間には、痛みは和らぎ、多少の違和感はあるものの、このまま治まりそうな予感がします。驚いたのは、知覚過敏の治癒傾向よりも、排尿量の多さと排尿時の心地良い排尿感覚である。その後も、その排尿は続いている。可なりの余分な、体内の水が出たのは、充分察しがつく。さすれば、心臓の拍出に労するエネルギーの負担が軽減されているのも間違いないであろう。漢方で言う、心は神(精神活動)也を思うと、今晩の熟睡は、保証されているであろう。喜ばしい事である。

 臨床で、患者さんの浮腫みを見て、或いは浮腫みの訴えを聞いて、柴苓湯なり猪苓湯 (所謂、利尿作用が有るとされている処方)で余分の水を出そうとしても、そう思う様には効いてくれません。そこが、漢方薬の難しい所なのですが。逆に、歯の知覚過敏を治そうとした所、利尿作用が働いて、浮腫みが取れた事を考えると、これぞ、まさしくside effect つまり、狙いの主作用(知覚過敏)に付随した副作用(正しくは傍作用というべきかも知れませんが…)である。西洋医学で言う副作用(身体にとって悦ばしく無い作用、端的に言えば、害作用)とは異質な現象である。この様な、思いも寄らない「副作用」現象は、漢方を長く携わっていると、よく経験します。例えば、悪阻(つわり)を解消しようと、半夏瀉心湯を投薬したら、浮腫みが取れたりする事があります。その際、精神安定作用(悦ばしい副作用)が有るのは当然の事です…。他に、その半夏瀉心湯で経験する「副作用」現象では、胃の痞え、下痢を治そうとした所、精力が増強された事も経験しています。患者さんにとっては嬉しい副作用現象である。

 高血圧の治療を考えた時、ものの本には、大柴胡湯、柴胡加龍骨牡蠣湯、釣藤散、防風通聖散、黄連解毒湯、通導散、七物降下湯、八味丸、苓桂朮甘湯、加味逍遙散等が記載されています。どの処方にも、「証」があり、その患者さんが何れかの「証」、つまり何れかの体質かを見極める必要性に迫られる。所が、どう考えても、上記の処方に該当しない場合が有ります。患者さんの、あらゆる情報を考えて出た結果が、上記以外の処方であっても、一向に構わないのである。その患者さんが持っている体質、つまり“証”を把握すれば、その“証”にあった“処方”を思い切って投薬すれば良いのである。日本の漢方では、この事を「方証相対」と言っております。慣れてくると、望診だけで(見ただけで)その患者さんの“証”が解る事が多い。

 話は変わりますが、最近、緑内障の患者さんのお手伝いをさせて頂く事が多い。現代医学的には、緑内障の原因がよく解っていないのは周知の事ですが、漢方的には、浅田宗伯の勿誤薬室「方函」「口訣」に詳しく書かれています。  『腎気明目湯』   労神、腎虚、血少、眼痛、昏暗を治す。   当帰 川キュウ 熟地黄 生地黄 芍薬 桔梗 人参   梔子 黄連 白シ 菊花 蔓荊子 甘草   右十四味。  此の方ハ内障眼ノ主方トス。内障二気虚、血虚ノ分アリ。血虚ノ者ハ此ノ方トス。気虚ノ者ヲ益気聡明湯トス。…と有ります。  患者さんの腎、気、血を全体視して、良く弁証すれば、体質改善も可能と思っております。  数年前に人の紹介で来られた京都の患者さんでは、(その人の弟さんが、眼科医で、近い将来の失明を予告されていた)柴胡桂枝湯と釣藤散で失明を防げた症例も経験しております。何れも、アントラニール酸の網膜への働きを考えると天然タウリンの摂取も(合成タウリンは効果が無い)考慮すると良いと私は考えております。眼圧のコントロールに照準を合わせた現代医学とは、本質的に違います。  因みに、医王湯加防風、蔓荊子、白豆ク。十全大補湯加沈香、白豆ク、附子も撰用しなければならない…と書かれている。

 (大津市薬会報 2009年 4月号掲載)

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